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異世界転生酔いどれ世直し記〜酒飲みながら平和にしてやんよ編〜  作者: 晴天よよい


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45/60

44杯目 暗雲立ち込める品評会

 品評会、最終日。


 三日間の審査が終わり、いよいよ結果発表の時が来た。


 中央広場には、参加者と観客が大勢集まっている。


「緊張するな……」


 俺は深呼吸をした。


「大丈夫よ、アル。あなたの酒は素晴らしかったわ」


 リリアが優しく励ましてくれる。


「そうよ。きっと良い結果が出るわ」


 ルーナも微笑む。


 ステージ上には、三人の審査員が並んでいた。


---


「それでは、発表いたします」


 人族の審査員が厳かに口を開く。


「今年の王都酒造品評会、優勝者は——」


 広場が静まり返る。


 俺の心臓が激しく鳴っている。


「42番、アル様!」


「えっ!?」


 俺は思わず声を上げた。


 周囲から拍手と歓声が湧き起こる。


「やった、アル!」


 リリアが抱きついてくる。


「おめでとう!」


 ルーナも喜んでくれる。


「ま、マジか……」


 俺は信じられない気持ちで立ち尽くした。


---


「アル様、どうぞステージへ」


 係員に促され、俺は壇上へと上がった。


 三人の審査員が、笑顔で迎えてくれる。


「おめでとうございます、アル様」


 人族の審査員が優勝トロフィーを手渡してくれた。


 ずっしりと重い、金色に輝くトロフィー。


「あなたの日本酒というお酒は、これまでに味わったことのない完成度でした」


 エルフの審査員が称賛する。


「そして、魔力の酒も見事だった。2つの酒、どちらも最高評価だ」


 魔族の審査員も頷く。


「ありがとうございます……!」


 俺は深々と頭を下げた。


---


 そして、金貨1万枚の賞金が手渡された。


 重厚な箱に入った、山のような金貨。


「これで、酒造施設が作れる……」


 俺は感慨深く呟いた。


 観客たちが再び拍手を送ってくれる。


 その中に——


 マーカス、マリア、リーサ、ゲルドの姿も見えた。


「アル!やったな!」


 マーカスが笑顔で叫ぶ。


「おめでとう、アル!」


 マリアも嬉しそうだ。


「アルさん、すごいです!」


 リーサがジャンプしながら喜んでいる。


「よくやったな、小僧」


 ゲルドも満足そうに頷いている。


---


 優勝セレモニーが終わり、俺は壇上を降りた。


 その時——


 エルフのセレスティアが近づいてきた。


「おめでとう、アル」


 彼女は穏やかな笑顔を浮かべている。


「あ、ありがとうございます……すみません、セレスティアさんの方が……」


「いいえ。私は二位でした。あなたの勝ちよ」


 セレスティアが手を差し出す。


「素晴らしい酒だった。200年酒造りをしてきた私でも、あんな透明度と味わいは出せない」


「そ、そんな……」


「謙遜しなくていいわ。あなたは本物の才能を持っている」


 セレスティアが優しく微笑む。


「また、いつか競い合いましょう」


「はい。ぜひ」


 俺たちは握手を交わした。


---


 その後、仲間たちと合流した。


「アル!本当におめでとう!」


 マーカスが肩を叩く。


「そんな大金、何に使うんだ?」


「まずは、ちゃんとした酒造施設を作りたいな」


 俺は笑いながら答えた。


「今は即席の設備でやってるけど、もっと本格的な施設があれば、色んな酒が作れる」


「相変わらず酒バカだな」


 マーカスが呆れたように笑う。


「でも、それがアルさんらしいですね」


 マリアが微笑む。


「アルさん、私も手伝います!」


 リーサが元気よく言う。


「ああ、頼むよ」


 俺も笑顔で答えた。


---


 夜になり、祝勝会が開かれた。


 王都の高級レストランを貸し切り、仲間たちと乾杯する。


「アルの優勝を祝して——乾杯!」


 マーカスが音頭を取る。


「「「乾杯!」」」


 全員がグラスを掲げた。


 テーブルには豪華な料理が並び、そしてユリから貰った日本酒やドワーフの魔力の酒も振る舞われた。


「うまい!この日本酒、やっぱり絶品だな!」


 マーカスが満足そうに飲んでいる。


「本当に美味しいわ」


 マリアも笑顔だ。


「この紫の酒、体が軽くなる気がします!」


 リーサも嬉しそうに飲んでいる。


「ふふ……良かったわね、アル」


 リリアが隣で微笑んでいる。


「ああ。みんなのおかげだよ」


 俺も心から笑った。


---


 その時、ふと気づいた。


「そういえば……ルーナは?」


 俺は周囲を見回した。


 リリア、マーカス、マリア、リーサ、ゲルド——みんなが揃っているのに、ルーナの姿だけが見えない。


「ああ、ルーナ姫なら城に戻ったそうだ」


 マーカスが答える。


「急な用事ができたとかで、品評会の後すぐに帰っていったらしい」


「そうなのか……」


 俺は少し不思議に思った。


 ルーナは、いつもこういう祝いの席には積極的に参加してくれる。


 それが今日に限って、急に城に戻るなんて……


「珍しいな」


 俺は呟いた。


「まあ、王族だからな。色々と都合もあるんだろう」


 マーカスが肩をすくめる。


「そうだね。きっと大切な用事があったのよ」


 リリアが優しく微笑む。


「……そうだな」


 俺は頷いた。


 確かに、ルーナはああ見えて王族だ。


 俺たちとは違う立場にいる。


 きっと、急ぎの公務でもあったんだろう。


 そう思い直して、俺は再び乾杯に戻った。


 でも——


 なぜか、心の片隅に小さな引っかかりが残っていた。


---


 しかし——


 宴もたけなわの頃、突然の知らせが飛び込んできた。


「緊急です!」


 一人の兵士が駆け込んできた。


「どうした?」


 ゲルドが立ち上がる。


「品評会の審査員の一人が倒れました!」


「何!?」


 全員が驚愕する。


「今、王城の医務室で手当てを受けていますが……原因が分かりません!」


「原因不明だと?」


 マーカスが眉をひそめる。


「行こう」


 俺も立ち上がった。


---


 急いで王城へ向かうと、医務室の前には既に多くの人が集まっていた。


 中には、魔族とエルフの審査員もいる。


「どういうことだ……」


 魔族の審査員が険しい表情をしている。


「あの方は健康そのものだったのに……」


 エルフの審査員も不安そうだ。


 その時、医師が部屋から出てきた。


「状態は?」


 ゲルドが尋ねる。


「意識不明です。脈は弱く、呼吸も浅い……」


 医師が深刻な表情で答える。


「毒か?」


「いえ……毒の反応はありません。ですが、何か魔力が異常に減少しているのです」


「魔力が減少……?」


 俺は首を傾げた。


---


 その時、マリアが閃いた表情を見せた。


「もしかして……」


「マリア?」


「倒れた審査員の方、品評会で何か変なモノを口にしませんでしたか?」


 マリアが周囲に尋ねる。


「変なモノ……?」


 エルフの審査員が考え込む。


「ああ、そういえば……『影の醸造家』の黒い酒を飲んだ後、少し顔色が悪そうだった」


「影の醸造家……!」


 俺はハッとした。


 あの、真っ黒な酒。


 審査員たちが「魔力を吸い取られる感覚がする」と言っていた、あの酒。


「まさか……あの酒が原因か?」


 マーカスが言う。


「可能性はあります」


 マリアが真剣な表情で頷く。


「でも、私たちも少し試飲しましたが、何ともありませんでしたよ?」


 魔族の審査員が言う。


「それは……おそらく、少量だったからです」


 マリアが説明する。


「もしあの酒に魔力を吸収する成分が含まれているなら、大量に飲めば深刻な影響が出るはずです」


「だが、あの方はほんの一口しか飲んでいなかったぞ?」


 エルフの審査員が疑問を呈する。


「それでも……体質によっては、少量でも反応が出ることがあります」


 マリアが答える。


---


「影の醸造家を探せ!」


 ゲルドが命じた。


「すぐに兵を出す。あいつを捕まえろ!」


 しかし——


「それが……影の醸造家は既に姿を消しています」


 兵士が報告する。


「品評会終了後、誰も彼を見ていません」


「消えた……だと?」


 ゲルドが苦々しい表情を浮かべる。


---


「くそ……」


 あの黒い酒。


 あの不気味な醸造家。


 やはり、何かおかしかったんだ。んなもんマンガじゃお約束の展開だろうに実際にその場に遭遇すると気づかないなんて、とんだ間抜けだ。


「アル、落ち着いて」


 リリアが手を握ってくれる。


「でも、リリア……」


「今は、倒れた方を助けることが先決よ」


 リリアが冷静に言う。


「そうだな……」


 俺は深呼吸をした。


---


 その時、スーが現れた。


「大変なことになりましたね……」


 スーが心配そうな表情を浮かべている。


「スーさん……」


「審査員の方が倒れたと聞きました。本当に心配です」


 スーが誠実そうに言う。


「何か、手伝えることはありませんか?」


「いや……今は、原因を突き止めることが先だ」


 ゲルドが答える。


「そうですか……」


 スーが残念そうに頷く。


「もし何か情報があれば、すぐにお知らせしますね」


「ああ、頼む」


 ゲルドが頷くと、スーは深々と礼をして去っていった。


---


 その後ろ姿を見ながら、俺は何か違和感を覚えた。


 スーさんは、いつも通り親切だった。


 でも——


 何か、引っかかる。


 なぜだろう……


「アル、どうした?」


 マーカスが尋ねる。


「いや……何でもない」


 俺は首を振った。


 でも、心の奥底で、小さな疑念が芽生え始めていた。


---


 その夜、俺たちは屋敷に戻った。


「今日は色々あったな……」


 俺はベッドに横になりながら呟いた。


 優勝の喜び。


 そして、審査員が倒れた謎の事件。


「アル、大丈夫?」


 リリアが心配そうに聞いてくる。


「ああ……ちょっと疲れただけだ」


「無理しないでね」


「ありがとう、リリア」


 俺は目を閉じた。


 しかし、なかなか眠れなかった。


 あの黒い酒。


 影の醸造家。


 そして——スーさん。


 何か、全てが繋がっているような気がする。


 でも、まだ確証はない。


---


 翌朝、衝撃的なニュースが飛び込んできた。


「大変です!」


 リーサが慌てて部屋に飛び込んできた。


「どうした、リーサ?」


「種族融和を推進していた人族の貴族が、行方不明になったそうです!」


「行方不明!?」


 俺は飛び起きた。


「昨夜、屋敷を出たまま戻ってこないとか……」


「それだけじゃありません。魔族の代表の方も連絡が取れないそうです!」


 リーサが焦った様子で報告する。


「何だって!?」


 俺は急いで服を着替えた。


---


 王城に向かうと、既にゲルドとマーカスが集まっていた。


「アル、聞いたか?」


 マーカスが険しい表情で言う。


「ああ。一体何が起こってるんだ?」


「分からん。だが、確実に何かが動いている」


 ゲルドが腕を組む。


「種族融和を推進していた重要人物が、次々と消えている……」


「偶然じゃないな」


 マーカスが呟く。


「何者かが、意図的に彼らを狙っている」


---


 その時、調査隊が戻ってきた。


「報告します!」


 兵士が息を切らしながら言う。


「失踪した貴族の屋敷の近くで、これを発見しました」


 兵士が差し出したのは——


 一枚の布切れ。


 それには、見覚えのある紋章が刺繍されていた。


「これは……商人組合の紋章か?」


 ゲルドが眉をひそめる。


「はい。しかし、商人組合に確認したところ、盗難に遭っていたとのことです」


「盗難……だと?」


「ええ。数日前、倉庫から物品が盗まれたそうです」


 兵士が報告する。


「つまり、犯人が商人組合の物を使って、偽装工作をしている可能性がある……」


 マーカスが分析する。


「巧妙だな……」


 ゲルドが唸る。


---


 俺は、ふとスーさんのことを思い出した。


 スーさんは、商人組合の有力メンバーだ。


 そして、品評会の運営にも関わっていた。


 でも——


 まさか、スーさんが……?


 いや、そんなはずはない。


 スーさんは、いつも親切で誠実だ。


 俺たちを何度も助けてくれた。


 でも……


 何か、引っかかる。


「アル?」


 リリアが心配そうに声をかける。


「あ、ああ。ごめん、ちょっと考え事をしてた」


「大丈夫?」


「ああ、大丈夫」


 俺は笑顔を作った。


 でも、心の中では、疑念が徐々に大きくなっていた。


---


 その日の夕方、マリアから連絡が入った。


「アル、倒れた審査員の容態が少し安定したわ」


「本当か!?」


「ええ。意識はまだ戻らないけど、魔力の減少は止まったみたい」


 マリアが安堵の表情を浮かべる。


「良かった……」


 俺も胸を撫で下ろした。


「ただ、完全に回復するにはまだ時間がかかるわ」


「そうか……」


「それと、アル」


 マリアが真剣な表情になる。


「あの黒い酒、やっぱり危険だわ。魔力を吸収する成分が含まれている可能性が高い」


「やっぱりか……」


「ええ。もし誰かがあれを大量に飲んだら、命に関わるかもしれない」


 マリアが警告する。


「影の醸造家……一体何が目的なんだ……」


 俺は呟いた。


---


 その夜、俺は一人で考え込んでいた。


 品評会での出来事。


 審査員が倒れた事件。


 貴族たちの失踪。


 そして——


 影の醸造家。


 全てが、何かの計画の一部のように思える。


 だが、誰が、何のために……?


 そして——


 スーさんは、本当に無関係なのか……?


 俺は、その疑念を振り払うことができなかった。


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