EP 019 「ポイントγ 完全自律型ジジットシ」
アズちゃんがマシンハートで過ごす日々の裏側で・・・
【現人文明期 8895年 5月25日~詳細不明】
・・・・・・ポイントγに向けて相転移掘削移動機の質量転移機能で壁面を強引に除去しながら現場へのアプローチを試みる。
作業開始から7~8時間は経過しただろうか?ポイントγに接続する空間までは何事もなく掘り抜けた。
ゲージに乗ってるから良いものの、通過したエリアには汚染反応が出る領域などもあり
人の身で普通にはとても潜れない、よしんばたどり着いても帰れない”片道切符”の色濃い予感に背筋が凍る。
【機内制御装置AI”グラビトンユニーバース”】
「Fon!告・・目標到達ヲ確認、機関良好・・メインタンク残存エネルギー 58%・・Pind」
「シンシア姐さん周辺空間内をスキャン完了っす。・・毒汚染なんかは未検出・・そのまま外に出れるが、念のため防塵マスクと小さめの酸素ボンベは持って行った方がいいぜ」
「オッケー!準備しましょう。」
さて・・と、ここまではだいぶ順調にきたけれど、ここから先は何が起こるか分かったもんじゃないわね。”上”と違って、治安も何もないから色々と装備を忘れないようにしないと・・・。
グラビトンユニバースを待機モードにさせてから、しばらく空間内を進んでいくと・・・
「階段・・っすね」
「階段・・・よね」
「安全性の確認しますんで、ちょっと待っててください・・」
こういう”いかにも”な場合、セキュリティが生きてるケースがあるんでいきなり入るのは
アブねー。
俺は装備から照明ボールを取り出して起動させた後、階段下に向かって勢いよく投げ込む!
カコン!・・カコン!・・・・カコッ!・・カコ・・カコ・・・・・
「大丈夫そうみたいですね、俺が先行しますんで着いてきてください。もし、生きてるカメラの類やセンサー類を見つけたら両手を挙げて動かないでいてくださいっす・・・対処するんで。」
「分かったわ」
見た感じ何の変哲もない人間用の階段・・・メンテナンスハッチみたいな感じかしらね?
前にアズちゃんを見つけた遺跡みたいに周りに光があるとかではなく、普通に真っ暗な空間がそこにあった。
「それにしても・・・深いわね・・」
「技術が進んでいた時代のわりに階段とかは何千年たっても変わらないもんっすね~。」
先に投げ込んだ照明ボールの光を頼りに徐々に下に向かって降りていく。
しばらく降りて行った先でボールを回収、今度は伸縮スティックの先端にボールを取り付けて
前に掲げながら安全を確保しつつベクターを先頭に再度進んでいく。
「そろそろ降り始めて一時間くらいっすね・・・ん?あれは・・」
もう大分降りてきたところで階段の踊り場みたいな場所に情報端末を発見した。生きているだろうか?・・。
「・・・ダメね反応がないわ、故障というより主電源が落ちているような印象ね。先に進みましょう。」
残念だけど、こういうことはよくあるわ!むしろ何千年も昔のモノなのに良くあんなきれいな状態で傷が無い端末が地下にあるなんて信じられないわよ・・ほんとに。
さらに地下へ歩いていくこと二時間ほど・・
「・・・ん?」
「・・・へんね?」
階段が続いているのは特に変わりはないのだけれど、一瞬二人同時に違和感を覚えて立ち止まった。
「空気が変わった・・?身体の中を何かが通り抜けていったみたい??・・ベクター!安全性再チェックを!」
「もうやってる!・・・いや、問題ないな。なんだこの肌を突き抜けていった変な感覚は・・?」
計器は特に毒性や放射線異常を示す兆候等は無かった。
「少しだけ重力制御系っぽい反応があるように見える・・か?・・いや誤差の範囲といっていいな・・。」
しばらく状況確認をしても特に問題は検出されなかったため、先に進むことにした。
さらに下ること数時間・・・
「シンシア姐さん風を感じます、恐らくすぐ先は広い空間だ・・」
筒状の階段ゾーンから一気に開けた空間へと視界が変化する・・・が、そもそも暗闇で見渡すことはできない。
階段から照明ボールをかざして下をのぞき込んでみるがいまいち良くわからない。
「このまま階段が無事なら一度下まで降り切ってしまいやしょう!」
・・・・・・
・・・
・・
二人は広大な空間の端っこエリア・・・10時間以上かけてようやく地面へと降り切った。
周囲の安全確認を行い、わずかばかり階段を戻り一度交代で休みを取る。
もう活動開始から一日以上経ってしまっているからだ。
**翌日?**
「周りは人工物だ・・しかしディティールがあまりよく分からないな。」
「あっちの方に小さく光が見えるわ・・恐らく小部屋じゃないかしら?チェックお願い!」
「了解っす」
一応セキュリティや罠を警戒して一通りのチェックをこなしたが問題はなさそうだ。
中に入ってみると先ほどと同型の情報端末のようだ。
「ビンゴ!、少し弱々しいけれど生きてるみたいね!任せて頂戴。」
このタイプは恐らく工場や施設のガイド端末か何かだと思うのよねぇ・・。
休眠状態で電源が生きているなら恐らく・・・こうやって・・。
【情報端末 ???】
「Piun! サスペンドモード解除指示ヲ受諾・・システムチェック中・・Pid」
うおっ、スゲェ!古代のシステムがまるで自宅の端末みてーな気軽さで
動かせちまうんだもんなー。
やっぱ姐さんはやべーわ。俺だったら動かすのに最低でも一週間くれーはかかりそうだぜ。
第一書いてある文字が殆ど読めねぇ・・プロの発掘業者だってのに最近未知の言語ばっかりに
遭遇してる気がするぜほんと。
【情報端末 ???】
「Piun! システムチェック完了、異常ナシ。・・ジジッ・トシ・・内ノ補助システムヲ起動可能デス・・Pid」
カタカタカタと端末を操作する音が響く。
「そうねぇ、セキュリティ毎起動しちゃうとマズいわね・・その辺はカットして明かりと情報
システムだけメンテナンスモードと誤認させて動かしましょうか・・・・っとこれでいいわ。」
それにしてもちょっと音声デバイスの調子が悪いのかしら?ジジットシって何かしら?
【情報端末 ???】
「Piun! 最終メンテナンスより7080万5ジジッ9時間ノ経過ヲ確認・・・非市民ニヨルメンテナンスコードヲ特例受諾、安全確認ジジッジ間セキュリティシステジジジ定OFF、完全自律型亜空間都市”ジオ・リングブライト=アズライェール”ジジッジ力システム始動ー再起動シマス・・Pid」
ん?都市??そんな言葉が聞こえたような気がするが・・すぐにどこか遠くでグォォォォォンってな音が鳴り響き端末の音声をかき消してしまう。何らかのパワーデバイスだろうか?暗闇だった大空間に一気に灯が入り、しばらく視界が利かなくなる!?
すぅぅぅぅー!ふわぁーーーー!!!爽やかな一陣の風が通り抜けていく!
・・・少し光に眼が慣れてきたため薄眼を開けて状況を確認しようとして・・
「街だわ!・・いえ”大都市”といってもいい・・わね・・すご・・い」
さすがの姐さんも声の終わりが掠れていた・・
俺は一言も喋れない程驚いていたんだ・・・だって”誰もいない地底”に大都市があったんだから。
それにしても眩しい!俺たちは無言で降りてきた階段を見上げようとして自然と上を見・・
「バカな!?空が見えるだと??空の先に階段が見える・・!!?」
「何て技術なの?地下なのに新鮮な空気も循環していて風まで・・青空!?・・」
【非常封鎖領域・緊急管理システム 情報端末GF27326-9AZ】
「Piun! ・・再起動ジジッジ、全天候型環境立体再生ホログラフ・・出力91.5%発揮・・・
音声出力シジジ・・破損ジッジ認・・空間出力合成ニヨル回路修正・・・・完了。」
「環境再現循環機構出力正常、河川循環開始マデ12時間、雨天再生循環まで48時間、現座
標ヨリエネルギー取得効率カラマントル地熱圧力転換炉ヲ選択。・・・出力25%補助起動
ヲ完了・・完全起動マデ後196時間・・Pid」
あぁ・・少し壊れていたのね・・勝手に治したみたいだけど!?
オイオイ!なんだよこれ、勝手に治したのもそーだけど川に雨に空の再現だと!!?
「・・・・ハァ、シンシア姐さん・・コレ持って帰れますかね?発掘業者・・発掘・・ぶははは!!」
「・・・無理ね!人類の都市ごと引っ越してくる方が幾分マシな提案だわ・・ふふふ!!」
地下の文明遺産に”粉”を探しにきた二人・・しかし、そこにあるのは求めていたものよりも、余りに大き過ぎるモノだった。
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ひとしきり驚いた後は、驚きを心の片隅に封印して仕事に掛かる。
まずは現状の確認とやってきた道・・退路の考察をしておく。
「端末からの情報によると、どうやらこの場所は非常時にシステムを休眠/メンテナンスするための非常口みたいなものらしいわね・・。さっきへんな感覚がしたでしょ?どうもあそこが隔絶された都市空間と外界との境目みたい。」
「信じられねーけど、この光景は嘘じゃねぇ・・。どおりで上の端末が反応しないわけっすね。あちら側にあった文明圏とこの都市内部じゃぁ保存状態が違い過ぎる。それに、スキャナに反応しないのも隔絶された空間ってぇなら探知できるわけがない・・俺らの視界に階段が引っかかったってどんな確率っすか!?」
「それにしても、完全自律型の亜空間都市ねぇ?・・、大深度地下にあるだけでも驚きなんだけれど、これひょっとしたらプラネットハーツの存在している宇宙空間外っていう可能性も考えられるわね?。その場合は上の階段が地底文明圏内との接続を解除してしまった場合、帰れなくなるわね。」
素早く帰路と都市の状況から考察を済ませる・・。
まずなぜ人が居ないのか?そして都市が破棄された理由の確認が最優先ね・・
未知のウィルスとか、手に余る高度汚染だったりしたら最悪帰還を諦めないといけないわ。
それをクリアしたら目的物である”粉”についての情報ね。
マズは端末に記録されちた地図より、都市コントロールセンターに向けて移動する方針を固める。
「行くわよ!」
「了解っ!」