EP 018 「あふたーいんすとーる♪」
【現人文明期 8895年 05月28日】
今日も連日マシンハートに通うアズリエル。
少しでもれべるあっぷしたい!と積極的にお歌の練習をする日々ですの♪
リエル嬢ちゃんと二人で出かけるのは初めてかもしれねぇな~っと、ちょっとウキウキなエレクぱぱ☆
今日は”ある約束”のため、ぱぱ同伴でマシーンハートにいくですの☆
エレクぱぱのバッグには機械さんがいっぱい入っているみたい。
カチャ・・りんりーん♪
「機械知性技師&カウンセラーのエレク・ハーモニクスだ、邪魔するぜ。」
「こんにちえる~ですの♪」
「アーシェちゃんハーモニクスさんいらっしゃい!お約束しました人類史のお歌を全曲インストールするということを、今日はやってみましょう~。」
じつは昨日オリヴィアさんが機械知性特有の”ねっとわーく”を経由して
人類史上かつて存在したすべてのお歌をコピーしてくれることになっていたんだ~♪
「そのために俺が呼ばれてきたワケだが、これも歴史上初めての試みといえるな。色々と準備がいるから少し待っててくれや・・そっちの部屋使ってもいいかい?」
着いた早々挨拶もそこそこに、エレクぱぱは練習室を丸ごと使って
機械さんの設置や配線などに取り掛かる。
オイオイ!先にお歌のインストールくらいやってやれよ!と突っ込みが入ってしまいそうではあるけどな、本来意識覚醒までにインストールされてない個体であるのに、歌を歌いたがる機械知性というのは存在してなかったため単に思い付かなかったそうだ・・。
同時にコイツぁ”あるはずのデータ”を”無いモノ”に入れるという試みでもあり
ADFが管轄している”機械知性の製造工程”に抵触するとも言える・・
民間では世界初めての試みといっていいだろう。
いま別件で地下に行ってる姐さんだが、あとでこの実験が耳に入ったら”立ち会わせなさいよ!”と過激な一撃を貰っちまいそうだ。
イメージで説明すると人間でいやぁ、恐らく記憶や経験のコピーを貰うといった感じになるハズだ。別に禁止されているワケではねぇが、簡単にはいかない。
禁止されてねぇ理由は安全だから・・・じゃない、”誰もやろうとしなかったから”だ。
一つ間違えば双方の記憶が飛んじまう可能性もあるし、慎重に進めないとならない。
エレクぱぱが準備しているのを尻目に、アズリエルはオリヴィアに質問をする。
「オリヴィアさん、いったい世界にはどれくらいのお歌があったですの?」
「そうですねぇ、過去から今でも残っている歌は数万曲くらいになります
でしょうか・・ただ、現人文明期に作られた歌はそう多くはないんですよ。」
現代の曲はあまり残っていない・・?
「どうして現代のお歌はあんまりないですのー?」
オリヴィアはここにきて再び?な状態に陥るが、とりあえず説明を試みる。
「えーとですね、それは・・・人類のレスェルミン罹患者が増えてきたことで
音楽的な分野が衰退しつつあるから・・というのが大きな理由でしょうか」
アズリエルはうさみみの上にハテナマークを浮かべながら聞く。
「アズ達機械知性さんがたくさんいるのに、それでも減ってしまうですの?」
なるほど・・・薄々そうではないかと思っていたけれど、やはりアーシェちゃんは知らないのですね・・。
「実は、私達機械知性は”創作”ができないのです・・。音楽を作曲したり作詞したりということが”全てではない”ですけれど、殆ど出来ないのです。」
「あれれ?、でもオリヴィアさんはあんなにお歌が上手ですのに~?
曲を作れない・・?歌が書けない・・??ですの?」
アズリエルはまともに歌うどころではない現状を嘆くわけではなく、なんで?どうして?という反応でうーんって考えこんでいた。
「はい・・歌は歌えますし上達もしますが、195年の間に一曲も生み出す事はできていません。」
今まで特に疑問に思わなかった事象だけれど、自分で説明していて少し悲しくなってしまう気がしたオリヴィアだった。
むむーっ?どうして作れない?なんでできない?時間は人間さんよりいっぱいあるのに??
「うみゅー変ですのね~。それは絶対におかしいですの~・・・。」
「ん?ふたりともどしたい??元気ねーじゃねーか。準備の方はできたから
いつでも作業にかかれるぞ?」
驚愕の事実が発覚したところで、エレクぱぱからお声がかかり一旦このお話は終わりとなった。
「それじゃ作業内容の最終確認をするぞ!、オリヴィアが保有している歌データの記憶は100%全て複製、経験についてはリエル嬢ちゃんの人格に影響がでない範囲で軽めに伝達できるか試みる・・でいいんだな?」
「はいですの!」
「よろしくお願いしますね。」
「今回は通常のメンテナンスとは違いデータ統合中に寝てもらうわけじゃぁないから、データを送る側も受ける側も白昼夢を見たり幻覚幻聴っぽい感覚を受けたりする場合があるけど、それで正常だから落ち着いて深呼吸しながら身を任せてくれ。」
ハーモニクスさんの指示に従いアーシェちゃんと背もたれの大きな椅子に
座り込み、そっと瞳を閉じてしばらく・・・
あぁ・・懐かしい私が初めて歌ったときの・・
ふふ、最初の頃は機械知性の歌などこんなもんか?とよく言われていましたね・・。
ふわぁ・・すごい・・ですの・・
まるで映画館の大きなスクリーンの前に2人で座っていて、たくさんのオリヴィアさんの過ごしてきた日々を一緒に見ているかのような・・・その場にいたかのような不思議な感覚・・・。
あら・・?これはひょっとしてアーシェちゃんの・・
ネットワークを通してこの子の記憶の断片が少し見えてきた・・。
最後に・・残った・うぅ・星・の夢・・継・・・・
・・・産・・あ・こ・・・か・・子・・
・・ずっと静かな・・うな・所で永劫の刻を・・
【Memory Tuning Device PH51A】
「Vii!! 送信者側ヘノ負荷拡大ヲ検出、同調レベルダウンヲ強ク推奨スル! Vii!!」
部屋中に広がる大きな警告音声と同時に素早く端末でアライメントを取る。
「どうも嬢ちゃんの方が基礎的な能力が強すぎるみてーだな、微細に調整しながらでないと本来絶対に安全なハズの送信側ですら危ないっ!・・・」
精神同調帯のレベルを細く微細に・・しかし正確な幅でコントロールしながら
少しずつ手探りで記憶と経験を嬢ちゃんへ入れていく・・。
万に一つ接続状態で嬢ちゃんの脳裏に強い思考が出たらそれだけでオリヴィアに危険が出ちまう可能性がある・・しっかりやらねぇと。
「最初っから100倍以上安全マージンみてまだ足りてねぇのか!まるで嬢ちゃんのシステム
強度はプラネットハーツのメインフレーム並みとしか思えねぇ‥人一人分が持てるような処理容量じゃないな・・」
経験と勘を頼りに、およそ2000対1くらいまでレートを落としながら
きっちりとリンクを保ち転送作業を進めていく。
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
** 約2時間後 **
「ん・・ううん・・あれれ?アズ寝てしまっていましたの・・」
目をごしごしこすりながら嬢ちゃんがまず目を覚ました。
「おう!おはよう~、作業は無事に完了したぞ~。オリヴィア嬢ちゃんは少し疲れちまってるみたいだからもう少し目覚めまでかかりそうだ。」
不思議な体験だったですの・・まるで見えない幽霊さんみたいになって
ずっとオリヴィアさんのすぐ横で、その生き方を見ていたような気がする・・。
初めてオリヴィアさんが不安な気持ちを抱えて、配信のステージに立った時の気持ち・・・。
心無い言葉で評価された時の寂しさ・・
でも、絶対にやめたくない!続けたい!伝えたい!という強い願いの気持ち・・
決められた歌詞に決められた周波数であるハズの、音、声、・・ちがう、
五線譜には見えない心が響いて奏でる・・それは気持ちを伝える感情の波・・。
「・・・・アズ、わかった気がする・・ですの」
嬢ちゃんはそのまま隣の練習室に入って行き、目を閉じて静かに呼吸を整えている。しばらくして・・・
「・・・♪~ ♪♪~ ♪♪♪~!!」
誰も聞いたことのなかったまともなアズリエルの歌声、感情を刺激する大波が建物中に
ぶわーーーっと広がった!
「これは・・まさかアズちゃんかい!?」
「りえる・・別人みたい・・」
「・・・ん・・うん・・・この声は・・・歌!?まるであの時の私の・・」
長いようで短い時間を歌うと途中で電池が切れたかのように、ぱたっと嬢ちゃんの意識が途切れてしまった。その顔はとても満足そうで・・幸せに包まれていた。