32杯目 ドワーフ来襲!酒飲み三人衆と伝説の酒
『和解のカクテル』騒動から一週間。
ようやく街中での追跡劇も落ち着き、俺は平穏な日々を取り戻していた。
俺は今、リリアと共に小さな酒場を経営している。日銭を自分で稼ぐためだ。王城から支援を受けることもできたが、俺は自分の力で生きていきたかった。それに、酒場の仕事は性に合っている。
酒場のカウンターで、いつものように酒瓶を磨きながら、のんびりとした午後を過ごしている。
「はぁ……平和だ。これこれ、これが俺の求めていた生活だ」
「アル、油断しすぎですよ」
リリアが呆れた顔で言う。
「大丈夫大丈夫、もう誰も追いかけてこないって。あれだけ逃げ回ったんだから、みんなも諦めただろ」
そう言った瞬間——
ドォォォン!!
酒場のドアが勢いよく開いた。
いや、開いたというより、吹き飛んだ。
「おおおおおおい!!誰か噂のバーテンダーはおらんかァァァ!!」
「酒造りの達人がここにおると聞いたぞォォォ!!」
「ワシらに美味い酒を飲ませんかァァァ!!」
三人の屈強な……いや、ずんぐりむっくりとした体格の男たちが、酒場に乱入してきた。
背丈は俺の胸ぐらいまでしかないが、横幅が俺の倍はある。
筋骨隆々とした腕には、びっしりと体毛が生えている。
顎には立派な髭を蓄え、頭には角のような飾りのついた兜を被っている。
「……ドワーフ?」
「おお!よくわかったのう!ワシらはドワーフじゃ!」
真ん中にいる、一際髭の長い男が豪快に笑った。
「ワシはドラ!」
「ワシはグラ!」
「ワシはダグ!」
三人が順番に名乗った。
「……名前、適当すぎないか?」
「うるさい!ドワーフの名前はシンプルが一番なんじゃ!」
ドラが怒鳴った。
「で、何の用だ?っていうか、ドア弁償してくれよ……」
俺は壊れたドアを見て頭を抱えた。
「細かいことは気にするな!それより、噂を聞いたぞ!お前さんが、種族の垣根を越えた『和解のカクテル』とやらを作ったそうじゃないか!」
グラが興奮気味に言った。
「ああ、まあ……そうだけど」
「ならば!ワシらにもその酒を飲ませてくれ!」
ダグが勢いよくテーブルを叩いた。
「って、ちょっと待て。お前ら、亜人族だろ?わざわざ人族の国まで来たのか?」
「当たり前じゃ!美味い酒のためなら、どこへでも行くのがドワーフの流儀よ!」
ドラが胸を張って言った。
「ドワーフってのは、種族間の争いとかには興味ないんだ」
リリアが俺に耳打ちした。
「ただし……」
「ただし?」
「ドワーフ族こそが、この世界で最も優れた種族だと信じてるの。プライドだけは、異様に高いのよ」
「……めんどくさいタイプじゃん」
俺は小声で呟いた。
「聞こえとるぞ!」
ドラが怒鳴った。
「ドワーフは耳がいいんじゃ!その代わり、目は悪い!」
「自慢にならねえよ!」
俺は思わずツッコんだ。
「まあまあ、とにかく酒を飲んでくれ。ワシらは、お前さんの人間性を見たいんじゃ」
グラが落ち着いた口調で言った。
「人間性……?」
「そうじゃ。ドワーフは、酒造りはできん。だが、酒を飲むのは得意じゃ。酒を飲めば、その人間の本性がわかる」
ダグが真面目な顔で言った。
「ワシらと一緒に酒を飲んで、気に入ったら……頼みごとがあるんじゃ」
「頼みごと……?」
俺は怪訝な顔をした。
「まあまあ、まずは飲め!話はそれからじゃ!」
***
こうして、俺とドワーフ三人組の酒盛りが始まった。
「うおおおお!これは美味い!!」
「人間の酒とは思えん旨さじゃ!!」
「おかわり!おかわりをくれ!!」
三人は、俺が出した酒を次々と飲み干していく。
「おいおい、ペース速すぎだろ……」
「心配するな!ドワーフは酒に強いんじゃ!こんなもん、水みたいなもんよ!」
ドラが豪快に笑った。
だが、三十分後——
「うぅ……酔ったぁ……」
「ワ、ワシは……まだ飲めるぞぉ……」
「お、おかわり……くだしゃい……」
三人とも、真っ赤な顔でテーブルに突っ伏していた。
「……水みたいなもん、じゃなかったのかよ」
俺は呆れた。
「す、すまん……お前さんの酒が、強すぎたんじゃ……」
ドラがぐったりとしながら言った。
「でも……わかったぞ。お前さんは、面白い男じゃ」
「面白い……?」
「ああ。酒を飲んでも、態度が変わらん。誰に対しても、同じように接する。偏見もない」
グラが笑顔で言った。
「それに、何も考えてない感じがよい」
「馬鹿にしてます?」
アルがすかさずつっこむ。
ダグも頷いた。
「ワシらは、お前さんを気に入った!」
三人が同時に立ち上がった。
……いや、立ち上がろうとして、よろけて倒れた。
「立てよ……」
俺はため息をついた。
「それで、頼みごとって何だ?」
「おお、そうじゃった!」
ドラが這いつくばりながら、俺を見上げた。
「実は……東の亜人族の国に、伝説の酒があるんじゃ」
「伝説の酒……?」
「ああ。アル山脈の頂上に、黄金の稲穂が実るという。そこには、神が造りし酒があると言われておる」
グラが真剣な顔で言った。
「ワシらドワーフは、酒造りができん。だが、その伝説の酒を飲むのが、長年の夢だったんじゃ」
ダグが涙ぐんでいた。
「だが、山脈には強力なモンスターがおる。ワシらだけでは、辿り着けん……」
「だから、お前さんに頼みたい!一緒に、伝説の酒を取りに行ってくれんか!」
三人が土下座した。
「……マジで?」
俺は困惑した。
「マジじゃ!頼む!!」
「伝説の酒かぁ……」
俺は少し考えた。
正直、面倒くさい。
だが——
(伝説の酒、か。ちょっと気になるな……)
俺も酒好きだ。伝説の酒と聞いて、興味が湧かないわけがない。
「……わかった。行ってやるよ」
「本当か!!ありがとう!!」
三人が抱きついてきた。
「うわっ、重い!離れろ!!」
***
その夜、酒場を閉めた後。
俺は、一人で後片付けをしていた。
「山脈、か……」
(まあ、なんとかなるだろ)
俺は楽観的に考えた。
その時——
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「はい?」
「アル、いるか?」
聞き覚えのある声だ。
「ルンブラン王子……?こんな時間にどうしたんですか?」
ドアを開けると、フードを深く被ったルンブラン王子が立っていた。
「すまない、夜分に。少し……相談があるんだ」
「相談?」
「ああ。実は……教育政策について、悩んでいてな」
ルンブラン王子は、酒場に入ってきた。
「父上は、種族間交流を進めることに賛成してくれている。だが、実際に学校で種族を混ぜて教育するとなると……様々な問題が出てくる」
「問題……ですか」
「ああ。人間とエルフでは、寿命が違う。魔族と人間では、文化が違う。それぞれに合わせた教育をしようとすると、教師が足りない」
ルンブラン王子は頭を抱えた。
「それに、保護者からの反対の声も多い。『なぜ、うちの子が魔族と一緒に学ばねばならんのだ』と……」
「……なるほど」
俺は少し考えた。
「でも、だからこそ、一緒に学ぶ意味があるんじゃないですか?」
「どういうことだ?」
「違いがあるからこそ、学び合える。人間はエルフから長い歴史を学び、エルフは人間から新しい文化を学ぶ。魔族からは、魔法の知識を学べる」
「……なるほど」
ルンブラン王子は目を輝かせた。
「違いを『問題』じゃなくて、『強み』として捉えればいいんだ……!」
「そうそう。それに、子供の頃から一緒に過ごせば、偏見も生まれにくいでしょ」
「アル……お前は、いつもそうやって、物事を前向きに捉えるな」
ルンブラン王子は笑顔で言った。
「いや、俺はただの酒好きですよ。なんとかなるさ、って思ってるだけで」
「……その楽観性が、時に世界を変えるのかもしれないな」
ルンブラン王子は立ち上がった。
「ありがとう、アル。参考になった。明日、さっそく父上に提案してみる」
「頑張ってください」
「ああ。それと……」
ルンブラン王子は振り返った。
「お前が東の国に行くと聞いた。気をつけろよ」
「……情報早いですね」
「王城には、色々な情報が入ってくるんだ」
ルンブラン王子は笑って、酒場を出て行った。
「さて……」
俺は空を見上げた。
「伝説の酒、か。楽しみだな」
こうして、俺の新たな冒険が始まろうとしていた。
**次回予告**
アルは、ドワーフ三人組と共に、アル山脈へと向かう!
だが、同行するのは彼らだけではなかった……?
「私も行くわ!」
「わ、私だって!」
リリアとルーナ姫の、バチバチバトル再び!
次回、『33杯目「アル山脈へ!伝説の酒を求めて」』
冒険と酒と、ちょっとした三角関係!?




