101杯目「嵐の予兆」
五日が経った。
王都の復興は、少しずつ進んでいる。
市民たちの顔にも、笑顔が戻り始めていた。
でも——。
俺の心には、拭えない不安があった。
守護者が言っていた、第三の試練。
それは——。
いつ来るのか。
その日の夜——。
俺は、城の屋上に立っていた。
星空を見上げながら、深く息を吸う。
「眠れないの?」
声がして、振り返ると——。
リリアが、そこにいた。
「リリア……」
「お前も、眠れないのか?」
「うん……」
リリアが、俺の隣に立つ。
「なんだか……落ち着かなくて」
「そうか……」
俺も、同じだった。
この静けさが——。
逆に、不安を掻き立てる。
「ねえ、アル」
リリアが、俺を見る。
「第三の試練……怖い?」
「……ああ」
俺は、正直に答えた。
「怖いよ」
「守護者があれほど言うってことは……相当、ヤバいんだろうな」
「そっか……」
リリアが、小さく笑う。
「アルも、怖いんだ」
「当たり前だろ」
俺も、苦笑する。
「俺だって、人間だからな」
「でも」
俺は、拳を握る。
「怖くても……やるしかない」
「俺たちが戦わなきゃ……この世界は、終わる」
「……うん」
リリアが、頷く。
「私も……頑張る」
「アルと一緒なら……怖くない」
その言葉に——。
俺の心が、温かくなった。
そして——。
ふと、思い出す。
あの日——。
リリアが、何か言おうとしていたことを。
「あの……リリア」
俺は、少し迷ってから口を開いた。
「あの日……街が襲われる前に……お前、何か言いかけてなかったか?」
「え……」
リリアの顔が、一瞬赤くなる。
「あ……あの時のこと……覚えてたの?」
「ああ……気になってたんだ」
俺は、リリアを見つめる。
「何を、言おうとしてたんだ?」
「それは……」
リリアが、視線を逸らす。
その頬が、ほんのり赤い。
「……今は、まだ……」
「まだ?」
「うん……」
リリアが、小さく頷く。
「全部が終わったら……その時に、ちゃんと言うから」
「第三の試練が終わって……みんなが笑顔になったら……」
リリアが、俺を見つめる。
その目には——。
強い決意と、少しの恥ずかしさが混ざっていた。
「その時まで……待っていてくれる?」
「……ああ」
正直すごい気になるが俺は、頷いた。
「待ってる」
「ありがとう、アル」
リリアが、微笑む。
「一緒に……戦おう」
「うん!」
リリアが、笑顔を見せる。
その時——。
風が、強く吹いた。
空を見上げると——。
星が——。
いつもより、暗く見えた。
まるで——。
何かが、近づいているかのように。
「……来るな」
俺は、呟いた。
「第三の試練が……」
「うん……」
リリアも、空を
俺は、リリアの手を握った。
そして、六日目の朝——。
城が、激しく揺れた。
「何だ!?」
マーカスが、窓の外を見る。
俺も、窓に駆け寄った。
そして——。
息を呑んだ。
空に——。
巨大な裂け目が、開いていた。
真っ赤な、不吉な光を放つ裂け目。
そこから——。
黒い何かが、溢れ出していた。
「まさか……」
ルーナが、震える声で言う。
「第三の試練……もう、始まったの……?」
「ああ……」
俺は、剣を握りしめた。
「守護者が言ってた……災厄の本体……」
「あれが、来るんだ……」
裂け目が、どんどん広がっていく。
黒い霧が、空から降り注ぎ始める。
ルーナが、震えながら呟いた。
「これが……第三の試練……」
俺は、剣を握りしめた。
守護者が言っていた——。
災厄の核が、姿を現す——。
その時だった。
黒い霧の中から——。
紫色の煙が、ゆらりと立ち上った。
「……!」
俺は、目を見開いた。
見覚えのある、あの煙——。
そして、その中から——。
「ハッハー……」
低く、楽しげな笑い声。
煙が、人の形を取る。
白黒混じりの髪。
ぼろぼろのローブ。
そして、紫色のタバコを咥えた——。
中性的な人物。
「煙……!」
俺は、叫んだ。
「お前……!」
「やあ、アル君」
煙が、タバコを吹かす。
紫の煙が、ゆらりと広がる。
「久しぶりだねぇ」
でも——。
その目は、笑っていなかった。
「お前、なんでここに……!」
「なんでって……」
煙が、首を傾げる。
「君たちが、ここまで来たから……僕も来ただけさ」
「お前が、災厄なのか……!」
俺は、剣を構える。
「さてねぇ」
煙が、空の裂け目を見上げる。
「それは……君がどう思うかによるんじゃないかな」
「ふざけるな!」
マーカスが、大剣を握りしめる。
「はっきり答えろ!」
「ハッハー、怖いねぇ」
煙が、笑う。
「でも、答えは教えてあげないよ」
煙が、俺を見る。
その目は——。
冷たく、でもどこか……寂しそうだった。
「覚えているかい、アル?」
「何を……」
「僕が、最初に君に言ったこと」
煙が、タバコを吹かす。
「『最後には——空が裂けるよ』って」
「……!そんなこと言われた覚えないぞ」
「そして——」
煙が、裂け目を指差す。
「『そこから、何かが出てくる』って」
俺の背筋に、冷たいものが走る。
「お前……」
俺は、煙を睨んだ。
「お前は、何が目的なんだ……」
「目的?」
煙が、首を傾げる。
「そんな大層なものはないよ」
「ただ……興味深いんだ」
煙の目が、俺を見つめる。
「君たちが、どんな選択をするのか」
「選択……?」
「さてねぇ」
煙が、ゆっくりと消え始めた。
「待てっ!」
俺は、手を伸ばした。
でも——。
「楽しみにしているよ、アル君」
煙の声だけが、響く。
「君の……君だけの選択をね」
そして——。
煙は、完全に消えた。
ただ、紫色の煙だけが——。
空に漂っていた。
「くそ……」
俺は、拳を握りしめる。
煙の言葉が、頭の中で響く。
選択——。
何を、選べというんだ……。
その時——。
裂け目が、激しく脈動した。
ゴゴゴゴゴ……
不気味な音が、空から響く。
「何だ……!?」
マーカスが、空を見上げる。
裂け目が——。
少しずつ、大きくなっていく。
真っ赤な光を放ちながら——。
まるで、何かが内側から押し広げているかのように。
そして——。
裂け目の奥から——。
黒い霧が、噴き出してきた。
「来る……!」
俺は、剣を構える。
黒い霧の中から——。
無数の影が、現れた。
人の形をしているようで、していない。
黒いモヤのような、不定形の存在。
でも——。
その存在からは、強烈な悪意が感じられた。
「あれは……!」
ミアが、息を呑む。
「災厄の欠片……!」
「欠片……?」
「ええ……本体が現れる前の、前触れです……!」
影が、俺たちに向かって襲いかかってくる。
「みんな、迎え撃つぞ!」
俺は、叫んだ。
マーカスが、大剣を振るう。
ガキィン!
影が、真っ二つに斬られる——。
かと思った瞬間——。
影が、二つに分裂した。
「なんだと!?」
マーカスが、驚く。
二つになった影が、それぞれマーカスに襲いかかる。
「くそっ!」
マーカスが、大剣で防ぐ。
でも——。
影の攻撃は、物理的な実体がないかのように——。
大剣をすり抜けて、マーカスの体に触れた。
「ぐあっ!」
マーカスが、膝をつく。
「マーカス!」
リリアが、魔法を放つ。
炎の球が、影に直撃する。
影が、一瞬怯む——。
しかし、すぐに再生した。
「魔法も効きにくい……!」
リリアが、歯を食いしばる。
「私が……!」
ルーナが、前に出る。
剣を構え——。
剣に、光の魔法を纏わせる。
「光よ……邪悪を払え!」
ルーナが、光を纏った剣で影を斬る。
シュウウウウ……!
影が、悲鳴のような音を上げて——。
消滅した。
「効いた……!」
ルーナが、驚く。
「光の魔法が有効です!」
ミアが、叫ぶ。
「みんな、光の魔法を使って!」
リリアが、光の魔法に切り替える。
俺も、剣に魔力を込める。
そして——。
俺たちは、影との戦いに挑んだ。
無数の影が、次々と襲いかかってくる。
斬っても、斬っても——。
まだ出てくる。
「くそ……キリがない……!」
マーカスが、汗を流しながら叫ぶ。
その時——。
ミアが、川の力を解放した。
銀色の光が、辺りを包む。
影たちが、光に触れて——。
次々と消えていく。
「今よ!」
ミアが、叫ぶ。
俺たちは、一斉に攻撃を放った。
リリアの光の魔法。
ルーナの光を纏った剣。
マーカスの大剣。
俺の剣。
そして——。
マリアの浄化の魔法。
全ての攻撃が、影たちを飲み込む。
光が、辺りを満たす。
そして——。
影たちが、完全に消滅した。
静寂。
「……やった、のか?」
マーカスが、息を切らしながら言う。
俺は、空を見上げた。
裂け目は——。
まだ、そこにあった。
閉じていない。
それどころか——。
「……大きくなってる」
俺は、呟いた。
裂け目は、さっきよりも——。
明らかに、大きくなっていた。
「まさか……」
リリアが、震える声で言う。
「これは……まだ序章に過ぎない……?」
ミアが、裂け目を見つめる。
「ええ……本当の災厄は……」
「これから、来ます……」
裂け目が、ゆっくりと脈動している。
まるで——。
何かが、生まれようとしているかのように。
俺は、剣を握りしめた。
これは——。
嵐の前の静けさだ。
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