39杯目 獣人の森へ!守護者との出会い
俺たちは、獣人の森へと続く道を進んでいた。
「もうすぐ着くはずじゃ」
ドラが地図を確認しながら言った。
「ああ」
俺は頷いた。心臓が高鳴る。ついに、獣人の森に到着する。
(まあ、本当の目的は魔力で造られた酒を飲むことなんだけどな……街を救うってのは、一応建前だし)
俺は心の中で呟いた。もちろん、街を救うことも大事だ。でも、俺の本当の目的は、あの古代遺跡で造られる魔力の酒を飲むこと。それが、俺がここまで来た理由だ。
その時——
「うわあああ!!」
突然、悲鳴が聞こえた。
「!?」
俺たちは立ち止まった。
「今の声……!」
「誰かが襲われてるのか!?」
グラが叫んだ。
「行くぞ!」
俺は声のした方へと駆け出した。
やがて——
開けた場所に出た。
そこには——
オレンジ色の毛並みに黒い縞模様を持つ、巨大な虎の獣人が倒れていた。その体には、深い傷が刻まれ、血が流れている。
「これは……!」
「獣人族です!」
リリアが驚いて叫んだ。
そして、虎の獣人の周りには——
3匹の魔物が取り囲んでいた。
灰色の毛皮に覆われた、狼に似た魔物だ。鋭い牙を剥き出しにし、唸り声を上げている。目は血走り、殺気を放っている。
「魔物……!」
「助けるぞ!」
「ああ!」
グラとドラも武器を構えた。
「グルルル……」
魔物たちが俺たちに気づき、振り向いた。その目が、俺たちを獲物として捉える。
「来るぞ!」
魔物が一斉に飛びかかってきた。
「うおりゃあ!」
グラが斧を振るい、もう一匹の魔物を薙ぎ払った。
「そりゃあ!」
ドラがハンマーで最後の魔物を叩き潰した。
「大丈夫か!?」
「う……ぐ……」
虎の獣人が苦しそうに呻いた。その傷は深く、血が止まらない。
「リリア!治癒魔法を!」
「はい!」
リリアが駆け寄り、手を虎の獣人の傷にかざした。
「癒しの光よ、傷を塞げ——ヒール!」
緑色の光が虎の獣人を包み込む。傷が徐々に塞がっていく。血が止まり、呼吸が落ち着いてくる。
「はあ……はあ……」
虎の獣人が目を開けた。
「気がついたか?」
「あ、あなたたちは……人族……?」
虎の獣人が驚いた顔で俺を見た。
「ああ。魔物に襲われてたから、助けた」
「そう、ですか……ありがとうございます……」
虎の獣人が小さく頭を下げた。その声は、感謝に満ちている。
「名前は?」
「私は……ファリーと申します。獣人族の戦士です」
虎の獣人——ファリーが名乗った。
「俺はアル。こっちはリリア、ルーナ、ドワーフずっこけ三人組だ」
誰がずっこけ三人組じゃ!と抗議する声が聞こえたが無視だ。無視。
「アル様……本当にありがとうございました。あのまま放っておかれたら、私は死んでいたでしょう……」
ファリーが深く頭を下げた。
「気にするな。困ってる人を助けるのは当然だ」
俺は笑って答えた。
「人族が……獣人族を助けてくれるなんて……」
ファリーが驚いた顔で呟いた。その瞳には、涙が浮かんでいる。
「え?」
「いえ……人族と獣人族は、今は仲が良くないので……」
ファリーが悲しそうに言った。
「そうなのか……」
「はい。昔、人族に裏切られたことがあって……それから、人族を信用できなくなってしまったんです」
ファリーの言葉に、俺の胸が痛んだ。
「……そうか」
「でも、あなたたちは違うんですね。私を助けてくれた……ありがとうございます」
ファリーが再び頭を下げた。
「立てるか?」
「はい……なんとか」
ファリーが立ち上がった。その体は、まだ少し震えている。
「これから、どこへ行くんですか?」
「獣人の森だ。獣人族に伝わる花を探しに来た」
「獣人族に伝わる花を……?」
ファリーが驚いた顔で聞き返した。
「ああ。街を救うために必要なんだ」
「そうなんですか……でも、今は人族が森に入ることは許されていません……族長のガルム様が、結界を張っているんです」
ファリーの言葉に、俺は覚悟を決めた。
「それでも、行かなきゃならない」
(なぜなら魔力で造られた酒を飲まなければいけないからな)
「……そうですか。気をつけてください」
ファリーが心配そうに言った。
「ありがとう。お前も気をつけて森に帰れよ」
「はい。本当にありがとうございました。この恩は忘れません」
ファリーが深く頭を下げた。
「じゃあな」
俺たちは手を振り、別れた。ファリーは森の方へと走っていった。
「良い子だったな」
グラが呟いた。
「ああ」
俺たちは、獣人の森へと向かった。
***
やがて——
俺たちは、獣人の森の入り口に到着した。
「ここが……獣人の森か……」
俺は思わず立ち止まり、見上げた。
木々は天高くそびえ立ち、太陽の光を遮っている。幹は太く、何百年も生きているように見える。枝が複雑に絡み合い、空を覆い隠している。森の中は、昼なのに薄暗く、静まり返っている。
風が止んだ。
鳥の鳴き声も聞こえない。
虫の音もない。
ただ、静寂だけが支配している。
その静けさが、逆に不気味だった。俺の背筋に、冷たいものが走る。
「何か……嫌な予感がするな……」
グラが小声で呟いた。その声は、緊張で震えている。
「ああ……」
俺も同じことを感じていた。森が、俺たちを拒んでいる——そんな気がした。
その時——
ビリビリビリ!!
突然、目の前に光の壁が現れた。空気が震え、耳がツンと痛くなる。光の壁は、薄い青白い光を放ちながら、森の入り口を完全に塞いでいる。
「!?」
「これは……結界!?」
リリアが驚いて叫んだ。その声が、静寂を破る。
「結界が張られておるな……」
ドラが結界に手を伸ばした。
バチッ!!
鋭い音とともに、青白い火花が散った。
「うわっ!」
ドラが慌てて手を引っ込めた。手のひらが赤く腫れ上がっている。
「触ると、弾かれるぞ!」
その言葉に、俺たちは一歩後ずさった。結界の力が、肌にビリビリと伝わってくる。
「どうすれば……」
俺は途方に暮れた。心臓が早鐘を打ち、手のひらに汗がにじむ。
その時——
「人族は、この森に入ることを許さぬ」
低く重い声が、背後から響いた。
その声は、威圧感に満ちている。空気が一気に張り詰め、息が詰まりそうになる。
「!?」
俺たちは振り返った。
そこには——
巨大な狼の獣人が立っていた。
身長は、優に二メートルを超えている。筋骨隆々とした体は、戦士としての力を物語っている。銀色の毛並みが、風に揺れている。そして、鋭い金色の瞳が、俺たちを睨みつけている。
その視線だけで、体が竦む。
「我が名は、ガルム。獣人族の族長だ」
狼の獣人——ガルムが、低く重い声で名乗った。その声には、誇りと威厳が込められている。
「人族よ。何の用だ?」
ガルムの声は冷たく、容赦がない。その声を聞いただけで、拒絶されている——そう感じた。胸が締め付けられる。
「俺たちは……獣人族に伝わる花を探しに来た」
俺は必死で声を絞り出した。喉が渇いて、言葉が上手く出てこない。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「獣人族に伝わる花……?」
ガルムの金色の瞳が、さらに鋭く光った。その視線が、俺の心を見透かすように突き刺さる。
「ああ。ドワーフの街で、古代遺跡が暴走してる。それを止めるには、その花が必要なんだ」
俺は一気に言った。言葉にすることで、自分の決意を確かめる。
(まあ、本当は魔力の酒を飲みたいだけなんだけどな……)
心の中でそう呟きながら、俺は真剣な表情を保った。
「……なるほど。だが、断る」
ガルムの言葉が、冷たい風のように俺を打った。
心臓が止まりそうになる。
「なんで!?」
思わず叫んでいた。声が、森に響く。
「人族は、我々を裏切った。もう二度と、人族を信用することはない」
ガルムの声には、深い怒りと悲しみが滲んでいる。その言葉の重さに、俺の胸が痛む。
「裏切った……?」
俺は困惑した。裏切った?一体、何があったのか。
「何があったんだ?」
「……話す必要はない。帰れ」
ガルムが背を向けた。その背中が、孤独と悲しみに満ちている気がした。
「待ってくれ!」
俺は必死で叫んだ。この場で引き下がれば、全てが終わる。魔力の酒が——いや、街が、仲間が、危険に晒される。
「頼む!街が危ないんだ!」
声が震える。胸の奥から、絞り出すような叫びだった。
「知らぬ。帰れ」
ガルムの声は、冷徹だった。
「くそっ……」
ガルムは俺たちを一瞥すると、そのまま森の奥へと消えていった。
「……どうする、アル?」
ドラが心配そうに聞いてきた。
「……諦めるわけにはいかない。もう一度、話してみる」
***
翌日——
俺たちは再び、獣人の森の入り口を訪れた。
結界は相変わらず、薄い青白い光を放ちながら立ちはだかっている。
「ガルム!出てきてくれ!」
俺は森に向かって叫んだ。
しばらくして——
ガルムが姿を現した。その表情は、昨日よりもさらに険しい。
「また来たのか、人族よ」
「ああ。どうしても、獣人族に伝わる花が必要なんだ」
俺は必死で訴えた。
「断ると言ったはずだ」
「頼む!このままじゃ、街が——」
「知らぬと言った。帰れ」
ガルムが再び背を向けた。
その時——
ドラが前に出た。
「ガルム殿!ワシはドワーフのドラじゃ!昔、獣人族とドワーフ族は友好的じゃったはず!その縁で、どうか——」
「ドワーフ族か……」
ガルムが立ち止まった。
「ああ。ワシらも、人族に騙されたことがある。じゃが、この若者は違う!信じてやってくれんか!」
ドラの言葉に、ガルムの表情が少しだけ緩んだ。
「……ふむ。ドワーフ族の言葉なら、多少は信用できる。だが、それでも人族を森に入れるわけにはいかん」
「そこをなんとか!」
俺も前に出た。
「……」
ガルムが黙り込んだ。
「せめて、話だけでも聞いてくれ!」
「……明日、また来い。考えておく」
そう言い残して、ガルムは森の中へ消えていった。
「……少しは、進展したな」
ドラが安堵の息を吐いた。
「ああ。明日こそ、話を聞いてもらえるかもしれない」
俺は希望を感じた。
***
俺たちは再び、獣人の森を訪れた。
今度こそ、話を聞いてもらえるはずだ。
「ガルム!」
俺が叫ぶと、ガルムがすぐに姿を現した。
「また来たか、人族よ」
「ああ。今日こそ、話を聞いてほしい」
「……ふむ」
ガルムが考え込んだ。その沈黙の時間が、永遠のように長く感じられる。俺は息を詰めて、ガルムの言葉を待った。
その時——
「ガルム様!」
聞き覚えのある声が響いた。
俺たちは振り返った。
ファリーが駆けてきた。オレンジ色の毛並みに黒い縞模様——もうすっかり元気そうだ。
「ファリー!」
俺は驚いた。
「アル様!」
ファリーが俺たちの前に立った。
「ファリーか。報告は聞いた」
ガルムが言った。
「はい。ガルム様、人族が3日も通い続けています……その誠意を、試してみてはどうでしょうか?」
ファリーの提案に、俺の心に一筋の光が差した。
「……試す、だと?」
「はい。彼らは私の命を救ってくれました。見返りも求めず、ただ困っている者を助けるために。それは……昔の、人族と獣人族が共に暮らしていた頃の優しさではないでしょうか」
ファリーの言葉に、ガルムの表情がわずかに揺れた。
「もし、彼らが本気なら……昔のように、人族を信じても良いのではないでしょうか」
その言葉に、希望が湧いてくる。心臓が高鳴る。
「……ふむ」
ガルムが再び考え込んだ。
その沈黙が、長く感じられる。
やがて——
「……ファリー、お前がそこまで言うのなら」
ガルムが口を開いた。
「良かろう。人族よ、試練を与える」
ガルムが俺を見た。その瞳には、まだ疑念が残っているが、わずかに好奇心の光も見える。
「試練……?」
「この森には、古き守護者が眠っている。その守護者を説得し、協力を得られたら——獣人族に伝わる花を譲ろう」
ガルムの言葉に、俺の心が躍った。チャンスだ——これが、唯一のチャンスだ。
「古き守護者……」
「ただし、守護者は強大だ。下手をすれば、命を落とすぞ」
ガルムの警告が、冷水のように俺の熱を冷ます。だが、それでも——
「……わかった。やるよ」
俺は即答した。迷いはない。ためらいもない。魔力の酒を飲むためなら——いや、街を救うためなら、命を懸ける覚悟はできている。
「本気か?」
ガルムが問う。その声には、驚きが滲んでいる。
「ああ。街を救うためなら、何だってする」
俺は真っ直ぐにガルムを見つめた。目を逸らさない。心の底から、本気だと伝える。
「……良い目をしている」
ガルムの表情が、わずかに緩んだ。
「ならば、森へ入ることを許可しよう。ただし、守護者を倒すのではなく、説得することだ。力ずくで奪おうとすれば、我々が相手をする」
ガルムの言葉は厳しいが、その中に信頼の芽が見える。
「わかった」
俺は頷いた。
「では、行け。森の最深部に、守護者はいる。守護者の名は——フルン。金髪の獣人だ」
ガルムが手を翳すと——
パリン……
結界が、ガラスが割れるような音を立てて消えた。光の粒子が空中で弾け、キラキラと輝きながら消えていく。
「ありがとう」
俺は深く頭を下げた。感謝の気持ちが、心の底から湧き上がる。
「礼を言うのは、まだ早い。守護者を説得できてからだ」
ガルムの言葉に、俺は再び顔を上げた。
「ああ」
俺たちは、森の中へと足を踏み入れた。
***
一歩、森の中へ足を踏み入れた瞬間——世界が変わった。
暗闇が、俺たちを包み込む。
木々の枝が天を覆い、太陽の光をほとんど遮っている。わずかに差し込む光が、木漏れ日となって地面を照らす。その光の粒が、まるで幻想的な舞台のように森を演出している。
空気が、重い。
湿気を含んだ空気が、肌にまとわりつく。森特有の土と腐葉土の匂いが、鼻をくすぐる。足元には苔が生え、踏みしめるとフワフワとした柔らかい感触が伝わってくる。
静寂が、支配している。
風の音も、鳥の声も、虫の鳴き声も——何も聞こえない。ただ、俺たち自身の足音と呼吸だけが、静けさを破る。
「何か……嫌な予感がするな……」
グラが小声で呟いた。その声は、緊張で震えている。俺も同じ気持ちだ。
「守護者って、一体何者なんだ……?」
「わからん……じゃが、強大な存在じゃろうな」
ドラが低い声で答えた。その声には、警戒心が滲んでいる。
「説得か……どうすればいいんだろう」
俺は考え込んだ。心臓が、不安で重く脈打つ。
「まずは、会ってみないとわからんな」
「そうだな」
俺たちは、森の奥へと進んでいった。
木々の間から、時折光が差し込む。その光が、森の中に神秘的な雰囲気を作り出している。だが、その美しさとは裏腹に、俺の心は不安で満たされている。
鳥のさえずりも聞こえない。
静寂だけが、支配している。
その静けさが、逆に恐怖を煽る。何か巨大な存在が、この森を支配しているような気がした。
「気をつけろ……何かいるぞ……」
ドラが立ち止まり、警戒した。その声に、全員が緊張する。
その時——
ガサガサガサ……
茂みが揺れた。
「!?」
俺たちは身構えた。武器を握る手に、汗がにじむ。心臓が激しく鳴る。
そして——
茂みから飛び出してきたのは——
小さな兎の獣人だった。
「ひゃあ!」
兎の獣人が転んだ。白い毛並みに、長い耳——愛らしい姿だ。
「え……?」
俺は拍子抜けした。緊張が一気に解ける。
「大丈夫か?」
俺は手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます……」
兎の獣人が俺の手を取った。その手は小さく、柔らかく、温かい。
「人族……?」
兎の獣人が驚いた顔で俺を見た。その大きな瞳には、驚きと恐怖が入り混じっている。
「ああ。俺たちは、守護者に会いに来たんだ」
俺はできるだけ優しく答えた。
「守護者様に……?」
「ああ。説得して、獣人族に伝わる花を譲ってもらいたいんだ」
「そうなんですか……」
兎の獣人が考え込んだ。その表情は、複雑だ。
「守護者様は、森の最深部にいます。でも……すごく怖いんです」
その声が、小さく震えている。
「怖い……?」
「はい。守護者様は、フルン様と呼ばれています。とても強くて、誰も近づけないんです」
兎の獣人の言葉に、俺の背筋に冷たいものが走る。
「フルン……」
「でも、守護者様は優しい方なんです。ただ、昔人族に裏切られて……それから心を閉ざしてしまったんです」
兎の獣人の声が、悲しみに沈む。
「裏切られた……やっぱり、何かあったんだな」
俺の胸が、痛む。人族が、獣人族を裏切った——その事実が、重く心にのしかかる。
「はい……人族と魔人族が戦った時、人族は私たち獣人族を捨て駒として使ったんです……多くの仲間が、奴隷のように扱われて……そして、死んでいきました……」
兎の獣人の声が、涙で震えている。
「……!」
俺は息を呑んだ。
「戦いが拮抗すればするほど、人族は私たちを前線に送り込みました。逃げることも許されず、ただ……ただ、死ぬために戦わされたんです……」
その言葉が、俺の胸を突き刺す。
「それは……ひどい……」
リリアが小さく呟いた。その声は、涙で震えている。
「だから、私たちは人族を信じられないんです……」
兎の獣人が悲しそうに頷いた。
「わかった。ありがとう」
「あの……気をつけてくださいね」
兎の獣人が心配そうに言った。その瞳には、優しさが宿っている。
「ああ」
俺たちは、再び森の奥へと進んでいった。
***
やがて——
森の様子が、変わり始めた。
木々がさらに太く、古くなっている。幹には苔がびっしりと生え、何百年、いや何千年も生きているように見える。空気が、さらに重く、神聖な雰囲気を帯びている。
足音が、まるで神殿の中を歩いているかのように響く。
そして——
森の最深部に到着した。
そこには、巨大な石造りの神殿が建っていた。
「これが……守護者の住処か……」
俺は息を呑んだ。
神殿は、古代の建築様式で作られている。石の表面には、複雑な文様が刻まれ、歳月を感じさせる。柱は太く、天まで伸びているように見える。神殿全体から、神聖な気配が漂っている。
神殿の扉は、固く閉ざされている。その扉には、巨大な狼の彫刻が刻まれている。
「行くぞ」
俺は深く息を吸い込み、決意を固めた。心臓が激しく鳴る。手のひらに汗がにじむ。
俺は扉に手をかけた。
石の冷たい感触が、手のひらに伝わる。
ギギギ……
重い音を立てて、扉がゆっくりと開いた。まるで、何百年も開かれていなかったかのような、重々しい音だ。
中は、薄暗く静まり返っている。
だが、その暗闇の中に——何か存在を感じる。
空気が、張り詰めている。
肌がピリピリと痛む。
そして——
奥から、気配を感じた。
「来たか……人族よ」
低く落ち着いた声が、神殿の中に響いた。
「!?」
俺たちは身構えた。
暗闇の中から——
一人の獣人が、ゆっくりと姿を現した。
金髪の美しい髪が、光の中で輝いている。身長は俺と同じくらいだが、その佇まいには圧倒的な存在感がある。鋭い青い瞳が、俺たちを見つめている。
「私が、この森の守護者——フルンだ」
金髪の獣人——フルンが、低く落ち着いた声で名乗った。
その声が、神殿の中に響き渡る。
「フルン……」
俺は圧倒された。言葉が出てこない。喉が渇いて、息が詰まりそうだ。
「人族よ。何の用だ?」
フルンの青い瞳が、俺を見つめる。その視線が、心の奥まで見透かすようだ。
「俺たちは……獣人族に伝わる花を探しに来ました」
俺は必死で声を絞り出した。声が震える。
「獣人族に伝わる花……あの花を、何に使う?」
「ドワーフの街で、古代遺跡が暴走しています。それを止めるために、花が必要なんです」
俺は一気に説明した。心臓が激しく鳴り、全身に汗がにじむ。
(まあ、本当は魔力の酒を飲みたいだけなんだけどな……)
心の中でそう呟きながらも、俺は真剣な表情を保った。
「……ほう。街を救うために、わざわざここまで来たのか」
フルンの声に、わずかな驚きが滲んでいる。
「はい」
俺は真っ直ぐにフルンを見つめた。目を逸らさない。
「だが、人族は信用できん。」
フルンが背を向けた。その背中が、孤独に満ちている。
「待ってください!」
俺は叫んだ。声が、神殿の中に響く。
「俺たちは、あなたを裏切りません。信じてください!」
「信じろだと……?何を根拠に?」
フルンが振り返った。
「根拠なんてない!でも、俺たちは本気です!街を救いたいんです!」
俺は必死で訴えた。心の底から、本気だと伝える。拳を握りしめ、全身に力を込める。
(まあ、魔力の酒を飲みたいってのもあるけど……それは置いといて)
「……ふむ」
フルンが俺を見つめた。
沈黙が、流れる。
その沈黙の時間が、永遠のように長く感じられる。
「ならば、証明してみせろ」
フルンの声が、わずかに柔らかくなった。
「証明……?」
「お前の力を見せてみろ。本気なら、私を説得できるはずだ」
フルンの言葉に、俺の心に希望が灯る。
最後までお読みいただきありがとうございます!
1月1日はすみませんがおやすみさせていただきます。
1月2日からは投稿は通常通り開始しますので是非引き続き読んでいただければ幸いです!よろしくお願いいたします!




