EP 022 「亜空間都市”ジオ・リングブライト=アズライェール” #3」
【現人文明期 8895年 5月XX日 不明・・・】
【都市制御コントロールタワー ”エテメンアンキ・ジッグラト”】
「ハァァァ!デケェー!!??」
「どういう空間構造なのかしら?階段で降りてきた総距離より高さがあるように見えるわね・・・」
都市コントロールセンターらしい建物に到着・・・成層圏まで到達してるような高さに見えるビル・・?いや光の柱といった外観・・かしらね?・・。
遠くからでは”光”が見えなかったことを考えると、入口に入った段階で別空間へ転移してるのかも・・。
警戒しつつ建物内に入るとやはり声を掛けられる。
【都市制御機構 総合案内/クレア・エクスプローリア】
「ようこそ!”天空光城エテメンアンキ・ジッグラト”へ。総合案内を担当致しますクレア・エクスプローリアです♪」軽やかな声と共に頭上の壁からプロジェクターみたいな光と共に女性型機械知性の姿が出力される。
「お・・おう!俺はベクターだよろしくな」
「シンシアよ・・、やっぱりインターフェイスは映像なのね・・自律型はいないのかしら・・?」
「よろしかったら、こちらの館内案内端末をどうぞ!」
にっこり笑った表情の案内機械知性嬢クレアの映像が近寄ってくる。
「どうぞって、映像じゃない・・の・・?え!?触れる!!??」
端末を”手渡し”されてシンシアは心底驚いた!触れる映像などもちろん初見だし、プラネットハーツには存在していない。
「はい、本都市ジオ・リングブライト=アズライェールでは公的職員に”立体質量再生型ホログラフ”(*1)が採用されております!映像に質量を持たせておりますため案内、運搬、有事の際に護衛等による業務を担当可能です♪」
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(*1)立体質量再生型ホログラフ
=プロジェクターみたいなので投影した光に”3Dとして身体の質量が存在”する・・というもの。この技術があると身体を構成する物質がそもそも必要なくなると言われている。
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「いやースゲーな、もうこれしか言葉が出ねえよシンシア姐さん・・ここってホントおとぎの国だな~・・。でも、なんでこの手の技術は現代文明の俺らプラネットハーツに一切伝わってねぇんだ?。名称も言葉も何一つ知らないものばかりだぜ。」
「そう!、その点が実におかしいのよね!・・・」
敵国であって仮に滅ぼしたりしたなら、それなりに記録が残るハズ・・その逆もしかり。
まるで接触が無かったかのようなイメージしか湧かないのよね・・。
そもそも技術水準を考えればもし”ココ”とウチが戦闘になった場合、ウチは秒で国家ごと消滅してるでしょうからそれは考えにくい・・が、機械知性達の反応を見るにこの国を秘匿する気があるようにも見えない・・。
「ねぇクレア・・都市コントロールについての一般見学と、併せて市民IDの登録に関して案内してくれないかしら?」
おぉ、そうか!仮にも市民登録ができるんであれば都市のセキュリティに攻撃される心配はなくなるわけだ!できるといいな・・ここで不法侵入者認定されたらさすがに生き残れる自信がねぇぜ。
「かしこまりました!、それでは12998階の市民ID管理室へまずご案内いたします~。
転送開始・・」
身体が一瞬宙に浮くような不思議な感覚がした刹那!
”キュン・・スススッ!”
視界が一瞬で切り替わる・・。
「12998階に到着しました、こちらの端末までどうぞ・・・」
「まさか瞬間移動?」
「瞬間移動・・なんでしょうね・・」
特になんの予備動作も無く遥か上空に転送されたらしい・・・。
そりゃぁ1階にEVとか階段が何も見当たらないわけだよ・・。要らないんだな・・そんなもんは・・はぁ。
窓から見える景色は・・・宇宙空間のようだ・・。
「シンシア姐さん、窓の外宇宙みてーに見えるんだけどさ・・」
「地上10kmってところかしらねぇ、成層圏より上の静止軌道衛星あたりかしら・・そんな事より、眼下のこれ・・見覚えのない星よね・・これはプラネットハーツじゃないわ!!」
「当施設自慢のパノラマとなっております・・・記念写真をどうぞ!」
ストロボが光るわけでもなく、クレアの手元には印刷された写真が既にあり、それを渡してくる。
せっかくだからと写真を受け取りつつ、そろそろこの質問をしないとならない・・。
できれば戦闘は避けたいのだけれど・・・。
「・・・私達はIDを無くしてしまっている状態なのだけれど、再発行か新規発行は可能かしら?」
「市民IDの再発行は遺伝形質記録のため不可能です・・が、お客様が現在身に着けております物は当都市の警察機構に認証された正規品でございます。また、優先護衛対象としてネットワークアーカイブにお二人のご登録がございます。」
「オンライン認証されている正規品を身につけられている限り、信用セキュリティ等級が2級と判断されます。現状装備と合わせて提示する方式となります、第2級セキュリティIDの新規発行が可能かと思われます♪」
よし!ナイス俺!!良くあそこで撃たれておいた!!
身体をスキャンされた時”被害”がなけりゃぁ、警察AIのE29が装備貸してくれたかわかんねぇもんな・・
あのおっさん機械知性にはホント感謝だぜ!
「ありがとう助かるわ!、手続きついでに信用等級とその違いについて説明をお願いできる?」
いける!ここで正規IDと同等のものがあればセキュリティを動かすだけで敵勢力を潰せる!!
「かしこまりました、市民IDは原則3級のセキュリティIDと同等となり生涯有効です・・・中略・・・・最後に第1級IDは天使様のみが身に着けることにより有効となります。」
「なんですって!?いまアナタ天使って言ったわね!この都市には天使がまだいるの!?」
生きてきて初めて聞いたわ!まだ実在しているっていうの??
もし本当に天使を見つけることができたなら・・きっと私の研究も目標後が見えるかもしれない!!
「現在都市がメンテナンスモードであるため所在安否について不明ですが、本都市名称である”ジオ・リングブライト=アズライェール”とはお客様がお使いの主要言語に直訳すると、”大地に降り立つ天使アズリエルの光輪”という名称であり・・本都市を守護・管理されているのは大地天使アズリエル様になります♪」
「本当に・・いたのか・・・実在する天使が・・ここに?」
「なんてこと・・でも、間違いない本物だわ!今、この子はアズちゃんの名付け元となった天使の名前を”正しく声に出した”もの!!」
それにしても”歌天使”ではなく”大地天使”??でも名前は同一?気になるわね・・。
色々あって驚き過ぎたが、セキュリティIDはまとめるとこうなるらしい・・。
【ジオ・リングブライト=アズライェール IDについて】
1級セキュリティ 現存する天使のみが所持、都市を守護してる??
2級セキュリティ 警察機構・行政機構からの権限(保護)を得ている人
(俺とシンシア姐さんはココ)
3級セキュリティ 一般市民ID 生涯有効らしいが、一人も見かけてないからよくわからん。
4級セキュリティ 軽犯罪などで特定期間ペナルティがある人々
5級セキュリティ 犯罪などで一時的に投獄されている状態の人々
ID不所持 発見次第存在を抹消(セキュリティONの場合・・怖えぇ・・!?)
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クレアにお願いしてセキュリティIDを発行してもらっている間、いろいろ質問を続けるシンシア。
「あと一週間程度で都市の再起動が完了するけれど、天使様に面会って可能なのかしら?」
会えるチャンスがあるなら絶対に外せない。聞いてみるのは無駄じゃないはず・・。
そもそも会話できる知性体なのか?こちらにはなんの情報もないのだ。
「非常に長い待機日数を要するとは存じますが、可能であると思います♪」
やったわ!1年でも10年でも待ってやろうじゃないの!・・でも他にも気になることはある。
「そういえば、先ほどの説明にあった3級IDの市民である人類を一人も見かけていないのだけれど、何か特別な状況であるのかしら?この都市は無人で運用されているように見えるのだけれど・・。」
そう、過去文明においてこの都市で初めて会話可能な機械知性が現存していたことは特筆に値する。しかし、他の文明遺跡同様に”人”が一人も見当たらないのは共通事項でもある、極論すれば死体も骨もないのだ。
「現在・・当都市基準の時間軸で活動待機している人類は約4000万人ほどになります。」
「!?都市の建物内にも外にも一人もいねぇぞ?一体どこにいるんだ!」
「そんな多くの人間が生活しているなら、生活痕跡が多く出るはずだけれど・・?」
このシンシアの発言に関してクレアは次のように返してきた。
「お客様が発言されましたのは”旧形体の人類”が生活時に出す副産物を想定されているかと存じます。本都市に存在する人類は極一部の例外を除き、全て新形態=霊子情報結合体であり常時身体を必要としていません。」
なんですって?身体をもたない・・?
オイオイ、それって生きてるってーか死んでんのか分かんねーぞ・・・。
「新形態の人類と私達”旧形体”の人類は会話やコミュニケーションする手段があるのかしら?」
「はいっ!もちろん可能でございます♪・・・と申しましても、都市の再起動が完了するまで
権限者達は都市機能再起動オペレーションで多忙であるためコンタクトが難しく、面会ご予約の上少々お時間を頂きたく存じます。」
「それについては了解よ・・準備ができたら連絡をもらうようにお願いするわ。」
「そういや、この都市が成立したのは一体何年頃になるんだ?都市の稼働から現在までの年数は??」
「はい、本都市は成立から5305年が経過、人類史上では一部推計が入りますが14205年の時を刻んでおります。」あら?変成文明期を超えて遺失文明期?・・でも、この時代は一部のへんな出土品を除いてはこんな高度な文明は無かったハズ・・。
いくらなんでも接合性がないわね・・。やっぱり”ココ”は私達の世界では無い別の次元なのではないかしら?
「遺失文明期より前があるのか分からんですが、余りに年代が合わないな・・」
「そうね・・、クレア次々質問で悪いんだけれど、”人類史”について最初の方から簡単にレクチャーしてもらえたりする?」
「私の”プリレゾンデートル”ですから、もちろん可能です♪・・・都市成立の頃からでよろしいでしょうか?・・・」
「ええ、お願いするわ」
それだけ前の歴史からしっかり記録が残っているなら、間違いなく私達の世界ではないわね。
でも、仮に異世界だとしてもこれだけの文明に対して歴史を知れることは敬意を払って聞いておきたいのよ。
「・・・約5300年前、本都市が成立する前に起こった未曽有の大災害を生き残りました僅かな人類は再生を決意して・・・・・・・・」
こうして彼女が語りだした歴史は、やはり私達の全く知らないものだった・・。