EP 039 「憧れの職業にむけて!駆け出しの夢1」
【現人文明期8895年 7月20日 ベクターハウス グリーンドルフ三世にて】
遺跡発掘業者の一日が始まる。
目覚めたら素早く歯を磨きつつ、香り立つ珈琲パックのために水に火をかけてから軽く体操!流れるように行動開始。
例のドンチャン騒ぎイベントにて天使ちゃんの警備隊長なんぞをしていた俺ではあるが、実は裏からシンシア姐さんに頼まれてそれとなく身辺警護していた。
・・・実は政府依頼の仕事だったってわけだ。・・・下らんトラブルはあったが、天使ちゃんに何事もなくてよかったけどな。
軽めの朝食を取り、珈琲を飲み干して席を立つ。
このところ色々あったものの、ホント刺激に満ち溢れた人生だぜ~!
うーし!!今日も日課のランニングをこなしてから仕事に向かうとするぞー!
今日も遺跡発掘業者の日常が始まろうとしていた。
ガチャッ!・・・バタン!!
【ベクターハウス セキュリティAI”シルバードラグーン”初号機だぜ!】
「Pipi・・イクガヨイ!愚ナル主ヨ!!・・・ア、ワンテンポ遅カッタ・・・施錠シマス・・Pid」
夏とはいえ早朝はやや肌寒い・・。
「ふっふっ!、はっはっ!」
呼吸を整えていつものコースへ足を向ける。
リリーばーちゃん家の近くでフト視線を感じそちらを見ると、ひとりの少年が挨拶してくる。
「ベクターさん!おはようございます!!」
「おう!おはようー!リリーばーちゃんとこのシュシュじゃねーか。こんな時間に外にいるのはめずらしいな?」
この少年はシュシュ・ペンタグラム。リリーばーちゃんの孫で髪色も瞳も茶色と・・・まぁ、遺伝そのまんまな感じだな。髪型だけはなぜか俺に近いものをヒシヒシと感じるんだが・・。
元気な挨拶に何らかの会話意思を感じて、軽く柔軟に切り替えながら身体を動かし続けて問いかける。
「はい!実はボク・・、ベクターさんのことをここで待ってたんです。」
「ほーう?何か急ぎで頼みたい依頼品でもあるのか?」
一番可能性が高いであろうその質問に、少年は明確な否定を打ち出す。
「いえ、違います!今日はベクターさんのお仕事を見学させていただきたいと思っていたんです。まだ何もわかっていないんですが、お願いできないでしょうか!」
やや緊張した面持ちながら気合を入れてキチっとした態度で願いでてくる。しっかりした気持ちの良い礼儀は大事だ、俺は自分の事もあってこの辺にはしっかりしたケジメを求めるタイプなのでまずは及第点といえるな。
「・・遺跡発掘業の仕事に興味があるのか?正直な話実入りはあっても危険は大きいし、自己管理が抜けてると途端に人生終わりになっちまう場合もある・・・、今必要な知識なんてもんはまだ無くて当然だから構わない・・・が、そういう仕事だという概念は理解できるか?」
説明しながらやや厳しい視線を向けてみる。まだ目指そうってなら知識は無くていいが、覚悟は必要だからだ。それにしてもシュシュも成長してきているんだな・・・。そろそろ仕事に目を向ける時期が来てるってことか・・。
「・・・はいっ、危険があるということは、未経験なため程度はともかく認識しています
!また、その備えについて怠ってはいけないという点も了解ですっ。覚悟は・・・しています。」
「よしっ・・、なら政府庁舎にあとで同行しろ。担当のお偉いさんに面接の上でOKだってーなら体験で面倒みてやるよ。」
嬉しそうに着替えてきます!といって一度家に戻ったシュシュを待つ間軽く通信でルーテシアさんに連絡を入れておく。
「はい、こちらルーテシアです。グリンドルフさんですか・・、本日はどうされましたか?」
「うっす!実は若い人類男性の一人が遺跡発掘業者になりたいって俺んとこにきて相談を受けやして・・・、ルーテシアさんに面会させたいんですが、ご都合どうでしょうか?」
「おや?新規の人類業者として希望の方ですか?・・珍しいですねぇ~。・・・それでは、2時間ほど後に会議室を押さえておきますので直接連れていらっしゃってくださいな。現在の発掘依頼はそのあと半日仕事で問題ないようにうまく調整しておきます。」
「承知しましたっす!お忙しい中ありがとうございます!」
無事にアポイントを取り付けてから軽く今日のスケジュールを再構築する。
ルーテシアさんがOKなら、面接させてそのあと状況によっては現場体験まで行けるかもしれないな・・・。シュシュの分も装備を用意しておくべきか。
今後の予定を軽く反芻してしばらく・・・シュシュが着替えて戻ってきた。
「ただいまもどりましたーっ!」
「おーし、シュー・・後で政府庁舎の担当となるお偉いさんに面会させるアポは取っておいたから、一緒に行くぞ。・・・だが、その前に色々確認しとくことがある。」
「ベクター先輩っ、なんでしょう?」
「まずは、最低限どの程度の体力があるのか?普段身体は鍛えているか?両腕だけを使ってロープで自重を支えたり昇ったりできるかどうか?実際にやってみたことはあるか?・・・」
「はいっ!身体はこの日のために日常的に鍛えていますっ!、順にお答えしますっ!えっと・・・・」
遺跡発掘業者にとってこれらのできる事できない事の確認は大変重要であるため、初心者相手の場合は真っ先に行うのが常だ。
現場に行ってからいざトラブルが起きて出来ないということになると、それはそのまま死を意味することがある。丁寧に一つずつ聞き出して行き、現状を把握することは先達者にとっても重要な事柄だった。
・・・・・・
・・・・
・・
「ふむふむ・・、腕立てや基礎トレーニング・・、自宅の屋根に固定したロープワークに登攀作業、懸垂なんかは日常的にやっていると。暗所での作業経験や古代言語の習得はなし・・・
ってーところか。ふむ、悪くないな・・。体力的には問題なさそうだし、古代言語うんぬんは座学で色々テキストもあるから問題ない。暗所作業については実地で慣れていくしかないからな~。」
「普段家のペンキ塗りなんかは僕の仕事で、あえて梯子は使わずにロープに玉掛けして上り下りして練習してますから体力的にはある方だと思います。」
「やる気のあるやつは嫌いじゃないぜー。」
色々質問していたら案外時間が経ってしまったので、早々にランニングを切り上げ一度部屋に戻り着替えてからシューと一緒に政府庁舎へ向かうことに・・。
【政府庁舎 通常業務棟 一般会議室】
少し早く着いた二人、静寂に包まれた会議室で緊張するシュシュにベクターはかるーくフォローを入れていた。
「・・・シュー、そう緊張すんなって。まぁ、気持ちはわかるけどなぁ~・・俺もルーテシアさんには頭が上がらねぇ・・、なんてったって政府二代表の片割れだからなぁ~。」
「ベクター先輩っ!それじゃ全然緊張が解けないですよーぅ・・」
「ハッハッハ!諦めが肝心ってこともある。」
【一般業務会議室 汎用AI おはなしするーん175号】
「Pipi ・・ルーテシア・エビデンス様 オコシニナリマシタ・・解錠イタシマス・・Pid」
業務中のルーテシアさんのスタイルは秘書っぽいスーツにタイトスカート、そしてインカム装着のいつもの姿だ。このスタイルでキリっと仕事をするルーテシアさんには密かなファンが多かったりするのも頷ける。くあー!高値の花だぜぇ~俺じゃとても釣り合わねぇ・・・
「こんにちは、私はルーテシア・エビデンス・・、機械知性側の惑星代表を務めさせていただいております~。そちらの新顔さんが遺跡発掘業者候補としていらっしゃった方ですのね?」
「うっす!、お忙しいところお時間を割いていただいてありがとうございます!コイツは近所の馴染みの家の孫でシュシュ・ペンタグラムといいやす。」
ベクター版最敬礼モードで、まずは挨拶と取次をすませる。
「シュシュ・ペンタグラムと申しますっ!人類18歳男性ですっ。エビデンス様・・ど、どうぞよろしくお願いしますっ!」
緊張ここに極まれりな表情ながら、なんとか勢いと元気を振り絞って挨拶してくださったシュー君。可愛いお年頃ですね~♪ふふふ~♪
はい、よろしくお願い致しますと返してさっそく本題に掛かる。
「事前に伺った内容ですと、グリンドルフさんと同様の遺跡発掘業者として活動をしてみたい?ということでよろしいでしょうか?」
「はい!お願いしますっ。でも、仕事として始めるにはどうしたらいいか分からなくて・・、このことをベクター先輩に伺ったらご紹介いただいた次第ですっ!」
チラリとグリンドルフさんに視線を向けて”どこまで説明してますか?”のアイコンタクトを送る。
最低限だけは確認していますっと軽めの笑顔と頷きが返ってきたため、体力的な問題や危険な仕事である点などについては軽く説明するだけで良さそうですわね。
「恐らくグリンドルフさんからもご説明があったと思いますが、この職種は大変危険を伴うケースが多々あります。また、体力的には一般人の範疇を大きく超えた持久力や忍耐力・・・そして古代言語の知識といったものが必要となります。
この辺りはいかがでしょうか?」
「はい、あのっ体力的なところはトレーニングや、崖の垂直昇りなどの訓練は日常的にやっているためできると思いますっ!でも古代言語の知識は独学なためカタコトくらいしか分かりません・・。」
「承知致しました。仕事に必要となる古代言語の知識については、業者向けの教科書がありますので、そちらを習熟していただいてから段階を追って試験を実施致します。
試験内容のレベルにより政府より依頼が行われる深度が決まり、また一定レベルの試験をパスしないと民間から請け負っても指定深度地層に単独行でアクセスできないルールとなっています。
つまり、最初期の段階ではいきなり仕事現場に入ることはできません・・。」
できません・・。のところでシュンとなったシュー君・・。
「ですが・・・、例外があり指導役としてライセンス認証を受けている遺跡発掘業者が補助につけば、深度200m程度までのエリアにおいて実地研修が可能となる制度がございますよ。」
小さくウインクして教えてあげるとまだあどけない少年の顔立ちが残るシュー君は、がばっと顔をあげて相好を崩す。
「本当ですかっ!ベクター先輩・・・お願いできませんか?」
「そういうと思ったから連れてきたんだよー、シュー。」
「それでは遺跡発掘業研修IDの発行をして参ります~。実地と座学試験がんばってくださいね♪」
こうして話はまとまり、午後は低深度地層でのデバイス回収のついでに、基礎となる動きや確認事項の実地研修を行うこととなった。
ルーテシアさんから教材を受け取ったシューは一度支度をしに家に戻り、俺もシュー用に使える予備の基本装備を倉庫から出すために一旦戻ることになる・・。