27杯目 勇者リヒトとの対話
翌朝、俺たちは城の図書館に集まった。
「200年前の記録……」
リリアが古い本を手に取る。
「ここに、リヒトのことが書いてあるはずよ」
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「見つけたわ」
マリアが分厚い本を開く。
「『異世界召喚の秘術記』」
「それだ!」
俺たちは本を囲んだ。
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「200年前、人族は魔族との戦争に苦しんでいた」
マリアが読み上げる。
「そこで、異世界から勇者を召喚することを決めた」
「それがリヒトか……」
「ええ。彼は異世界から召喚された」
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「召喚された当初、リヒトは困惑していたらしいわ」
「そりゃそうだろうな……」
俺も召喚された時は混乱したからな。
「だが、彼は勇者として戦うことを決意した」
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「そして、魔王ゼクセルとの決戦に挑んだ」
リリアが続きを読む。
「戦いは三日三晩続いた」
「三日三晩……」
「だが、決着はつかなかった」
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「引き分け……」
俺は呟いた。
「そうよ。リヒトは魔王を倒せなかった」
「でも、それって仕方なくないか?」
「そう思うわ。でも、当時の人族は違った」
マリアが悲しそうに言う。
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「人族は、リヒトを『失敗した勇者一行』として扱った」
「ひでえ……」
「命懸けで戦ったのに、結果を出せなかったから見捨てられた」
「そんな……」
リーサが涙ぐむ。
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「その後、リヒトは行方をくらました」
「行方をくらました……」
「ええ。それから200年間、誰も彼の消息を知らなかった」
「でも、今になって現れた」
「なぜ……?」
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「それが問題なのよ」
マリアが本を閉じる。
「彼は何をしていたのか」
「そして、なぜ今になって世界を支配しようとしているのか」
「わからないことだらけだわ」
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その時、城の警鐘が鳴り響いた。
「また襲撃!?」
「急いで!」
俺たちは図書館を飛び出した。
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城門に到着すると、そこにはリヒトがいた。
だが、今回は呪いを受けた騎士たちはいない。
「リヒト……」
「来たか、アル」
リヒトが俺を見つめる。
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「今日は、お前と話がしたい」
「話……?」
「そうだ。昨日の続きだ」
リヒトが言う。
「お前の言う『共存』について、もう少し聞かせてもらおう」
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「おい、待てよ」
俺は警戒する。
「何を企んでるんだ?」
「企んでなどいない。純粋に興味があるだけだ」
「信用できるか」
「信用しなくてもいい。ただ、話を聞きたいだけだ無論応じないならそれでもいい。王都をただつぶすだけだ」
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「アル……」
リリアが心配そうに見る。
「大丈夫だ」
俺はリヒトに向かって歩き出した。
「話そうぜ、リヒト」
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俺たちは城門の前で対峙した。
「お前は、共存が可能だと言った」
「ああ」
「だが、俺には信じられない」
リヒトが言う。
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「なぜ信じられないんだ?」
「200年間、見続けてきたからだ」
「人族と魔族の争い、エルフと人族の対立」
「何度も何度も繰り返されてきた」
リヒトの目には、深い絶望があった。生気などあったものじゃない
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「でも、今は違うだろ?」
俺は反論した。
「人族と魔族は和平を結んだ」
「エルフとも、関係が改善されつつある」
「それは、一時的なものだ」
「一時的でもいいじゃないか」
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「一時的でいいのか?」
リヒトが問う。
「いずれまた、戦争が始まる」
「そうしたら、また多くの命が失われる」
「それを繰り返すのが、お前の望む世界か?」
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「違う!」
俺は叫んだ。
「俺だって、戦争なんて望んでない」
「だが、お前の言う支配も違う」
「なぜだ?」
「だって、それじゃ誰も幸せになれないからだ」
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「幸せ……」
リヒトが嗤う。
「お前は、幸せが何かわかっているのか?」
「わかってないさ。俺なんてただの飲んだくれだ、聖人でもそれこそ勇者でもない。」
俺は正直に答えた。
「でも、支配されて幸せな人間はいないって、それだけはわかる」
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「愚かだな」
「愚かでもいいよ」
俺は続けた。
「俺は、みんなが自分で選択できる世界がいい悪い所もいい所もひっくるめて笑いあえれば最高だと思う」
俺は、一呼吸おいて続ける
「たとえ、その選択が間違っていても」
「自分で選んだ道なら、納得できるだろ?」
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リヒトが黙り込んだ。
「お前は……本当に愚かだ」
「ああ、愚かだよ」
「だが」
リヒトの目が揺らいだ。
「その愚かさが、少しだけ羨ましい」
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「羨ましい……?」
「俺も昔は、お前のように思っていた」
リヒトが遠い目をする。
「召喚された当初、俺はこの世界を見てきて、ただただ救いたい気持ちがあったそれこそ召喚されて力を得た身としてだ」
「みんなが幸せになれる世界を作りたかった」
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「だが、現実は違った」
「魔王を倒せなかった俺は、『役立たず』と罵られた。それだけじゃない一緒に戦って散っていったパーティもすべて誹謗中傷にさらされた」
「必死で戦った、見返りなどは求めてるつもりはなかった。ただ一度うまくいかなかったことがこんな形で返ってくるとは思わなかった。」
「何気ない悪意が蔓延し、居場所を失い、孤独になった」
リヒトの声が震える。
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「それ以降、俺はずっと一人だった」
「誰も俺を必要としなかった」
「そんな中で、俺は考え続けた」
「どうすれば、この世界を変えられるのか」
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「そして、辿り着いた答えが『支配』だった」
「力で支配すれば、争いは起こらない」
「誰も傷つかない」
「それが、俺の正義だ」
リヒトが拳を握りしめる。
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「でも、それって本当に正義なのか?」
俺は問いかけた。
「支配された人たちは、本当に幸せなのか?」
「幸せかどうかは関係ない」
「関係あるだろ!」
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「それに、俺は正義を振りかざすやつが嫌いなんだ」
「何?」
リヒトが眉をひそめる。
「正義を押し付けることで、他者を決めつけて、縛りつける」
「お前のやってることも、それと同じじゃないか」
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「俺が望むのは、もっと違う世界だ」
「どんな世界だ?」
「酔っぱらった時みたいな世界さ」
俺は笑った。
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「酔っぱらった時……?」
「ああ。悪いことも、いいことも、ひっくるめて笑い合える」
「お互いを認め合える」
「そんな世の中がいいんじゃないかって、俺は思ってる」
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「愚かだな」
リヒトが嗤う。
「ああ、愚かかもしれない」
「でも、お前の正義よりは、よっぽどマシだと思うぜ」
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「お前は、200年間孤独だったから、支配を選んだ」
「でも、それって自分の傷を癒すためじゃないのか?」
「何だと……」
「お前は、認められなかったことが悔しくて、支配で見返そうとしてるだけだ」
俺の言葉に、リヒトが激昂した。
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「黙れ!」
リヒトが剣を抜く。
「お前に何がわかる!」
「わかるよ!」
俺も蒸留酒を飲んだ。
「お前は、本当は寂しかっただけだ!」
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「黙れと言っている!」
リヒトが突進してくる。
俺は強化された腕で剣を受け止める。
ガキィン!
火花が散る。
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「お前は、誰かに認められたかったんだろ!」
「黙れ!」
「200年間、ずっと一人で寂しかったんだろ!」
「黙れ、黙れ、黙れ!」
リヒトの剣が俺に襲いかかる。
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だが、俺は避けない。
「お前だって、本当は共存を望んでたはずだ!」
「違う!」
「じゃあ、なんで今日ここに来たんだ!」
「それは……」
リヒトの動きが止まった。
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「襲撃するなら、呪いを受けた騎士たちを連れてくるはずだ」
「でも、お前は一人で来た」
「話がしたいって言った」
「それって、まだ迷ってるからじゃないのか?」
俺の言葉に、リヒトが剣を下ろした。
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「俺は……」
リヒトが呟く。
「俺は、もう引き返せない」
「引き返せるって」
「引き返せない!」
リヒトが叫んだ。
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「200年間、俺は孤独に耐えてきた」
「その全てを賭けて、この計画を進めてきた」
「今更、引き返せるか」
「でも……」
「もういい」
リヒトが俺に背を向けた。
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「次に会う時は、容赦しない」
「お前も、お前の仲間も、全て倒す」
「そして、この世界を俺の支配下に置く」
「待てよ!」
だが、リヒトは黒い霧に包まれた。
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「リヒト!」
俺は手を伸ばす。
だが、リヒトは消えてしまった。
「くそ……」
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「アル!」
リリアたちが駆けつけてくる。
「大丈夫?」
「ああ……」
俺は頷いた。
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「リヒトは……?」
「行っちゃった」
「そう……」
マリアが悲しそうに言う。
「彼を説得できなかったのね」
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「いや」
俺は首を振った。
「少しは届いたと思う」
「え?」
「リヒトの目が、少しだけ揺らいでた」
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「本当に?」
リーサが期待を込めて聞く。
「ああ。まだ、完全には諦めてない」
「でも、時間がないわ」
マリアが言う。
「次の襲撃が来る前に、何とかしないと」
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「どうすればいいんだ……」
俺は頭を抱えた。
リヒトの心を動かすには、どうすればいいのか。
200年間の孤独と絶望を、どうやって癒せばいいのか。
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「まずは、彼の過去をもっと知る必要があるわ」
マリアが提案する。
「図書館に戻りましょう」
「そうだな」
俺たちは城に戻った。
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その夜、俺は一人で考え込んでいた。
(リヒトを止めるには……)
支配ではなく、共存を選んでもらうには。
どうすればいいのか。
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「難しいな……」
ため息が出る。
だが、諦めるわけにはいかない。
リヒトを、そして世界を救わなければ。
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その時、窓の外に黒い影が見えた。
「あれは……」
俺は窓を開ける。
そこには、リヒトが立っていた。
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「リヒト……なんでここに?」
「アル、少しだけ話がしたい」
リヒトが静かに言う。
「いいぜ」
俺は部屋に招き入れた。
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「お前に聞きたいことがある」
リヒトが窓際に立つ。
「お前は、なぜそこまで共存にこだわる?」
「え?」
「お前だって、この世界に召喚されて間もない」
「なぜ、そこまでこの世界のことを考えられる?」
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「それは……」
俺は考えた。
「俺が、みんなに助けられたからだよ」
「助けられた?」
「ああ」
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「召喚された当初、俺は何もわからなかった」
「でも、リリアやマリア、マーカスたちが助けてくれた」
「ルーナ姫も、リーサも」
「みんなが、俺を受け入れてくれたんだ」
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「だから、俺はこの世界が好きだ」
「争いもあるし、完璧じゃない」
「でも、みんなが頑張ってる」
「それが、いいんだよ」
俺は笑った。
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リヒトが黙り込んだ。
「お前は……本当に愚かだ」
「またそれかよ」
「だが」
リヒトが微笑んだ。
「その愚かさが、少し眩しい」
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「リヒト……」
「俺は、お前のようにはなれない」
「なぜだよ」
「もう、遅すぎるからだ」
リヒトが窓に向かう。
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「遅すぎるなんてことはない」
「今からでも、やり直せる」
「やり直せない」
「やり直せるって!」
俺は叫んだ。
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だが、リヒトは窓から飛び降りた。
「リヒト!」
俺は窓から顔を出す。
だが、そこにはもうリヒトの姿はなかった。
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「くそ……」
俺は拳を壁に叩きつけた。
もう少しだったのに。
もう少しで、リヒトの心に届いたのに。
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「諦めるな、俺」
俺は自分に言い聞かせた。
「まだ、チャンスはある」
「絶対に、リヒトを救ってみせる」
あいつとも酒を一緒に飲めたらなアルはそんなことを思った。
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次回予告:「魔王ゼクセルと勇者リヒトの邂逅」




