EP 035 「ひとりぼっちの戦争(たたかい)」
【現人文明期8895年 7月03日】
この日を境にリエル嬢ちゃんの行動様式は激変していく・・。
明るい笑顔と柔らかい喋りは急に無くなり、殆ど喋らなくなっちまっている・・。
少し顔つきが鋭くなり、シンシアの姐さんはまるで大地天使様が怒ったときみたいね・・と
心配な様子。
たしかに・・・まるで戦争に行く前の兵士のような顔をしてやがる・・こりゃぁ、放ってはおけけねぇな。
行動自体は特に不審な点はなく、マシンハートの”練習室”と診療所への往復がメインとなっているようだ。その他といえば、アンチレス・メディカルでのお手伝い作業以外は一切行わないという徹底ぶりだが。
心配になったエレクは、マシンハートに様子を見に行ってはアズリエルに色々訪ねてみたが
首をふりふりするだけで、決してこの行動パターンをやめようとはしなかった。
「心配しないでぱぱ、アズはアズのするべきことがある!」
威圧的な光の圧力を伴うかのごとく鋭い視線でもって帰ってきた答えはこれだけだ。
マシンハート店長のメイディ氏に聞いたところ、しばらくの間練習室を貸し切り占有したいと申し出があって一時的にアズ嬢ちゃん専用ルームとなっているといわれた。代金は政府から受領済みとのこと。
無いものを生み出す心、無いはずの気持ちが突き動かす身体。有るはずのない行動。彼女の中ではもう約束が成立している!
“歌天使を探してほしい”という与えられたプリレゾンデートルはリエル嬢ちゃん自身から聞いている・・・だが、しかし・・・・?これはその範疇といえるのだろうか・・?・・否、そうではないとエレクは思った。
練習室に入った小さな機械知性は眩い光を放ち続けて、奇妙な声?音?をずっと発し続けている。
それは・・・歌ではなく、音ではなく、言葉でもなく、嘆きでもなければ祈りでもない。
存在しないものを紡ごうとする”強固な意志”だけがそこに存在を許されているのだった。
心配したエレクはそっと練習室を覗き込むと・・・
マイクや機器が不思議な極彩色光を放ち空中にふわふわと浮いている。
それらを繋いでいるらしいのはケーブルなどではなく・・・・青い光の幾何学結晶線だった。
紺碧の瞳に金色の虹彩が光りを宿し、翼が明滅するかのごとくの瞬く姿は、およそ他者を寄せ付けられるものではないだろう。
この日から暫くの間に渡ってマシンハートの練習室で奇妙な声を発し続けるアズリエルの姿が目撃され続けるのであった。
店舗の面々は、アズリエルが自から話してくれるまで静かに見守る姿勢を崩すことはなかった。
「りえるがその気になった・・・、ならエリンは”その時”を待つのみ・・・。するべきことを準備しておく。」
「自分がやるべき事を見つけた・・って感じだねぇ・・いいさ、おやりよ、存分にね。」
「アーシェちゃん・・・」