63杯目「新しい朝」
第二章開幕となります!
これからまたアルと愉快な仲間たちとの物語が始まります
皆さんの応援よろしくお願いします!
毎日1話以上更新予定!基本は11時更新(それ以外でも更新の日はあると思います)
目が覚めると、見慣れた天井があった。
「……ああ、自分の部屋だ」
体を起こすと、体中が軽い。あの激戦から三日が経った。王都での記憶を奪うスーとの戦い——あれから、俺はマリアの所で治療を受け、昨日ようやく自分の屋敷に戻ってきた。
窓の外からは、朝の柔らかな光が差し込んでいる。二つの月が沈み、太陽が昇る時間帯だ。
「アル様、起きましたか?」
ドアをノックする音と共に、リリアの声が聞こえた。
「ああ、今起きたところだ」
「朝食の準備ができました。下でお待ちしています」
リリアの足音が遠ざかっていく。あの戦いの後、リリアもルーナもリーサも、みんな無事だった。それだけで十分だ。
俺は身支度を整え、階下へ降りた。
食堂に入ると、テーブルの上には豪華な朝食が並んでいた。
「おはよう、アル!」
明るい声と共に、金髪の少女——ルーナが手を振った。彼女は人族王国の第一王女で、あの戦いでも最前線で戦ってくれた仲間だ。
「おはよう、ルーナ。こんな朝早くからどうしたんだ?」
「アルの朝ごはんを作りに来たに決まってるでしょ! ほら、このスープ、私が作ったのよ!」
ルーナが得意げに指差したのは、湯気の立つ野菜スープだった。
「ルーナさん、それは私が作ったスープです」
冷静な声で訂正したのは、紫色の髪と小さな角を持つリリアだった。魔王ゼクセル・クマガワの娘で、俺の護衛役を買って出てくれている。
「え? あれ、じゃあ私が作ったのは……」
「こちらのパンです。焼き加減が少々……」
リリアが示したパンは、見事に真っ黒だった。
「うっ……で、でも、気持ちは込めたから!」
ルーナが頬を膨らませる。その様子に、俺は思わず笑ってしまった。
「ありがとう、二人とも。せっかくだから全部いただくよ」
「「本当ですか!?」」
二人が同時に顔を輝かせる。その表情があまりにも似ていて、俺は少し気恥ずかしくなった。
「あ、あの……私もサラダを作りました」
控えめな声で言ったのは、リーサだった。ハーフエルフの少女で、父親は元勇者リヒト。複雑な事情を抱えているが、今はこの屋敷で一緒に暮らしている。
「ありがとう、リーサ。いただくよ」
俺がそう言うと、リーサは嬉しそうに微笑んだ。
「あの、リリアさん、ルーナさん、お二人とも朝早くから大変でしたね」
リーサの言葉に、リリアとルーナは視線を交わした。
「当然です。アル様の健康管理は私の務めですから」
「私だって、アルのことは放っておけないもの!」
……なんだろう、この空気。二人の間に、妙な火花が散っている気がする。
朝食を食べ終わった頃、玄関から大きな声が響いた。
「アルよ! 無事で何よりだ!」
その声に、リリアがぴくりと反応した。
「父上……?」
「魔王様?」
俺とリリアが同時に立ち上がると、玄関には大柄な男性——魔王ゼクセル・クマガワが立っていた。
「おお、アルよ。あの戦いの後、お前が心配でな」
「魔王様、わざわざありがとうございます。でも、どうして……」
俺が尋ねると、ゼクセルは豪快に笑った。
「実はな、今、人族の王城で復興会議をしているのだ。あの戦いで王都は大きな被害を受けた。種族を超えて協力する必要がある」
そうか。だから魔王がここにいるのか。
あの戦いの後、人族と魔族の関係は大きく変わった。長年の誤解と対立を乗り越え、今は協力して復興に取り組んでいる。その象徴として、魔王自身が王城に招かれ、復興会議に参加しているのだ。
「それで、アル。お前の屋敷に立ち寄ったのは、もう一つ理由がある」
ゼクセルはそう言って、懐から一通の手紙を取り出した。
「これは、ユリからだ」
「ユリさんから!?」
リリアが驚きの声を上げた。ユリ——黄金の稲穂を守るドラゴン。彼女は何百年も生きていて、日本酒を造ることができる俺と同じ異世界人だ。リリアはユリのことを、深い敬意を込めて「ユリさん」と呼んでいる。
「ああ。ユリはお前たちに会いたがっている。そして、本格的な酒造りを手伝ってほしいとのことだ」
ゼクセルから手紙を受け取り、開封した。
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『アルへ
先の戦い、見事でした。あなたの力と仲間たちの絆に、私は心を動かされました。
さて、約束を覚えていますか? 黄金の稲穂を使った本格的な日本酒造り。あなたになら、その技術を伝えられると確信しています。
もしよければ、またドワーフ付近の山脈へ来てください。
そして……私たちが呼ばれた川の謎についても、少しお話しできることがあるかもしれません。
ユリ』
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「川の謎……?」
俺が呟くと、リリアが心配そうに顔を覗き込んだ。
「アル、行くんですか?」
「ああ。ユリさんに会いたいし、酒造りのことももっと学びたい」
俺がそう答えると、ルーナが立ち上がった。
「じゃあ、私も行く! アルを一人にはできないもの!」
「ルーナさん……でも、王女としての務めは……」
リーサが心配そうに言うと、ルーナはにっこりと笑った。
「大丈夫! お兄ちゃん——ルンブラン王子が復興会議を仕切ってくれてるし、お父さんも許可してくれるはずよ!」
「私も同行します」
リリアが凛とした表情で宣言した。
「アルの護衛は私の役目です。それに、ユリさんにもお会いしたい」
「あの、私も……」
リーサが控えめに手を挙げた。
「一緒に行ってもいいですか? 」
「もちろんだ。みんなで行こう」
俺がそう言うと、三人の顔が輝いた。
魔王が帰った後、俺たちは旅の準備を始めた。
「アル、荷物はこれで大丈夫ですか?」
リリアが丁寧に荷物を確認している。その真面目な姿に、俺は改めて彼女の優しさを感じた。
「ありがとう、リリア。助かるよ」
「いえ、当然のことです」
リリアは少し照れたように視線を逸らした。その仕草が可愛らしくて、俺は思わずドキリとした。
「アル、これも持っていく?」
ルーナが小瓶を見せてくれた。それは、以前ユリからもらった日本酒の希少な残りだった。
「ああ、それは大事なものだ」
「やっぱりね! アルって、お酒のことになると目が輝くのよね」
ルーナがくすくすと笑う。その笑顔に、俺はまたドキリとした。
「あの……お二人とも、本当にアルさんのことを……」
リーサが小声で呟いた。
「……え?」
「あ、いえ! 何でもないです!」
リーサが慌てて首を振る。
なんだろう、最近、みんなの視線が妙に優しい気がする。俺、何かしたかな?
その夜、俺は一人、屋敷の窓から夜空を見上げた。
二つの月が輝いている。この世界に来てから、もう何ヶ月経っただろう。
最初は戸惑うことばかりだった。でも、今は違う。リリア、ルーナ、リーサ、そして多くの仲間たちと出会えた。
ユリの手紙にあった「川の謎」——俺がこの世界に来た、あの川のことだろう。もしかしたら、ユリは俺がここに来た理由を知っているのかもしれない。
「アル、まだ起きていたんですか?」
背後からリリアの声がした。
「ああ、少し考え事をしてた」
「……アルは、元の世界に帰りたいと思いますか?」
リリアの問いに、俺は少し考えてから答えた。
「正直、分からない。でも、今は、ここにいたいと思ってる」
「そうですか……」
リリアは安心したように微笑んだ。
「では、明日からの旅、楽しみにしていますね」
「ああ。頼りにしてるよリリア」
俺がそう言うと、リリアは嬉しそうに頷いた。
明日から、また忙しい毎日が始まりそうだ。
「まぁ、なんとかなるさ」
夜空に輝く月につぶやきながら俺は眠りについた。
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