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デジャビュ

作者: まさみ

夢の中で部屋を借りてる。

三年前に実家を出て一人暮らしを始めた。職場に近い所に住みたいというのが動機だ。引っ越し先は家賃3万9千円、築25年のワンルーム。

最初は順調だった。

どれだけ夜更かししても口うるさく注意される事はないし、どれだけ部屋を散らかしたところで文句を言われない。


そんな自由で快適な暮らしを脅かしたのは、アパートの住人が立てる物音だった。

このアパートは単身者用で、内見に伴った不動産屋曰く、住んでいるのは独り者の学生や社会人が大半らしい。

故に生活時間は不規則、廊下ですれ違うことさえ滅多にない。隣人の名前はおろか顔すら知らない。


構造上の問題なのか、このアパートはやけに音が響く。

週末になると隣人が弾くギターの音や、明け方に上階の人がかける洗濯機の音の他、誰かが何かを落とす音が「ゴトンッ」と響く。

騒音に迷惑して不動産屋に問い合わせるも効果は薄く、どんどん神経質になっていった。


そこで貯金を切り崩し、ノイズキャンセリング付きのヘッドホンを買った。四万円の出費は痛いが仕方ない。


以来、起きている間はヘッドホンを装着するのが習慣化した。スマホで動画を眺めながら寝オチする為、実際は一日中ヘッドホンをしていることになる。

その日も隣人がたてる物音にうんざりしながら布団に横たわり、眠気が訪れるまでスマホで動画を視聴していた。しばらくすると瞼が重くなり、自然と眠りに落ちていたのだが……。

夢の中で目を開ける。私は不動産屋と歩いていた。どうやら引っ越し先をさがしているらしい。


「ここはどうですか。お安いですよ、破格です」


はっきり顔を思い出せない不動産屋に連れていかれたのは、日当たりの悪い殺風景な和室だった。


「なんでそんなに安いんですか?」

「前の人がね、死んだんです。自殺です」

「事故物件ってことですか」

「いかがですか。お安くしておきますよ」

「う~ん……すいません、遠慮しておきます」


熱心に勧められても気が乗らない。私が選んだのはそことは別の部屋だった。

奇妙なのはこの夜を境に、不定期に同じ夢を見るようになったことだ。

夢の中の私は別宅にいる。扉の向こうに事故物件があることを知っている。知ってて知らんぷりをする。


何故こんな夢を見るのか不可解だ。連日の騒音にストレスが募り、無意識に引っ越しを望んでるのか?


不気味な夢を見始めた数か月後、ぼんやりテレビを見ている最中にデジャビュを覚えた。

それは特殊清掃業者に密着したドキュメント番組で、カメラは住人が自殺した部屋の中を映していた。


「あ」


テレビに夢の部屋が映っていた。不動産屋に内見に連れていかれた和室。


『前の人がね、死んだんです。自殺です』


腐った畳の上に人型の染みができた布団が敷かれ、太ったハエが飛び交うさまを目の当たりにし、慌ててテレビを消す。


布団にもぐってからも心臓は早鐘を打ち、嫌な妄想が膨らむのに比例して全身に汗が滲み出す。



また同じ夢だ。

私は別宅にいる。

大抵は何もせずぼんやりしているうちに目覚めが訪れるのだが、この日は違った。

現実で見た番組の映像が心にひっかかっていた私は、なにげなく扉に手をかけた。

すると「ガタン」と音をたて、扉が外れたではないか。



来る。



そこで目が覚めた。

夢の中で扉を壊した。向こうには住人が命を絶った部屋がある。道ができた。行き来と出入りが自由になった。



何が向こうから来るのかわからない。

今はただ、続きを見るのが怖い。

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