40杯目 獣人族の試練!信頼を勝ち取れ
「わかりました」
俺は決意を固めた。拳を握りしめ、覚悟を決める。
「では、試練を始めよう」
フルンが手を翳した。
その瞬間——
バッ!
神殿の奥から、光が放たれた。
「!?」
俺たちは目を細めた。
光が収まると——
神殿の中央に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
青白い光を放つ、複雑な幾何学模様。
「これは……?」
俺は驚いて呟いた。
「これは、獣人族に代々伝わる『記憶共有の魔法』だ」
フルンが静かに言った。
「記憶共有の魔法……?」
「獣人族に伝わる古い魔法だ。この魔法陣の上に立ち、互いに手を繋げば、記憶を相手と共有できる。お前が本当に信用できる人間かどうか……この魔法で確かめさせてもらう」
フルンの言葉に、俺の背筋に冷たいものが走る。
記憶を共有……つまり、俺の本心が全て見られてしまうということか。
(やばい……魔力の酒のことがバレる……)
俺は内心で焦った。
だが、ここで断れば、全てが終わる。
「……わかりました」
俺は覚悟を決めた。
「本当にいいのか?お前の心の中が、全て私に見られることになるぞ」
フルンが念を押す。
「ああ。隠すことは何もない」
俺は嘘をついた。
(いや、めちゃくちゃあるけど……)
心の中で呟きながら、俺は魔法陣へと歩み寄った。
青白い光が、足元から立ち上る。
「魔法陣の中心に立て。そして、私と手を繋げ。そうすれば、お前の記憶が私に流れ込んでくる」
フルンの言葉に、俺は深く息を吸い込んだ。
心臓が激しく鳴る。
(まあ、仕方ない。バレたらバレたで、その時考えよう)
俺は魔法陣の中心に立った。
ぶわっ、と光が強くなる。
魔力が、肌を撫でるように流れていく。
「では、始める」
フルンが俺の前に立ち、両手を差し出した。
俺はフルンの手を握った。
その瞬間——
視界が歪んだ。
「うわっ!?」
俺は目を押さえた。
頭の中に、フラッシュバックのように様々な映像が浮かんでは消える。
幼い頃の記憶——
大学時代の記憶——
リリアとの出会い——
ルーナとの出会い——
ドワーフの街での冒険——
そして——
古代遺跡で魔力の酒を発見した時の、あの興奮——
「くっ……」
俺は歯を食いしばった。
全部、見られてしまう。
俺の本心が、全て。
その時——
魔法陣の光が、さらに強くなった。
フルンの青い瞳が、俺を見つめる。
そして——
俺の頭の中に、フルンの記憶が流れ込んできた。
「!?」
俺は驚いて目を見開いた。
フルンの記憶——
幼い頃のフルン——
森の中で、仲間たちと楽しく暮らしていた。
獣人族と人族が、共に笑い合っていた。
平和な日々——
だが——
ある日、戦争が始まった。
人族と魔人族の戦い。
人族は、獣人族に協力を求めた。
「共に戦おう。我々は仲間だ」
人族の言葉を信じて、獣人族は戦いに参加した。
だが——
戦いが長引くにつれて、人族の態度が変わっていった。
獣人族を前線に送り込む。
逃げることを許さない。
まるで、使い捨ての駒のように——
多くの仲間が死んでいった。
「なぜ……なぜこんなことを……」
フルンの声が、記憶の中で響く。
そして——
ある日、フルンは目撃した。
人族の指揮官が、獣人族を「獣」と呼び、笑っている姿を。
「所詮、獣だ。我々のために死ねばいい」
その言葉に、フルンの心が折れた。
裏切られた——
信じていたのに——
その日から、フルンは人族を憎むようになった。
そして、森の最深部に籠もり、誰とも関わらなくなった——
「……」
俺は息を呑んだ。
フルンの記憶が、痛いほど伝わってくる。
裏切られた悲しみ。
怒り。
孤独。
全てが、俺の心に流れ込んでくる。
「見たか、人族よ」
フルンの声が、静かに響いた。
「これが、私の記憶だ。これが、お前たち人族がしたことだ」
その声には、深い悲しみが込められている。
「……すまない」
俺は頭を下げた。
謝って済むことじゃない。
それは分かっている。
でも、俺は謝らずにはいられなかった。
「謝って何になる」
フルンが冷たく言った。
「死んだ仲間は、戻ってこない」
「……そうだな」
俺は顔を上げた。
「でも、俺は——俺たちは、違う」
「違う……だと?」
フルンの青い瞳が、鋭く光る。
「お前の記憶も見た。お前の心の中も見た。確かに、お前は仲間を大切にしている。だが——」
フルンが一歩、俺に近づいた。
「お前の本当の目的は、『魔力の酒』だろう?」
その言葉に、俺の心臓が止まりそうになった。
「街を救うというのは、建前。本当は、魔力の酒を飲みたいだけ——違うか?」
フルンの言葉が、俺の胸を突き刺す。
「……」
俺は何も言えなかった。
その通りだからだ。
「やはりな。人族は、いつもそうだ。自分の欲望のために、他者を利用する」
フルンが背を向けた。
「帰れ。お前に、花を渡すことはできない」
「待ってくれ!」
俺は叫んだ。
「確かに、俺の本当の目的は魔力の酒だ!それは認める!」
俺は必死で声を絞り出した。
「でも、だからって、街を見捨てるつもりはない!仲間を見捨てるつもりもない!」
「……」
フルンが立ち止まった。
「俺は、酒造りが好きなんだ。美味しい酒を作って、みんなに笑顔になってほしい。それが、俺の夢だ」
俺の言葉が、神殿の中に響く。
「だから、魔力の酒を飲みたい。どんな味がするのか、知りたい。それを参考に、もっと美味しい酒を作りたい」
俺は拳を握りしめた。
「でも、それと同時に、街を救いたい。仲間を守りたい。その両方が、俺の本心だ」
「……」
フルンが振り返った。
その瞳には、まだ疑念が残っている。
「信じられるか。お前の言葉を」
「信じてくれとしか言えない」
俺は真っ直ぐにフルンを見つめた。
その時——
リリアが前に出た。
「フルン様」
リリアが静かに言った。
「私は、アルを信じています」
「……」
フルンがリリアを見た。
「アルは、確かに不真面目なところもあります。酒のことばかり考えているところもあります」
リリアの言葉に、俺は少し傷ついた。
「でも、困っている人を見捨てません。私が魔物に襲われていた時、アルは助けてくれました。見返りも求めず、ただ助けてくれたんです」
リリアの声が、優しく響く。
「アルは、そういう人です」
「……そうか」
フルンの表情が、わずかに緩んだ。
その時——
ドラも前に出た。
「ワシからも言わせてもらうぞ」
ドラが力強く言った。
「このアルという若者は、ワシらドワーフの街を救うために、今こうして命を懸けて動いてくれておる。まだ街は救われておらん。古代遺跡の暴走を止めるために、危険を顧みず、この花を求めて獣人の森まで来てくれた」
ドラの声には、確信が込められている。
「もし、こいつが本当に自分のことしか考えていない奴なら、そんなことはしない。危険な森に来ることもなく、さっさと逃げ出すはずじゃ」
「……」
フルンが黙り込んだ。
そして——
グラも前に出た。
「俺も言わせてもらう」
グラが真剣な顔で言った。
「アルは、確かに変な奴だ。酒のことばかり考えてるし、たまに抜けてるし」
グラの言葉に、俺は再び傷ついた。
「でも、仲間思いだ。俺が危ない時、何度も助けてくれた。こんな奴、人族にはなかなかいないよ」
グラの言葉が、俺の胸を温かくした。
「……」
フルンが俺を見つめた。
その瞳には、迷いが見える。
「みんな……」
俺は仲間を見た。
みんな、俺を信じてくれている。
その事実が、胸に染みる。
「フルン」
俺はフルンを見つめた。
「俺は、完璧な人間じゃない。自分の欲望もあるし、失敗もする」
俺の声が、静かに響く。
「でも、約束する。お前を——獣人族を、裏切らない」
俺は深く頭を下げた。
「信じてくれ」
沈黙が、流れる。
長い、長い沈黙。
やがて——
「……ふう」
フルンが、小さく息を吐いた。
「お前は、面白い人間だな」
その声が、わずかに柔らかくなった。
「正直すぎる。嘘をつくのが下手だ」
フルンが小さく笑った。
「だが……だからこそ、信じてもいいのかもしれない」
「フルン……」
俺は顔を上げた。
フルンが、手を差し出した。
「約束しろ。獣人族を裏切らないと」
「ああ」
俺はフルンの手を握った。
その手は、温かかった。
「約束する」
俺は力強く握り返した。
「……わかった」
フルンが頷いた。
そして——
フルンが神殿の奥へと歩いていった。
しばらくして——
フルンが戻ってきた。
その手には——
美しい青い花が握られていた。
「これが、獣人族に伝わる花だ」
フルンが花を差し出した。
「月光のように青く輝くこの花は、古代の力を秘めている。これがあれば、古代遺跡の暴走も止められるはずだ」
「ありがとう……」
俺は花を受け取った。
花は、柔らかく、そして冷たかった。
「礼を言うのは、まだ早い」
フルンが言った。
「これから、お前たちは街を救わなければならない。それができて初めて、お前の約束が果たされる」
「ああ。絶対に、街を救ってみせる」
俺は決意を新たにした。
「……ところで」
フルンが少し困った顔をした。
「その、魔力の酒とやら……もし街を救った後、余裕があったら……少し、飲ませてもらえないだろうか」
「え?」
俺は驚いた。
「いや、その……私も、酒は好きでな。どんな味がするのか、興味があるんだ」
フルンが少し照れくさそうに言った。
その姿が、少し可愛らしく見えた。
「もちろん!」
俺は笑顔で答えた。
「街を救った後、一緒に飲もう!」
「……ああ」
フルンも、小さく笑った。
その笑顔が、神殿の中に温かな光を灯した。
「さあ、行け。街が、お前を待っている」
フルンが手を翳すと、神殿の扉が大きく開いた。
外の光が、神殿の中に差し込んでくる。
「ありがとう、フルン」
俺は深く頭を下げた。
「また会おう」
「ああ。必ず、生きて帰って来い」
フルンの言葉に、俺は力強く頷いた。
俺たちは、神殿を後にした。
***
森を抜けると、ガルムが待っていた。
「……花を手に入れたようだな」
ガルムが俺たちを見た。
「ああ。フルンが、譲ってくれた」
俺は花を見せた。
「……そうか」
ガルムの表情が、わずかに緩んだ。
「フルンが心を開いたのは、久しぶりだ。お前たちは、本物のようだな」
「ありがとう、ガルム」
俺は頭を下げた。
「礼には及ばん。ただ——」
ガルムが真剣な顔で言った。
「約束を守れ。獣人族を裏切るな」
「ああ。絶対に」
俺は力強く答えた。
「では、行くがいい。街を救え」
ガルムが手を翳すと、結界が完全に消えた。
「ありがとう」
俺たちは、森を後にした。
振り返ると——
ガルムが、手を振っていた。
その姿が、とても優しく見えた。
「さあ、戻ろう」
俺は仲間を見た。
「ドワーフの街へ。そして、街を救おう」
「ああ!」
みんなが力強く頷いた。
俺たちは、ドワーフの街へと走り出した。
手には、青く光る花。
心には、新たな仲間との絆。
そして——
(魔力の酒、待ってろよ……)
俺は心の中で呟いた。
その瞬間——
「アル、今『魔力の酒』って考えてたでしょ」
リリアが呆れた顔で言った。
「え、なんで分かるの!?」
「顔に書いてあるわよ」
リリアの言葉に、みんなが笑った。
「相変わらずじゃのう、アルは」
ドラが笑う。
「でも、それがアルらしいよな」
グラやダグ、ルーナも続けて笑った。
俺たちは、笑いながら意気揚々と街へと向かった。
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