28杯目 魔王ゼクセルと勇者リヒトの邂逅
翌日、城は緊張に包まれていた。
「リヒトが、また来る……」
リリアが窓の外を見つめる。
「ああ。今度こそ、本気で襲撃してくるだろう」
マーカスが剣を握りしめる。
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「みんな、準備はいいか?」
俺は仲間たちを見渡した。
リリア、マリア、マーカス、ゲルド、ルーナ姫、リーサ。
みんな、緊張した面持ちで頷く。
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「もし、お父様が来てくれたら……」
マリアが不安そうに呟く。
「200年前、リヒトと渡り合った父上がいれば……」
「きっと来るさ」
俺は自信を持って答えた。
「え?なんでそんなに確信があるの?」
リリアが不思議そうに聞く。
「いや、確信はないけどな」
俺はごまかすようにリリアとは別の方向を向いた
「でも、それまで持つかどうか……」
ゲルドが不安そうに言う。
「持たせるさ」
俺は拳を握った。
「俺たちで、時間を稼ぐ」
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その時――
ドォォォン!
巨大な爆発音が響いた。
「来た!」
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城門に駆けつけると、そこにはリヒトがいた。
そして、その周りには以前よりも多い50人以上の呪いを受けた騎士たち。
「今日で終わらせる」
リヒトが冷たく宣言した。
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「リヒト!」
俺は前に出た。
「俺はまだお前と話足りない!早まるな!」
「もう、話すことはない」
リヒトが剣を抜く。
「お前たちを倒し、この世界を俺の支配下に置く」
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「行くぞ、みんな!」
マーカスが叫ぶと同時に呪いを受けた騎士たちが、一斉に襲いかかってきた。
「くそっ!」
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「みんな、作戦通りにやるぞ!」
俺は叫んだ。
「リリア、マリア、ゲルド!」
「わかったわ!」
三人が魔法陣を展開する。
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「マーカス、今から俺がお前を強化する!」
俺はエルフの涙の小瓶を取り出した。
「これは……」
「エルフの涙だ。これを俺が飲めば、お前の力を最大限に引き出せる」
「わかった!」
俺は一気に飲み干す。
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俺の体が光り、その光がマーカスへと流れ込む。
「うおおおお!」
マーカスの体が光に包まれる。
筋力、速度、全てが跳ね上がる。
「すげえ力だ……!さすがだ!」
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「今だ!マリア、ゲルド、支援魔法!」
「はい!」
マリアとゲルドが同時に魔法を放つ。
赤い光と緑の光がマーカスを包む。
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「リリア、炎の魔法!」
「ええ!」
リリアが巨大な炎の球を作り出す。
「みんな、目を閉じて!」
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ドォォォン!
炎の球が爆発し、眩い光が辺りを包む。
「目くらましか!」
リヒトが目を細める。
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「マーカス、今だ!」
「おおおおお!」
マーカスが光の中を突進する。
その速さは、リヒトに匹敵するほどだ。
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ガキィン!
マーカスの剣がリヒトの剣とぶつかる。
「ほう……」
リヒトが驚きの表情を浮かべる。
「やるな」
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「今のうちだ!」
俺は黄色いラベルの混成酒を飲んだ。
(頼む、あの能力が出てくれ……!)
体が光る。
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そして――
俺の目の前に、無数の映像が浮かび上がった。
「出た……!」
記憶を投影する魔法だ。
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「リヒト!」
俺は叫んだ。
「お前の記憶を見せろ!」
「何……?」
リヒトが戸惑う。
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俺はリヒトに手をかざす。
すると、リヒトの記憶が映像として周囲に投影された。
「これは……」
みんなが驚きの声を上げる。
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映像には、若い頃のリヒトが映っていた。
召喚された直後、困惑しながらも必死に戦うリヒト。
魔王ゼクセルとの死闘。
三日三晩の激戦。
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そして、引き分けで終わった後――
「役立たず」
「魔王も倒せないなんて」
「何のための勇者だ」
人族たちがリヒトを罵る映像。
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「やめろ……」
リヒトが呟く。
「やめろ、その記憶を見せるな」
「これがお前の真実だ!」
俺は続けた。
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映像は続く。
孤独に耐えるリヒト。
誰にも認められず、居場所を失ったリヒト。
200年間、一人で彷徨い続けたリヒト。
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「お前は、本当は世界を救いたかったんだ」
「黙れ!」
「でも、誰も認めてくれなかった」
「黙れと言っている!」
リヒトが叫ぶ。
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だが、映像はさらに続く。
リヒトがエルフの里で、リーサの母と出会った日。
二人が笑い合う姿。
そして、リーサが生まれた日。
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「リーサ……」
リヒトの目が揺らぐ。
赤ん坊のリーサを抱くリヒト。
その顔は、穏やかで優しかった。
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「お前には、こんな時もあったんだ」
「昔の話だ……」
「昔じゃない!」
俺は叫んだ。
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「お前の心の中に、まだこの記憶がある」
「リーサを愛する気持ちが、まだ残ってる」
「だから、お前は迷ってるんだ!」
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リヒトの剣が震える。
「俺は……」
マーカスとの戦いが止まる。
「俺は……もう……」
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だが、その時――
リヒトの目が冷たくなった。
「だが、それでも足りない」
「え……?」
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「お前の言う通り、俺は昔そうだったかもしれん」
「だが、今は違う」
リヒトが剣を構え直す。
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「もう、戻れない」
リヒトが爆発的な力を解放する。
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ドガァァァン!
マーカスが吹っ飛ばされる。
「マーカス!」
俺の強化魔法の効果が切れたのか、マーカスは動けない。
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「くそっ……」
俺は蒸留酒の強化ができている体で突進する。
だが、リヒトは俺を軽く弾き飛ばした。
「無駄だ」
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リリアが拘束魔法を放つ。
マリアが炎の魔法で攻撃する。
ゲルドが剣を振るう。
だが、全て無効化される。
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「勇者の加護がある限り、お前たちでは俺に勝てない」
リヒトが冷たく言い放つ。
次々と仲間が倒れていく。
「くそ……」
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俺は立ち上がろうとする。
だが、体が言うことを聞かない。
(まだだ……まだ諦めるな……)
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「終わりだ、アル」
リヒトが俺に剣を向ける。
「お前を倒せば、この世界は俺のものだ」
「待て……」
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だが、リヒトの剣が振り下ろされる。
(くそ……これまでか……)
(リヒト……すまん……)
俺は目を閉じた。
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その時――
ゴゴゴゴゴ……
地面が激しく震えた。
「何だ……?」
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俺とリヒトの間に、巨大な黒い壁が現れた。
いや、壁じゃない。
これは――
「魔王……ゼクセル!」
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巨大な体躯、黒い鎧、そして圧倒的な存在感。
魔王ゼクセルが、俺を庇うように立っていた。
「久しぶりだな、リヒト」
低く、重い声が響く。
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「ゼクセル……」
リヒトが剣を構える。
「邪魔をするな」
「邪魔はせん」
ゼクセルが言う。
「ただ、この若者を守るだけだ」
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「なぜだ」
「この若者は、娘たちの大切な仲間だ」
ゼクセルが俺を見下ろす。
「それに、面白い男だからな」
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「どけ」
「どかん」
二人の視線がぶつかる。
空気が張り詰める。
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「アル」
ゼクセルが俺に言う。
「まだ、話すことがあるのだろう?」
「え……」
「最後の説得をしろ」
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「でも……」
「お前なら、できる」
ゼクセルが微笑む。
「俺が、時間を稼ぐ」
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俺は立ち上がった。
体は痛いが、まだ動ける。
「ありがとうございます」
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「リヒト」
俺はリヒトを見つめた。
「まだ、話がある」
「もう、話すことはない」
「ある」
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「お前は、200年間孤独だったそう言った」
「それは本当に辛かったと思う」
「だが」
俺は続けた。
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「お前には、リーサがいる」
「リーサ……」
「そうだ。お前を愛してる娘がいる」
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「それに、俺たちもいる」
「俺たち……?」
「ああ」
俺は笑った。
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「俺は、お前のこと嫌いじゃないぜ」
「何……?」
「だって、お前も元は日本人だろ?」
「それが何だ」
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「異世界に飛ばされて、必死に生きてきた」
「それは、俺も同じだ」
「だから、俺はお前の気持ちがわかる」
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「お前に、わかるものか」
「わかるよ」
俺は真っ直ぐにリヒトを見つめた。
「お前は、寂しかっただけだ、タイミングも悪かったかもしれない」
「誰かと何も考えず笑い合いたかった」
「認め合いたかった」
「誰かと一緒に酒を飲みあかしたかった」
「それだけだろ?」
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リヒトの目が揺らぐ。
「俺は……」
「だったら、俺と一緒に飲もうぜ」
「何……?」
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「俺と、リーサと、みんなで」
「酔っぱらって、馬鹿やって、笑い合おうぜ」
「そんな世界を、俺は作りたいんだ」
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「そんな世界……」
「ああ」
俺は続けた。
「悪いことも、いいことも、全部ひっくるめて笑い合える」
「そんな世界だ」
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「お前が見せたかった『平和な世界』とは違うかもしれない」
「でも、俺はそっちの方が好きだ」
「完璧じゃないけど、みんなが笑ってる世界」
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リヒトが黙り込んだ。
剣を握る手が震えている。
「俺は……」
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「お父さん」
リーサが立ち上がって、リヒトに歩み寄る。
「リーサ……」
「私も、アルの言う世界をみてみたい」
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「みんなが笑い合える世界」
「お父さんも、一緒に笑ってよ」
「私と、お父さんと、みんなで」
リーサが涙を流す。
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リヒトの目から、涙が溢れた。
「俺は……」
「俺は、何をしていたんだ……」
剣が手から落ちる。
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「俺は……ただ……」
「寂しかっただけなのか……」
200年間の孤独が、一気に溢れ出す。
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リーサがリヒトに抱きついた。
「お父さん……」
「リーサ……すまない……」
リヒトがリーサを抱きしめる。
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呪いを受けた騎士たちが、次々と倒れていく。
リヒトの支配が解けたのだ。
「終わった……」
俺は安堵のため息をついた。
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だが、その時――
リヒトがゆっくりと立ち上がった。
「まだ、終わっていない」
「リヒト?」
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「アル、お前が言う世界……」
リヒトが俺を見つめる。
「それを、俺に見せてくれ」
「え?」
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「お前が本当に、そんな世界を作れるなら」
「俺は、お前に従おう」
「だが、もしお前が失敗したら……」
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「俺は、再び立ち上がる」
「そして、この世界を支配する」
リヒトが黒い霧に包まれる。
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「リヒト!」
俺は手を伸ばす。
「それに俺にはもうまぶしすぎる」
リヒトが静かに言う。どこか悲しげでそれでもすっきりしたような顔で
「お前の作る世界を、見守っている」
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そう言い残して、リヒトは消えた。
「行っちゃった……」
リーサが悲しそうに呟く。
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「大丈夫だ」
俺はリーサの肩を抱く。
「きっと、また会える」
「本当に……?」
「ああ。俺が約束する」
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「アル」
ゼクセルが俺に近づいてくる。
「よくやった」
「俺は何もできていませんよ。ありがとうございます」
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「お前の機転のおかげで、リヒトの心を動かせた」
「いえ、ゼクセルさんが助けてくれたおかげです」
「ふふ、謙虚だな」
ゼクセルが笑う。
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「お父様」
マリアとリリアが駆け寄ってくる。
「来てくれて、ありがとう」
「当たり前だ。娘たちが危ないのに、黙ってられるか」
ゼクセルが二人の頭を撫でる。
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「でも、お父様、大丈夫だった?」
「ああ。リヒトとは戦わずに済んだからな」
よく見ると魔王の鎧は傷だらけになっていた。
「良かった……」
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「さて、俺はそろそろ帰るとするか」
「もう帰っちゃうの?」
「ああ。さすがに魔王が王都に長居すると、人族が怖がるだろう」
ゼクセルが笑う。
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「お父様……」
「アル」
ゼクセルが俺を見る。
「お前の作る世界、楽しみにしているぞ」
「頑張ります」
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「リヒトも、見ているからな」
「ええ」
「では、また会おう」
ゼクセルが黒い霧に包まれて消えた。
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「終わった……」
俺はその場に座り込んだ。
「やっと、終わった……」
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「アル、大丈夫?」
リリアが心配そうに見る。
「ああ、大丈夫」
俺は笑った。
「ただ、ちょっと疲れただけだ」
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「お疲れ様」
マーカスが肩を叩く。
「お前の機転のおかげで、なんとかなった」
ただ、マーカスはあまり晴れた顔ではなかった。それもそうだろう王国最強ともいえる騎士が手も足も出なかったのだ
「みんなのおかげだよ」
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「でも、これからが本番だぞ」
ゲルドが言う。
「お前はそんなに役に立ってないけどな」
俺はいつもの調子でゲルドをからかった。もちろんゲルドは俺だって……と落ち込んでいる。
「リヒトに、良い世界を見せなければならない」
俺は空を見上げた。
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(リヒトが求める世界……)
(俺が作る世界……)
(果たして、俺にできるのか……)
不安はある。
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だが。
俺には仲間がいる。
リリア、マリア、マーカス、ゲルド、ルーナ姫、リーサ。
そして、魔王ゼクセルも味方してくれる。
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「よし」
俺は立ち上がった。
「これから、みんなで良い世界を作ろうぜ」
「ええ!」
「おう!」
みんなが頷く。
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こうして、リヒトの暴走は一旦止まった。
正直つかれた。あまりにも今までうまくいってたせいかそんなに深く考えていなかったが、この世界根は深そうだ。そうアルは思ったと同時に酒の副作用ともいうべき効果が今になって出始めた。気が抜けたからか……バタン!
アルはいつも通り酔い倒れてしまった。
後日談――
「アル」
リリアが俺の真上からきれいな瞳をしながら不思議そうに聞いてきた。
たおれてから介抱してくれてたのであろうやわらかい感触の俺の後頭部いっぱいに広がる
「あの時、お父様が来るって確信してたの?」
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「ああ、それな」
俺は笑った。
「実は、スーに頼んでたんだ」
「スー?」
「商人のスーだよ。エルフの里で会った」
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「あの時、スーを探し出して魔王城への伝言を頼んだんだ」
「『リヒトが王都を襲撃する』って」
「そうすれば、ゼクセルさんも動いてくれるだろうって思って」
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「そうだったの……」
マリアが驚く。
「よく考えてたのね」
「まあな」
俺は照れくさそうに頭を掻いた。
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「スーには、後で礼を言わないとな」
「そうね。あの人がいなかったら、お父様は来なかったかもしれない」
「ああ。スーには、本当に感謝だ」
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俺たちは、そう話しながら王都へ戻っていった。
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次回予告:「新たな一歩」
予告は予告なく変更となる場合がございますのでご理解お願いいたします。
変更時は修正加えております。




