30杯目 種族間交流祭
式典から一週間後。
俺とリーサは、エルフの国へ向かう馬車の中にいた。
「アル、本当にエルフの国に行く必要があるの?」
リーサが心配そうに聞いてくる。
「ああ。種族間交流祭を成功させるには、エルフ族の協力が不可欠だ。それに……」
俺は窓の外を見ながら続けた。
「リヒトみたいな奴を、二度と生み出さないためにも、ちゃんと話をしておきたいんだ」
リーサは静かに頷いた。
「私も、昔は辛かった。ハーフだから、どこにも居場所がなくて……」
「リーサ……」
「でも、アルが私を受け入れてくれた。だから今度は、私がアルの理想を実現する手伝いをしたいの」
リーサの瞳には、強い決意が宿っていた。
「ありがとう、リーサ。お前がいてくれて、本当に良かった」
俺は、リーサの頭を優しく撫でた。
* * *
エルフの国は、深い森の中にあった。木々の間から差し込む光が幻想的で、空気もどこか澄んでいる。
「人族の方が、エルフの国を訪れるとは珍しいですね」
エルフの長老が、俺たちを迎えてくれた。長い銀髪に、深い緑色の瞳。いかにも長老という風格だ。
「はい。実は、お願いがあって来ました」
俺は、種族間交流祭のことを説明した。そして、リヒトのこと。彼がなぜあのような行動に出たのか。種族間の格差が、彼を追い詰めたことを。
「……なるほど。確かに、我々エルフは他の種族を見下しているところがあった」
長老は深く頷いた。
「俺が作りたいのは、種族関係なく、みんなで笑い合える世界なんです。酒を飲んで、料理を食べて、ただ楽しく過ごせる。そんな世界です」
長老は、しばらく沈黙した後、静かに微笑んだ。
「わかりました。我々エルフも、その祭りに協力しましょう。ただし……」
「ただし?」
「あなたが言う『笑い合える世界』、本当に実現できたら、の話ですがね」
長老はそう言って笑った。挑戦的な笑みだ。
「必ず実現してみせます。酒の力を、舐めないでください」
俺は自信満々に答えた。
* * *
そして、種族間交流祭の当日。
王都の街全体が、日本の縁日のような雰囲気に包まれていた。赤い提灯が街路に並び、あちこちに屋台が立ち並ぶ。
人族の焼き鳥屋台、魔族の辛口カレーの店、エルフ族の野菜串焼き……各種族が自慢の料理を出している。
人族の屋台では「いらっしゃい!焼きたての焼き鳥だよ!」と威勢のいい声が響き、魔族の店では「この辛さ、人族には耐えられるかな?」と挑発的な笑顔で客を呼び込む。エルフ族は優雅に「森の恵みをご堪能ください」と微笑んでいる。
金魚すくいならぬ「魔法魚すくい」、射的ならぬ「魔法的当て」、輪投げならぬ「魔法輪投げ」……。
日本の縁日の要素を、この異世界風にアレンジした屋台が並んでいる。
「すごい人だ……」
俺は人混みを見渡した。人族、魔族、エルフ族が入り混じって、笑顔で屋台を回っている。
「アル!」
振り向くと、リリアとルーナ姫が駆け寄ってきた。二人とも浴衣姿だ。
「アル、一緒に屋台を回りましょう!」
「いや、私こそアルと一緒に!」
二人は俺の両腕を取り合う。
「おお!あの屋台、魔族の辛口カレーだ!行ってみよう!」
俺は完全に料理と酒に夢中で、二人のアピールにまったく気づいていない。
「アル……全然こっちを見てくれない……」
「本当に鈍感ね……」
リリアとルーナ姫は、小さくため息をついた。
* * *
祭りも中盤に差し掛かった頃、リーサがふらふらと俺のところにやってきた。
「あるぅ~、このお酒美味しいよ~」
「リーサ!?お前、酒飲んだのか!?」
「うん!屋台のおじさんが、ジュースだよって~」
完全に騙されている。天然すぎる……。
「ねえアル!マーカス!お酒勝負しよう!」
「は?酒勝負?」
マーカスが戸惑う。
「うん!誰が一番飲めるか勝負!」
そして一時間後——。
「……ぐはっ」
「もう……無理だ……」
俺とマーカスは、テーブルに突っ伏していた。
「えー?もう終わり?まだまだ飲めるよ~!」
リーサはケロッとして、また酒を注いでいる。
「リーサ……お前、酒豪だったのか……」
俺は驚愕した。まさかこの天然娘が、俺とマーカスを飲み潰すとは……。
* * *
祭りの片隅で、マリアとゲルドが二人で酒を飲んでいた。
「久しぶりに、こんなに飲むわね……」
マリアは少し頬を赤らめながら、グラスを傾けた。
「マリア様、お酒が進んでいますね」
ゲルドが心配そうに声をかける。
「ねえ、ゲルド……昔、私が好きだった人がいたの」
「……え?」
「人族の、優しい人だった。いつも笑顔で……私に、たくさんのことを教えてくれて……」
マリアの目から、涙が一筋流れた。
「でも……もう、その人はいないの……」
「マリア様……」
ゲルドは、複雑な表情でマリアを見つめた。自分の想いを伝えたいが、今は彼女の悲しみに寄り添うべきだと。
「大丈夫ですよ、マリア様。ゆっくり、一緒に飲みましょう」
ゲルドは優しく、マリアの肩に手を置いた。
俺は、その様子を遠くから見ていた。
(頑張れ、ゲルド……)
俺は心の中で、ゲルドにエールを送った。
* * *
祭りも終盤に差し掛かった頃、俺は中央の舞台に立っていた。
「さあ、みんな!今から特別なカクテルを作るぞ!」
俺は、三つの酒瓶を手に取った。エルフの涙のお酒、魔族の甘いお酒、人族のリキュール。
【チートスキル発動:完璧な調合】
俺は、華麗にシェイカーを振った。三種類の酒が混ざり合い、新しい味が生まれる。
それぞれ違う色、違う味、違う文化。でも、混ぜ合わせれば、一つの美味しい酒になる。
「さあ、飲んでみてくれ!」
俺は、作ったカクテルを人族、魔族、エルフ族の代表たちに配った。
「……美味い!」
「本当だ!こんな味、初めてだ!」
「素晴らしい……まるで、三つの種族が一つになったような味だ」
エルフの長老が、感動したように呟いた。
みんなが笑顔になる。そう、種族が違っても、同じ酒を飲めば、同じように美味いと感じる。
その差なんて、大したことない。
* * *
「さあ、俺のチートの宴会芸とくとご覧あれ!」
俺は、ジャグリングを始めた。炎の玉、氷の玉、風の玉……魔法を使った派手な演出。
「おおお!」
観客から歓声が上がる。人族も、魔族も、エルフ族も、みんな同じように驚き、笑っている。
俺は、宴会芸を続けながら思った。
ああ、これだ。これが、俺が作りたかった世界だ。
みんなで笑い合える世界。
種族間交流祭は、大成功のうちに幕を閉じた。
そして俺の活動限界も迎えたみたいだった、
次回予告 31杯目『貴族の酒宴』
※毎日更新予定です。お楽しみに!




