18杯目 新たな仲間と新たな問題
翌日、俺たちは人族の王城にいた。
「それでは、正式に和平会議を開催いたします」
回復した王が、玉座から宣言する。
広間には、人族と魔族の代表者が集まっていた。
人族側:王、ルンブラン王子、ルーナ姫、マーカス、そして各地の貴族たち。
魔族側:リリア、マリア、そして改心したゲルド。
「まずは、魔界の使節団の皆様に感謝を」
王が立ち上がった。
「我が命を救ってくださった恩、一生忘れません」
「恐れ入ります」
リリアが頭を下げた。
「これは、アルさんがいたからこそ成し遂げられたことです」
だが、広間の空気は重かった。
人族の貴族たちは、魔族の三人を恐れと警戒の目で見つめている。
「陛下……本当に、魔族と和平を結ぶのですか……?」
一人の老貴族が震える声で言った。
「彼らは……我々の敵では……」
「そうです!何百年も戦ってきた相手を、簡単に信じられるはずが……」
別の貴族も立ち上がった。
「それに、王を呪ったのも魔族では……!」
ざわざわと、広間が騒然となる。
人族の貴族たちの顔には、明らかな恐怖と不信感が浮かんでいた。
リリアは悲しそうに俯き、ゲルドは拳を握りしめている。
その時——
「待ってください」
マリアが一歩前に出た。
「王を呪った犯人については、まだ完全には特定できていません」
「何?」
貴族たちがざわめいた。
「ですが」
マリアは毅然とした声で続けた。
「呪いの痕跡を調査した結果、当初は魔族の魔法かと思われましたが……実際には違う可能性が高いのです」
「どういうことだ?」
一人の貴族が尋ねる。
「呪いの構造が、既知の魔族の呪術とは異なっていました。まるで……魔族の呪術に見せかけた、別の何かのような……」
マリアの表情が曇る。
「つまり、真犯人はまだ逃げている可能性があるということか」
マーカスが険しい顔で言った。
「はい。ですが、安心してください」
マリアは頷いた。
「私たちは、その真実を明らかにするため、命がけで調査を続けています」
「で、でも……」
老貴族が反論しようとする。
「それに」
マリアは懐から小さな袋を取り出した。
「王の呪いを解くため、私が自ら聖なる薬草『マナエーテル』を調合しました。この薬草がなければ、王は助からなかったでしょう」
「マナエーテルを……?」
王が驚いた顔をした。
「それは、魔族にとっても非常に貴重な薬草のはず……」
「はい」
マリアは頷いた。
「ですが、無実の罪を着せられた魔族の汚名を晴らすため、そして何より——人族と魔族の和平を実現するため、私は全力を尽くしました」
広間が静まり返った。
「王が倒れた時、マリアさんは誰よりも心を痛めていました」
リリアが涙声で言った。
「『真実を明らかにしなければ、和平は実現しない』と、昼夜問わず調査を続けていたんです」
「それは……」
貴族たちの表情が揺らぐ。
「実際、マリア様がいなければ、王は助からなかったでしょう」
マーカスが前に出た。
「犯人の特定には至っていませんが、マリア様は王を救うため、マナエーテルを使った治療法を見つけ出してくれました」
「そして、呪いが魔族だけの仕業ではないことも突き止めてくれた」
ルンブラン王子が頷く。
「つまり……何者かが、人族と魔族を争わせようとしている可能性があるということだ」
「マーカス……」
「私も最初は、魔族を信じられない時期がありました」
マーカスは広間を見回した。
「しかし、この数週間、彼らと共に過ごして確信に変わりました。魔族も人族も、同じように苦しみ、同じように笑い、同じように誰かを大切に思う——何も変わらないのだと」
貴族たちは黙って聞いていた。
「恐怖は理解から生まれません。無知から生まれるのです」
マーカスは力強く言った。
「我々が魔族を恐れるのは、彼らを知らないからです。だからこそ、今こそ——互いを知る時なのです」
しばらくの沈黙の後——
「……そうか」
老貴族が深いため息をついた。
「我々は、何も知らずに恐れていただけなのかもしれん……」
「マリア殿」
別の貴族が立ち上がった。
「王を救ってくださり、ありがとうございます」
その貴族は、深々と頭を下げた。
「私も……魔族の方々を誤解していました。申し訳ありません」
一人、また一人と、貴族たちが頭を下げ始めた。
マリアの目から、涙がこぼれた。
「皆さん……」
王が俺を見た。
「お前のような人族がいるとは、驚きだ」
「いや、俺は別に大したことしてないですよ」
俺は頭を掻いた。
「本当に頑張ったのはマリアさんですから」
「そうだな」
王は立ち上がり、マリアに近づいた。
「マリア殿。あなたの献身に、心から感謝します」
王はマリアの手を取った。
「あなたのような方がいる限り、人族と魔族の和平は必ず実現する」
「陛下……ありがとうございます……」
マリアは涙を拭った。
広間に、温かい拍手が響き渡った。
恐怖と警戒に満ちていた空気が、少しずつ和らいでいく。
「ただし」
王は表情を引き締めた。
「真犯人の捜索は続けなければならない。人族と魔族を争わせようとする者が、まだどこかに潜んでいる可能性がある」
「はい」
マーカスが頷いた。
「両国で協力して、調査を進めましょう」
「よし、話はここまでだ!今夜は盛大に祝宴を開こう!」
王が号令をかける
「酒飲めますか!?」
俺の目が輝いた。
「もちろんだ!この王国最高の酒を用意させよう!人族に伝わる『エルフの涙』『ドワーフのエール』も出そうではないか!」
「やった!」
リリアが呆れた顔をしている。
「アル……結局、酒ですか……」
「だって、酒は大事だろ?」
「まあ、そうですけど……」
---
その夜、盛大な祝宴が開かれた。
「おお!これが『エルフの涙』か!」
俺は透明な液体をグラスに注いだ。
「アル殿、それは非常に強い酒ですぞ」
マーカスが注意してくれた。
「一滴で酔えると言われるほどで……」
グビッ
俺は一気に飲み干した。
「うん!美味い!」
「え!?」
マーカスが驚いている。
「なんともないのか!?」
「まあ、ちょっと強いけど」
俺はケロッとしていた。
「もう一杯いけるな」
「信じられん……」
マーカスは完全に呆れていた。
「お前、どれだけ酒が強いんだ」
「まあ、酒飲みですから」
---
「アル!こっちに来て!」
突然、ルーナが俺の腕を引っ張った。
「え、ちょっと」
「この料理、食べてみて!すごく美味しいのよ!」
ルーナは満面の笑みで、俺に料理を差し出す。
「お、おう……ありがとう」
俺が料理を口に運ぶと、ルーナは嬉しそうに笑った。
「どう?美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「そうでしょ!私が特別に選んだのよ!」
ルーナは誇らしげだ。
その様子を、少し離れた場所からリリアが見ていた。
「……」
リリアの角が、わずかに赤く染まっている。
「リリア、大丈夫?」
マリアが心配そうに尋ねる。
「……別に、なんともありません」
リリアはそっぽを向いた。
「そう?でも、顔が赤いわよ」
「気のせいです!」
リリアは少しムッとした顔で、アルの方を見た。
「アル!次はこのワインを!」
ルーナが別のグラスを差し出す。
「これは王家秘蔵の……」
「あ、アル!」
リリアが慌てて駆け寄ってきた。
「こ、こっちの魔界ワインの方が美味しいですよ!」
リリアも別のグラスを差し出す。
「え、えっと……」
俺は二人に挟まれて、完全に固まった。
「アル、どっちを飲む?」
ルーナが笑顔で尋ねる。
「アル、当然こっちですよね?」
リリアも笑顔だが、目が笑っていない。
「え、えーと……」
俺は冷や汗をかいた。
「両方飲めばいいんじゃないかな……?」
「「それもそうね/ですね」」
二人は同時に答えた。
そして、お互いを見て、バチバチと火花を散らす。
「……ルーナ姫、アルを独占しすぎではないですか?」
「あら、リリアさんこそ。私、ただアルと仲良くしてるだけよ?」
「仲良く……って、あからさまに……」
「あからさま?何がかしら?」
ルーナはニコニコしている。
「む……」
リリアは言葉に詰まった。
「ほら、アル。一緒に踊りましょう?」
ルーナが手を差し出す。
「え、踊る?」
「アル!私とも踊ってください!」
リリアも手を差し出す。
俺は完全に板挟みだ。
「……助けて」
俺は小声でマーカスに助けを求めた。
「はっはっは!若いっていいなぁ!」
マーカスは笑ってるだけだった。
役に立たねぇ……
「じゃあ、二人とも順番に踊ればいいじゃん」
「「順番!?」」
二人は不満そうだ。
「まあまあ、喧嘩すんなって」
俺は二人をなだめた。
「今日はめでたい日なんだし、楽しくやろうぜ」
「……そうね」
「……わかりました」
二人は渋々納得した。
でも、お互いを見る目は相変わらずバチバチしていた。
(なんか、面倒なことになってきたな……)
俺は心の中でため息をついた。
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宴もたけなわとなった頃、マリアが俺に近づいてきた。
「アル、少しいいかしら」
「ん?どうしたの?」
「実は……気になることがあって」
マリアは真剣な顔をしていた。
「王を呪った犯人のことよ」
「ああ、まだ捕まってないんだよな」
「ええ。それに、呪いの痕跡がどうも引っかかるの」
マリアは腕を組んだ。
「魔族の魔法のようで、でも違う。まるで、誰かが意図的に魔族の仕業に見せかけたような……」
マリアは暗い表情をした。
「今は和平が結ばれたけど……油断はできないわ」
「そっか……」
俺は考え込んだ。
「まあ、なんとかなるでしょ」
「……あなた、本当に楽観的ね」
マリアは苦笑した。
「でも、そういうところ……嫌いじゃないわ」
「おっ、褒められた」
「調子に乗らないの」
マリアは笑った。
その時——
広間の扉が開き、一人の兵士が駆け込んできた。
「報告します!魔界の国境付近で、魔獣の群れが確認されました!」
「魔獣?」
王が眉をひそめた。
「はい。数は多くありませんが、通常より強化されているようで……」
「……また、こんな時に」
マーカスが呟いた。
「とりあえず、警戒を強化しておいてくれ」
王が指示を出す。
「はっ!」
兵士は退室した。
「……嫌な予感がするわね」
マリアが呟いた。
俺も同じことを思っていた。
この平和が、いつまで続くのか——
---
宴会はそのまま深夜まで続いた。
俺はエルフの涙とドワーフのエールを心ゆくまで堪能し、すっかり酔っ払っていた。
「アル、もう飲みすぎです……」
リリアが心配そうに俺を見ている。
「だいじょーぶだいじょーぶ」
俺はヘラヘラと笑った。
「明日からまた頑張ればいいんだしー」
「もう……」
リリアは呆れている。
その隣で、ルーナもクスクスと笑っていた。
「本当、アルって面白いわね」
「あ、ありがと……?」
俺は適当に返事をした。
「それじゃあ、私はそろそろ休みますね」
マリアが立ち上がった。
「明日、魔界への報告書を書かなければならないので」
「お疲れ様です、マリア様」
リリアが頭を下げた。
「ゲルドも、早く休みなさい」
「はい……」
ゲルドも立ち上がり、部屋に戻っていった。
こうして、長い一日が終わった。
人族と魔族の和平——それは小さな一歩だったが、確かな一歩だった。
だが、まだ見えない影が、この平和を脅かそうとしている。
俺は酔った頭でぼんやりと考えていた。
(まぁ明日の俺がなんとかするさ)
そう思いながら、俺は眠りについた。
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次回予告:「酔っぱらいの本気」
※毎日更新予定です。お楽しみに!




