短編 100 竹馬の友
真面目なミステリーっぽいのを書きたいなぁ。
よし! あれ? なんで竹馬の友?
あれれ? あれー?
そんな感じでこうなりました。
……最後は本当に意味が分かりません。
俺には竹馬の友がいたらしい。覚えているのはそれだけだ。
気が付いたら記憶の全てを失っていた。自分が何者で何をしていたのかすら思い出せない。
ただ俺には友がいた。
それだけは覚えている。
竹馬の友。
その言葉と『あーなんかいたなー』という漠然とした奇妙な感覚だけは心に残っていた。
竹馬の友に会えば自分は記憶を思い出せる。そんな気がする。なんの根拠も無いが自分に残されているのはそれだけなのだ。
俺の竹馬の友を探す旅が始まった。
まず砂丘で出会ったのは一頭のラクダだった。
「……友なのか?」
「どう見てもちゃうやろ」
ラクダに突っ込まれた。睫毛がすごい。何となくそんな気はしていたが聞くしかないのだ。自分には記憶が無いし。
ラクダは砂丘をテコテコと歩いていった。ここは鳥取砂丘。そうだ。それは思い出した。でも何でラクダがいるのだろう。
まぁいいや。
旅は続く。
今度は大きなお寺に着いた。仏像が沢山ある古いお寺だ。そこで一人の女にあった。
「……友なのか?」
「ナンパはお断りです」
まぁそうだろうなぁ。寺でナンパはいくらなんでも。今話題の女一人旅、仏像巡りなのだろう。うむ。ここは京都であるからな。
……思い出した。ここは京都。そうだ京都に来ていたのだ。ここは京都。夏は暑くて冬は寒い土地。そして何故か寺が沢山ある。
……自分は仏像フェチではないようだ。特に楽しくもない。睨み続ける女の視線が怖いので旅を続ける事にした。
……女の首がやたらと長い気もしたが……多分気のせいだろう。
旅を続けた。
今度は大きな橋に来ていた。海に掛かる橋。そこをてけてけと歩いて行く。眼前に広がる海がキラキラと輝いて見える。
青い空と眩しい太陽。そして吹き抜ける海風が気持ちいい。
そして橋の上でそれに出会った。
「……友なのか?」
「……我は猪。ウリボーであるぞ?」
つぶらな瞳が超かわいい。これが友でいいと思う。もう旅をせずにこのウリボーと戯れていたい。
「くふふふふ。我を撫ですぎであるぞよ?」
……ウリボーってこんな話し方だっけか? これは思い出せない。
遥か彼方に淡路島が見える。
そうだ。ここは明石大橋。
この橋の向こうに玉ねぎで有名な淡路島がある。思い出した。
「くふ? 撫でぬのか? 撫でぬのか?」
後ろ髪をメッチャ引かれたがウリボーと別れて旅を続けることにした。
次に来たのは寺社仏閣。ここには、へんてこな格好をしてスタンプラリーに励む人々がいた。
怖すぎて声も掛けられない。
杖とか持ってて怖いことこの上なし。
寺の境内にいた鳩さんに話を聞いてみた。
「友を探してる」
「ハトじゃなくて?」
つぶらな瞳がキュートな鳩さんだ。
「お遍路しててはぐれたの?」
思い出した。ここは四国。四国のどこかだ。コスプレしてスタンプラリーしてるように見えたのはお遍路さん達だ。
……昔からこの国の人間は変わらないな。やってることが変わってない。
「豆ちょうだい」
「……手持ちがなくて」
「ちっ、しけてやがる」
鳩さんは遠い空へと飛んでいった。鳩は平和の象徴っていうけど、そんなことは決してない。
旅を続けることにした。
今度来たのは温泉地。四国をずんどこ進んで海を渡った先である。
「へい! そこのキミィ! 誰かを探してるんじゃなーい?」
「いえ、探してません」
馬に話し掛けられたので否定しておいた。
黒い馬だ。いきなり話し掛けてきた。普通にビビった。馬だぞ、馬。今更な気もするけれど。
「竹馬の友を探してるってのはキミだろ?」
「……友なのか?」
「いや、違うけど?」
なら何故声を掛けた。そう言おうとしたら地面が揺れた。
「おー。また噴火したねー。桜島の噴火はここの名物だから運が良いねぇ」
そう。ここは鹿児島、桜島。大根と噴火が有名な九州の端っこ。
……もしかしてこの馬は『馬肉』用なのかも知れない。
遠くに見える桜島から噴煙が上がっているのがよく見えた。
「あの灰がヤバイんだよね。目に入ると超痛くて」
「……大変なんだな」
馬も大変。やはり噴火は恐ろしい。
竹馬の友を探してここまで来てはみたけれど……友は見つからず自分が何者なのかも、相変わらず思い出せないまま。西に来たのは間違いだったのか。
「君の友から伝言さ。答えは鏡の中にある……ってさ」
黒馬はそれだけを言い残してぱっかぱっかと歩き去って行った。
……友からの伝言。
答えが鏡の中とはどういう事なのか。
そして馬は友の知り合いなのか。
馬。竹馬の友。そして記憶を失った自分。
謎が謎を呼ぶ波乱の展開だ。これは急いで鏡を見ねば。
とりあえずコンビニのトイレを貸してもらい鏡を見ることにした。
そこには小さな竹輪の姿があった。
……。
あれ?
自分は竹輪だったのか?
どゆこと?
おでんに良し。磯辺揚げにして良し。中に色々詰めても良し。
高タンパクで低カロリー。
あれ? 自分はそんな万能おかずの竹輪だったのか?
あっれー?
腕ないよ?
竹輪だよ?
チクリンではなくチクワだよ?
たけわでなくて、ちくわだよ?
あっれー?
コンビニトイレで唸っているとドアがコンコンと叩かれた。
トイレのノックはマナーだ。閉まっていたら、とりあえず叩くべし。優しく二回のコンコンで。
「入ってますー」
「そうですかー」
困惑は消えない。しかしいつまでもトイレに籠っている訳にもいかない。ドアの外には入りたがっている人がいるのだから。
ガチャリとトイレのドアを開けるとそこには妙なものがいた。
「あ、なんだよ、ちくわかよ。お前なんで……あ、とりあえずトイレ入らせて」
「……あ、うん」
妙な物体は話もそこそこに、トイレの個室にいそいそと入っていった。その背中に板が見えた。
……なにか思い出せそうな気がする。
自分はちくわ。魚肉の練り物を棒に巻いて焼いたもの。
分類では魚属性か?
ぎょぎょぎょ?
コンビニの中をそぞろ歩きに沈思黙考。
「はー! 危なかったー。あ、ちくわー。お前なんでこんなとこに来てんの?」
「……友なのか?」
トイレから出てきた謎の物体にも聞いてみた。
「……なるほど。それでか」
謎の物体……白くて背中に板を背負うものが、そう言った。
こいつは『かまぼこ』だ。
そう、思い出した。こいつは自分の……竹馬の友だ。というか親戚だ。一族じゃん。
「お前、この前の飲み会で『きりたんぽ』にちょっかい掛けただろ。その時にぶん殴られて空をぶっ飛んだってのは噂で聞いてたんだけど……まさか記憶も飛んで本体も鹿児島まで飛ぶとはなぁ」
……鳥取です。砂丘にずぼんと埋まってました。
つまり自分は秋田から鳥取まで殴り飛ばされたのか。
きりたんぽってすげぇな。
「確かに見た目は似てるけど、あれは米だぞ? 怒らせたらとんでもない事になるからな」
……怒らせたんだなぁ。自分が。とんでもない事になったなぁ。
「見つけたら電話させるよう言われてんだわ。お前、マジで何したの?」
「……いや、口説いた気がする。酔ってたからその辺は思い出しても曖昧だな」
そう、思い出したのだ。自分は飲み会できりたんぽを口説いていた。それも割と本気で。
そして……そして自分の記憶はぶっ飛んだ。
そこまでしつこく迫ってなかったんだけどなぁ。
「なんでか知らんがお前放浪してるって噂になってたし。京都のろくろ首姉さんからメール貰ってびっくりしたぜ」
そっかー。やっぱりあの首の長さはおかしかったのかー。
「まぁこれから処刑が待ってるんだけどな! 骨は拾ってやるからさ。俺達、骨ないけど」
かまぼこは大爆笑しながら携帯電話を寄越してきた。
ああ、殴りたい。今すぐこいつを助走つけた拳でぶん殴りたい。
とりあえず電話を掛けてから殺るとしよう。
ぴ、ぽ、ぱ。
……そういや、なんで自分はきりたんぽの電話番号を知っているんだろうか?
『あ、もしもし? どなたですかー?』
「あ、ちくわですー。どもー」
あれから数日後。自分ときりたんぽは東京の遊園地でデートをしていた。自分達は恋人になったのだ。
ちくわときりたんぽのラブラブカップルである。
竹馬の友である『かまぼこ』は血の涙を流して祝福してくれた。表面がピンクに染まったのでお目出度い感じにもなった。
くくく。お前の事なんざ、知らんわ。
あの日、自分は飲み会に来ていたきりたんぽちゃんを口説いていた。そして……我らは結ばれ大人の関係になったのだ。きりたんぽちゃんは事後になって恥ずかしさが爆発。きりたんぽナックルバスター重式で自分を鳥取砂丘にぶちこんだのであった。
きりたんぽちゃんの部屋の窓が跡形もなく崩壊していたのはそういう訳である。
きりたんぽちゃんは、お茶目さんだなぁ、もう。
竹馬の友を探す旅は終わり、自分は大切な恋人を手に入れた。
一緒に鍋に入っても大丈夫。まさに運命のパートナーを自分は見つけたのだ。
ありがとう竹馬の友よ。
お先に失礼しやーす! ふはははははは!
今回の感想。
辻褄合わせ。これによって物語はクソになりますね。まぁこれも勉強です。