EP 020 「亜空間都市”ジオ・リングブライト=アズライェール” #1」
アズちゃんがマシンハートで過ごす日々の裏側で・・・
【現人文明期 8895年 5月27日くらい??】
ベクターとシンシアは誰もいない大都市を探索しつつ、都市コントロールセンターへ向けて
移動していた。
だだっ広い道路のような場所を2人で歩くが、自動車やら乗り物のようなものは一切見当たらない。
それどころか鉄道や飛行機械なども全く確認できない。
そして、道にはチリ一つ落ちて無い・・・。
唯一動いているのはたった二人の人類と、掃除機械なのか?小さなポットが道の端を控えめに行き来しているのみだ。
率直な第一印象としては”生きている廃墟”とでもいうべきか・・・。
「古代文明ってのはどーして良くわからん潔癖さというか・・今の俺らの文明とはあからさまに違って特徴的なんでしょうかね~?しかもエラく頑丈ときてやがる。今現在俺らの文明は8000年もの間ほったらかしで動き続けるモノなんて作れないってーのに。」
「そうね・・それも暮らしている人はもう居ないのに、数千年経ってもそれを保とうとする強い意志が感じられるわね。耐久性については実のところ本当に良くわからないのよ、私が知っている限り現代の製品耐久性はおよそ一般品で200年、特別品で500年が限界っていうところだからこの時代に比べると大分短いわ。」
そして、おそらくは政府中枢や惑星中枢を支えるシステムでも1000年は持たないハズ・・。
メンテナンスや定期保守をしているから続いているけれど、8000年もノーメンテナンスなんて考えられないわね・・・。
かつては大きな商業区画だったのだろうか?
大きな建物群が通りにびっしり生えている区画に差し掛かった・・そのとき
大きな建物の玄関アプローチ先端にある飾りが動いたような気がした。
「姐さん!アブネェ!!!」
俺は本能的にシンシア姐さんを突き飛ばした!!
ピシュー!ジャッッ!!!ベクターの肩口を赤い光が突き抜ける。
「ぐっ・・!」「ベクター!!?・・ざけんじゃないわよ!・・フンッ!!」
態勢を崩しながらもシンシアはレーザーメスを抜き光源に投擲!!
ガガッ!・・プシュー・・・一撃で機能停止に追い込むことに成功した。
「クソっ・・いてぇ・・・・よし、他には攻撃源はねぇな・・今のやつは一機だけみてぇだ。」
「傷口を見せなさい!・・・実弾じゃないわね・・光学兵器か・・傷口が浅いのは幸いね・・ちょっと痛いけど我慢しなさいよ!」
体内に実態弾が無いことを念入りに確認しながら持参してきた 緊急冷却再生パッド(*1)を
励起、貫通面2枚を貼り付けて固定する。
「すんません・・気付くのが遅・・うぐっ・・」
「何言ってんのよ、私は気付きもしなかったしあんたが居なけりゃ穴が開いていたのは私のほうじゃない。傷口が完全回復するまで半日ってところだし、手前に戻って少し休める場所に陣取りましょう。」
光学兵器は予備動作を除けば着弾まで1秒もかからない・・
良く庇えたわね・・正直私一人じゃここで終わっていたわ。ベクターが着いてきてくれたのに感謝しないとね♪
手前の道路に戻りすぐ脇にある小さな施設を入念にチェックしてから入り込む。
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(*1)
「緊急冷却再生パッド」=大きな湿布・絆創膏みたいなジェル状の医療パッド。
銃弾で打ち抜かれても弾を除去して貼り付ければ、分子再生因子がほとんどの傷を再生してくれる。でも、もし弾が残っていたら永遠に苦しむことになるのでしっかり確認しよう!☆
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建物の窓から先ほどの通りを定期的にチェックしつつ、破壊したレーザー周囲を電子双眼鏡でじっくり観察しつつ考えを整理する。
まずおかしいのは、暫定ながら都市のセキュリティは196時間はOFFになっているのを確認しているということ。
つまり都市機能に直接攻撃されるハズはない・・、もしかしてあの建物が特殊な防衛対象・・?
いやそれならもう少しこれ見よがしな防衛兵器やシステムが守っているはず・・
対人機械1つだなんて解せないわね。
しばらく横になっていたベクターだったが、身体を起こしてきた。
「うっす、大分痛みは引いて来たんで思考を一端クリアにして考えてみたんですが、さっきのアレ(レーザー)はこの時代のモノじゃない気がするんですよ・・」
「あら?何か思い当るところでもあったの?」
「ブツをそんなに良く見たワケじゃないですが、この時代に人が居なくなってまで感じる”優しさ””丁寧さ”みたいなもんがまるで感じられなかった。」
「何となく言いたいことは分かるけれど、さすがに防御兵器がそれじゃ務まらないからじゃないの?」
いいたいニュアンスは分かる、確かに古代遺産系のシステムたちは人類に対して”優しさ”や”丁寧な配慮”みたいなものを感じる設計であることが多い。
「恐らくなんですが外部から持ち込まれたものではないか?と俺は思います。この時代のモノであれば軍施設でもない限り一度くらいは近づくと危険だと”警告くらい出る”はずです。それに本気で守ろうと思うにはあんなレーザー一発じゃ防衛に対する実効性が薄すぎる。」
なるほどね、確かに古代文明らしからぬ無警告射撃、しかも攻撃手段自体は対人兵器一つと大したことがない。まるでそこに来たものを無差別に攻撃する以外の意図が感じられない・・ってところねぇ。
導き出される答えは・・・つまり罠ってことか。
この都市内部に初めからいたのか?又は見張っているのか?それは分からないが
私達以外でここに入ってきているもの者が居るみたいね!きな臭くなってきたわ。
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この都市は昼夜まで再現しているらしく、ベクターが回復するころにはすっかり夜の帳が降りていた。
「心配かけやした!ベクター・グリンドルフ完全復活っす!!」
肩をグルグル回して様子をみていたベクターは元気に復帰を宣言した。
「あんまり無理するんじゃないわよ?傷口が開くことはないとおもうけれど・・
それと少し今後の方針について話し合いましょう。」
まず今までとは条件が変わった分リスクマネージメントに変化が生じたこと。
第三者勢力による武力介入の可能性が一気に高まったため、基本方針を確認しておく必要がある。
「本来の俺たちの目的地は、もっと下にある変成文明期の遺産でしたよね?・・見つけたものが大都市っていうとんでもない発見なんで正直浮ついているが、目的外なら見なかったことにするのも手・・かもしれやせんぜ?」
「ええそうよ、でもこの大都市まで降りてきた状況や隔絶された空間であることを考えると、今いる都市が遺失文明期なのか?変成文明期なのか?それともまた違うモノであるのか??区別がつかないの。もしかしたら目標地点に到達している可能性も含めて判断材料が足りないわ。」
「ってーと、このまま本都市内の探索続行を基本方針とした方が良さそうっすね。」
「そうなるわね、少なくとも都市コントロールセンターでそのあたりの状況を確定する必要があるわ。」
「了解っす、まじめな話状況的には対人・対防衛兵器戦闘も視野にいれた装備がい欲しいところっすね。建物内の端末から武器が入手できそうな場所を探してもらえんでしょうか?・・さすがに手持ちの探索用ナイフじゃ光学兵器相手にするにゃーキビシイです。」
古代の遺産探索に武器・・か、あまり気が進まないけれどでも既に攻撃されている以上致し方ないわね。
「オッケー、調べてみるわ」
手短な情報端末から治安の一時的悪化について検索開始。回答は3つ。
1、警察機構?への通報
2、現在地からの避難場所への誘導
3、最寄りの警察機構の拠点
武器入手の可能性がありそうなのは3番ね。モニターに所在地を出してみる・・。
「さっきの通りのすぐ先・・か」
「現場に戻るのはリスクが大きいわね・・どうするのベクター?」
襲撃のあった現場・・つまり罠があった場所ってのは、何らかの手段で罠が作動したことが敵に伝わっているハズ・・・。
状況にもよるが現場を遠くから見はられている可能性が高いからだ。
あの中途半端な攻撃力の罠設置からいって、負傷者を出して救助隊を誘き出す方針なのかもしれない。正直時間が経つほど不利になるといってもいい・・。
「まだ夜の間に突破して、武器の入手を優先するぜ!もし手に入らない場合で直接敵を確認できた場合は・・撤退しかないな。」出来るかどうかは別として・・な。
「そうね、流石に武装勢力相手に本チャンで戦闘するわけにはいかないし・・、今から手ぶらで階段へ戻っても回り込まれている可能性もあるわね。」
「シンシア姐さん、GOだ!」
「オッケー!」
建物内から一本裏の通路に出られることを確認して、裏通りを目立たないよう厳重にチェックしながら進んでいく。ここを右に曲がればさっき襲撃された交差点に出るが・・・。
「一旦ストップだ・・・策がある。アレを使おう。」
そういってベクターが指したのは、24時間営業よろしく道の端を走っているポッドだった。
このポッドは窮屈だが人が乗れそうなサイズであるため、交差点の反対側までこれに乗っていこうという作戦だ。
「ふぅん?面白そうじゃない!次の一体がきたら抑え込みなさいな・・言うこと聞かせてみるわっ!」
古代遺産をいじくりまわせる機会は中々ないものね~♪
しゅいーーーーん・・・しばらく待つとポッドが一体がやってきた・・。
「・・・うりゃっ!」
【清掃ポッド】
「piun!! 公共システムヘノ攻撃ハ罪ニ問ワレ・・・」
「よいしょっと!デーモンちゃん出番よ!」
・・ヌチャッ!っと粘土のようなモノをポッドの接続端末にくっつけたシンシア。うふふ♪
これはねぇコネクタの形状を問わずなんでもハッキングできちゃう万能接続端子なのよ~♪
【ハッキングデバイス・デーモンブレイン】
Pi・・論理構造解析・・優先命令者ノ書換・・イイコニナーレ♪ヒツジチャン☆・・完了/ Pid
「うふふー♪羊ちゃんGETね~もう逃がさないわよ・・私の命令に従いなさい!」
うわぁ、怖え・・これ機械知性からしたら洗脳だよな~?やべぇ俺も頭の中にチップ入ってんじゃないだろーなー?!ん?人間だからそれはねーか・・、エレクの旦那は・・?いや考えすぎだな。頭の中に浮かんだくだらん妄想を打ち切る。
「近くのポッドをもう一台ここに呼び出してくれる?」
【清掃ポッド 改めシープくん1号】
「piun!! ハッ!仰セノママニ・・・Pid」
指示をだすとすぐにもう一台ポッドがやってきた。
今度は仲間に呼ばれたせいか、目の前で停まってこじ開けるまでもなくハッチが開いた。
【ハッキングデバイス・デーモンブレイン】
Pi・・論理構造解析・・優先命令ノ書換・・イイコニナーレ♪ヒツジチャン☆・・完了/ Pid
「思ったよりデーモンちゃん使い勝手いいわね~♪伊達にドクターエンディアの機密エリアハックしまくって情報蓄積した甲斐があるわ~♪」
・・・・・なんてところで練習してやがんだシンシア姐さんは・・・・
「さて、二台に分かれて乗り込みましょう。こちらでベクターのポッドは操作するから心配しないで」「了解!」
【清掃ポッド 改めシープくん1号&2号】
「piun!! 指定ポイントマデ、オハコビシマス。・・・Pid」
本来のルートとペースで交差点を通過するポッドに攻撃がくるハズもなく、姿を隠したままうまく通り抜けることができた二人。
そのままポッドに乗って警察拠点の建物まで移動する。
可愛い羊ちゃん達は一度通常モードに戻してやったため、通りの向こうへ去ってゆく。
解放したかに見えつつも必要とあらば呼べるようにひっそり呼出しコードを入手しているシンシアだった。
「ふふっ♪いつでも来てくれる羊ちゃん達またねー♪」