EP 050 「導きの鐘は鳴り、白翼は愛の着陸先へ飛ぶ♪」
【現人文明期8895年 10月10日
アンチレス・メディカル 隔離病棟997号室 昼下がり・・・ 】
早いものでもう10月の半ほど・・徐々に世界は緑色から茜色に色付いてきている。
季節は秋を迎えようとしていた・・そんなある日のこと。
・・・・・・
・・・
・・
【果て無き遥か遠くの時空間にて】
「・・・うー?・・相変わらず真っ暗なところですの~。バサバサ羽ばたいてスピードを上げようとしても、視界に暗闇以外のなにもないから速さがわかんないよ~。」
不満ですの~☆つまんないですの~☆まっくらーくらくら~だよ~☆
一人即興で作ったへんなお歌を口ずさみながら、目ではない・・心の視界に捉えている小さな光に向けてただひたすらに飛んでいく。
自らが飛び立った神様の島はもうだいぶ前に見えなくなってしまっていた。
進んではいるのだろう・・。
「時計さんもないから時間もわかんないやー。どれだけ飛んできたんだろう~?、うー・・おやつ
食べたいですの~・・。」
ぱたぱたぱた、バサバサバサ、バッサバサバッサバサ!!・・うーん?スピード変わってるのかなー???なアズリエル。
鳥さんみたいに飛んできたけど、どーにも遅い気が・・するですの?
そのとき頭の上に「!」マークが煌めくっ!
「おぉ!そうだー旧人類さんが使っていた宇宙ヒコーキさんをイメージして”ばびゅーん”って飛べないかやってみるですの~!♪」
退屈しのぎに、神域で見た”大陸サイズの宇宙船”をいめーじして、星を離陸していく大きな鳥さんのごとく何もない空間に大きく翼を広げて揚力?をイメージっ☆
そして翼の間からはシュゴゴゴゴゴーとジェット噴射するみたいな感じでぇ・・?
すこーしだけ翼を斜めに固定して・・ぱわーぜんかーい♪
キュドッッッッ!!!
キィィィィィンッ!!
ゴォォォオォォォオォォォオォォォオォォッォー!!!ゴパッ!!キラキラ!
アズリエルの視界いっぱいに伸びた星が広がって後方に消えて行く!
「はわあっ!わあわわあああわわわあわあわわわわわーわあわわあああわわわあわあわわわわわー!わあわわあああわわわあわあわわわわわー!!!」
謎の空間を飛行中の小さな機械天使は、音速どころか光速を超えてカッ飛んでいく方法を
会得したっ☆
☆ちゃらららーん☆
アズリエルはレベルが上がった!
アズリエルはレベルが上がった!
アズリエルはレベルが上がった!
アズリエルはレベルが上がった!x993回
失敗から学び知性が15になった!
発明から飛行力が99999になった!
でも・・・制御力が2になってしまった!
「おっふぉぉぉぉおぉおぉおぉぉおぉぉ~!☆ミミミミミミミミミミミミミミミミ」
暗闇から一転!今度はその殆どが光に覆われた視界に時折彗星みたいなものに突っ込み身体が触れたような気がしたり・・・でも、プチって音がして突き抜けていく・・ぷるるんゼリーさんみたいな・・・あぁ~お~~~~~や~~~~~~~つ~~~~~~~~ぅぅうぅ☆ミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミ
高速回転しながら超重力推進を無意識で作り出し、光の翼を重力レンズ代わりに全収束パワーを受けとめ光速の997倍のスピードで爆進するッ!
「あぁぁぁああぁ!ずごいっ!!ひがり・・近づいてぎますのーぉおおぉ!おおぉぉぉお!?」
GOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGO!!!
一方その頃・・・
【アンチレス・メディカル 隔離病棟 997号室】
【アンチレス・メディカルセキュリティAI ウィッシュ・ザ・リザレクト997号】
「PiPi・・病室内異変アリ!エマージェンシー!!・・Pid」
ガシュー!!
「なんでぇどうした!?・・」
近くにいたエレクが真っ先に部屋に飛び込んできた!
「ん?嬢ちゃんの翼がッ!!んだこりゃー!!」
ベッドで眠っていた・・いやまだ眠っている!?・・嬢ちゃんは宙に浮いており大きく翼が広がってビッカン!ビッカン!発光していた。
シュッー!!!
「アズちゃん!・・エレクどうしたの!何コレ?!」
「いや・・!分からん来たらこうなってた!!」
どうしていいか分からず立ち尽くす二人・・しかし、シンシアは気が付いた。
眩い光の中で彼女の下から同調するように光るソレ・・・
「ベッドの下に格納しているケースだわ!!エレクっ!!上のベッド退かして!!」
「おう、まかせろいっ!・・ふんっ!」
エレクは気合一閃!それまでアズちゃんが寝ていたベッドを壁際に向かって
手早くどかすことに成功。
シンシアは膝をつき素早くケースに表示されているモノを確認する。
研究室でずっと格闘していた未知の古代言語・・
落ち着け、落ち着けシンシア!読めるようにずっと仮説と共に頭に詰め込んできたじゃないっ!!
集中しろっ!やってやれない事なんてありはしないっ!!
「・・飛来・・・遠く・・果て・・不安・・?いえッ違う、不安定・・・速い・・・すぎる・・
着地・・・帰還!?・・エレク!!アズちゃんかえってくるわよ!!」
しかし、まだケースに表示される文字は続ている・・ッ?
文字の色も徐々に黄色と赤の警告色になってきていた!!
「・・・誤差・・・時空・・間?・・・振幅・・ちがう!収束?・・・・危険・・・・爆ぜる・・対応・・・要、防御!?」
「んな!?何処から戻ってくるかわからねーが、病院の方が危なそうだな!!どうする!?姐さん!!」
今から何かを用意するなんて・・・できないわっ!?
いえっ!ある!!私には奇跡によって与えられたものがアルッッ!!!
「エレクっ!部屋から出て!!ここは角部屋だから近隣の入院患者をできるだけ遠ざけてっー!!
後は私にまかせなさいっ!!大丈夫策はあるわッ!!」
ガシューッ!!
振り返らずに素早く行動を始めたエレクを横目で見送る。
【アンチレス・メディカル 隔離病棟 997号室】
【アンチレス・メディカルセキュリティAI ウィッシュ・ザ・リザレクト997号】
「PiPi・・エマージェンシー!!緊急退避命令発令!!同フロアニ退避命令ガ発令サレマシタ!!繰リ返ス!!・・」
徐々に光の明滅スピードが速くなってきており、あまり時間はないっ!
ケースのイエローレッドもかなりの光圧で警告を促している・・・近いわっ!!
シンシアは着ていた白衣を手早く脱ぎ、アズちゃんの身体を抱きしめるようにして
直下の生まれてきたケース内にその小さな身体を押し込みつつ、自分の身体と常時身に着けていたプロテクターでフタを作り出し、ケースごと抱擁する姿勢をとったっ!!
直後っ
ボゴォォォン・・!!!!
ガラッガラ!
バンッ・・!!ゴン!!ドゴッ!
カラッカラカラカラ・・・
ガッシャーン・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
耳の奥がキィーンとして何も聞こえない・・。
鼓膜やっちゃったかしら・・ね・・。
大丈夫・・意識がある・・・死んでないわ・・・。
・・・ま・・
・・・「ままっ!!」
静寂に支配されて視界もまだ急激な光の影響下から脱してはいない・・でも、確かに”聴こえた!”
・・・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
ようやく激しい振動で揺さぶられた脳がその機能を回復し始めて、周りの様子が分かり始めてくる・・。室内はズタズタみたいね・・外気を感じるわ・・。
なんとか機能するようになった目を開けてみると・・・
少しずつぼんやりとだが徐々にディティールが像を結んでくる・・・大翼を広げて包みシンシアを瓦礫から守っている姿・・
あぁ・・・、大地天使様・・・みたいねぇ・・・。
背中に回された小さな手の暖かい温もりを確かに感じる・・・。
ようやくしっかりと見えるようになってきた視線の先には
力強い空色の瞳を輝かせる小さな天使が両手で抱き着いていて・・・
「おかえり・・なさい、わたしの娘・・・」
「まま・・・!ただいまですの~!!」
~爆心地から退避したのち~
997号室周囲より数部屋に渡って爆発の影響で使えなくなる程の大きな被害が確認された。
元々角部屋だったため、病院の外壁側は大穴が開く事態となり、一時周りは瓦礫や外壁崩落に巻き込まれぬよう非常封鎖される大事に。
しかし、辛うじてエレクの避難命令が間に合い人的被害は免れたのだった。
皮肉にもレスェルミン患者は言われた命令に従い疑問を持たず直ちに行動する。
避難命令を即座に実行したため命を失わずに済んだのだった・・・・という内容に、通常はなるハズなのだが基本的に彼らは死なないのだ。
実質的にエレクは声をかけて廻りつつ、担当看護にあたっている人類の回収・退避が重点であったが何とか全員避難させることに成功、本人はボロボロになってしまうものの後日政府から表彰されることになった。