EP 014 「女傑、躍動開始!」
【現人文明期 8895年 5月21日】
ガル君を使いに出して幾分過ぎた・・時期にリリエンタール嬢がくるだろう。
それまでの間に改めて考えを整理しておきたい。
・・・時は遡ること11日前、政府庁舎ドクター・エンディア執務室・・
【現人文明期 8895年 5月09日 シンシア嬢ADFからハッキングした後の緊急会合にて】
「・・・ふむ、早速だが閲覧したであろう機密情報についてまず確認しておきたい」
「えぇ、承知いたしました。」
アーカイブで落としたデータをそのまま見せたほうが早いでしょうね・・
コレについてはわたしも聞きたいことがあるし・・・
本来だったらもう逮捕・拘束されていておかしくない案件ですもの。
何となく勘でしかないけど、切り込んで行ったほうが救いがある気がするのよね、コレ。
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「ドクター・エンディア継承記憶データニヨル補正処理ヲ実施」
【変成文明期】「29年火月14日」
これは一体なんだ!、望みが叶う粉だと?いかなる願いも叶うと言うのか!?
技術を発展させろ!我々にはもうそれができるはずだ!!”ソレ”を発生させる条件
は一体なんだ?
ああっ、抑えがたいこの欲求は一体・あぁあああ・ッググ・・
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「主な情報はコレですわね、第二級機密IDの域を超えてることは分かっていますけれど
お話下さる訳には行かないかしら?逮捕されるにしても、その後次第でってことでいかがかしら?」
知りたいという欲求の前に下らない駆け引きは好みじゃないわ!ストレートに行ってみましょう。
「ほぅ・・・?そうなる事が分かった上で実行して、敢えてワシの前に持ってきた・・?とな。」
・・・これは私がドクター・エンディアとなってからずっと抱えてきた・・そして話せる相手は
機械知性のルーテシア君しかいない・・・しかし、人類で知るものはワシだけという”重荷”なのだ・・。
さて、この年若き人類を巻き込んでも良いものだろうかどうか・・・
「・・・一つ確認しておきたい、リリエンタール嬢は一体何の目的で”コレ”に首を突っ込む?
回答次第によっては・・」
私はドクターの言葉を遮って続けた
「真実を知りたいから!、知った上でより良い方向に向かって行動するために他ならないわ!
・・・それが全てにして一つの答えだわ!」
「・・・・・・」
「私は下らない駆け引きや陰謀の類は嫌いなの、知ってるでしょう?おじいちゃん♪」
そんな気持ち一つで我が身を危険に晒すなど、なんと愚かな・・・しかし純粋で真っ直ぐな気持ちよな・・・
「いいだろう・・、全てとはいかないが折角の申し出を受けようじゃないか・・」
「そうこなくっちゃね♪やれる事はなんでもするわよ!」
ドクター・エンディアが教えてくれた”人類の歴史”について・・
正直なところ瞬きできないくらい驚いた。
しっかり心に刻み込みながら整理してみるわね。
1、遥か過去の人類は”粉”と呼ばれるものを発見した。
これは当代のドクター・エンディアとなる時に継承した記憶にあったそうだ。
2、この”粉”は希望する技術体系を爆発的に進歩させる効能があるらしい。
詳しい用法などは不明。
3、”粉”で進歩させた技術体系は、一応体を成しはするが原理がよくわからず
再現性も一定の範囲にとどまったため、あまり他技術に応用は効かないらしい。
しかしながら消滅したという記憶は無いことから、ずっと稼働している?かもしれない。
4、今現在”粉”は現存していないため、何らかのプログラム等論理資産的なものなのか?
物質的なモノなのか良くわかっていない。
5、どうも当時の人類はろくな文明が無かった時代と現代の境で急速に
”異常に発展したいという欲求”を抑えられないという因子を次々発症していたらしい。
しかしながら、現人文明期の現在、この”異常発展”を求める症状発生は収まっていること。
「・・・今教えることができる範囲では、こんなところじゃろうな。」
これらの限られた情報から、何を見出すか・・・?リリエンタール嬢。
「・・・なるほど・・、でも、しかし・・変ね?」
ドクターの記憶の範囲では採掘したり、加工したりしてできたものという概念では無いらしい。
記憶に無いのになぜ断定できる?・・
いや、数千年もの記憶なんて通常の人類にはないものだから、鮮明に思い出せないのも当然かしらね・・。ましてやご自身の記憶では無いわけだし・・。
一度しっかり熟考して方針を考えてみる必要がありそうね。
・・・・そして時は現在に戻ってくる。
【現人文明期 8895年 5月21日 政府中枢ドクターエンディア政務室】
「・・・急に呼び出してすまない、よく来てくれたリリエンタール嬢。」
いつも通りの厳ついドクターの顔、落ち着いた雰囲気が感じられる。
アズちゃんが来た時は本当に”おじいちゃん”だったけど・・ふふふっ
なんて思っていたら、一枚のIDを差し出してきた。
「あら?これは・・」
「さきほどルーテシア君に”立入り調査限定”とでもいうべき第一級機密IDを作ってもらったのだよ。閲覧権限自体は現在の第二級と然程は変わらん・・が、政府施設のあらゆる場所に自由に通行・最優先で立入調査できるよう設定した。」
わざわざハッキングせんでも、これで済むじゃろうからな・・・と少し笑い声を含むつぶやきが聞こえる。
ふぅん?既存データへのアクセスは制限するけれど
欲しい情報は自分で見つけてみせろ!ってことね?オーケィ♪分かりやすくて嫌いじゃないわ!
「頂戴します・・・、自分の足で探すっていうのは性にあってますわ♪」
・・・・おそらく、試されている。
いいわね・・・いいわね!やってやろうじゃないの!!
シンシアの吸い込まれるような黒い瞳が、生き生きと輝き出す!