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異世界転生酔いどれ世直し記〜酒飲みながら平和にしてやんよ編〜  作者: 晴天よよい
第二章 杯を重ねて世界を知る編

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67杯目「黄金と黒の激突と・・・」

 俺たちは稲穂の畑から少し離れた岩陰に身を隠した。


 背後からは、ドラゴン同士の戦いの音が絶え間なく響いてくる。


 轟音、爆発、そして咆哮。


「ユリさん……大丈夫かな」


 リーサが震える声で呟く。


「大丈夫。ユリさんは強いから」


 ルーナがそう言うが、その表情も不安に満ちている。


「でも、俺たちは何もできないのか……」


 俺が拳を握りしめると、リリアが俺の肩に手を置いた。


「アル、気持ちは分かる。でも、今はユリさんを信じるしかない」


「分かってる。分かってるけど……」


 その時、空から黒いドラゴンの咆哮が響いた。


 俺たちは思わず岩陰から顔を出した。


 空中で、黄金のドラゴン——ユリと、黒いドラゴンが激しく戦っている。


 黒いドラゴンの背中には、ミアが立っている。


「くっ……!」


 ユリの口から、金色の炎が放たれる。


 しかし、ミアが手を掲げると、黒いドラゴンがそれを避け、鋭い爪でユリに襲いかかった。


 ガキィン!


 金属がぶつかり合うような音が響く。ユリの鱗が黒いドラゴンの攻撃を弾いたのだ。


 同時に、ミアが魔法陣を展開し、黒い光弾を放つ。


 ドォン!


 光弾がユリの翼を掠める。


「すごい……」


 リーサが息を呑む。


「ユリさん、本当に強いのね」


 ルーナが目を見張った。


 でも、俺には分かる。ユリは少しずつ押されている。


 黒いドラゴンの動きは速く、そして容赦がない。


「ミア、話を聞いて!」


 ユリの声が聞こえた。


「スーのことは、私も悲しく思っているわ! でも、彼らを責めるのは違う!」


「黙りなさい!」


 ミアの冷たい声が響く。


「スーは、あなたたちに倒された! それが全てよ!」


 ミアが再び魔法を放ち、黒いドラゴンが爪を振るう。


 ユリは必死に防御するが、徐々に高度を下げていく。


「このままじゃ、ユリさんが……!」


 俺が立ち上がろうとすると、リリアが俺の腕を掴んだ。


「アル、待って! 今出て行っても、何もできない!」


「でも……!」


「アル、落ち着いて」


 ルーナも俺を制止する。


「あなたの能力は、酒を飲んで発動するんでしょ? 今、酒は持ってる?」


 ルーナの言葉に、俺ははっとした。


「……持ってない」


 荷物は全部、ユリの家に置いてきてしまった。


「くそっ……!」


 俺が悔しがっていると、背後から声がした。


「アル! これを使うんじゃ!」


 振り返ると、ドワーフ三人組が駆けつけてきた。


 ドラが手に持っているのは、酒瓶だ。


「ドラ! それ……!」


「わしの大事な酒じゃが、今は緊急事態じゃ! 飲むんじゃ!」


 ドラが俺に酒瓶を投げてよこす。


 俺はそれを受け取り、一気に飲み干した。


「っ……!あたりだ!」


 体の中に、力が満ちていく。


 いつもの感覚だ。酒を飲むことで発動する、俺の能力。


「アル、行くの!?」


 リリアが驚いた顔で俺を見る。


「ああ。ユリさんを助ける」


「アル、待って!」


 リリアが俺の腕を掴む。


「あれは、ドラゴン同士の戦いよ。私たちが手を出せるレベルじゃない」


「でも……!」


「リリアの言う通りだぞい。ドラゴンの戦いは、人族だろうが魔族だろうが、エルフだろうがドワーフだろうが、手が出せるもんじゃないんだ」


 グラが真剣な表情で言う。


「俺たちが行っても、邪魔になるだけだよ」


 ダグも頷いた。


「くそっ……!」


 俺が拳を握りしめると、ドラが俺の肩を叩いた。


「アル、お前の酒の力なら、もしかしたら……」


「酒の力?」


「ああ。お前が飲んだのは、特別に蒸留した酒じゃ。普通の酒よりも強力のはずじゃ!」


 ドラの言葉に、俺は体の感覚を確かめた。


 確かに、いつもとは違う。体が軽く、力が満ち溢れている。


「でも、アル一人で行くのは危険すぎる!」


 ルーナが叫ぶ。


「大丈夫。俺、やってみるよ。それに俺の目的は戦うんじゃないから」


 俺がそう言うと、リリアが不安そうに俺を見た。


「アル……無茶はしないで」


「ああ。約束する」


 俺は岩陰から飛び出した。


 空中では、まだ黄金のドラゴン——ユリと黒いドラゴンが激しく戦っている。


「ユリさん!!」


 俺が叫ぶと、ユリがこちらを見た。


「アル! 危ない、下がって!」


「下がれない! 俺にもやらせてくれ!」


 俺がそう叫ぶと、ミアが黒いドラゴンの背中から俺を見下ろした。


「……人間ごときが、何をするつもり?」


 ミアが冷笑する。


「あなたが、今更何をしようと無駄よ」


「ミア! スーのことを……俺は、話したいことがあるんだ!」


 俺が叫ぶと、ミアの表情が歪んだ。


「スー様の名前を、気安く呼ばないで!」


 黒いドラゴンが咆哮を上げる。


 そして、俺に向かって黒い炎を吐いた。


「アル!!」


 背後からリリアの叫び声が聞こえる。


 でも、俺の体は動く。蒸留酒の力で強化された肉体が、炎を避けるために横に飛んだ。


 ドォォン!


 俺がいた場所が、黒い炎で焦げる。


「……なに?」


 ミアが驚きの表情を浮かべる。


「避けた……?」


「ああ。避けたぞ」


 俺は立ち上がり、黒いドラゴンに向かって走り出した。


「アル、無茶だ!」


 ドラが叫ぶ。


「でも、やるしかない!」


 俺は黒いドラゴンの足元まで走る。ドラゴンが爪を振り下ろしてくるが、俺はそれを紙一重で避けた。


「くっ……!」


 ドラゴンの鱗を掴み、よじ登り始める。


「何を……!」


 ミアが驚愕の声を上げる。


 黒いドラゴンが体を揺らし、俺を振り落とそうとする。でも、俺は必死に掴まった。


「アル! 危ない!」


 ユリの声が聞こえる。


「大丈夫……!」


 俺は少しずつ、ドラゴンの背中を登っていく。


 ミアが魔法を放ってくるが、俺はドラゴンの鱗の陰に隠れて避ける。


「なぜ……なぜそこまでするの!」


 ミアが叫ぶ。


「話したいことがあるからだ! スーのことを!」


 俺がそう叫びながら、ついにドラゴンの背中まで辿り着いた。


 目の前には、ミアが立っている。


「……」


 ミアは俺を睨みつけた。


「あなた、本当に……馬鹿ね」


「ああ、よく言われる」


 俺は息を切らしながら答えた。


「ミア、聞いてくれ」


「聞くことなんて、何もない!」


 ミアが魔法を放とうとする。


 でも、俺は頭を下げた。


「スーを……救えなくて、本当にごめん」


 俺の言葉に、ミアの手が止まった。


「……なに?」


「スーは、最後まで戦った。自分の信じる道のために」


 俺は続ける。


「でも、俺たちも戦わなきゃいけなかった。みんなを守るために」


「……」


「もし、もっと早く話ができていたら。もし、別の方法があったら」


 俺は拳を握りしめた。


「スーを、救えたかもしれない。それができなかった。だから……ごめん」


 ミアは何も言わなかった。


 ただ、じっと俺を見つめている。


 そして——


「……ばか」


 ミアの小さな声が聞こえた。


「ばか、ばか、ばか……!」


 ミアが叫ぶ。


「謝られたって、スー様は戻ってこないのよ!」


「……分かってる」


 俺は顔を上げた。


「でも、それでも謝りたかった」


 ミアは俯いた。


 その肩が、小刻みに震えている。


「……あなたたちには、分からない」


 ミアが震える声で言う。


「スー様が……どれほど優しい人だったか」


「……」


「スー様は、私を救ってくれた。暗闇の中にいた私を、光の中へ連れ出してくれた」


 ミアが顔を上げる。


 その目には、涙が浮かんでいた。


「だから、私は……スー様のために、何かしたかった」


「ミア……」


「でも、もういい。これ以上、あなたたちと話すことはない」


 ミアが黒いドラゴンに指示を出す。


「行くわよ」


 黒いドラゴンが翼を広げる。


「待ってくれ、ミア!」


 俺が叫ぶと、ミアは振り返った。


「俺、スーのことをもっと知りたい」


 俺の言葉に、ミアは少し驚いたような表情を見せた。


「……どうして」


「俺たちはスーと戦ったけど、スーがどんな人だったのか、何も知らない」


 俺は真剣な目でミアを見た。


「お前が言った『優しい人』だったスーのこと。知りたいんだ」


「……ふん」


 ミアは顔を背ける。


「二度と会うことはないわ。でも……」


 ミアが小さく呟いた。


「少しだけ、気が済んだ」


 そう言って、ミアは黒いドラゴンと共に空へ飛び去っていった。


 ドラゴンが急上昇し、俺の体が宙に放り出される。


「うわっ!」


 俺は空中で体勢を立て直そうとする。蒸留酒で強化された体が、本能的に動いた。


 地面が迫ってくる——


 ドスン!


 俺は黄金の稲穂の中心に着地した。衝撃は大きかったが、不思議と怪我はない。蒸留酒の力で肉体が強化されているおかげだ。


「……ふぅ」


 俺は稲穂の中に座り込んだ。


「アル!!」


 リリアとルーナが心配そうな顔をしていた。


「ああ、大丈夫!」


 俺がそう答えると、ユリが俺の隣に降り立った。人間の姿に戻っている。


「アル、無茶をするわね」


 ユリが苦笑する。


「でも、ありがとう。あなたのおかげで、ミアは少しは冷静になったみたい」


「ミアは……悲しんでるだけなんですよね」


「ええ。スーのことを、本当に大切に思っていたから」


 ユリが優しく微笑む。


 リリア、ルーナ、リーサ、そしてドワーフ三人組が駆け寄ってきた。


「アル! 本当に無事でよかった!」


 ルーナが俺に抱きつく。


「無茶しすぎだよ、アル……」


 リリアも涙目で俺の手を握る。


「本当に……心配しました」


 リーサも安堵の表情を浮かべている。


「ごめん、心配かけた」


 俺がそう言うと、ドラが豪快に笑った。


「いやいや、見事じゃったぞ! あのドラゴンによじ登るとは!」


「蒸留酒の力、すごかったぞい!」


 グラも感心している。


「でも、もう二度とやるなよ」


 ダグが真面目な顔で言った。


 ユリが小屋の方を指差した。


「さあ、みんな。小屋に戻りましょう。お茶を淹れ直すわ」


 俺たちはユリの小屋へと戻った。


 畳の上に座ると、緊張が解けて疲れがどっと出てきた。


「ふぅ……」


 俺が息を吐くと、ユリが温かいお茶を出してくれた。


「アル、少し休んで。さっきの戦い、体に負担がかかってるはずよ」


「ありがとうございます、ユリさん」


 俺がお茶を飲むと、体が温まる。


 しばらく、誰も口を開かなかった。


 そして——


「……ミアは、また来るかもしれない」


 ユリが静かに言った。


「え?」


「彼女の心は、まだ癒えていない。スーを失った悲しみは、そう簡単には消えないわ」


 ユリの表情が少し曇る。


「でも、アル」


 ユリがくすりと笑った。


「やっぱり、あなたは面白い人ね」


 ユリが優しく微笑む。


「それは、きっとミアの心に届いているわ」


 俺は少し安心した。


「そうだといいんですけど」


「大丈夫。時間はかかるかもしれないけど、きっと」


 ユリがそう言った時、窓の外から風が吹き込んできた。


 2つの月が、空に昇り始めている。


「今日は、ここで休んでいって。明日から、本格的な酒造りを始めましょう」


 ユリの提案に、俺たちは頷いた。


 その夜、俺は小屋の一室で横になった。


 体は疲れているはずなのに、なぜか眠れない。


 ミアのこと。スーのこと。そして、ユリが言った「川の謎」のこと。


 色々なことが頭の中を巡る。


「……スーって、どんなやつだったんだろう」


 俺が呟くと、窓の外から何かの気配を感じた。


「……ん?」


 窓を開けて外を見ると、遠くの空に黒い影が見えた。


 一瞬だけ、銀色の髪が月明かりに照らされたように見えた。


「ミア……?」


 でも、すぐにその影は消えた。


 俺は窓を閉め、再びベッドに横になった。


 明日から、新しい日々が始まる。


 酒造りを学び、この世界のことをもっと知る。


 いつかミアとも、ちゃんと話ができる日が来るかもしれない。


 俺はそう信じて、目を閉じた。

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