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異世界転生酔いどれ世直し記〜酒飲みながら平和にしてやんよ編〜  作者: 晴天よよい


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44/60

43杯目 謎の醸造家と奇妙な酒

 王都酒造品評会、一日目。


 朝から中央広場は活気に満ちていた。


「さあ、始まるぞ」


 俺は深呼吸をして、ブースの前に立った。


 隣ではリリアとルーナが励ましてくれる。


「アル、頑張ってね」


「大丈夫。あなたの酒なら絶対に評価されるわ」


 二人の言葉に、俺は少し落ち着いた。


---


 品評会のルールは単純だ。


 審査員が各ブースを回り、出品された酒を試飲する。


 そして、味、香り、独創性、完成度の四項目で採点される。


 最終日に、最も高得点を獲得した醸造家が優勝となる。


「審査員の先生方が来られますよ」


 係員が教えてくれた。


 俺は緊張しながら待った。


---


 まず最初に訪れたのは、人族の貴族だった。


 白髪の老紳士で、品のある雰囲気を纏っている。


「ほう、こちらが噂の若き醸造家か」


 老紳士が興味深そうに俺を見る。


「はい。アルと申します」


「ふむ。それで、何を出品されたのかな?」


「こちらです」


 俺はユリさんの日本酒を差し出した。


 透明な瓶に入った、淡い黄金色の液体。


 老紳士がグラスに注ぎ、香りを確かめる。


「おお……これは……」


 彼の目が見開かれた。


「なんと上品な香りだ。まるで花のような……いや、果実のような……」


 そして、一口飲む。


「……!」


 老紳士が驚愕の表情を浮かべた。


「これは……素晴らしい!」


「繊細で、それでいて深い味わい。雑味が一切ない」


「どうやってこの透明度を……?」


 老紳士が興奮気味に質問してくる。


「え、ええと……特殊な製法で……」


 俺は曖昧に答えた。


 ユリさんの秘密は明かせない。


「ふむ……秘密か。それも良いだろう」


 老紳士は満足そうに頷いた。


「もう1つ、こちらもお試しください」


 俺は魔力の酒も差し出した。


 深い紫色の、神秘的な輝きを放つ酒。


「ほう……これは珍しい色だ」


 老紳士がグラスに注ぎ、また一口。


「……なんと!」


 彼の体から、微かに光が溢れた。


「魔力が……活性化している!?」


「一体、これは何の酒だ?」


 老紳士が驚きを隠せない様子だ。


「これは、ドワーフの街で譲っていただいた酒です」


「ドワーフ!?」


 老紳士が目を見開いた。


「ドワーフたちは鍛冶や採掘の民だと聞いている。酒造りの技術があったとは……!」


「はい。実は、ドワーフの街には古くから魔力を込めた酒を作る技法があったそうです」


「驚いた……まさか、ドワーフが酒を造っていたとは……」


 老紳士は感嘆の声を上げた。


「素晴らしい。2つとも、実に素晴らしい」


 老紳士は満面の笑みで、次のブースへと向かった。


---


 続いて、魔族の審査員がやってきた。


 白いローブを纏った、鋭い目つきの男性だ。


「ふん……人族の小僧か」


 彼は少し不機嫌そうだ。


「どれ、飲ませてもらおう」


 魔族の審査員は、無造作にユリさんの日本酒を口にした。


 ——そして、固まった。


「……これは……」


 彼の表情が変わる。


「まさか……こんな純度の高い酒が存在するとは……」


「いや、待て。これは単なる酒ではない」


「何か別の……もっと高度な技術が使われている」


 魔族の審査員が真剣な表情で俺を見つめる。


「お前……何者だ?」


「え、あ、ただの酒好きで……」


「嘘をつくな。この技術は並大抵のものではない」


 彼は魔力の酒も試飲した。


「……やはり。お前は只者ではないな」


「この魔力の酒も……魔力が込められている」


「どこで手に入れた?」


「ドワーフの街で譲っていただきました」


「ドワーフだと?」


 魔族の審査員が驚きの表情を浮かべる。


「ドワーフが酒を造っていたのか……初耳だ」


「まさか、あの鍛冶の民が、こんな技術を……」


 魔族の審査員は、じっと俺を観察した後、静かに頷いた。


「面白い。今年は期待できそうだ」


 そう言い残して、彼は次のブースへ向かった。


---


 そして最後に、エルフの審査員が訪れた。


 長い金髪、優雅な立ち振る舞い。


 彼女は微笑みながら俺に話しかけた。


「あなたが、アルさんですね」


「はい」


「セレスティアから聞いていますわ。『面白い若者がいる』と」


「あ、ありがとうございます……」


 エルフの審査員は、丁寧にユリさんの日本酒を試飲した。


「……まあ」


 彼女が目を見開く。


「これは……エルフの醸造技術にも匹敵する完成度……」


「いえ、もしかすると……それ以上かもしれませんわ」


 彼女は魔力の酒も試し、深く頷いた。


「素晴らしい。種族の壁を越えた技術の融合」


「あなたは、何か特別な才能をお持ちのようですね」


「そ、そんな……」


「謙遜なさらなくても良いのですよ」


 エルフの審査員は優しく微笑んだ。


「楽しみにしていますわ。あなたの今後を」


---


 三人の審査員が去った後、俺は安堵のため息をついた。


「やった……何とか終わった……」


「すごかったわ、アル!」


 リリアが興奮気味に言う。


「三人とも、すごく驚いてたわよ!」


 ルーナも嬉しそうだ。


「ああ……でも、緊張したな……」


 俺は椅子に座り込んだ。


---


 その時、隣のブースから奇妙な声が聞こえてきた。


「え……これは……」


 審査員たちの驚きの声だ。


 俺は気になって、隣のブースを覗いてみた。


 そこには——


 黒いフードを被った、顔の見えない醸造家がいた。


 彼のブースには、真っ黒な液体が入った瓶が並んでいる。


「これは……一体……」


 人族の審査員が困惑している。


「味は……悪くない。いや、むしろ美味い」


「だが、この色……そして、この妙な感覚は何だ……?」


 魔族の審査員も首を傾げる。


「魔力が……吸い取られるような感覚がする……」


 エルフの審査員も不安そうだ。


「これは……何か違和感がありますわ……」


 しかし、黒フードの醸造家は何も答えず、ただ静かに立っているだけだった。


---


「なんだ、あれ……」


 俺は首を傾げた。


「変な酒ね……」


 リリアも不安そうだ。


「でも、審査員たちは『美味い』って言ってたわよ?」


 ルーナが指摘する。


「ああ……そうなんだよな……」


 俺は何か引っかかるものを感じた。


 あの黒い酒……何か、おかしい。


---


 昼休憩の時間になり、俺たちは広場の隅で休んでいた。


「お疲れ様、アル」


 リリアがお弁当を開く。


「ありがとう」


 俺たちは食事をしながら、他の出品者たちを観察した。


 エルフのセレスティアは、優雅に自分のブースを飾り付けている。


 人族の醸造家たちは、互いに情報交換をしている。


 魔族の醸造家は、一人で黙々と準備をしている。


 そして——


 あの黒フードの醸造家は、じっと動かずにブースに立っている。


「……気味が悪いな」


 俺は呟いた。


---


 その時、スーが近づいてきた。


「アルさん、調子はどうですか?」


「ああ、スーさん。おかげさまで、何とか」


「それは良かった。審査員の先生方も、アルさんの酒を絶賛していましたよ」


 スーが嬉しそうに言う。


「本当ですか?」


「ええ。私も運営側にいるので、少し聞こえてきました」


 スーがニヤリと笑う。


「このままいけば、優勝も夢ではありませんよ」


「そ、そうですかね……」


 俺は少し照れた。


「ところで、スーさん」


 俺はふと聞いてみた。


「あの、黒いフードの人……知ってますか?」


「ああ、あの方ですか」


 スーが少し困ったように笑う。


「あの方は『影の醸造家』と呼ばれていて、毎年参加されているんです」


「影の醸造家……?」


「ええ。素性は一切不明。名前も、顔も、出身地も、全て謎」


「でも、毎年独特な酒を出品されるので、審査員の間では有名なんですよ」


 スーが説明する。


「へえ……そうなんだ」


「ただ、今年の酒は……少し変わっていますね」


 スーが真面目な表情になる。


「どういうことです?」


「去年までは、普通の色の酒だったんです。でも、今年は真っ黒……」


「何か、特別な理由があるのかもしれませんね」


 スーが首を傾げる。


「……そうか」


 俺は再び、黒フードの醸造家を見た。


 彼は相変わらず、じっと立っている。


 まるで……人形のように。


---


 午後になり、一般客への試飲タイムが始まった。


 観客たちが次々とブースを訪れ、酒を試飲していく。


「わあ、これ美味しい!」


「この酒、珍しい味だね!」


 俺のブースにも、たくさんの人が訪れた。


「すごい……透明で綺麗……」


「この紫の酒、飲んだら体が軽くなった気がする!」


 好評のようだ。


 リリアとルーナも笑顔で対応してくれる。


---


 しかし——


 黒フードの醸造家のブースには、誰も近づかなかった。


「あの黒い酒、怖いよ……」


「なんか不気味……」


 観客たちは遠巻きに見るだけで、試飲しようとしない。


 黒フードの醸造家は、それでも何も言わず、ただ立ち続けていた。


---


 夕方、一日目が終了した。


「お疲れ様でした、皆さん!」


 運営スタッフが声をかける。


「明日も引き続き、よろしくお願いします!」


 俺はブースを片付けながら、ホッとした。


「何とか、一日目は終わったな……」


「お疲れ様、アル」


 リリアが優しく微笑む。


「明日も頑張ろうね」


 ルーナも励ましてくれる。


---


 その時、ふと黒フードの醸造家の方を見た。


 彼は——誰もいなくなった広場で、一人ブースに立っていた。


 そして、ゆっくりとフードを取った。


 その顔は——


 俺は息を呑んだ。


 真っ白な顔。


 目も、口も、鼻もない。


 まるで、仮面のような——


「……!」


 俺が驚いていると、彼は再びフードを被り、闇に消えた。


「アル?どうしたの?」


 リリアが心配そうに聞く。


「あ、いや……何でもない」


 俺は首を振った。


 でも、心の中では確信していた。


 あの醸造家——何か、おかしい。


 そして、あの黒い酒にも——


 何か、秘密がある。

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