EP 040 「憧れの職業にむけて!駆け出しの夢2」
【現人文明期8895年 7月20日 遺跡発掘業者用 低深度進入路エリアーCにて】
「あん?ベクターじゃないか?景気はどーだい?・・なんだい・・・弟子でも取ったのかー?ハハッ」
シュシュを連れ立ち入口付近で準備をしていると、顔馴染みの同業者ミリアム・アーカイラムから声がかかった。
「おう!ミリアムか~。まぁ最近景気はヤバいくらい順調だぜ~?かわりに危険度も爆上がりだけどなー!ハハハ」
「大規模発掘が出たらあたいにも話回しておくれよー!」
軽く挨拶を交わしてミリアムは早々と遺跡洞内へ駆け抜けていった。
「げ、元気な女ですね~(汗)挨拶する間もありませんでした・・っ」
「まぁ・・・な、あいつはあー見えて結構体力モンスターなんだぜぇ?」
おし、それじゃさっそく中へ入っていくわけなんだが・・・
「いいかシュー?まず中に入ったら直ちに確認することが3つある・・わかるか?」
「持ち物の確認でしょうか?・・・あとは分からないです。」
「それも一つだ、その他には・・・・」
低深度用の業者入口に入りこみ、まず必要なことを説明する。
1つ、すぐに全身の装備を必ず一巡確認する。オプティトロンシーカー、ライトのバッテリー、非常用食料、救急品、緊急用救援シグナルの残弾、ザイルの損傷など・・見落としがないか?
2つ、前回来た時と湿度や匂いに大きな変化はないか?
3つ、前回来た時と全体の雰囲気や形状に変化はないか?
「お前が来るのは初めてだから、前回来た時との比較はできないハズだ・・、なのでそれはいい。
だが、”次”のために現状をまず認識するようにするんだ。」
「これは帰った後では確認できないからな。見た目、におい、湿度・・・五感全てを使って確認する癖をつけろ。見た目が違うと感じたら崩落するかもしれない・・
湿気が多く感じられたら地下深くではいつもより喫水線が上がっているかもしれない、匂いが違うときはその匂いにもよるが火薬なら別の業者が発破したあとで、地盤がもろくなってるところがあるかもしれない・・・。常に安全管理を自分でする必要がある。見落としたものが多ければ多いほど死亡率が上がる・・・忘れるな!」
「はいっ!分かりました!」
現場でなければ教えられないことを中心に一通りをこなしながら、まずは緩やかなカーブを降りた後垂直に切り立ったゾーンに向けて深度100mに満たないエリアまで降下していく。
実は深度200m程度までは業者用の昇降機があるのだが、今回は訓練も兼ねているので降りるところから実地でやっていく。
「いいか?まずこの降りるポイントについたらオプティトロンシーカーで深度を確認しろ!
「はい!今は深度32m付近です。」
「確認と認識は常に忘れるなよ。マッピングデバイスにメモを残すのもアリだ。深度いくつからいくつまで下りたのか記録しておかないと初めのうちは現在深度以外が分からなくなりがちだ。
入口あたりはそーでもないんだが、これが大深度になればなるほど”現在地”が分からないと恐怖に支配されちまってケアレスミスが増えたり致命的な問題を起こしやすくなる。」
よし、確認と記録したな・・・いくぞ!と声をかけまず俺が見本で数m先まで下りていき見上げて誘導する。
シュシュは玉のような汗を浮かべながら、必死に言われた内容を確認しては一つずつ進めて暗い穴を降りていく。体力的には余裕があるのだが、やはり真っ暗な穴に限られた視界でひたすら降下していくのは集中力の損耗と大きな緊張感を伴う。
また、奈落の下を確認するのも非常に恐ろしい体験ではあった。
たっぷり数分かけて、ようやくベクターと同じあたりまで下りてきた。
どっと安心感が沸き起こる。
「数mの屋根に対する登攀との違いは、暗所であること、数十m単位での降下になること、そして下から風が吹き上げて常に揺れること、風に晒されて思いのほか体力を失うこと・・・などだ。
ロープの玉をしっかり作ってゆっくり進めながらも、なるべく停まるな。5m置きくらいに下を確認する癖をつけろ。暗い色の金属棒の張り出しなんかを見落としたら身体に突き刺さるぞ!」
「はい!」
「よし、引き続き俺が先行して降りるからついてこい!」
「はいっ!続きますっ!!」
こうして手取り足取り心構えと技術的なことを併用して教えながら、深度150m程度まで時間をかけながらも着実に降りていく。
「はぁーっ、はぁーっ、なんとか、着きましたベ、クター先輩っ・・」
「おーし!しっかり息が上がってんな、少し休憩しながら整えるぞ。大凡いま150mくらいの深度だな・・初日にここまで降りてこられりゃマズマズだ。」
軽めの小休憩を入れて水分補給をしながらしばらし談笑する。
「せ、先輩はさすがですね・・・全然息切れしてないです・・・はぁはぁ。鍛えていたつもりでしたけど・・思ったより・・150m降りてくるのは大変・・でした・・。」
「たりめーよっ!まだ入ったばっかで一歩も探索してねーうちから疲れてたら業者とは言えないだろーが・・シャキっとしろい!」
「そ、そうでしたね。まだ入ったばっかりで降りただけ・・。」
Oh~☆という感じのシューに、まぁ初日はこんなもんだよと軽くフォローを入れておく。
むしろここまでにリタイヤする奴も結構いるんだ・・、降りられないやつは昇れねぇしな・・おめぇはキチっと降りてこられただろ?と励ましの言葉が入る。
「うっす!ありがとうございます~!回復してきました!」
「おしおし・・、悪くねぇ回復力だな!そんじゃここからが本番だいくぞ!」
「はいっ!」
再び緩く下っていく横穴を進んでいく・・、やがて広めの空間に出たようでヘッドライトのパワーでは何も見えないほどの闇がそこにあった。
数m先を先行していたベクター先輩からストップがかかる。
「ここは大体500m四方位の空間で降りていくパターンが複数あり大きく分岐している。底抜けてるところもあるから足元シッカリ見て歩かないと奈落に真っ逆さまもあるんだ。注意しろよ!落ちたらまず助からん・・。」
今回は深い地層にはいかないので、縦穴をさけるように迂回して引き続き緩やかな坂道を下っていくルートへと進む。たまに振り返って”帰りの正しい道の絵面”を頭に記憶しろ!と注意が飛ぶ。
確かに・・・、行きと帰りは見るべき視点が違うため確認なしにどんどん進んでいくと帰り道は
100%分からなくなってしまう。
ゴクリと唾を飲み込み、少しずつ進んでは振り返ってみるを繰り返しながら進む。
道すがら帰還のために必要なマーカーの取り扱い方、地下でおおよその方角を確認する方法などを叩き込まれる。
地下洞を5~6kmほど進むと、唐突に人工的な通路・・?廃墟のようなエリアへと視界が変わりはじめる。
「ここが最も入口から近いデバイス回収ポイントになる。まずはこの辺りの往復に慣れろ。それと足元に岩以外の突起物が出始めるからコケるなよ!」
「はいっ!」
大きな梁や何かの廃棄機材だろうか?いろいろなものが散乱している。
とても不思議な光景・・洞穴からいきなり通路のような場所にでてくるという経験はシュシュにとっては斬新なものだった。
そろそろか・・・とベクター先輩が呟いて・・
「この辺りから先にはまだ結構未回収のデバイスが見つかるんだ。来る前に軽く見た回収対象となるデバイスの形状は頭に入っているか?」
「はい・・・自信がないですが代表的なやつ数種は覚えましたっ!」
「おし、ここからはお前が先行しながら実際に探してみろ。俺はお前の後ろから付いていく。」
もちろん探索の間も背後の確認とマーカーは忘れんなよ!と大きな声が後ろから響いてくる。
当然現場は何もないところにデバイスが置いてある・・というわけではない。
荒れたところにドカスカ誰かが動かしたのか投げたのか・・ひっちゃかめっちゃかになっているトコロもあれば机や棚のようなところに並んでいたりもする・・・。
遺跡発掘業者にとっては日常の風景ではあるがどこか違和感のある独特の雰囲気・・・。
「この、あからさまに大きなデバイスは回収対象だったと思います・・・でも、放置されているのは重いからですよね・・先輩?」
あぁ、そうだ・・。良く見分けたなとお褒めの言葉と共に重量効率もあるし、担いで上がるのは大変なものほど放置することも戦略だと教わった。
後は見つけたゾーンと物品に軽くマーキングしておき、集団で入るときに一気に回収するなどのケースもあるらしい。さっき入口で声をかけてきたミリアム先輩の言っていた大規模探索などがそれにあたるんだろうか・・?と考えるシュシュ。
「つーわけで、何かしらのマークが入ってるモンは触らねぇ方が後で揉めないぞ・・」
「分かりました・・。そーいえば先輩も自分のマークがあるんです?」
「あるぞ、俺の場合は wWw こんな感じのがマークだな。髪型みてーだろ?分かりやすさ重視だよ。」
マジックで簡単に描けるやつがいいぞー、といいながら実際に描いて見せてくれた。
なるほど・・・自分のマークも考えないといけないですね・・と納得するシュシュ。
「金目のモノってー意味じゃぁ小さくて需要の多いメモリーデバイスや、端末デバイスなんかが狙い目になるな。メモリーは機械の中を開けてみると残ってる場合があるから細かくチェックする価値があるし、端末デバイスは傷がない奴や未使用で樹脂っぽいもんなんかで簡易封印されてるようなのが上質で高く買い取ってもらえる。」
封印された端末・・・メモリーデバイス・・・、見落とさないように細かくチェックしながら通路から伸びた部屋を一つ一つ確認していく・・。とある部屋で崩れた棚と床との間の影に小さいながらもデバイスらしきモノを発見した。残念ながら棚の崩落に合わせて少しダメージがあるため、そのまま持ち帰るには適していないようではあった。
「あ・・、これはどうでしょうか?本体はダメそうですけれど、工具で中を開いてみます・・。」
シュシュはそういうとキュイキュイっと工具でフタにあたるところを開けて中を覗き見る。
「お、4つメモリユニットが入ってるじゃねーか、あたりだな!本体は破棄してメモリだけ持っていけ。荷物にならず収入に大きく寄与する。」
「やったっ!初めての収穫ですね!」
初めての獲物でアタリを引くのは幸先がいいな、中々いい勘してやがる。
嬉しいのは分かるがこの状態が一番ケガが誘発しやすくるなるから、釘をさしておかねーと・・・。
「喜んでいるときが一番ミスしやすくなるし、運が悪いといきなり死ぬような目にあう!気を引き締めていけよ!」
「はいっ!」
シャキっとした顔つきに戻り、少しずつ後方の確認と進むべき方向を定めながら奥に向かっていく。
「ん・・・?」
「どうしたシュー?」
特段何もないT字路の先行き止まりの前まできたとき、シューのやつがいきなり立ち止まり首を傾げた。
「先輩・・・風を感じます・・僅かですけれど・・」
「なに・・?」
ベクターは感覚を研ぎ澄ましてみたが、シューの言う風の流れを感じることはできなかった・・。
「俺には分からないな・・・微細なものか?どのあたりから流れてきているか分かるか?」
そう問うと、少しずつ辿るように行き止まりにある土まみれの隔壁痕の一角を見つめるシュー。
ふーむ、この辺りは探索されつくしているハズだからこの先に出られるような道はなかったはずだが・・と思いながらも一応直接確認してみることにする。
視線の先にある場所に手を突いてみると、ようやく薄っすらと空気の流れを感じ取れた。
わずかながら穴があいているみたいだ・・つまり奥には別の空間があるな・・・。
「お前良くこんなの感じ取ったな・・スゲェぞ!奥に空間があるな。・・・・だが、隔壁痕に小穴が開いてる程度だから人は入れんし・・・・」
・・・・・・数秒考えこむような素振りをみせたベクター先輩は、危ないから下がっていろといって腰のホルスターから拳銃みたいなモノを取り出す。
「コイツなら穴が掘れるだろうかな・・やってみるか!」
セレクターで威力を最小・対物破壊のモードにセットして10mほど距離を取りトリガーを絞る。
キューン・・・ビシュー!!・・・甲高い音と共に眩いレーザー光が隔壁痕に伸びていき・・
ドッゴォォォオッォン!バリバリッボーン!
もくもく・・・・ぶわーっと砂埃やら何やらが大量に舞い上がるっ!
「ゲホゲホ・・うへっ・・距離とって最小でコレかっ・・ゴホッ」
「ケホッケホ・・先輩なんですかそれ、まるで大砲みたいな威力ですね・・・ケホホッ!」
しばらく視界を妨げていた砂埃や微粒子たちも少しずつ晴れてくると・・
「お・・・・おぉ!?・・・大穴開いてんなぁ・・・」
「先輩・・その小さいの大砲じゃーないんですよ・・・ね?」
やっぱり銃は規格外だなーと思うベクターであった。
「さて、取り合えず罠やセキュリティの関係が活きてないかチェックがいるな・・合図するまでそこで待機だ。」
「了解です!」
例のプロテクターを着けているおかげで、最悪打ち抜かれても大丈夫だしな・・と思いながら
生きているセキュリティが無いか?罠や有毒なものが無いかのチェックを済ませる。
どうやらそうした類のモノは動いてはいないみたいであった。
【遺跡発掘探索中 深度162m エリアーC2Tー17ー??】
「OKとりあえずは安全だ、でもゆっくり入ってこい。」
ベクター先輩の合図に恐る恐る覗き込み身体を穴から部屋の中へと滑り込ませる。
「わぁーお!・・手付かずですね。」
棚に整然と保管されているデバイス群と大量のメモリーなどが真っ先に視界に入る。
「あぁ、スゲェ発見だ・・。ここまで手付かずのは中々見つからないからな~。並みの仕事の10年分くらいになんじゃねーか?
まぁ、これだけあると持ち出しに何度も往復がいるけどな。実に体力勝負でタフな現場だぜ!」
苦笑いをしつつもこういう新しい発見は遺跡発掘業者の醍醐味であり、ベクター先輩もわくわく感が抑えられない顔をしている。
手付かずのデバイス群を軽く値踏みしていた先輩に交じり、部屋を細かくチェックしていくと・・・
「あれ・・?先輩これは・・・なんでしょう?資料では見たことがないタイプのものです・・少し輝いているみたいな・・」
「ん?どれどれ・・おっと!コイツはまだ生きてるぞ!不用意に触るなよッ!!」
そういいながらシュシュが該当の”ブツ”に手を伸ばしていた状況を見て、即座に警告を放つ!
びくっと一震えしてクルっと踵を返してきたシューを確認してホッと一息つく。
「薄くでも淡くでも輝いているものってのは大体生きてるって相場が決まってる。これからも目にする機会があると思うが、まずは触るな?いいな?」
「わ、わかりましたっ・・触る前でよかった・・。」
「んー、俺も目にしたことがねぇシロモノだな・・・一般的にこの年代の地層から出土するような品物ではない・・か?テキストにも載っては無いはずだ・・。」
形状としては、人が両手で持つくらいの大きさになる・・カギのような形状をしており淡くブルーの光を発している。
うーむ、まさかこんな地上付近の浅い低層に未知出土品があるなんてな・・。
せっかくだしいい研修の機会だ・・そうベクター先輩はいいながら解説をはじめた。
「最初にこういうのを見つけたら、まずはしばらく観察する。そして一定時間変化が起こらず大丈夫であったら次は携帯解析器で調査するのが手順になる。
いきなり触れて武器やセキュリティ関連だった場合に爆発とかいうシャレにならんパターンを避けるためだ・・わかるな?」
「・・はいっ!ひぃぃぃ~・・・」
シューは流石に爆発シーンを想像したのか、ぶるぶる身を震わせながら確認手順を必死の形相でメモに取っていった。
解説しながら、ベクターは空間収納ザックから解析器を出し起動させる。
コイツの使い方は今度座学やった後に具体的に教えてやるよ・・と言いながらも素早くセットアップ。
「まずは、解析器をスキャンモードにして光の波長と全体図を取り込む。・・・すると既知のブツであればデータベースに引っかかって解説がでるんだが・・・・でないな。」
まぁ、そうだよな発掘業に携わってからテキストでも現場でも見たことがないブツだし出るわけねーか。
この間のシンシア姐さんとの夢冒険みてーな例外を除けば、至極シンプルに見つかるべきものが見つかるだけ・・、それがこの仕事の本来の姿でもある。
先輩はそういうと、今俺は特殊な防具を着けているから最悪爆発しても無傷なんだよという??な
説明をして、僕に一度部屋からでるように促してきた。
先ほど怖い目にあったばかりなので、素直に隣の通路がある方へ潜って出て、言われた通りに隔壁を背にして備える。
覚悟を決めて指先で”ツッ”と触わり、素早く指を引っ込めるベクター。
「・・・・接触での起爆、有毒性は無し・・っと・・・次は・・・」
そういうと、両手で持って軽く動かしてみる・・・。
「移動に対してのブービートラップもなし・・。有害放射線や毒性、汚染絡みの検出・・なし・・・。おし、地上へ持ち帰るべき条件は一応満たしているか。」
そのあとは部屋にシューを戻してから、持ち帰れる分目一杯の戦利品と例のカギっぽい遺産をもって地上へ向けて動き出す。帰りは荷物一杯であったため、大人しく昇降機を使い何度か往復した頃ようやく運び出しに目途が付いて本日の仕事/研修は目出度く無事に終了の運びとなった。
残務処理を色々したのち、ベクターはシュシュを誘い馴染みの酒場”カオス・ヒューマン”へと繰り出すのだった。
【”発掘は人生の友!”飲んだくれ人類の店 カオス・ヒューマン にて】
店のおねーちゃんに飲み物と食事を適当に注文して乾杯~♪
「おつかれさまで~す!えっと・・そうだ、無事の帰還に!」
「おつかれさまだな!無事の帰還に!」
業者の挨拶を交わしググっと一息に飲み干してお代わりを注文する。
「わぁぁぁ~せんぱーい、もう疲れて動けないですよ~ぅ!ふぃぃぃ~。」
一杯飲んだあとペタンとテーブルに張り付くシュー。
「まさか研修しょっぱなで未知のデバイスを見つけるわ、手付かずの部屋まで見つけるなんてなーハッハッハ(笑)デビューしてもねーのにこれだけ戦果を挙げられたなんてーのは、遺跡発掘業者になる運命だったんだな、お前。」
あの空気の流れを掴み取るセンスは・・俺にはない物だ。コイツは自分の長所を上手く伸ばしていければスゲー業者になれるかもしれねぇな。
仕事仲間が増えるのも悪くないもんさ。
「先輩が見守りながら指導してくれてなければ、とっくに穴の底か、爆散してたかもでしたけれど・・」
ハァっと息を吐きながらも、無事の帰還にホッとしている様子。
「定期的に研修しながら、座学の合格を目指していくのが今後の流れだな・・。シュー気張れよ!
あ、それからな・・・本来は研修中に発見したデバイスなんかは研修費用代わりに指導者側の総取りになるのが通例なんだがあれだけの大量にある無傷なデバイスは売却が成立すると5年や10年分の収入になっちまうんだよ。」
ここで一旦言葉を区切ると、すかさずシュシュが発言する。
「僕は自分の意思で願い出て、研修を快く引き受けていただいたベクター先輩のモノになるというので全然オッケーなんですけれど・・今回踏ませていただいた経験は、今後仕事をしていくうえで何事にも代えがたい・・です。」
はぁん、可愛いこと言ってくれるじゃねーか。だがな、それじゃダメだ・・。
「あのなー、俺はこう見えても独り身なんだよー!わかるか?んなに大量に金があってもしょうがねーっつってんだ・・・嫁さんもいねーしな。だからな、まずはお前に一番必要なモノである基本装備一式とシンシア姐さんお手製の超回復救急セット、中深度まで使える緊急脱出用シグナルガン、一級品のオプティトロンシーカーとマッピングマーカー、探索にも護身にも必要となってくる絶対に錆びないギルセラミック製のナイフ、重量と質量を50%キャンセルできる空間収納ザック・・・この辺りは予備があっから全部譲ってやるよ。この先のお前に絶対必要になるものだ。」
まぁ、全部揃えるとなると上手く売りがあったとしても軽く5年分くらいの収入になるだろうさ・・・とベクター先輩は呟いた。
「いや・・・でも、そんなにたくさんいただいてしまうのは・・さすがに・・」
恐縮して辞退しようとするシューに、これだけはキッパリと叩き込む。
「あのな、この発見はお前が単独でしたんだぞ!確かに壁に穴を掘って安全確保したのは俺だが見つけたのは”お前”だ!それにな・・、この先リスクを軽減できる手段が手に入るという時に・・・
プロなら迷うな!!生き残れる確率を上げる手段は僅かであってもその手で掴め!!・・・わかるな?」
一気に話しながらも真剣な目でシュシュを見やる。
「・・・つっ・・・分かりましたっ!先輩のご厚意ありがたく受け取らせてもらいますっ!ついでに使い方もしっかりレクチャーお願いしまっす!!」
「おし!!、それでいい・・。発掘業者は生き残りと安全確保については貪欲でないといけねぇんだ。死んでからじゃ遅い!忘れんなよ!・・・そーいや、あの未確認デバイスは調査してもらわねーと分からんから、一旦預からせてもらうぞ?政府の解析班に回しておく・・・。」
「あ・・・はい、お願いします!でも先輩も見たことないデバイスなんていうのもあるんですねぇ・・」
「まぁ、未知のデバイスなんて滅多に見つかるもんじゃないんだが・・、最近おかしなモノをやたら良く見つけることになるんだよな・・不思議だぜ・・。」
こうして新しい発掘業者の師匠と弟子が誕生するのであった☆