EP 026 「活動報告と真実の開示 その1」
【現人文明期 8895年 6月02日】
【ベクターハウス グリーンドルフ三世にて】
「おはようベクター!よく眠れたかしら?」
「シンシア姐さん、呼び出しちまってすんません。この間の探索についていくつか聞いておきたいことがあるんで来てもらったっす。この後出向く政府報告でも口裏合わせんと不味いことも・・・あるんじゃねーかと思って。」
「ええ、私もそのつもりだったから問題ないわ。あら?この棚の珈琲!レアモノじゃないの!見えるところにあるんだもの~、いただいてもいいってことよね~?ふふ。」
・・・発掘業者の部屋から文字通り”お宝”を見つけて手早く2人分の珈琲を準備する。
「あ、ヤベ・・見つかっちまいましたねw・・今時分は中々天然物の嗜好品は手に入らないっすからねぇ。」さすがシンシア姐さんは目敏いなぁ・・・・うん、いい香りだ。出来上がった珈琲を楽しみながら会話を続ける。
「さて、それじゃ改めて気になっているでしょういくつかの内容を私からまず説明するわね。その後わからない点については質問を受け付けるわ。それでいい?」
「OKです、それでお願いしやす。」
「まず初めに、大地天使様の件なんですけれど、このフォトデータを見て頂戴な」
「お・・?おぉ!?なんで診療所の中でエレクの旦那とシンシア姐さんと天使様が写ってるんすか!」合成写真かー?いやそんな手間なことやらねぇよな・・それに、どことなく天使様の表情が違う気がする・・。
「都市で大地天使様に面会したとき、私がまるで知っている風な態度を取ったの覚えてる?」
「えぇ、まさか知り合いなのかって驚きましたよそりゃぁ・・」
「このフォトデーターがその答えの一つ、実はねこの間”遺失文明期”からベクターごと引き揚げたケースに入っていた子が今私の娘”アズちゃん”として診療所にいるのよねぇ・・。この写真はついこの間撮影したものよ。」
ぴんぽーん♪
【ベクターハウス セキュリティAI”シルバードラグーン”初号機だぜ!】
「Pipi・・小サナ女性型機械知性ノ来訪ヲ確認・・非武装/敵意ナシ・・オイオイ彼女カ?コノ、ロリコンノスケコマシ・・ヒヒヒヒ・・解錠シマス!・・Pid」
「あらぁー、随分と賢い門番ですこと・・ふっふふふふw」
「あちゃー・・この間から発掘品使ってるんすけど、こいつ口悪わりぃんですよ~はぁ・・にしても誰だ?」
カチャッ・・扉を開けると・・・そこには一輪の笑顔が咲いていた♪
「こんにちえる~ですの♪こちらにシンシアままが来ていると伺って参りましたの~。」
そこには今話題沸騰中の天使様がいるのであった。
「うぉ!大地天使・・様っ??・・あ、いや、シンシア姐さんのところの・・娘・・さん?」
「べくたーさん初めまして!アズリエルだよ~♪うーん?アズはシンシアままにお届け物にきたんだよ~☆」とことこ・・シンシア姐さんの前までいくと天使様?改め天使ちゃんはカバンをごそごそしだす。
「あらアズちゃんいらっしゃいな?お届け物?」
・・アズちゃんは持ってきた小さなカバンの中からセキュリティIDを出して渡してくる。
「あー!、そういえばいつもの白衣じゃないんだったわ今日・・最近ずっと地下にいたからすっかり忘れてたわね。」
「本当に・・あっちで面会した天子様に、そっくりっすねぇ・・・」
似ているなんてもんじゃない、そのまんまじゃねーかw・・・納得するベクターだった。
届け物が終わりペコリと挨拶して帰っていった天使ちゃんを見送り・・
「ね?そっくりでしょう?」
「いやーそのまんまっすねーwシンシア姐さんの反応に合点がいきやした。それにしても娘さん可愛いっすねー。」
「手を出したら殺すわよ♪」と笑顔でレーザーメスをチラつかせる姐さん。
「あちらで天使に面会したことは報告するけれど、容姿があの子と瓜二ついうことについてはまだ伏せててちょうだいな。少し調べたいことがあるの。」
「承知しました。」
そのあと、現在政府に解析依頼を兼ねて証拠品として預けてある武装については、入手経路を含めて特段情報を隠匿する必要がないこと。また、恐らく安全性確保の観点から球状の転移破壊兵器については政府預けとしておく事で、レーザーとプロテクターはそのままこちらで使えるように事前にある程度話をつけてある点などの情報を共有した。
「あの玉はヤバすぎて保管するにも気を使っちまうから、正直なところ助かりましたよ。プロテクターとレーザーがあれば今後仕事でかなり安全が確保できそうですし、今回の報酬はこれだけで十分ですよ。」
「またそんなこといって・・・キッチリ報酬は支払いますよ?いくら武装が強くてもお金がないと生活に困っちゃうじゃないの・・しょうがない人ねぇ~。数日中にルーテシアを窓口にして受け取れるようになるはずよ。」
「うっす!ありがとうございます。」
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【政府庁舎ドクター・エンディア執務室】
「以上が今回の探索活動報告となりますわ。」
・・・・この間のシンシア&ベクターによるジオ・リングブライト=アズライェール到達の件をドクター・エンディア(スポンサー)に報告しにきているところよ。
「ふぅ・・・なかなか一度に信じるというのは難しい・・と言いたいところだが何はともあれ凄いな、まさか現存している天使に面会できたというのは歴史的快挙といえる。面会時間が極短時間というのはなんとも残念であるが。」
年配のわりに大きな体格のおじいちゃんは”ふぅーむ!”と大きく息を吐く。
報告書にはいくつか書かなかったことがある。(ベクターには口止めしてあるわ♪)
まず初めに大地天使様がアズちゃんらしき存在であったこと。
それと、あの都市は可能性として私たちの未来であるのかもしれない?ということ。
これについては隠している・・というよりも、私自身で確信が持てるまでの間に余計な色眼鏡でアズちゃんに塁が及ばないようにしておきたいのよ・・。
「はい、しかしながら都市”ジオ・リングブライト=アズライェール”到達によってもたらされた情報のうち最も重視すべきであるのは”粉は絶対に使用するな”という天使様のお言葉です。都市で保護されていた約4000万人の人口のうち極一部を除いて霊子結合体と呼ばれる身体が存在しない状態・・、あるいは精神体としてのみ活動しているというお話がありました。これは時間が無く未確認ですが都市管理職員の言によるものです。」
ここで一旦呼吸を置く。
推測ではあるがかなり確信が持てる内容だからだ。
「天使様が仰いました内容に、”もう一度人類が自分の力で自由な生活を取り戻していけるように、私が守護している”というお言葉がありました。ここからは私の推測になりますが、これはもしや未来のレスェルミン患者の事ではないでしょうか?」
「なんだと!?・・・・・仮に未来だとして、そんな遠い日の先まで人類は解放されず病に蝕まれているというのか・・・。」
「都市管理職員に都市の歴史について話を聞きましたが、我々の歴史ではないかのような言が多く定かではありません。また、当該都市の宇宙空間上から地上をみた限りプラネットハーツとは違う惑星であるように見受けられました。・・・しかし、人類史経過年数は約14000年といったスケールであることから、人類史創設基準点が現時点の文明と解釈が異なるだけ・・という可能性が否定できません。まだ私達の文明は9000年を経過していないのですから、同一時空間上の未来という可能性は十分にあるかと思われます。」
・・・・・・・しばしの間沈黙が場を支配する。
「そうじゃな、この状況となってはワシも情報を全て開示する必要があると認めるよ。シンシア・リリエンタール其方は合格だ。」
やはり開示してない情報はあったのね・・、でも合格?どういうこと・・。
「これから話すことはルーテシア君も含めて全ての者が知らないことだ。この惑星上でワシだけしか知らない。一度執務室を自閉モードにして外界からあらゆる情報を遮断する必要がある。」
少し待ってくれ・・といいドクター・エンディアは執務室を完全閉鎖して緊急回線以外全てを遮断する。
「さて、覚悟はいいか?」
「とっくにできてますわ、何を知っても私が宣誓した内容は今も変わりませんもの!」
恐らく相当酷い内容でしょうね、話す側のハズのおじいちゃん、顔が真っ青だもの・・・。
私は身体の芯に力を入れて気合を入れる。
「実は、”粉”については既存の情報がある程度存在するのだ、代々ドクター・エンディアだけに引き継がれてきた記憶の中に・・ではあるが。現物は前に話した通り無いことに変わらんのだが、正式な名称と生成法、それに使用方法については知ってしまった・・。」
「それはな・・、それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・”天使の粉”と呼ばれていた。」
「なんですッて!!!?・・・・・取り乱してすみません、・・続けてください。」
この反応は予想していたのか、苦々しい表情で”ああ・・”とつぶやく。
「生成方法についてははっきりした記憶があるわけではないが、原材料は恐らくだが”天使そのもの”だ。これは天使が減り始めた時期と私の引き継いだ記憶との時代時期が一致するため、可能性は限りなく高い。」
「なんてこと・・・・、それじゃ世界から歌天使が消えてしまったのは・・」
「人類は全ての天使を粉にして使ってしまったのであろう・・・な。」
「それじゃぁ一体使用すると何が得られるというんです!?」
「落ち着きなさい、憤る気持ちはわかるが過ぎてしまったことなのだよ・・。ワシ自身は触れたこともましてや見たこともない物であるにもかかわらず・・・知ってしまったのだ・・。」
・・・わかっていたつもりになっていた。
しかし、現実は余りにも苦しく、そして重たい・・・・。
「使用することによる効能・・とでもいうべきものはな・・”望みの技術体系がいきなり叶う”というものらしい・・。いまいち要領を得ないが、天使の粉を使って願えばどんな技術でも生まれてきたそうだよ・・。それも永続的にほとんど壊れないんだそうだ・・。」
愚かなことにな・・とつぶやくドクター・エンディアは一気に老け込んだように感じられた。
「願うだけでいきなり技術体系が発生する?永続的に壊れない・・・・」
願うだけで技術が生まれてくる・・ですって?バカな・・、いえ、冷静に考えてみなさいシンシア!
この惑星の地層年代と出土品による、現代との技術的乖離は一体なんなの?
発掘品のうち一定以下の深度・・、つまり太古の昔のものは壊れていることは余りない、または単に使い方が分からず壊れているように見えるだけの可能性もある。
現代の品物は長期に使えるが100%いずれ壊れるのに・・・。この違いはなに?。
技術的に爆発的進歩を遂げた時代とされるのは”変成文明期”から”遺失文明期”のあたり・・、そこから先の現人文明期は殆ど技術の進化がないとされる。
何故かこれだけ一気に進歩した技術についての”開発記述”や”技術体系の記録”だけが抜け落ちたように残っていない・・。それはなぜ?。
「気持ち悪いほど辻褄が合うわね・・。それにしても吐き気がするわっ!!
それじゃぁなに!人類は天使を粉にして使い切ったから文明が停滞して、加護が無くなったから病気になったってこと?自業自得じゃないの!!」
・・・・・・・・・・・・
「まさか大地天使様はそれも知っていて、それでも”天使は人類を見捨ててなんかないっ”って言ってくれたっていうの・・。人がしてきた事は・・・あんまりじゃないのよ・・どうしてそんなことが言えるの?なぜっ??うっうっ・・・」
静かに涙を流すことしかできず、また涙こそ流していないがドクター・エンディアの顔もシンシアと同様のものだった。