103杯目「旅立ちの準備とハプニング」
翌朝——。
城の会議室に、全員が集まった。
リリア、マーカス、マリア、ルーナ、ミア。
「忘却の海……?」
ルーナが、驚いた顔をする。
「ええ」
俺は、昨夜のことを説明した。
煙の言葉。
忘却の海のこと。
そして——。
両親がそこにいるということ。
「……」
会議室に、沈黙が流れる。
「アル」
マーカスが、重々しく口を開いた。
「それは……罠かもしれないぞ」
「分かってる」
俺は、頷いた。
「でも、行かないわけにはいかない」
「両親に会いたい……それもある」
俺は、拳を握りしめた。
「でも、それ以上に——」
「煙の正体を知りたい。災厄の真実を知りたい」
「それを知らないと、第三の試練には勝てない気がするんだ」
俺は、みんなを見回した。
「だから、行く。忘却の海へ」
「……私も行きます」
リリアが、立ち上がる。
「アルさんを一人にはできません」
「私も!」
ルーナも手を挙げる。
「アルが行くなら、私も行く」
「それに……」
ルーナが、少し寂しそうに笑う。
「もしかしたら、私も……お母さんに会えるかもしれない」
「ルーナ……」
人族の王の妻——ルーナの母は、ルーナが幼い頃に亡くなったと聞いている。
「私も……行きます」
ミアが、静かに言った。
「え? ミア?」
俺は、驚いた。
「守護者様の力を受け継いだ私には……」
ミアが、自分の手を見つめる。
「忘却の海で、何か分かるかもしれません」
「川の源流のこと……守護者様が知りたかったこと……」
ミアの目には、強い決意が宿っていた。
「それに……」
ミアが、俺を見た。
「守護者様も、きっと望んでいると思います」
「アルさんを、守れと」
「……」
俺は、何も言えなかった。
「では、決まりだな」
マーカスが、大剣を握る。
「俺は、王都に残る」
「マーカス……」
「誰かが、ここを守らないとな」
マーカスが、にっと笑う。
「裂け目はまだ広がってる。災厄の欠片が、また襲ってくるかもしれない」
「……頼む」
「任せろ」
マーカスが、俺の肩を叩いた。
その時——。
マーカスの腕に、黒い痣が残っているのが見えた。
「マーカス、その腕……」
「ああ、これか」
マーカスが、少し顔をしかめる。
「災厄の欠片に触れられた時の痕だ」
「まだ、少し痛む」
「それ……放っておいたら危険です」
ミアが、立ち上がった。
「災厄の力は、体を蝕みます」
「ミア……?」
「私が……治します」
ミアが、マーカスの腕に手を当てた。
淡い青白い光が、ミアの手から溢れ出す。
「これは……」
「守護者様の力です」
ミアが、目を閉じる。
「この力で、災厄の痣を浄化できます」
光が、マーカスの腕を包み込む。
そして——。
黒い痣が、ゆっくりと薄くなっていった。
「……すげぇ」
マーカスが、自分の腕を見つめる。
「痣が……消えた」
「体も、軽くなった気がする」
「よかった……」
ミアが、安堵の表情を浮かべた。
「でも、これで全部じゃありません」
「マーカスさん、無理はしないでください」
「ああ、分かった」
マーカスが、ミアの頭を撫でた。
「私も残ります」
マリアが、静かに言った。
「汚染が再発した時のために」
「マリア姉様……」
リリアが、姉の手を握る。
「行ってらっしゃい」
マリアが、優しく微笑んだ。
「必ず、無事に帰ってきてね」
*
会議が終わり、俺たちは準備を始めた。
忘却の海へ向かうための——。
旅の準備。
「地図は?」
リリアが、古い地図を広げる。
「忘却の海は……この辺りかしら」
地図の端、世界の果てに——。
青い海のような印が描かれている。
「遠いな……」
「ええ。徒歩で三日はかかりそうです」
「食料は十分に持って行かないとな」
俺は、倉庫から干し肉やパン、果物を詰め込んだ。
「水筒も」
「寝袋も」
「それから……」
ルーナが、小瓶を取り出す。
「以前アルが飲んだ時に回復の能力出たでしょ?あの時の酒も、念のため持ってきましょ」
「ああ、ありがとう」
俺は、荷物をまとめながら考えた。
忘却の海。
魂が集まる場所。
両親に会える場所。
そして——。
煙の正体が分かる場所。
「よし……準備完了だ」
*
午後——。
準備を終えた俺は、汗を流すために城の大浴場へ向かった。
「さて……ちょっと汗流すか」
城の大浴場は、広くて立派だ。
入口は一つだけ。
男女別れてないのか……?
まあ、そういう文化なのかもしれない。
俺は、気に留めずに入った。
*
脱衣所には、誰もいなかった。
「今日は誰も入ってないのか?」
まあ、いいか。
俺は、服を脱ぎ——。
浴場のドアを開けた。
ざばー。
湯気が立ち込めている。
広い湯船に、透明な湯が張られている。
「いい湯だな……」
俺は、体を洗ってから——。
湯船に浸かった。
「ふぅ……」
温かい湯が、体に染み渡る。
戦いの疲れが、溶けていく気がする。
「……明日から、また旅か」
俺は、天井を見上げた。
忘却の海へ。
煙の正体を知り——。
両親に会う。
*
その頃——。
城の廊下を歩くリリアとルーナ。
「リリア、一緒にお風呂入らない?」
ルーナが、にこにこしながら提案した。
「お風呂?」
「うん! 私の家族がよく使ってる浴場があるの」
ルーナが、リリアの手を引く。
「せっかくだから、そこで一緒に入ろう!」
「え、ええ……分かったわ」
リリアは、少し戸惑いながらも頷いた。
二人は、城の奥へと向かう。
そして——。
ある浴場の前に辿り着いた。
「ここよ」
ルーナが、ドアを開ける。
「小さい頃はよく家族みんなで入ってたわ」
「広くて、気持ちいいわよ」
「そうなの……」
リリアは、脱衣所に入った。
*
二人は、服を脱ぎ——。
タオルを体に巻いた。
「じゃあ、入ろうか」
ルーナが、浴場のドアを開ける。
ざばー。
湯気が立ち込めている。
「あれ?」
ルーナが、首を傾げた。
「誰かいるの?」
湯気の向こうに、人影が見える。
「え……?」
リリアが、目を凝らした。
そして——。
気づいた。
「ア、アルさん……?」
湯船に浸かっているのは——。
アルだった。
「え……?」
アルが、凍りついたように固まる。
「え、ちょ、リリア!? ルーナ!? なんでここに!?」
「え!? こっちが聞きたいですっ!!」
リリアの顔が、真っ赤になる。
「どうしてアルさんがここに!?」
「え……?」
アルは、周りを見回した。
「俺、城の大浴場に入っただけだぞ……?」
「ここ……」
ルーナが、顔を真っ赤にする。
「私の家族がよく使う浴場なの……」
「城の大浴場じゃなくて……」
「あ……」
「間違えた……」
「ちょっと!! どうして確認しないんですか!!」
リリアが、タオルを胸に押し当てながら叫ぶ。
「ご、ごめん!! すぐ出る!!」
アルは、慌てて湯船から飛び出そうとして——。
足を滑らせた。
「うわっ!!」
ばしゃん。
アルは、盛大に湯船に落ちた。
そして——。
その水しぶきが——。
リリアとルーナのタオルを、直撃した。
「きゃっ!!」
二人のタオルが、ずり落ちかける。
「あっ……」
アルは、目を逸らそうとしたが——。
一瞬だけ——。
見えてしまった。
リリアの白い肌。
ルーナの華奢な体。
柔らかそうな曲線。
そして——。
「見ないでくださいっ!!」
リリアが、タオルを掴んで体を隠す。
顔が、耳まで真っ赤だ。
「あ……」
ルーナは、タオルを押さえながら——。
少し顔を赤くしたが——。
すぐに、いたずらっぽく笑った。
「まあ……アルが見たいなら、別にいいけど♪」
「え……?」
俺は、驚いて顔を上げた。
「ル、ルーナ!?」
リリアも、驚いている。
「だって、アルだもん」
ルーナが、少し照れながらも微笑む。
「私の体……興味ある?」
「え、あ、いや……」
俺は、慌てて目を逸らした。
「ふふっ、冗談よ」
ルーナが、くすくす笑う。
「でも……わざとじゃないなら、許してあげる」
「ル、ルーナ……ありがとう……?」
数分後——。
俺は、脱衣所で正座させられていた。
タオルで体を隠したリリアとルーナが、俺の前に立っている。
「説明してください」
リリアが、冷たい声で言う。
「え、えっと……」
俺は、冷や汗をかきながら答えた。
「間違えた……としか」
「間違えたって……」
リリアが、顔を真っ赤にしながら言う。
「普通、確認するでしょ!?」
「ごめん……」
「それに……」
リリアが、恥ずかしそうに俯く。
「見ましたよね……?」
「え、あ、いや……」
「見たんですね!?」
「ご、ごめん!!」
俺は、深々と頭を下げた。
「本当に、わざとじゃないんだ!!」
「わざとじゃなくても……」
リリアが、顔を覆う。
「恥ずかしい……」
「……」
沈黙が、流れる。
その時——。
「まあ、私は別にいいけどね」
ルーナが、少し笑いながら言った。
「え……?」
俺とリリアが、同時にルーナを見る。
「だって、アルだもん」
ルーナが、肩をすくめる。
「わざとじゃないし」
「それに……」
ルーナが、少し頬を染める。
「アルに見られるなら……まあ、悪い気はしないかな」
「ル、ルーナ!?」
リリアが、驚いて声を上げる。
「え、なに? 正直に言っただけだよ?」
ルーナが、にこにこ笑う。
「私、アルのこと好きだし♪」
「……」
俺は、言葉を失った。
ルーナは、こういうところが大胆だ。
その時——。
「……まあ、いいです」
リリアが、ため息をついた。
「わざとじゃないなら」
「でも、次は気をつけてくださいね」
「……ありがとう」
「別に……」
リリアが、少し照れたように微笑む。
「それに……」
「それに……?」
アルは正座しながら首をかしげる。
「え、あ……」
リリアが、慌てて口を押さえる。
「なんでもないです……」
リリアはうつむいて恥ずかしそうにしている。それに呼応するかのように角も赤くなっていた。
「そ、そうか……」
俺は、少し残念な気持ちになった。
なぜだろう。
「でも……」
ルーナが、俺を見る。
「次はもっとちゃんと見せてあげるから♪」
「ル、ルーナ!!」
リリアが、真っ赤になって叫ぶ。
「冗談、冗談!」
ルーナが、笑いながら手を振る。
「……本当に冗談なの?」
俺が、恐る恐る聞くと——。
「さあ、どうかな♪」
ルーナが、ウインクした。
「……ルーナ」
俺は、頭を抱えた。
この子は、本当に大胆すぎる。
俺は、二人に頭を下げた。
そして——。
心の中で、誓った。
次は絶対に、間違えない、と。
*
その夜——。
俺は、城の屋上に立っていた。
二つの月が、夜空に輝いている。
そして、その間に——。
赤く脈動する、裂け目。
「明日……」
俺は、呟いた。
「明日から、旅が始まる」
忘却の海へ。
両親に会うために。
真実を知るために。
「父さん……母さん……」
俺は、夜空を見上げた。
赤く脈動する裂け目。
何とかなる。いやなんとかするそれしかないか。
裂け目は不気味に輝いていたが、そこまで不安には感じなかった。
もし面白い、続きが見てみたいと少しでも思っていただけたら☆☆☆☆☆をポチポチして貰えたら嬉しいですm(_ _)m




