EP 043 「ようこそ!シンシア・ラボラトリーズ~秘密研究室~2」
【現人文明期8895年 8月15日】
いま”人類遺産解析担当室”からヘルプを頼まれて急遽出張ってきているのよ。
なんでも、遺産を管理する専門解析部署でも詳細認定ができない先史文明級の遺産が出土したみたいで・・・それだけであれば、私シンシアとしては別段遺跡マニアというわけでもないし
そこまで食指が動くものではなかったのですけれど・・。
ドクターのところに上がってきていた報告レポートで介入を決めた要素はコレよ!!
「この遺産は、想定先史文明期のモノであるにもかかわらず例外的に人類が触ることが可能です。」
ふふっふー!来た来たこれぞ私の出番よね!!
とりあえずドクター・エンディアに申請して全権委任を取りましたから、今からその”ブツ”が私の研究室に運ばれてくる手はずになったってとこなのよね~素晴らしいわ♪
・・・・・・
・・・・
・・
【政府庁舎内 シンシア・ラボラトリーズ 無敵研究室AI/ビッグ・マザー】
「Rin♪・・人類遺産解析担当室、同室長リック・マクドゥエル氏の来訪を確認致しました。
・・武器、攻撃性、危険性、毒性・・・全て検知なし・・、しかし、輸送品に未知の遺産を検知・・危険性については評価不能です。・・・解錠致しますか?・・Siun」
「ええ、大丈夫よ!解錠してちょうだい!」
準備しながらこの部屋に備え付けられている、超級AI”ビッグ・マザー”に許諾を出すと即解錠実行、訪問者が中に入ってくる。
「ドクター・リリエンタール!お手を煩わせてしまい申し訳ありません。政府特別研究室から助力のお申し出をいただけて大変助かります。」
この長ったらしい名前はシンシア研究室の正式名称らしいわ。ヤバめのモノを扱うから一応政府の特別機関扱いってわけね。ルーテシアから説明されていたけどすっかり忘れていたのよ・・あはは。
一瞬それなに?な表情をしてしまいそうになったけれど、気合で元の研究者としての顔に修正修正♪
挨拶しながら自然と握手を交わす。
ルーテシアに対して良くヘラヘラしているイメージの強いリックではあるが、仕事時のキリっとしたできる男の風体でシンシアに挨拶と礼を述べるのだった。
彼もアレが無ければね~、ただの優秀な研究職の男性職員なのですけれど・・ふふふっ♪いえ、この方が面白いから断然アリだわ!アリ!!だって面白いもの・・ね♪
「簡単なレポートは読ませていただきましたけれど、いくつか質問してもいいかしら?」
受領書類に電子署名して、運ばれてきたブツを確認しながら問う。
「ええ、こちらで分かっていることでしたら何でも聞いてください。本品は現状・・、仮第二級秘匿ですがあまり多くのことは把握できておりません・・・。」
「まず、発見者と発見地層についての項目なんだけど・・・」
シンシアは事前にみたレポートに未記載であった部分の質問を繰り出しながら、リックによる補足説明で得られた情報は次の通り・・・。
1、発見者は遺跡発掘業者ベクター・グリンドルフと、その研修生シュシュ・ペンタグラム
であったこと。
2、発見地層は大深度地下ではなく、”地下200m未満”の低深度に新発見された
部屋からであること。
3、接触可能であり、毒性や有害放射性等の検証はベクター氏が”プロテクター”装備の上で
確認しており、地上帰還可能遺産としての要件が既知で整えられていたこと。
4、また、発見の際に”人類が接触できる”遺産であることがベクター氏により確認されたこと。
5、人類遺産解析担当室の精密解析機を以ってしても、先史文明期あたりのモノであろう
推測だけで、用途や概要が判別できないこと。
「なるほどね・・、これは確かにお手上げになりそうな案件だわ」
「仰る通りです・・、通常であれば用途の方向性や概要くらいはウチで推測できるのですが、コレに限って言えばなまじ触れられる代わりにそのほか一切の情報が分からず仕舞いでして・・。初めから触れることのできない通常の先史文明期の遺産であればスルー可能なのですが、なにぶん触れるため発掘業者へ買取り額を決めようにも算出論拠が出せなくて困っていたところです。」
なるほど・・ね、それにしてもベクター・・ほんとあの子はこういうのに巻き込まれるのに特別な
才能があるわね~・・。
「およそ状況了解よ、遺跡発掘業者は私の知己だからウチと政府と業者で調整取ってうまく対処しておくからマクドゥエルさんは心配しなくていいわよ」
「おぉ!それはありがとうございます!こちらに持ち込まれるものはいつも解析に時間がかかるものばかりですので、一件無くなるだけでかなり楽になりますよ」
遺産を運搬してきたリックに珈琲をだして労いをかけつつ・・・
さてさて、お仕事の引継ぎ情報としてはこんな所かしらね~。ではもう一つの方を~♪
「ところで、この間も庁舎内に大型の落雷があったみたいですけれど~?ルーテシアの方はどうなのよー?」
「はうあ!?えっと・・・その・・・、全然うまくいってません(汗)」
「ふふふっ!あなたそれだけ仕事も優秀にできて、しっかりしているのになんでルーテシアへの恋文だけあんなになってしまうのかしら~?」
ほらほら、お姉さんに教えてみなさいな~♪
「いやぁ・・実は、仕事の時はともかくプライベートなことは文章にして物事を伝えるのが得意じゃなくて・・」
なんですって!?単に文章にするのが苦手ってこと?
「・・はぁ、・・・リック・・・、あなたそれだったら”直接誘えば”いいんじゃないの?」
実はまんざらでも無さそうなルーテシアが、受け入れをできず困っている風にも感じる友人としては、少しかわいそうに思えてアドバイスを注入ておく。
「あ・・・!そうですねっ!対面だと緊張すると・・、その・・、思っていたんですが文章よりよさそうです!」
あちゃー・・大分お疲れなのねぇ、こんなことにも気が付かないなんて・・
ははは、連日残業続きで・・と、ちょっと疲れた様子のリックを持ち場に返して、今後の展開を考えるシンシア。
一応試したアプローチについてのデータ一式をメモリーキューブで引き継いでおいたので、あとで追検証してみる必要がありそうね。
あとは・・・、ベクターなら直接聞いた方が早いわね。
「ビッグ・マザー!、遺跡発掘業者ベクター・グリンドルフを呼び出してちょうだいな」
【政府庁舎内 シンシア・ラボラトリーズ 無敵研究室AI/ビッグ・マザー】
「Rin♪・・承知いたしました・・・現在地を確認・・コール開始・・Siun」
ビッグ・マザーに連絡を任せて・・念のため私も”プロテクター”を装備してから、改めて運び込まれたカギ状遺産の外周をよく観察する。
このブルーの光はアズちゃんが眠っていた場所を連想させるものがあるわね・・・
「接触できる・・っていってたわよね」
そういいながら、指先でそっと横面に触れてみる。
ベクターとは違い触れた面をフニフニしながら感触をじっくりと味わうように・・。
ほんのり温かさが感じられるような・・不思議と柔らかい感触が指先から返ってくる。
見た目は金属のようでありながら、両手を使い持ち上げてみると思いのほか軽い。
ふぅん?・・なんでコレ触れられるのかしらね。
他の先史文明期と思われる遺産は”触れられない”、資格条件を満たさない者にはなるべく”目に触れない”ようにと製作者の意図が強く感じられるほど、管理が厳重であるのがこれまでの常識なのよね。
で、あるのに!触れられる~?
つまり触れる必要がある・・・。何のために?
何かに使うためよね・・・、使用するために触れる必要がある?
・・・・うーん、分からないわ・・。
思考迷路の行き詰まりに突入した頃合いで頭上にコールが響く。
【政府庁舎内 シンシア・ラボラトリーズ 無敵研究室AI/ビッグ・マザー】
「Rin♪・・コールに応じたベクター・グリンドルフ氏の来訪を確認致しました、セキュリティチェック・・・未知の遺産を複数検知・・危険性については評価不能です。解錠いたしますか?・・Siun」
「ええ、問題ないわ、解錠してちょうだい!」
それにしてもこの部屋のAIは優秀ねぇ、所持品の危険性チェックをはじめ分からない点についても評価不能としっかり出してくる。診療所のイルカちゃんと連携させてみたら面白そうね~・・。
「うっす!シンシア姐さんご無沙汰してます!・・今回もまたえらい厳重なセキュリティの部屋っすねぇ?」
「いらっしゃいなベクター、わざわざ呼び出してごめんなさいね・・、ちょっとソレで聞きたいことがあって」
そういいながら、鍵状の遺産を指さす。
「うおっ!?この間俺とシューで見つけたブツじゃないっすか・・。シンシア姐さんところに回されてきてたんすね。」
「そうなのよ、発見者のこと聞いたら貴方の名前があったから直接聞いた方が楽ってことで♪」
「まず、発掘時の詳しい状況を教えて欲しいのよ」
「承知しやした。まず報告にも上げさせていただきました通り、深度200m足らず・・162mあたりにある業者ならだれでも知っている既存遺跡の入り口付近で発見したんですが・・」
ベクター曰く、低深度で発見したのは本当。
たまたま研修に連れていた新人が、空気の流れを感じるから・・と、隔壁奥を調べてみたところ空間を発見。レーザーでブチ抜いて入ってみたら手付かずの部屋が見つかり、コレと大量のデバイス類を発見したこと・・。
「なるほどね・・、良くそんな浅い位置からこんなのが回収できたわね~」
「そーっすよね、この間姐さんと旅したあの”亜空間都市”みたいな世界の続きなんじゃないかって一瞬思いましたよ。
こいつが大深度6000m~7000mからの出土だっていうならともかく、こうも人類圏に近い場所からだと・・作為的なもんを感じる気がしますよ。まるで、誰かがつい数百年前まで使っていたような・・?」
・・・え?・・・
「ベクター!今アナタなんていったッ!?」
凄い剣幕になってしまっていた自覚はなく・・ある一点のみに意識がフォーカスしてゆく。
「うぉう!?す、すんません俺何か失礼なことを・・?」
「違うわ・・」
まるで、誰かがつい数百年前まで使っていた・・・
つまり管理していた者がいる!?管理するべきモノだった!?
だからこそ、浅い地層に”秘匿”されて残っており、”現在”は必要がないモノ・・・・
次々とある嫌な予感に向けたピースが嵌っていく感覚が襲ってくる。
マズイわね、これはマイナスの当たりを引いた感じがビンビンするわよ・・・。
いや・・でも、ひとつだけという仮定であるなら・・・
「ベクター、私の堪だけれどコレは超ヤバいわ!・・・政府で買い取るから、発見したっていうもう一人の新人君には発見のことを含めて”政府最上層部”からの口止命令ってことで一旦手を引いてちょうだいな!・・いい?」
「了解です!買い取り額はお任せで・・現場からは十分過ぎるほど収入あったんで全く問題ないっす。新人には俺から話しときます!」
うえぇ・・・!マジか・・、シンシア姐さんのこういう堪はまず外れることはねぇんだ・・ヤバいのか・・コレ・・即答したのは生存本能的な反射神経といってもいい。
危険性ってのにもいろいろあるからなぁ・・・、俺が現場でチェックしたみたいに物理的な危険性や毒性といった直接的なものを始めとして、中には持っている事で執拗に狙われるようになるといった間接的な危険性、未知の出土品の場合は社会全体に対してリスク作用を及ぼす危険性という場合なんかもある。恐らく後者側の問題なんだろう・・。
その後、数日して政府庁舎の対応カウンターを介して支払われた額は
”家が買えるような”金額だった・・。
シューには政府命令で強制徴収になり、秘匿命令が出た件を伝えてはおいたが・・どーっすっかな。
俺も十分若すぎる部類だけどよ、あんな年で下手に大金が手に入ったとなると他の危険に巻き込まれる可能性もある・・。
「・・・・あー、コレは思ったよりヤバそうな状況だな、正直そこまで金が必要なわけじゃねーけど、生涯所得を稼いでしまいつつある。現状はまだともかく・・、今後身の振り方を少し考えてみる必要があるかもしれないぜ・・。」