EP 042 「ようこそ!シンシア・ラボラトリーズ~秘密研究室~1」
【現人文明期8895年 8月7日】
はぁい!みんな元気にしてるー?気が付けばもう夏の暑い日が続く様になってきたわね~。
真夏の暑い日にアズちゃんが熱中している・・いえ、適切な表現じゃなくてごめんなさいね。
憑りつかれたように集中しているコト・・もちろん私も把握しているわよ?
カラ元気を出そうとして失敗しただけよ・・ふふっ♪
恐らくあの子は自分が成すべき事を見つけてしまったのでしょうね。
それは私もある意味においては同じなのかもしれない。次代のドクター・エンディアとして求められることを成さねばならないのは、この私も同じですもの!沈んでなんていられない!!
しっかりと大地を踏みしめて自立していくかのように、少しずつ大人になっていくあの子を見るのは
嬉しくもあり・・ちょっぴり寂しいものがあるけれど・・。
私も母親的要素が芽生えたのか・・思えば当初よりまるくなった気がするわね~。
幸いエレクぱぱが様子を見に行ってくれていたり、私自身もちゃんと毎日帰ってきたあと少しではあるけれどアズちゃんとお話できているの。
・・大丈夫・・、とてつもない精神的質量を伴ってはいるけれど、それは暴走や攻撃性を持つものではなく真逆の状態とでもいうべきものだから。初まりの時から見守っていたからこそ・・わかることもあるの。
今は静かに見守りましょう・・ね?
わたしはそうすることこそ大切な事だと確信している。
・・・・・・
・・・・
・・
【政府庁舎内 セキュリティ区画・通称シンシア・ラボラトリーズ にて】
ここは現政府から与えられているシンシア個人としての研究室兼執務室みたいなものかしら。
いずれ活動のフィールドを診療所からこちらに移さなくてはならない時が来ると思うわ・・・
今はまだその時じゃないけれどね。
簡単に一言でいえばヤバくて診療所に置いておけないモノを研究・保管するための
棺桶ってわけよ!
さて、今日こちらに来ているのはずっと課題となってはいたモノの・・・、進展が無かった”天使の粉”に関する調べものよ。アレだけは外で調べることはできないもの。
まず一度現状を整理すると・・・
1、かつて存在していた天使達がおそらく原材料とされたであろうこと。
2、何らかの技術的手段?を用いて粉にしていたであろうこと。
3、使用すると永続的な技術体系が得られる?であろうこと。しかしこれについて再現性は無い
などの理屈に合わない現象も起こっていたらしいこと。
4、現在世界には現存する粉は見つかっていないこと。あくまで政府の管轄範囲内では現物が
ないこと。
これがドクターから教わった”天使の粉”の概要になる。
私はこれらの事象を多角的に観察して、もう一つの要素があるのではないか?と見ているのよ。
それは、レスェルミン・・・この呪いのような”永続する病”はもしかしたら粉の副作用なのではないか?
人類それぞれの個体を対象に患うというよりは・・そう、うまく表現できないけれど・・・
”種としての人類”そのものが罹患している・・・ような・・。
何も検証できてなんていない、仮説・・いえ、説にすらなってないわね・・。
今の私にとってはただの妄想に過ぎないのかもしれない。
しかし、それでも確かに何か真実に向かって前進している気がするのよ。
自分の感覚を信じるのよ!
私は諦めない、解き明かすという事について決して膝をつかない!!それが私だもの♪
さてさて、粉のことは現状進展や新発見がないためこの辺りにして一度筆をおいて・・。
もう一つの大切なテーマ、こちらの研究所に移して本格的に調査しているのはアズちゃんが入っていた半透明のケース。
遺失文明期の製造であることは間違いなく現存している稼働品でもあり、私は人類上ただひとり権限付加されているため自由に触れることができるの。
このケースからアズちゃんが生まれてきた時は、手を触れるまでもなく自分からまるで半透明のガラスケースを透過して出てきたのよ。
遺失文明期の研究が大好きなエレクも、直接触れることができないため外装にある古代文字の研究が中心となっているわ。つまり、私もエレクもまだこれまでケースの内側は研究全くできていなかったってわけね。
仕方ないわ、それどころでない忙しさもあったけれど・・診療所で一緒に暮らすアズちゃんを危険な目に合わせるわけにはいかないですし・・・。
研究室に運びこむこと自体は簡単だったのよ、私が触れる時に限って言えばケースの重さがまるで
無くなってくれるおかげで全く苦労せずに研究室に持ち込むことができたのよね♪でも・・・、綿菓子より軽い大質量のケースってまるで私がマッチョになったみたいなイメージみたいで嫌だから、人目につかない深夜にケースを搬入したのよ・・ふふ(笑)
対応してくれたルーテシアが目を丸くして”そんな重量を持ち上げられるなんて・・!?”などと言っていたのが記憶に新しいわ~うふふ♪、いたずらみたいで楽しいのよね~こういうの☆
さてさて・・・思い出し笑いはこれくらいにして、取り掛かっていきましょう!
この蓋を開けて・・?表現が正確にできないのがもどかしいわね・・。
蓋を開けようと意識して触るとガラスのように見える半透明の素材である蓋部分がケース外周に水が走るように動いて消失してしまう・・。これもまだ解明ができていない不思議な技術の一つね。
「うふふっ・・たまらないわっ!久しく疼いていた研究者魂に火が付く代物だわ~♪ふっふふ!」
何事もなく蓋が消失したあと、ベッドのようにも見える面に液体・・?いえ気体かしら?が薄っすらと表面を覆っている構造の棺みたいなケースの内部が露になる。
このケースを開けるのはこれで何度目かになるが、操作を行うたびに内部の状況・・・僅かながらに色、温度などに変化があるように感じられる・・・。
研究室にある大型解析機をもってしてもシンシアの”感覚”として感じているものが解析機のデータに表示されることは無い。
「全くもって手強いわねっ!もぅ・・!」
口では悪態をつきながらも、顔はかなりイイ感じのわるーい研究者的笑顔を浮かべて、ベッド部分をさらに分解できないか必死に手を動かしていく。
ベッド部分は継ぎ目のない一体構造でできており、中々攻略の足掛かりになりそうな部位の判別は難しかった。壊してしまうわけにはいかないしね・・う~ん。
そういえば、そもそもこのケースもさることながら私には古代文明遺産の意思?みたいなものから
臨時とはいえ権限を与えられているわけ・・よね?
何度目かの挑戦をしている最中ふと閃きがあり、一度手をとめて実施してみることに・・・
研究者としての概念だけに憑りつかれるのも良くないと思い直しながら・・。
「保護観察権者シンシア・リリエンタールより要請する、ケース内部のメンテナンスと現状確認を望む!・・。」
・・・シーン・・・
あら?違ったかしら・・・・・?
・・・でもよく観察すると、通常薄くブルーの光に包まれているケースがややイエロー交じりの明滅をするかのように光を放っているという変化が起こっては・・いる?
うーん・・・これは・・・、”聞く姿勢”はあるっていうこと・・?
言葉が違う??・・いや、足りないのかしら・・ね。
アズちゃんを地底遺跡から回収した時に頭に響いた言葉・・、創世の揺りかご・・・、見守っていた遺失文明期の地層に”在った”機械知性の名前・・・G-VALNA・・しばらくじっくりと思考の海に身を任せるシンシア。
・・・・・・・
・・・・
・・
「”G-VALNA”より託されし保護観察権受諾者、シンシア・リリエンタールより”創世の揺りかご”に要請する。情報を開示せよ!」
・・・シーン・・・
PiPi!キィン!キィン!ガコンーーーーブシューーーーゥウウゥゥゥ・・・・
ブルーとイエローに緩く光っていたケースが突如レッドとイエローの高速明滅に切り替わり、継ぎ目のない構造体に光るラインが入りだす!・・自然と剥離していきながらゆっくりと内部構造が露出され・・・・
「ビンゴ!!・・・やはり第三者の手で簡単に分解できるような構造では無かったのね・・。」
変化が収まりベッドの内側部分とみられる場所は・・・・なんとその殆どが空洞だった・・。
「何もない・・・?・・・・そんなはずは・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、”その反対”ね!」
医師であり、科学者であり、研究者でもある若き人類の瞳に見出された結論は・・・・。
しばらく何もないと思われた内部を見つめていると、徐々に輪郭をもった”何か”が浮かび上がってきたように感じられた。しかし、それは目に見えているわけではない・・。
チラリと部屋ごと範囲に入るよう設定しておいた解析機のミニターを見ると”何もない”という回答がでている・・間違いない・・ここに”ある”んだわ。
傍から見るとワケの分からない譫言のようにつぶやくと、ケース内部の”何もない空間”に向かい手を伸ばし・・・・そしてその手に確かに”掴んだ”・・・・、手応えを見出したのであった。
見えないその”何か”を掴んだシンシアは、そのまま解析機の端末に繋ぐような動作をすると・・・。古代言語文字列が解析機のモニターに踊りだしてくるッ!
膨大な量の途方もないスピードで流れていく文字列を慌てて記録するよう指示を出し・・しばしの間その流れをじっと見つめている。
「あははっ!全然読めないわっ・・最高ねっ♪やってやろうじゃないの!!」
日常生活の合間にほんの少しずつ、しかし確かに一歩一歩と研究は進んでいく。