EP 045 「Singularity Song / Re.Code 願いの翼に課せられし魂の対価」
【現人文明期8895年 9月4日 リリエンタール&ハーモニクス診療所】
このところずっとピリピリしていたリエル嬢ちゃんの雰囲気が、今朝起きだしてきたら急に和らいだように見受けられた。
「エレクぱぱ、おはりえる~ですの♪」
「お、おう!おはよう~。なんでぇ今日はえらくご機嫌じゃね~か?・・しばらく取り組んでいたアレはもういいのかい?」
一時期ずっと嬢ちゃんの顔を占めていた険しい顔つきはすっかり無くなっており・・元通り。
「うん!できたですの~☆」
「おう?そうなのか~・・、それにしてもリエル嬢ちゃんは一体何をしてたんだ?」
「えーっとぉ・・、うー?・・お歌をね、魂の音で曲を織って、心の色と紡ぎあわせてお歌作ったですの☆」
・・・ふむ、いまいち要領を得ないが、新しい曲と歌を作った?・・・ってことか。
時を同じくして姐さんが部屋から出てきた。
「おはよう!アズちゃん~♪」
「シンシアまま、おはりえる~ですの♪」
あら?っていう擬音付きの視線がこちらに飛んで来たんで、軽くうなずき返す。
おし、リエル嬢ちゃんはやっと通常モードに復帰したみてーだな。
「アズちゃんの課題、無事に終わったみたいね~?」
リエル嬢ちゃんは先ほどと同じ?”曲と歌を作ったよー”という説明を姐さんに繰り返している。
「やっぱり!作ってしまったのね♪凄いわっ☆さすがわたしのアズちゃんよ♪」
「ままー♪」
姐さんの胸にぽすんっと収まり・・・久しぶりに見ることとなった嬢ちゃんの甘えた動きと
表情を見て、日常に帰ってこれた気がしてホッとする。
「素晴らしいわ!!機械知性による芸術活動の分野において、8895年の人類史上でオリジナルの作曲、作詞を行った者は前例が無いのよ!今この時まではっ!!歴史的偉業だわ~♪」
「んな?!」
そうだったのか・・・、俺は自分の専門分野しか興味がねぇタイプだから知らなかったぜ・・。
歴史上初めてなのか・・、姐さんがいうなら間違いねぇな・・そりゃぁスゲェ!おっとこうしちゃいられねーや、一旦奥に引っ込み何やら探しているエレク。
「そうそう、アズちゃんの作ったお歌聞かせてもらうことはできるのかしら~?」
「えっとね、最初にお届けしないといけない人がいるですの・・・まま、ゴメンね~・・それまで待って?」
「ええ、もちろんよ♪」
興味はあるけれど、やはり理由があるのね。
大丈夫!それじゃぁ楽しみにしているわね・・、と返事するとニッコリ笑顔が帰ってきた。
「あら?エレクどうしたのー?急にソワソワ落ち着きないわねぇ・・・」
「この間マシンハートのメイディ氏から嬢ちゃんの元気がない時にでも出してやってくれって俺らも食べれるっていう食料預かってたんだよ。お祝い・・なんだろ?全員揃ったんだメシでも食おうや。」
「うー?・・くんくん♪おやつですの~☆」
「あら、いいわね~♪」
診療所は少し前まで姐さん以外飲食する者が居なかったんだが、嬢ちゃんがきてからそれも変わり・・今じゃ俺まで食べられるモノが開発されちまったってんだから、ここ暫くの変化には驚きっぱなしってーもんだぜ。
そんなささやかなお祝いの宴をしていると・・・。
【リリエンタール&ハーモニクス診療所:セキュリティAI“イルカ87号ちゃん”】
Pi・・ぴんこーん♪ ガル・ブースト氏ノ来訪ヲ確認・・解錠シマスカ?・・仕事モシテナイシOKOK解錠シマスヨーン。ドルフィーン・アンローック!ガチャッ!Pid
「おう!お邪魔するよー。早速だが優先度の高いヘルプコールが来たんで顔出したんだが・・」
「あら・・?私はコールしてないわよ?」
とてとてとてとて・・
「がるー、アズが呼んだー♪」
ガルの周りをまわっておやつが無いか調べてるの癖になってるな・・嬢ちゃん。
「おっとそうだったのか。それで、アズの嬢ちゃん何か大事なご用事かい?」
腰をかがめてなるべく低い視線を取り、聞く姿勢を見せるガル。
幼いこの娘はこう見えても第一級機密IDをもつ要人でもあるのだ。
「うん・・、レスェルミンとテレーゼちゃんのことで大事な連絡があるから、おじーちゃんのところに直接連れてって欲しいですの~。」
ガルはシンシアの方に視線を向け確認すると、おちゃめなウインクと共にこんな言葉が飛んできた。
「凄いわよ!アズちゃんは人類史上初の物事を成し遂げてしまったんですから~♪ドクター・エンディアによろしく言っておいてね。プラネットハーツの歴史データが今日をもって書き換えられることになるハズよ。」
「・・・了解だ。すぐにクルマを手配するから少し待っていてくれな。」
なんだかお祝いムードみたいだな・・と思ったら、本当に何かの祝事だったらしい。
だが、政府関連事項であるならばこれも大事な仕事だ。
わざわざコールされたという事は理由があるのだろう、警備レベルをワンランク上げてベストを尽くすのが俺の流儀だ。
【政府庁舎内 ドクター・エンディア 執務室にて】
・・・以上です。端末からルーテシア嬢にも一応話を通しておく。
軽く状況の説明とコールを受け連れていく旨は送迎車の中から済ませておいたため、比較的スムーズに事は運んだ。
「少ししたらブランシェットさんが来るから、少しソファに座って待っててくれなアズの嬢ちゃん。」
「うん♪・・そわそわ」
ん?・・おトイレか?と思ったが機械知性の嬢ちゃんにそれはないな・・あ、そうか・・、今日はまだ”おやつ”出して無かったもんなーとガルの脳細胞が導き出した優秀な回答により自己解決した。
「ほら、待ってる間おやつ食べてな~。」
応接用に事前用意してあるお茶請けをもってテーブルに置いた瞬間、トレイ上の”ソレ”は即消滅した。
「むぐむぐ、おいしいですの~♪おやつーありがと~☆あー、お抹茶ですの~見事なお手前だよ~えへへ~☆」
ふぅむ、速いな・・あれで飲み物も全く零さないんだから大したもんだ・・。お茶もいけるんだな~などと穏やかな時間を過ごすことしばらくして、部屋の主人ドクター・エンディア=ラング・ブランシェットが戻ってきた。
「おぉ~、アズ君しばらくだね~。アンチレス・メディカルの方で精力的に活動しているっていうのは聞いているよ。ガル君を伴ってくるっていうのは珍しいな、今日はどうしたんだい?」
「おじいちゃんに大事なご連絡があって来たですの~。レスェルミンとテレーゼちゃんのこと・・。」
それでは俺はこれで失礼します・・・、挨拶を入れて執務室の前で待機に入る。
恐らくセキュリティレベルが高い案件が話されるはずだ。しばらく歩哨としていた方が良いとの判断を下す。
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
「うん、この間のことじゃな?テレーゼに色々聞かれてしまったみたいでな・・、あの件は済まなかった。もう少しワシが注意しておかねばならんことだというのに、気が抜けておったのか・・張りすぎていたのか・・。」
「ううん、大丈夫ですの!今日アズが来たのは慰問活動のお歌を”創って”きたからまずはそのご報告ですの~。」
うん?と片側の眉をぴくりと上げるドクター・エンディアに対して
アズリエルは新しい曲と歌を創作したことを告げたのだった・・・・・・・・・・・・・・・。
???・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!
「な!?なんじゃと!?機械知性のアズ君が曲と歌を一から創造したというのかっ・・!これは・・本当なのか・・っ」
「うん、本当だよ~。お歌は魂の音で織って、心の色と紡ぎあわせて創ったですの~。」
そして、続けて慰問活動として”創作歌”をテレーゼの両親にまず初めに歌うことに対する許可を求めてきたのだった。
なんということだ!・・、この子はやや特別な出自ではあるがそれでも機械知性であることには変わり無い筈だ。ある意味同時代の設計思想と思われるルーテシア君でも、このような芸当は到底できない。
・・・この手の創造性が無いこと自体、機械知性自身には”自覚できない”はずなのだ。
感じることすらできない事を言語にすることは出来ないものだ。
まず第一にプリレゾンデートル・・・、他の誰でもないこのワシが望んだ”歌天使を探してほしい”というモノであるが、これに掠りもしていない。つまり、この子の動機は第三者に与えられたプリレゾンデートルによるものではない・・・。
誰にも求められず、強制されたわけでもなく、自らの意思で動機を持ち、創作物を生み出したじゃと・・。
それも曲と歌を同時に作り出したっ!。
それは・・・それだけはな、本来普通の機械知性では唯一出来ないことなんじゃよ・・アズ君。
それを成しえる者のことを・・”人間”というんじゃ。“人間” というんじゃ。
ワシも研究している訳ではないから、なぜそうなのかという原理は分からん。
でもな、ワシが見てきた数千年分の記憶の中に”そんな機械知性”は一人もいないことだけは確かじゃよ。
驚愕で心臓がドクドクいってしまうほどの衝撃を受けたワシは・・
「全て自由にしていい、望んだままにやってみなさい。」・・・辛うじてこれしか言えなかった。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・
セキュリティフロアのEV(重力昇降機)がチンと音を立ててルーテシア・エビデンス嬢がやってきた。
「あら?ガル君・・珍しいですね今日は門番役までオーダーなのですか~?」
「あぁ、先ほどの報告通り今アズのお嬢ちゃんとドクターが最高秘匿レベルのセキュリティで会談中だよ。」
「私ドクターにプライマリーコール(*1)を受けたので参上したのですけれど・・」
「了解だ、ならそのまま入ってくれ。なんでも歴史が塗り替わるレベルの話らしい。しばらく誰も通さないようにしておくよ。」
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プライマリーコール=第一級最優先呼び出し、他を全て中断してでもすぐ来てねってやつですの。
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「失礼いたします・・・、プライマリーコールを受けましたので参上致しました。」
「ルーテシア君、心して聞いてくれ・・・今日の予定は全てキャンセルだ。テレーゼに迎えをやり至急アンチレスメディカルに連れてくるよう手配してくれ・・・。そして君も我々に同行してくれ。・・プラネットハーツの歴史に残るであろう特別な時を共有して欲しい。」
長らくドクター・エンディアとご一緒していますがこのようなオーダーは初めてです・・。
「・・・?予定を白紙に・・ですか・・承知致しました。それにしてもどうされたのですか?一体何が・・・?」
ドクターはこんな不明瞭な物言いで予定をキャンセルされたことなどありません。
私は状況が掴めず困っていると・・
「アズ君が機械知性として人類史上初めて”創造”したんじゃよ、曲と歌の双方を同時に・・な。
ワシの息子夫婦・・・テレーゼの両親のために・・だそうだ。」
「・・・創造・・?えっと・・、えぅ?・・・一から生み出した!?という、こ、とですか?え・・・そんな!・・ウソ・・」
ルーテシア・エビデンスは200年毎に身体を換えて、ずっとプラネットハーツという惑星システムの管理者としてココに在るからこそ例外的に把握している・・、私達機械知性には”それ”が出来ないということを・・・知っているのだ。
「アズ、お歌作ったですの・・。アズにしかできないアズのやり方で紡いだの・・。レスェルミンに苦しむテレーゼちゃんの両親さんに伝えたくて・・・、届いてほしいから・・・」
ダメ・・ですの?と不安そうに小さな瞳が揺れている。この小さな子は何も知らないのだろうか・・?まだ実物を聞いて確認していないじゃないか?という小さな真実を拠り所に心の平静を保とうとしていたルーテシア、ハッと我に返り・・
「いいえ!ダメじゃないですよ♪一緒にアンチレス・メディカルに参りましょう!」
ならばこの目で確認してみる必要がありますものね・・、とまずは求められる行動に移ることにするのだった。
一度すると決めたルーテシアの行動は素早い。
手早く扉の前にいたガル君にテレーゼちゃんの送迎をお願いして、インカムから緊急出動要請を出した政府車両を用意。庁舎内の仮封鎖と緊急条項適用でドクターのスケジュールを白紙撤回する旨の告知や関係機関への連絡などを同時にこなしていく。もちろんアンチレス・メディカルへの連絡・対応手配も済ませた。
こうして一行はアンチレス・メディカルへ向かう。
【アンチレス・メディカル 病院長室】
【アンチレス・メディカルセキュリティAI ウィッシュ・ザ・リザレクト245号】
「Pipi・・緊急政府案件一行様ノ来訪ヲ確認シマシタ・・マスターコード検知・・解錠シマス・・Pid」
「いきなり大人数で押しかけて済まないな・・、カプセル病院長」
「いえ、緊急連絡は受けておりますので・・それにしていも、緊急で歌唱慰問とのことですが・・それに一体皆さん揃ってどうされたのですか?」
病院長室に揃っていたのは、メディエス・カプセル院長、アズリエル・ノイエン・アーシェライト、ドクター・エンディア(ラング・ブランシェット)、ルーテシア・エビデンス、の4名。
【アンチレス・メディカルセキュリティAI ウィッシュ・ザ・リザレクト245号】
「Pipi・・緊急政府案件条項該当者、テレーゼ・ブランシェット氏ノ来訪ヲ確認シマシタ・・解錠シマス・・Pid」
「あの・・・・お待たせいたしました。テレーゼ・ブランシェットです・・・。皆様・・どうしたんですか?おじい様とノイエンお姉様まで・・・??」
これで関係者は全員揃った。
静寂に包まれる中、まずは最高権限者であるドクター・エンディアがアズリエルに発言を促す。
「さぁ、アズ君・・、皆に今日これから行うことを説明してやりなさい。」
「はいですの!、今日はアズがテレーゼちゃんのご両親にお届けしたいお歌を創作して作ってきたですの~。自分なりに考えてファムちゃんのお手伝いをしながら、私自身ができる活動として考えて・・答えを出したですの。」
「ノイエンお姉様・・・・」
「実はあまり知られていない事象なのですが、機械知性による一から創造された作曲・作詞というのは”本惑星プラネットハーツの人類史上初めて”・・・となります。」
素早くルーテシアが皆が揃っている必然性について補足説明を行う。
「機械知性体による課題外創造性の自主的発露と結果物だと!?」
メディエス院長さんは一人口をぽかーんとあけていたので、アズはドレスのポッケに仕舞っていたおやつを一切れ放り込んでみた☆
「おやつ~☆メディエス院長先生も食べるんだー♪ポイっですの♪」
アズリエルの投げた”おやつ”はメディエス院長の口元にジャストミート!☆
「むごっ!・・むごご!?・・、おや?機械知性の私でも食べられるだと・・?いや、そうじゃないっ!?・・ん?なんだ初めての経験だが悪くないな・・、これは?」
「”スタジオマシンハート”で開発された”りえる饅頭”ですの♪よかったら通販してねー☆」
緊迫した空気を完全スルーして、おやつスローイング&販売CMが行われた事により歴史的な立ち合いという荘厳な雰囲気は完全にブレイクしてしまうのだった・・。
「あー、イベントの時のやつか!それワシのとこにも定期で届けてくれんかね?」
「ノイエンお姉様のお饅頭おいしいです♪」
「アズちゃんの”りえる饅頭”通販できるようになったんですね~。あとでテンニエスさんに連絡しないと・・・」
「院内で働く機械知性向けに売店で売り出してみるか?・・・」
【アンチレス・メディカルセキュリティAI ウィッシュ・ザ・リザレクト245号】
「Pipi・・当院ナース、ファム・プリティアノ来訪ヲ確認シマシタ・・解錠シマス・・Pid」
カチャッ・・ぱたん。
「あのぅ・・いんちょー?午後の検診についてですけれど・・って何してるんですかぁ~?」
「ははは、それもありじゃな。」
「ふふふ、いいですね~!」
「???」
ファムちゃんがやってきたと同時に視界に写ったソレは、テーブル上に乗せられた”小さなお饅頭”を見つめながら大人も子供も楽しそうに和気あいあいとしているだけの、謎の光景だった。
・・・・・
・・・
・・
「えっと、それじゃ病室にご案内しますぅ~。」
一息ついてからファムちゃんのご案内で
テレーゼちゃんのご両親さんがいる病室に案内してもらう一行。
特殊なレスェルミンによる進行状況のこともあり、他の患者さん達とは少し離れた病室にいるみたい・・。
「こちらになります~。」
「お父様、お母様、テレーゼだよ・・、今日は親しくして下さっているノイエンお姉様がお歌を歌ってくださるそうですよ」
声を掛けに病室によくきているテレーゼちゃんが、優しくご両親に向かって話しかける。
「テレーゼちゃんのパパさん、ママさん、こんにちえる~ですの♪わたくしはアズリエル・ノイエン・アーシェライトっていいますの~☆」
「そうか、よろしく・・・。」
「ええ、よろしくね・・。」
超初期症状のハズが、すでに初期症状中期位になってしまっているご両親の反応に、一同沈痛した面持ちになってしまう。
よーしっ☆気持ちを切り替えて歌うですの~♪
「それじゃぁ、聞いてくださいませですの~♪機械知性特異点干渉創造曲(Singularity Song)による第一番歌唱、帰還請願魂音色 (Re.Code)リ・コード・・・・」
ノイエンお姉様の手元にはいつの間にか小さな羽の生えたマイクが握られていて、どこからともなくピアノの前奏から始まる曲が部屋を包み込むように暖かい風音が抜けていく・・・。
やがて静かな旋律にあわせて歌が始まる・・・
**********************************
「***Singurality Song .Re.Code ただいま製作進行中***」
~☆アズリエルの歌唱しているむーびーは公式発表までしばらくおまちくださいませですの☆~
それまでの間、歌詞をここで初公開しておきますの~♪
【1番】
ねぇ、私に貴方の心を、想いを伝えて欲しい
瞳の輝きを失うまえのあなたのキモチを・・
きっと心に封じられた願いを声にしてみせるから
たとえひとり、闇をさまよったとしても、思い出してこちらを向いて
翼をたたんで聞こえぬ音をつむごう、病める心を解き放つ天使をさがして
どうかお願い帰ってきてね、大切な人があなたの隣で待っているの
刻が貴方を捕らえていても
流れる刻を止めることはできなくて
どうかお願い戻ってきてね、めざめるまで守っていてあげるから
どうかお願い帰ってきてね、その瞳に大切な人をまた映してほしいよ
【2番】
ねぇ、私に貴方の心を、願いを教えて欲しい
瞳の輝きを失ってからのあなたのココロを・・
きっと時間に封じられた想いを歌にしてみせるから
もしもそこに、壁がそびえたっていても、あなたのこと見つけてみせる
翼をひろげて果て無き歌を飛ばそう、終わりなき闇解き放つ光をみつけて
どうかお願い帰ってきてね、大切な人があなたの傍で泣いているの
刻が貴方を捕らえていても
流れぬ刻をきっと変えてみせるから~
どうかお願い戻ってきてね、私がそっと手を引いてあげるから
どうかお願い帰ってきてね、その腕に大切な人をまた抱きしめてあげて~
・・Re・code~(り・こーど)・・。
**********************************
歌が終盤にさしかかる頃、小さな願いを伴った優しい黄貴色が天に登っていく光景が顕現しだして・・・、それに空が応えるかの如く水貴色が歌い手のアズリエル周囲に降り注いでくる。
・・・ノイエンお姉様・・きれい~
なんじゃ・・これは一体・・?
他の者にも・・見えている・・のか?
最後の”歌詞”Re.Codeとアズリエルの小さな口が紡いだとき、水貴色を纏った手をテレーゼの両親に向けると・・スゥーっと光が二人を取り巻き回りながら弾けて消えていった。
ぺこりと頭を下げ・・・歌が終わった刹那、アズリエルの翼が純白色に光り奇跡の風と共に吹きぬける!!
「アズリエルさん、テレーゼ・・、ありがとう!・・いつも声は届いていたよ・・・心の中で・・・見守ってい・・・る・・・・」
「テレーゼ!愛しているわっ・・アーシェライトさん!私達の愛しい娘を・・どうか・・・よろしく・・お願いし・・ま・・・す・・・・」
「パパ!ママ!・・っつ・・わぁぁ!!」
「お前たち・・!意識が!?うぅ・・」
純白色の暖かい風が吹き抜けていく、瞬く光りが消えるまでの奇跡。
テレーゼの両親は涙を浮かべながらも笑顔で・・・・・、確かに家族の心を一つに通わせる帰還の願いは叶った。
元の状態に戻ってしまった両親にテレーゼはしばらく抱き着いて声をあげて泣いていた。
無表情になってしまっていたが、その手が娘の頭の上にあって僅かに動いていたように見えるのは、ただの偶然なのだろうか・・。
**~しばらくして~**
お辞儀して光を放ってからにっこり笑顔のまま翼を出しっぱなしで立っていたアズリエル・・
しかし、声をかけても動かない?
「ノイエンお姉様??」
ぱたんっ・・
「お姉様っ!大丈夫ですかっ!?ノイエンお姉様!!」
「おぉ!?アズ君どうしたっ!!しっかりせんかっ!!」
「プリティア君!担架・・いやっ・・私が直接運んで診るから治療室の確保を!!・・・まずい!
呼吸してないぞ!!先に蘇生措置を実施する!!・・・・・・
3・2・1コンタクト!!ッッダメだ次!・・ファム!!中央処置室に変更だ!!機械知性対応
医師をカキ集めろ!急げぇぇ!」
「はいですぅ~!」たたたたっ
「ルーテシア君!!シンシア嬢に応援要請発令!
政府飛行ユニットの緊急使用と強制接舷命令も同時発令!!
アンチレスメディカル中央処置室最寄りゲートに直接着けろ!!交通管制はワシがやる!!
人命以外の損害に一切構わず時間を優先しろっ!行けッッ!!」
「はいっ!復唱省略行動開始!!」すたたたた
一度は奇跡を目の当たりにして祈るような気持ちであった一同は、神が要求したのだろうその過剰なまでの対価について・・・後日改めてレスェルミンは呪いなのだ・・・と本気で思った。
【リリエンタール&ハーモニクス診療所】
プワァーーン!!プワァーン!!突如として診療所付近一帯に大音量の警報が鳴り響く。
【リリエンタール&ハーモニクス診療所:セキュリティAI“イルカ87号ちゃん”】
「Pi・・PiPiPiPi!!! エマージェンシーコレクトシグナル! 容体急変患者名ー”アズチャン”ー 第一所見意識レベルアンダー300!フラットライン!!、政府飛行ユニットΛ997号当院目標ニテ出動ヲ確認。付近一体交通封鎖命令発令確認、当院屋上へ強制着陸接舷予定!予想到着マデ330Sec 派遣先アンチレス・メディカル6221階集中治療室 緊急応援要請受諾!タダチニ派遣ヲ! カウント開始!!!319、318、317、・・・」
「なんですって!?アズちゃんが心肺停止!!・・緊急機材は1、2、5、9番をベースで用意して!!・・・行くわよエレク!!」
「・・・了解!!持ちこたえろよ!嬢ちゃん!!!」
叫び怒鳴り状況を伝えあいながら、最速で準備を開始!
頭上から航空機の音が聞こえてくる・・・。
必要な機材を持てるだけもって二人は急ぎ階段を駆け上がるッ!!
「イルカちゃん!緊急命令!!・・・。政府首脳部よりベクター・グリンドルフに対し緊急招集発令!アンチレスメディカルまで必要機材の運搬を依頼!!コスト手段を問わず!!アズちゃんが死にそうなの!なんとかしてぇーー!!」
「受諾!!PH/ADFラインー緊急指令プロトコル非常回線オープン!! ベクター・グリンドルフ、応答セヨ!!」
【アンチレス・メディカル中央処置室AI ウィッシュ・ザ・リザレクトΩ】
「緊急手術開始!担当医師は機械知性治療モードで手を尽くせ!プラネットハーツ・メインアーカイブより最優先バックアップラインを確立!PH/ADF FP-AED-Active!!」
ドガッ!!
扉を蹴り飛ばすかのようにメディエス院長に抱きかかえられ運び込まれてきた小さな身体。
翼の色が灰色になってきており徐々に黒ずんでいくように見える・・・。
「お前たち急げ!フラットラインから300S、通常手段で心肺再始動不能・・・!よし!!準備できてるな!!PH/ADF FP-AEDを!・・・コール!3・2・1・コンタクト!!」
バンッ!!と凄まじい音を立てて大型の心肺再生装置が動作するっ!!
どうだ!?医師たちは素早く状況を確認と報告に声を荒げる!
「レベルインジゲーター!チェック!・・フラット!、リチャージ!!」
まずい!!心肺停止から5分経過すると蘇生率は加速度的に減少してしまうっ!!人も機械知性も変わらないんだよチクショウが!!
「頼む・・・!!帰ってきてくれっ!君が逝ってしまったら私はどうすればいい!!まだその時ではないのだろう!!」
「トリガーセット!!・・コール!3・2・1・コンタクト!!」
ドンッ!!・・・・くぅぅぅ・・・ダメ・・か!?
【アンチレス・メディカル中央処置室AI ウィッシュ・ザ・リザレクトΩ】
Pi!PiPiPi!心肺機能再起動を確認!!不整脈・・同調補助開始!生命維持システム出力100%展開!!
「ヒットオォォォ!!メンテラインとシグナルアライメントに移行だ!!いけるっ・・いけるぞ!!」
「う・・くはぁっ!・・・・あ・・う・・・うぅ・・え・・・」
【アンチレス・メディカル中央処置室AI ウィッシュ・ザ・リザレクトΩ】
「Pipi 政府緊急応援 ドクター・リリエンタール、ドクター・ハーモニクス 到着 ・・Pid」
「アズちゃん!!」
「嬢ちゃん!!」
「あ・・・・え・・・・はぁ・・・・くぅ・・えぅ・・・・」
メディエスは入ってきた専門医に素早く状況を伝える!
「最低5分間以上フラットラインオーバー、数秒前に心肺停止からPH/ADF-AEDにて蘇生成功!意識レベルアンダー100まできたぞ!機械知性医療の専門医が当院にはいないんだ!引継ぎ急いでくれ!!!」
オーケー!よく持ちこたえてくれたわ!!と一声叫んで・・
「エレクっ!1、2番のリンクを最優先!院内AIとPHサポートでアクティブリンク!!5、9番はこちらでやるッ!!」
「あいよ!!・・・2番インジェクトアクティブ!!・・・1番もOK!・・・アクティブリンクオープン!!」
運び込んだ機材と現場のシステムを素早くリンクさせて、嬢ちゃんの細かい状態解析を引き継ぐエレク。
「アズちゃん・・・、その翼も身体もわたしが絶対治してあげるからね!!頑張って!」
猛烈な勢いで端末操作をしながら、息を吹き返したばかりで意識の無いアズちゃんの小さな手を左手でそっと握りこむ。
「嬢ちゃんの翼、自己再生欠損が始まっちまってるな・・・クソっ!手持ちにない26番がねーと自己増殖再生までパワーがあがらねぇ・・!!!オイ!!この病院には26番ブースターはないのか!!」
「すみません!当院は人類専用であるため、最低限の機械知性対応の設備しかないんですっ!」メディエス院長の悲痛な叫びが部屋に響く・・。
どうする?どうすればいい!?・・考えろシンシア!・・・何か・・・何か手があるはず・・??
【アンチレス・メディカル中央処置室AI ウィッシュ・ザ・リザレクトΩ】
「Pipi 政府緊急応援外部支援員 ベクター・グリンドルフ 到着 ・・Pid」
クソ!早く手術室にいれろ!!急いでコレがいるんだよ!!という声がすぐ外から聞こえてくる。
来たっ!!シンシアはもうこの瞬間に予感した。翼の組織を再生させるためのプログラム起動準備をすでにその手は始めているっ!!
「エレクの旦那!!26番!!!コイツだろ!!」
「ベクター!!それだぁぁぁぁ寄越せぇぇー!!急げ!!嬢ちゃんの翼がダメになっちまう!!」
ベクターが手早く手術台横に置いた装置から動力接続とリンクを一瞬で済ませて姐さんにサインを出す!
「ベクターナイス!!後でいくらでも報酬支払ってやるわ!!後はそこで見てなさい!!・・・アクティブリンク!!・・エレク!マイクロパルスのリジェネレートモジュール・アライメントオペレーションやるわよ!!サポートお願い!!院長!!あなたはPH/ADF演算バックアップをフルコネクト維持!モニタリング頼むわ!!」
「了解!インジケーションチェッククリア、パワークリア、アクティブリンク良好いつでも行けるっ!!」
「よし!ぜってー翼を白に戻すぞ!!パルス照合完了、デュアルオペレーション開始!!」
こうしていくつかの奇跡と、各員の懸命な対応により・・アズリエルはその命と翼をなんとか取り留めることになったのだった。
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第一章 ~終~
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