105杯目「忘却の海への到着」
翌朝——。
俺たちは、再び出発した。
二日目の旅が、始まる。
森を抜け、丘を越え——。
次第に、景色が変わっていく。
草原が、荒野へと変わっていく。
岩だらけの大地。
草木も少なく、乾いた風が吹いている。
「……すごい場所ね」
ルーナが、呟く。
「まるで、世界の果てみたい」
「ああ」
俺は、頷いた。
「地図通りなら、もうすぐだ」
「もうすぐ……」
リリアが、前方を見つめる。
「忘却の海に、着くのね」
「ああ」
俺は、歩き続けた。
荒野を、ひたすら歩く。
太陽が、容赦なく照りつける。
暑い。
喉が渇く。
「少し休憩しましょう」
リリアが、提案する。
「そうだな」
俺は、荷物を下ろした。
水を飲む。
温かい水だが、喉を潤してくれる。
「あと、どれくらいかしら」
ルーナが、地図を覗き込む。
「……あと半日くらいかな」
俺は、地図を見た。
「夕方には、着くはずだ」
「そう……」
ルーナが、不安そうに呟く。
「本当に……忘却の海なんてあるのかしら」
「あるさ」
俺は、答えた。
「煙が嘘をつく理由がない」
「それに……」
俺は、前方を指差した。
「見ろ」
遠く、地平線の向こうに——。
何か、光るものが見えた。
青白い光。
まるで、海のように——。
広大な何かが、そこにあった。
「あれ……」
リリアが、息を呑む。
「忘却の海……?」
「ああ」
俺は、頷いた。
「たぶん、あれだ」
「……」
ミアが、その光を見つめている。
「守護者様……」
ミアが、呟く。
「あそこに、答えがあるんですね」
「ああ」
俺は、立ち上がった。
「行こう」
俺たちは、再び歩き出した。
忘却の海へ向かって。
次第に、その光が大きくなっていく。
青白い光。
幻想的な光。
そして——。
夕方——。
俺たちは、ついに辿り着いた。
目の前に広がるのは——。
海ではなかった。
青白く光る、霧のような空間。
地面に、巨大な裂け目が開いていて——。
そこから、無数の光が立ち上っている。
まるで、魂のような——。
淡い光が、ゆらゆらと揺れている。
「これが……」
ルーナが、呟く。
「忘却の海……」
「ああ」
俺は、頷いた。
その光景は、圧倒的だった。
美しくて——。
でも、どこか悲しい。
「魂が……」
ミアが、涙を流している。
「たくさんの魂が……ここにいる」
「ああ」
俺は、光を見つめた。
無数の魂。
死んだ者たちの魂が、ここに集まっている。
そして——。
その中に、俺の両親もいる。
「……行こう」
俺は、一歩を踏み出した。
忘却の海へ。
真実を知るために。
俺たちが、光の中へ足を踏み入れると——。
不思議な感覚に包まれた。
体が軽くなる。
まるで、水の中を漂っているような——。
そんな感覚。
「これ……」
リリアが、驚いている。
「体が……浮いてる?」
「ああ」
俺も、驚いた。
足が地面から離れている。
ゆっくりと、光の中を漂っている。
「すごい……」
ルーナが、目を輝かせる。
その時——。
声が聞こえた。
『ようこそ、忘却の海へ』
低い、厳かな声。
「誰だ!?」
俺は、周りを見回した。
すると——。
光の中から、一つの人影が現れた。
白い服を着た、老人。
長い白髪と、白い髭。
杖を持ち、ゆっくりと近づいてくる。
『私は、渡し守』
老人が、俺たちを見つめる。
『忘却の海を管理する者だ』
「渡し守……」
俺は、その老人を見つめた。
『お前たちは、生者だな』
老人が、興味深そうに言う。
『生きたまま、ここに来るとは……珍しい』
「俺たちは……」
俺は、口を開いた。
「忘却の海で、魂と会いに来た」
『魂と……?』
老人が、少し驚いた顔をする。
『それは……難しいぞ』
「なぜ?」
『ここにいる魂は、すでに記憶を失っている』
老人が、説明する。
『忘却の海に長くいると、魂は記憶を失い——』
『やがて、生まれ変わるために川へ流れていく』
「記憶を……失う?」
俺は、愕然とした。
「じゃあ、俺の両親も……」
『それは、分からない』
老人が、首を振る。
『ここに来てから、どれくらい経ったかによる』
『最近死んだ者なら、まだ記憶があるかもしれない』
『だが、何百年も前に死んだ者は——』
『もう、何も覚えていないだろう』
「……」
『だが……』
老人が、俺を見つめる。
その視線は——。
まるで、俺の全てを見透かしているような——。
そんな感覚。
『お前には、特別な力がある』
「特別な……力?」
俺は、驚いた。
なぜ、それが分かる?
『私は、魂を管理する者』
老人が、静かに説明する。
『生者と死者、その境界を見る力を持っている』
『お前の魂——その色を見れば、分かる』
「魂の……色?」
『そうだ』
老人が、頷く。
『お前の魂は——通常の人間とは異なる』
『特別な力を宿している』
『それは、まるで——醸されるもののように、複雑で、深く、何層にも重なり合っている』
『何の力かまでは、私にも分からない』
老人が、少し困ったように首を振る。
『だが——その力は、この忘却の海と相性が良い』
「……」
俺は、言葉を失った。
魂の色が見える?
そして、俺の魂が特別な力を宿している?
何の力なのか、渡し守にも分からない?
『その力を使えば、魂と対話できるかもしれない』
「力……」
俺は、考えた。
俺の力といえば——。
酒を飲むことで、ランダムなチート能力が発動する。
それが、関係しているのか?
俺は、懐の小瓶を取り出した。
以前、偶然作った酒。
回復の力を持つ酒。
でも——。
これで、魂と対話できるのか?
『試してみるといい』
老人が、光の奥を指差す。
『魂たちは、あの奥にいる』
『お前たちを待っているだろう』
「……ありがとう」
俺は、老人に頭を下げた。
そして——。
光の奥へと進んだ。
リリア、ルーナ、ミアも、俺に続く。
忘却の海の奥へ。
魂が集まる場所へ。
真実を知るために——。
俺たちは、歩き続けた。
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