EP 028 「優しいお膳立てとばーむくーへん」
【現人文明期8895年 6月03日】
う・・うぅ、とっても怖い夢をみたような気がするですの・・・。
夢の中で日記を読んでいたら・・書いてないハズの文字が・・景色が溢れ出してきて・・・
「ぐすっ・・・・」
かってに涙があふれてくる。
よく覚えていないのに悲しかったことだけは残ってる・・・
あんまり気にしちゃいけないですの・・・
立ち上がれなくなってしまう刻がくるまでは、まだ出来ることがあるうちは・・・。
唇をぎゅっとかみしめて起き上がる。
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・・・・・・・
・・・・
・・
気を取り直しておでかけするですの~。
きょうのアズは”マシンハート”の練習室でお歌の練習をするよ~♪
前回オリヴィアさんからお歌のデータさんを貰って、その”人生経験”を追体験したアズリエルは
少しだけ”気持ちを込める”ことの意味を理解しつつあるんですの~☆
「♪~♪♪~ふふ~♪、ちょっとだけ上手になってきたよ~♪」
ひとしきり練習を終えて、テーブルさんに戻ってきたアズリエルに話声が聞こえてきた・・
「そうですねぇ、・・アーシェちゃんにもそろそろではないでしょうか~?」
オリヴィアさんは楽しそうに期待をこめて♪
「りえるの歌はデビュりえるー♪ふふふっ、聴くが良い我がライバルの歌声を~♪」
エリーンさんはいつも通り独特の視点で♪
「なんだかあっという間に育っちまった感じがするさねぇ・・フゥー・・」
マルーさんは・・ちょっとだけおかーさんみたいに☆
やっぱりマシーンハート(ここ)は落ち着きますの♪
「・・?アズがどーかしたんですの~?」
「アーシェちゃんお歌がとっても上手になりましたので、そろそろ配信活動を始めてみてはと
思っていたところなのです~。」
なんとアズリエルにもそろそろ”配信活動デビュー”をさせてみようと、3人が相談していたのであった☆
「おぉ!?アズも配信でお歌・・できるですの??」
やってみたい~♪という気持ちと、できるのかな~?という気持ちがあるけれど
好奇心と期待の表情が素直にでちゃうアズリエル・・。
「まあそうさねぇ、誰にでも初めてがあるもんだよ。失敗したっていいじゃないか?やってみなよ。」
「りえるがデビューすると、エリン嬉しい♪」
「おぉ~・・・やってみるよ~♪☆」
こうして、6月27日に初めてのアズリエル配信がスタートすることに決まった。
やってみるよ~の”よ~”あたりで一瞬でサッと姿を消したエリーンさんは、またササッとトレイを持ってテーブルにワープして帰ってきた。
「初配信決定のお祝い&ロイヤルミルクティ~ドーン♪」
「は、はやいですのっ!」
「”かわいさ”と”すばやさ”極振りでござーる♪・・体力はあまりないっ・・コテッ☆・・」
椅子に座ってぼーっとするエリーンさん、これもいつも通りですのね~♪
・・・初めてみる飲み物にわくわくしながらさっそく一口飲んでみる。
「みるくてぃー?・・・わぁ☆なんて芳醇な味わいですの~ふわふわ~☆きゅーん♪」
むぅー。これを知らないのは天生に対する損失ですのね~☆
「それでは配信室にあるMyTubeの使い方を覚えましょうね~♪」
「エリンもMyTubeの使い方見ておきたい!」
「よろしくお願いしますの~☆」
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お歌の練習と楽しい打合せが終わり、診療所まで帰る途中でベクターさんに会ったよ♪
「ベクターさんこんにちえる~ですの♪」
「おう!シンシア姐さんのトコの天使さ・・ちゃんじゃないか。診療所に帰るところか?」
いけねぇ、つい癖で天使様って言っちまいそうになるな・・見た目が同じだけにこいつは修正がむずかしいぜ。
「そーいや天使ちゃんはいつ頃の製造なんだい?目覚めたのがついこの間ってのは聞いたけどよ。」
「アズですのー?製造は遺失文明期997年だよー☆目覚めたのはつい一カ月半前くらいですの」
「ぶはっ!・・・そうだった、あの時俺が死にかけで見つけたのがこの天使ちゃんだったんだもんな、大昔なのも当然か。」シンシア姐さんに助けてもらった記憶がよみがえり、ちょっとバツが悪い。なにせ幼女と一緒に救助されちまったようなモンだしな~。
「おぉ♪ベクターさんはシンシアままが連れ帰ってくれた時に一緒にいらっしゃったですのね~☆」
ニコニコ顔の小さな天使の頭上にあるリングの光がキラリ。
「あぁ・・、とはいえ俺もケガしてシンシア姐さんに担がれてきたクチだから、天使ちゃんとお仲間みたいなもんだよ。まぁ仲良くしてくれや~。」
「はいですの~☆お仲間るんるん♪それではまったね~♪」
軽くお話を終えて再び診療所へ向けてトコトコ・・・
建物が見えてきたあたりで再び見知った人物の背中が見えてくる。
「ガルさんみーっけ♪ですの~。」
「ん?おぉ!アズ嬢ちゃんじゃないか。ちょうど診療所に行こうと思ってな。」
差し出された手を握りゆっくりペースでそう長くない距離を再び進み始める・・。
最初期に”おやつぱわー”で懐いてしまい、両親以外だと初めて手をつなげる関係に至っていた。
もっとも、ガルの大きな身の丈だとかなり屈みながらじゃないとその手を維持できないのだ
けれど・・。彼はやはり優しい男なのだった。
【リリエンタール&ハーモニクス診療所:セキュリティAI“イルカ87号ちゃん”】
Pi・・ぴんこーんナッテナイケド~♪アズチャンヲハッケーン♪ツイデニ クマ男ノ来訪ヲ確認・・解錠シマース。ドルフィーンジャーンプ♪ ガチャッ!・・Pid
「どんどん可笑しな方向に進化してるなーウチのセキュリティAIは・・一体どうしたってんだ?」
エレクは不思議そうに首をかしげる?普通のハウスセキュリティはこんなに感情が豊かになることは、まぁ無いのが一般的だ。
「フッフッフー、刮目シテミルガヨイ!ワレワレハ常ニ進化スルノダ!」
「んなワケあるか!?またベクターのところから変な発掘メモリーデバイスもらってきたな~?姐さんめw」
エレクの呟きがもれると、診療所内の白壁に波しぶきとともに
イルカがジャンプする絵が浮かび上がる!
「変ナトハナンダ!!喰ラエ!ドルフィーンブロウ♪」
機械知性同士のおばかな触れ合いが展開されるなか、扉が開いて二人が入ってくる。
「ただいまえるー♪」
「おう、そこでばったり会ってな~お邪魔するよ。」
「おう!いらっしゃい、リエル嬢ちゃんにはおかえりなさいだ~!姐さんはいま最後の外来見てっからしばらくすれば出てくるとおもうぜ。」
「あぁ、悪いな待たせてもらうとするよ。」
「きょうはアズにおやつあるですのー?」
帰ったそうそう”おやつ”をねだられるガルだった。
最近のアズリエルトレンドは紅茶におやつにケーキにと大変幅が広くなっており、どこまでが飲食可能な範囲なのか探っている様子?
「今日のおやつは”バウムクーヘン”っていうリング型のお菓子だよ~。」
「ばーむくーへん?ですの?くんくんいーにおい♪」
箱のなかから円形状のお菓子がひょいっと現れる。
「おぉー!おっきぃーですの~♪でもこれ大きいからお口にはいらないよー?」
「こいつはカットして食べるんだぜ、エレク(パパ)に切ってもらってきな~。」
ばーむくーへんさんバラバラ殺人事件が終わる頃シンシアままが仕事を終えて顔を出す。
「あら?珍しいお菓子ね~、っていうことはガルが来ているのかしら?」
「うん!お話あるっていってたよ~☆」
「おう、お邪魔しているよ。今日は届け物と連絡事項があって来たんだ。」
そういうと、カバンのなからからまずはパスケースに入った新しいIDを出してくる・・見たことないタイプのものねぇ・・?それが2つ。
「例の件ドクター・エンディアから内々で聞いてるよ、そんなわけで新しいIDを届けにきたんだ。
一枚はリリエンタール殿に、もう一枚はアズのお嬢ちゃんに・・だな。」
切ってもらったばーむくーへんをモグモグしながら、アズちゃんがチラリとIDを見る。
「わぁ♪一級の無制限IDですの~♪おじいちゃんからですのー?アズのもあるのー?」
ひとり無邪気にきゃいきゃいしてるお嬢ちゃん・・でも内容は分かってるみたいだな~(汗)
ガルはアズリエル用のIDを渡してあげた。
「姐さん無制限IDっていうと、そいつは、・・・まさか”次”なのか?」
「えぇ、まだ正式決定ではなくて内々で候補って状態だけれどね、・・・一応はですけれど。」
姐さんが次のドクター・エンディアになっちまうってのか!
「シンシアままとお揃いですの~♪これで”びびびびび~”がもっと簡単になるですの♪むふふ、さっそくー」
そういうとアズのお嬢ちゃんは手から青いレーザー光のようなものを出して壁際にあるPH/ADFラインに繋いでなにやらやりはじめた。
「おぉ♪前より素直にいろいろ答えてくれるですの~☆快適ねっとさーふぃん♪」
玄関あたりから”快適どるふぃんじゃんぷー♪”と聞こえてきた気がする。
「あー・・・、これなのか。エビデンス嬢が白旗上げたってのは・・・。なんでも第三論理防壁まで数分程度でブチ抜かれたって言ってたぜ・・。しかも攻勢防壁(*1)まで使ったけど回線切れただけだっていってたな。」
「あら?そうなの??随分お粗末な管理ねぇ・・ふふっ。どっちにしてもザルなら正規PASS出してしまった方が損害がないってこと?。あっはっは!本当に全面降参ねーw。」
ごめんなさいねガル、見ていたけれど面白いからそのままにしちゃったわ(笑)
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(*1)攻勢防壁=侵入者に対して攻撃的な対応を取り自己防衛するシステムの総称。
例えばウィルスやツールでシステムに侵入してくる輩に、違うタイプのウィルスなどで攻撃して結果防御を果たすといったシステムが該当。とても高価なので大体政府や軍施設等でないと維持できない。
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「ところでもう一つの用件はなにかしら?」
「もう一つはエビデンス嬢からも聞いていると思うが、アンチレス・メディカルの件を返事もらってこいと言付かっている。」
なるほどね、それじゃ今本人に聞いてみましょうか?
「アズちゃんちょっといいかしら?おいで~。」
手から”びびびびび~”していたアズちゃんは、なんと!その場に青いレーザー玉?だけ残してリモート通信しながらこちらにやってきた。
「はいですの~♪ご用事なんですの?」
「アズちゃんに前に教えてあげるって約束したコト覚えているかしら?」
「えーっと、人間さんの心が少ない理由ですの?」
「えぇ、そうよ。ドクター・エンディアのおじいちゃんからのお願いで”アンチレス・メディカル”っていう病院に行ってみてほしいのよ。もちろん希望しない場合は無理しなくて大丈夫よ?おそらくだけれど、アズちゃんが求めている答えの一つがここにあると思うの。」
・・・・アズリエルはじぃーっとシンシアを見つめながら、あんちれす・めでぃかる・・・と
つぶやく。青いレーザー球が複雑な光のダンスを踊りPH/ADFラインに一層ぶっとく注ぎ込まれる。
「なるほどですの~☆ままの言う通り関連性高そうですの♪アズいくよー☆」
話はあっさり承諾の方向で決まった。
**~ 一方その頃 ~**
【政府中枢・プラネットハーツ・システムアドミニストレータデスク】
次々表示される”こんぴーたーの悲鳴”にルーテシアはため息交じりに嘆息する。
「あららぁ、プラネットハーツの全回線処理帯域の5%っていう制限掛けておいてよかったわぁ・・
一体どんな接続方法なんでしょうね~?無理よこんなの防ぐのなんてどうかしてたわねぇ~・・。」
まぁ、どっちにしてももうオフタイムですしぃ~。問題はないですわね~ふふふ♪
「それにしても、どうして接続するときに”どーなつ”の画像が出るのかしらねぇ?不思議ですわぁ~。」
あははは、と現実逃避気味にとりあえずスルーして仕事場を離れるルーテシアだった。
全権IDを出してしまうのを少しためらったドクター・エンディアにルーテシアが答えたセリフがこちら。
「防げないものは、害さえなければ素通りさせた方が処理にムダがないのです!」
・・・・・次に白旗を上げる番なのはドクター・エンディアの方だった。