42杯目 王都品評会!伝説の醸造家
ドワーフの街での騒動から一週間。
俺たちは王都へ戻る馬車の中にいた。
「ふう……ようやく帰れるな」
俺は伸びをしながら呟いた。
「お疲れ様、アル」
リリアが優しく微笑む。
「本当に大変な旅だったわね」
ルーナも安堵の表情を浮かべる。
今回の旅は、リリア、ルーナ、そして俺の三人で行った。
ドワーフの街で出会ったドラ、グラ、ダグの三兄弟とは、街の復興を見届けた後、別れを告げた。
「アル!また来いよな!」
ドラが力強く握手してくれた。
「次はもっと強い酒を作って待ってるぜ!」
グラが笑顔で手を振る。
「魔力の酒、ありがとうございました」
ダグが深々と頭を下げた。
三人とも、街の復興と鍛冶屋の再建に専念するという。
「また会おうな」
俺も笑顔で別れを告げた。
そして今、俺たちは王都へと向かっている。
「リーサ、元気にしてるかな」
俺はふと呟いた。
「きっと大丈夫よ。マーカスとマリアが時々様子を見に行ってくれるって言ってたし」
リリアが答える。
そう、今回リーサは留守番だった。
ドワーフの街は遠く、遺跡の探索という危険な任務もあったため、安全を考えて屋敷で待っていてもらったのだ。
「でも、寂しかっただろうな……」
俺は少し心配になった。
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王都に到着すると、街は普段と変わらない賑わいを見せていた。
「ただいま」
「アルさーーーーん!!」
廊下の奥から、リーサが全速力で駆けてきた。
——が、廊下の角で盛大に滑った。
「わわわわっ!」
ドンッ!
俺の腹に頭から突っ込んできた。
「うぐっ!」
俺もリーサもそのまま倒れ込む。
「い、痛った……」
「リーサ……お前な……」
俺は苦笑しながら起き上がった。
「ご、ごめんなさい!でも、アルさんが帰ってきたって聞いて嬉しくて……つい!」
リーサが頬を膨らませる。
「ふふ……元気そうで良かったわ」
リリアが笑っている。
「全然寂しそうじゃないわね」
ルーナも微笑んでいる。
「さあ、中に入ろう。土産話もたくさんあるぞ」
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その日の夕方、マーカスが屋敷にやってきた。
「アル!無事に帰ってきたか!」
「おう、マーカス。リーサのこと、ありがとうな」
「いやいや、俺は時々顔を出しただけだ。マリアの方がよく来てたぞ」
マーカスが笑う。
「それより、アル。良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」
「えー……じゃあ、良い知らせから」
「三日後、王都で大規模な酒造品評会が開かれる」
「品評会?」
「ああ。『王都酒造品評会』って言って、毎年開催される恒例のイベントだ」
マーカスが説明する。
「人族、魔族、エルフの醸造家が集まって、自慢の酒を競い合うんだ」
「へえ、そんなイベントがあるんだ」
「優勝賞金が凄いんだぞ。金貨1万枚だ」
「いちまん!?」
俺は思わず声を上げる
金貨1枚が日本円で言う10万くらいに相当する。
「そんな大金があれば、何でもできるじゃないか!」
「だろ?だから、お前も参加してみないか?」
マーカスがニヤリと笑う。
「でも、俺なんかが参加して大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。参加資格は『酒を造れる者』だけだからな」
「そ、そうか……」
俺は少し考えた。
10億円——それだけあれば、もっと大きな酒造施設を作れる。原料も大量に仕入れられる。
「よし、参加する!」
俺は決意した。
「おう!それでこそアルだ!」
マーカスが肩を叩く。
「でも、準備が間に合うのか?三日後だぞ?」
リリアが心配そうに聞く。
「ああ、それが悪い知らせだ」
マーカスが苦笑する。
「三日しかないから、準備はほとんどできない」
「マジか……」
俺は頭を抱えた。
「あ……そうだ!」
俺は思い出した。
ドラゴンのユリさんが作った、あの日本酒。
純米大吟醸のような、上品で繊細な味わいの酒だ。
「それと、ドワーフの街で手に入れた魔力の酒もある」
「よし、この二つで勝負だ!」
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翌日、俺は大会本部で参加登録を済ませた。
「アル様、登録が完了しました」
受付の係員が丁寧に教えてくれる。
「品評会は三日後、中央広場で開催されます」
「参加者は全部で50名。人族、魔族、エルフの醸造家が集まります」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は受付を後にした。
三日後——果たして、俺の酒は通用するのか。
不安と期待が入り混じる。
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屋敷に戻ると、リリアとルーナが待っていた。
「アル、登録できた?」
「ああ、無事に済んだ」
「それで、何を出すの?」
ルーナが興味津々で聞く。
「ユリさんの日本酒と、魔力の酒だ」
「魔力の酒……あれは確かに凄いわね」
リリアが頷く。
「ユリさんの日本酒も、本当に美味しかったもの」
ルーナも同意する。
「よし、せっかくもらった酒だ。これで勝負する!」
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そして、品評会当日。
中央広場は、朝から大勢の人で賑わっていた。
巨大な白いテントが何十張りも並び、その下に醸造家たちのブースが整然と配置されている。
テントとテントの間には赤い絨毯が敷かれ、観客たちが行き交う通路になっている。
広場の中央には特設ステージが組まれ、審査員席と優勝トロフィーが飾られていた。
「わぁ……すごい!」
リリアが目を輝かせる。
「こんなに大きなイベントなんだ……」
ルーナも圧倒されている様子だ。
確かに、規模が想像以上だ。
各ブースには色とりどりの装飾が施され、それぞれの醸造家が個性を主張している。
エルフのブースは緑と白を基調とした優雅な雰囲気。
魔族のブースは黒と紫を使った神秘的な装飾。
人族のブースは赤と金で華やかに飾られている。
空気は祭りのような高揚感に満ちていた。
「アルさん!」
その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと——
「スーさん!」
商人のスーが、人懐っこい笑顔で手を振っていた。
「お久しぶりです!元気にしてましたか?」
「ああ、おかげさまで。スーさんもお元気そうで」
「ええ。実は、今回の品評会、私も運営委員として手伝っているんですよ」
スーが嬉しそうに言う。
「へえ、そうなんだ」
「はい。毎年恒例の大切なイベントですから、商人組合も全面協力しています」
スーは相変わらず誠実そうな笑顔だ。
「アルさん、もし何か困ったことがあれば、いつでも言ってくださいね」
「ありがとう、スーさん」
俺は笑顔で答えた。
スーは軽く会釈すると、他の参加者の対応に向かった。
「相変わらず、いい人だね」
リリアが言う。
「ああ。スーさんには何度も助けられてるからな」
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俺たちは、自分のブースに向かった。
「アル様、こちらがあなたのブースです」
係員が案内してくれる。
「番号は42番です」
「42番か。ありがとうございます」
ブースには簡単な机と椅子、それに酒瓶を並べる棚が用意されていた。
「さて、準備するか」
俺は持ってきた酒瓶を並べ始めた。
ユリの日本酒と、ドワーフの街で手に入れた魔力の酒。
「この二つで勝負だ」
「ユリさんの日本酒と、魔力の酒……」
リリアが酒瓶を眺める。
「すごい組み合わせね」
「ああ。どちらも特別な酒だからな」
俺はニヤリと笑った。
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準備を終えて周りを見渡すと、他のブースも着々と準備が進んでいる。
隣のブースには、エルフの醸造家が繊細なグラスを並べている。
向かいのブースには、人族の醸造家が様々な色の酒瓶を並べている。
少し離れたブースには、魔族の醸造家が黒い瓶を並べている。
「レベル高そうだな……」
俺は少し緊張してきた。
「大丈夫よ、アル」
リリアが励ましてくれる。
「あなたの酒は、誰にも負けないわ」
「そうよ。ユリさんの日本酒は本当に美味しかったもの」
ルーナも頷く。
「ありがとう、二人とも」
その時——
「おや、これは珍しい」
低い声が聞こえた。
振り向くと、銀髪のエルフの女性が立っていた。
長い髪、整った顔立ち、だが目は冷たく鋭い。
「あなたが噂のアルさんですか」
「あ、はい。そうですが……」
「ふふ……若いのに、随分と評判ですわね」
女性がニヤリと笑う。
「私はセレスティア。エルフの国で200年酒造りをしている者です」
「200年!?」
俺は驚いた。
「エルフは長命ですから。まあ、今回は5連覇がかかっていますので、負けるわけにはいきませんわ」
「ご、5連覇……」
これは、かなり手強そうだ。
「楽しみにしていますわ、アルさん。あなたの『変わった酒』の噂は聞いていますから」
セレスティアは優雅に会釈して、自分のブースに戻っていった。
「……やばいな」
俺は冷や汗を流した。
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夕方になり、開会式が始まった。
壇上には、品評会の主催者である人族の貴族、魔族の代表、エルフの代表が並ぶ。
「皆さん、ようこそお越しくださいました」
人族の貴族が口を開く。
「今年で50回目を迎える王都酒造品評会、今年も多くの醸造家にご参加いただき、誠にありがとうございます」
「酒は、私たちの生活を豊かにし、心を繋ぐものです」
「明日からの品評会、存分に楽しんでください!」
拍手が湧き起こる。
次に、魔族の代表が発言する。
「今年は、各種族の素晴らしい酒が集まりました」
「正々堂々と競い合い、最高の酒を決めましょう」
また拍手。
そして、エルフの代表。
「我々エルフも、今年は特に力を入れて参加しています」
「どの酒が優勝するか、とても楽しみですね」
全員が拍手する。
俺は、少し緊張してきた。
果たして、俺の酒は評価されるのか。
200年のベテラン、セレスティアに勝てるのか。
「それでは、明日からの品評会、よろしくお願いします!」
主催者の言葉で、開会式は終了した。
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その夜、俺たちは宿に戻った。
「明日から本番か……」
ベッドに横になりながら、俺は呟いた。
緊張と期待が入り混じる。
「アル、大丈夫?」
リリアが心配そうに聞いてくる。
「ああ、大丈夫。ちょっと緊張してるだけだ」
「無理しないでね」
「ありがとう、リリア」
俺は目を閉じた。
明日に備えて、しっかり休もう。
優勝できるかはわからないが——
俺は、自分の酒に自信を持っている。
きっと、何かが起こる。
そんな予感がした。




