EP 051 「見守ろうとした者、救おうとした者1」
【現人文明期8895年 10月10日 夕刻 アンチレス・メディカル病院食堂】
”アズリエル着弾事件”の起こった少し後、一応検査と周りの状況対応などの名目で病院にしばらくお泊りすることになったアズリエル。
夕方までおでこやおむねにパッチを付けられて色々検査データが取られた後、病院の食堂さんでボケーっとしながらメロンソーダーさんを啜っていた。
「おぉ~♪文明の味わいだよ~っ☆ふふ~っ♪人類さん8900年のれきしー☆しかも!これにアイスを入れるとクリームソーダーにぃ~・・むふふふ~☆ありがとうございますの~☆」
活動で仲良くなった病院食堂のおばちゃんからアイスを一玉貰いご満悦ですの~♪
「むぐむぐ・・ずずずぅ~。たくさん飲んだら翼が緑色になるのかな~?しゅわしゅわな感じですの~??」
たたたたたたたたっ・・・誰かが急いで食堂に駆け込んできた。
「アーシェちゃん!!」
「あー、オリヴィアさんですの~☆こんにちえる~♪きょうは病院さんコンサートの日でしたの~?」
「そうですよ・・・って大丈夫なのですかっ!?意識が無くなってこんなに時間が経って・・・・!?さきほど大きな爆発音がして病院のスタッフさんに伺いましたら、アーシェちゃんのお部屋が爆発したって・・!」
ここまで一気に話した様子から大分混乱気味なオリヴィアさん・・、とっても珍しいですの・・・・・・?
・・・・・・・??
・・ん?・・・??
・・・・あれれぇー?時間が経ってる?
「えーっと・・・、そういえば今日は何日ですの?」
ひょっとして、もしかしたら2~3日眠ってたのかな~?と呟き、首をこてりと傾げて質問する。
「アーシェちゃんは二カ月以上も意識が無かったんですよ~!」
いつも穏やかなオリヴィアさんから驚きの発言、行動が飛び出してきたのだから無理もない。がばっと抱き着かれて慌てるアズリエルなのでした~。
「えぇー!?2か月もですのー?あれぇー?・・・・」
どうやら神様のところは時間が止まっていたみたいですけれど、アズ方向音痴に”ばびゅーん”して帰ってくる時間ズレちゃいましたのね~・・えへへ~(汗)
これはやってしまいましたの~・・・うさみみが少ししょげた風味で曲がるのであった。
ひとしきりムギューっとされた後、徐々に様子が落ち着いてきたオリヴィア・・・・アズリエルに問う。
アズリエルが目覚めたら聞いてみたいと思っていたのだ。
「なぜ・・・歌と曲を創造して、命を懸けてまでこのような事をしたのですか~?」
うぅ、実はお願いを込めてお歌したら死んじゃうなんて知らなかったですの~・・
うー、言いずらいですの・・・うーん・・・
「えっと、えっとですのね・・、まず一つ誤解があるですの・・、アズが作ったお歌は強い願いを込めて歌うと”死んじゃう”というのを・・えーっとアズも知らなかったですの。」
うーん・・・どういう風に説明すればいいのかなぁ~?とりあえず今現在分かる言葉で伝えてみるより方法がないですの。
「お歌を作った理由は、テレーゼちゃんとお父さんお母さんの気持ちがちゃんと伝わるようになって欲しかったから・・ですのよ。アズの力では願いが叶ったのは一瞬だけでしたけれど・・・」
「歌うと自身の命が代価になってしまう歌・・・、創造した理由は想いを伝えるため・・・」
オリヴィアの精神に大きな衝撃が走り、過去にあった自身の事を思い出すのであった。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・
【現人文明期8701年 04月20日 オリヴィアが生まれてから1年と少し・・】
アズリエルとオリヴィアが話している時代から194年くらい前のこの日、オリヴィアは生まれて初めての配信舞台・・”初配信”に立とうとしていた。
初めての配信舞台・・緊張します・・。
でも、ずっとやりたかった事・・・頑張らなくては・・。
街中の小さな配信用スタジオの一角で、新たな機械知性シンガーがデビューしようとしている。
「みなさんこんにちは!機械知性シンガーのオリヴィア・アーティエル・ハーツですっ!・・・・・」
ぎこちない挨拶に始まり、簡単な雑談を交えて・・そして歌い始める。
「♪~♪♪♪~♪♪」
配信とはいえ初めて人前で歌ったオリヴィアは、心臓がバクバクの状態でなんとか歌い終えてから、一息ついて清聴のお礼を述べる。
ピコン・・!ピコン!!
視聴者のコメントが流れてきた・・。
*配信コメント欄*
こめんと1☆N・N
「初配信おめでとう~がんばれよ!」
こめんと2♪N・N
「機械知性にしてはまぁまぁ」
こめんと3♪N・N
「もっと感情豊かに歌って欲しいけど、新しい門出がんばれっ!」
こめんと4☆N・N
「音楽に関するプリレゾンデートルなのかい?珍しいねぇ~。」
こめんと5♪N・N
「ダメだダメだ!もっと練習してこい!」
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コメント♪ 人類さんのもの
コメント☆ 機械知性のもの
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まだ人類全体に”今”より少し元気が残っていた頃、心無い言葉を言われて傷ついたりしたことも・・・。
しかし、物心ついたときよりオリヴィアの心に確かに存在していたものがある。
それは”歌を通して人々に温かい想いを伝えていきたい~。
衝動にも似た何か・・・だが、その灯のような気持ちがずっとオリヴィアの原動力となっており
絶対に歌う活動をやめようとはせず、できることを精いっぱいやってきた結果が”今”なのです。
そう、”叶わない願いであっても続ける”それが私の生きる目標でもあります。
明確に何方かに定められたわけではありませんが・・・。
「今のアーシェちゃんを見ていると・・・、あの頃の私のようではありませんか・・・。」
何事も、知らなくともとても真っすぐで・・。でも、私は長い間活動をしていても歌や曲を創造しようと思ったことは無かったのです・・、気付きもしませんでした。
・・・でも、初めてその現実を目の当たりにして気付いてしまうと、私の心にも大きなうねりのようなものが・・感じ・・られます。
私が心の内に抱いた感情はわずかな焦燥感と共にあふれてくる、これは・・・”憧れ”でしょうか?
胸の内が・・熱いです。
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
「オリヴィアさん~大丈夫ですの~?どこか具合がわるいです~?」
「ごめんなさいっ!大丈夫です。少し昔の事を思い出してしまって・・放心していたみたいです・・。」
気が付くと食堂の一角で椅子にもたれたまま放心していたようで、アーシェちゃんが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
それからアーシェちゃんと私は色々なお話をしました。
オリヴィア自身は過去に自分が活動してきたことで見えてきた時代の変遷や状況などを話し、歌を創造しようとしたときの感覚や手応えなどはアズリエルに質問して何か得られるものが無いだろうか?と・・。
病院の小さな食堂の一角で、やや世代が異なる機械知性シンガーが二人。
優しい夕日に照らされながら長い影が伸びていくまで、尽きぬ話題に花が咲く~♪
二人はとても似ているのだ・・ただ、視点が異なるだけなのかもしれない・・。
深い話をしながらそんな事を双方思っていたのかもしれない。
この日を境にアズリエルは、”オリヴィア~”と呼ぶようになり、オリヴィアもまた”アーシェ”と呼称するように変わっていった。
・・・・・
・・・・
・・・
各員にアズリエル目覚めるの報が届いたのだろう。
これより数日、一応名目上は入院していたアズリエルの元に訪れる者達が次々と現れることになる。