EP 002 「女傑と才媛」
おかしいわね・・・、家はおろか飲んだくれの吹き溜まり酒場“カオスヒューマン”にもいないじゃない。
そういえば、次の仕事は政府クライアント指定の「旧時代発掘現場」だって言っていたような・・。
あの辺はもう普通に立ち入る人類は殆どいないハズ・・。
「・・・イヤな予感がするわね。」
一度発注先のクライアントに確認を取るべきか・・。そう思いながら政府中枢が入っている積層型巨大建築物に足を運ぶ。
「はぁい、ルーテシア・・ちょっといいかしら?」
彼女は“ルーテシア・エビデンス”女性型機械知性で惑星代表の片割といっても過言ではないわ。
なんでも一人でこなせるスーパーウーマンAIで、この役目のために通常の機械知性とは違う専用的な設計らしい。ぜひとも一度詳しく調べてみたいわね・・。
「・・・シンシア様、いつもいつも面会予約の順番を無視するのはお辞め下さいとアレホド・・・」
「あー、悪いわね。でも“緊急特例条項抵触”に関する案件だから、優先してちょうだい。」
もうこの惑星にそう多くの“まともな人類”は残っていない。
よって人命がかかわる案件についてはかなり融通が利くのが一般的なのよね。
「・・!!・・承知致しました、最優先で対応致しますので奥へどうぞ。」
「・・・・・・・というわけで、ベクターが仕事を請け負ってから、指定時刻を72時間超過しても安否確認ができていないの。」
状況を簡単に説明した瞬間、ルーテシアは即時状況を把握、現状確認の完了、対策として
示せるものを即座に提案してくる。
「・・市街のモニターに72時間以内のベクター氏を捉えたものはありません。
受注後の市内間通話記録、ともに未検出。
作業現場でのトラブル発生の可能性が87.2%、対処法は人命救助優先法第26条により捜索隊の派遣を実施致します。」
やはりいいわね、この子の有能なところ素敵なのよね。
エレクじゃないけど、一度分解してみたいわねぇ。
「捜索隊を出すまでにかかる時間が惜しいわ、私が装備持って潜るから念のため“強化ビーコン”と大深度地下でも使用できる“マントル級レスキューシグナル”貸してちょうだいな。」
・・・捜索隊組織まで最短48時間、リスク比較分析・・・
「・・・ご協力に感謝致します。指定の支援アイテムは36秒後にお渡し可能です。該当地区への通行許可・・発行完了、シンシア様のIDに付与致しました。」
一度戻って装備を固めてから出発ね。
なんでもなけりゃビンタの一発と“何か目ぼしいブツ”で手を打ってあげるんだけど・・・。
【旧時代・廃棄管理区画・997地区・発掘ポイントβ】
「・・・・あのバカ・・・、辺り一帯が崩落してるじゃないの!!」
それにしてもベクターは若干23歳の若者とはいえプロとしての経験はいっぱしのハズだ。
救難ビーコンの一つも受信できないのはおかしい。
・・・うわー深いわね。全く見えない深淵の闇みたい・・。
オプティトロンシーカーの推定深度は・・!7000~8000メートルですって!?
「Pi・・こちらシンシア、緊急IR発信・・」
「状況了解致しました、後発救助隊・地下救助装備を付加して派遣致します・・。Pid」
「・・・いくわよ!直径7kmオーバーの穴なんて中々探索できるもんでもないしねっ!」
とてもドクターとは思えない女傑が一人、全ての光を拒絶するかのような深淵に空いた闇に向かっていくのだった。