EP 007 「寝て食べると育つよ♪」
【現人文明期 8895年04月25日】
あれから、毎日のようにガルが“オヤツ”をもってやってくるようになった。
どうやら“報告書”作成に困ってありのままを書いたら、“オヤツくらい持って行ってやれ”と
ドクター・エンディアに言われたらしい・・
ブランシェット氏は確か小さい孫娘がいたよな?って、扱いが同じになってねーか?
古代機械知性 VS 孫娘・・。
んー?いや、なんかこー現場を見てるとシックリくるな、しょうがねぇか。
あ?なんで俺が買ってあげないのかだって?
「159年間何も食べたことが無いからだよーっ!味なんぞ知らん!!クソッ、分解してやりてぇ!!」
「あらー?エレク何荒れてるのかしら?、あ~、パパの座をガルにとられたんでしょう?ふふふw」
「ぶ・・んかい?・・・とてとてとてとて(壁の端っこに寄る音)・・・・(壁:兎耳ビクビク」
「ほらーもう、エレクはしょうがないわね~。アズちゃんが怖がっちゃってるじゃないの~!大丈夫よ~エレクにはおしおきしますからね~・・・バシッ!」
「グエェ・・」
「しんしあままー!・・とてとてとて“ムギュ”」
イテェ・・・果てしなくイテェ・・味は分からないのに痛みはワカル・・。
不条理だぜぇ。
姐さんはお気楽だよな~、まったく俺の気もしらねぇで・・。
ん?アレ?なんで育児ベースの思考になってんだ?俺は??。
俺の仕事は機械知性メンテナンス&カウンセリングのハズだ・・?
これ、カウンセリングか・・?うん、そうか。ならしょうがない。
「そういや、機械知性カウンセラーとして気になる点がひとつある。」
俺の真面目な姿勢に二人は振り返った。
「どうやらこのお嬢ちゃんは、おやつを食べるごとに精神性が急速に発達しているらしい。」
“何いってんだコイツ”的な目線はやめてくれ、俺だってこんな報告をプロカウンセラーとしてしたいわけじゃねぇーんだ!
「くすくす、エレクったらガルから“ぱぱ”の座を取り戻すのに必死なんでちゅねー!」
「お前、大丈夫か?ここ一週間疲れがたまってはないか??睡眠はきちんと取れているのか?」
オイオイ何いってやがんだ!
プロカウンセラー相手に“初めてのカウンセリング入門”の頭に書いてるレベルの
問いかけ文章を棒読みするんじゃねーっての!・・ちきしょう、だがその気遣いに対して考えると幾分落ち着くじゃねーか。
「本当だってば!?コレ見てくれよ・・・」
俺が差し出したのは、ここ数日アズリエルの嬢ちゃんが精神的に成長している様子を示す
解析グラフだ。
ガルが来てオヤツをパクられた日から急速に神経系統の発達が見られる。
一般人にわかりやすく説明するってーと、よちよち歩きの幼児から一気に小学生低学年くらいにはなりつつある。
「あら?本当ね。ものすごいスピードだわ・・人間の1年のスピードが1日くらいに相当しているのかしら?」
「凄いもんだな、一般的にADF経由でインストールされた機械知性体とは、随分と異なるじゃないか。」
「それでそれで?エレクパパはどういう教育方針にしたいわけ?」
「きちんと学習指導要綱に従って一日30分の教育chを今も見せて・・!?ちがーう!そうじゃなーーい!!」
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おとなたちが、なんだかムズかしいお話?してるですの。
わたくしは、あずりえる。おやつー、おいしいですの~♪
そんな賑やかな一日の午後、窓からの爽やかな風に乗って揺れるカーテンのあるあたり・・・
ふいにモニターから誰かの歌う声が聞こえてきた・・・・。
それはとっても優しくて、切ない・・・
「・・・!!うたっ!!・・おうた!!!・・歌・・ですの!!うたうた~!♪」
「お、すごい反応だな今までこんなことあったか?」
「いや、初めてだな、記録上は初めて執着したものといえるな。」
「アズちゃんはお歌が好きなのかな~?よいしょっと!」
姐さんがお嬢ちゃんを抱っこして、モニターが見えるように膝の上に抱えてやっている。
「あー、なんだっけか?確か“オリヴィア”とかいう歌配信している機械知性だったかな~。
何度か教育chで見たことあるぜ。」
エレクはさりげなく育メンっぷりをアピール。
「おり・・びあ・・」
あずりえるは食い入るように画面から視線を外さない、ぶつぶつと何か言っている。
オリヴィアの歌配信が終わった瞬間、あずりえるは全力ダッシュで自分が保管されていたケースに駆け寄り手を触れた。
あずりえるはいつものボケーっとした雰囲気から・・急速に豹変!。
「“アズリエル!”強制権限で命じる!特級封印認証規定NR997号ー、付帯条項を解除せよ!!」と大きな声で発声。
ケースが輝きを増し何も見えなくなる。
「うぉ、なんだなんだ!?これは一体・・・」
「おい、お嬢ちゃん無事か?ん?なんだ?身体が動かないぃぃぃ!!」
「アズちゃんキラキラしてるわ~きれい~♪」
しばらくして、光が収まったあと、あずりえるは一本のマイクに羽が生えたようなモノ?をその手に握っていた。
アズリエル「結晶、お歌の結晶、想いの結晶・・。思い出したですの~。」
「きれいね~アズちゃん、ちょっとそれ見せてもらってもいいかしら~?」
「ん~いいよ~♪シンシアままー♪はいっ・・・」
“それ”を手渡そうとした瞬間、スッとマイクのようなモノは空間上から消え去ってしまう。
「あら?不可視化したわね・・・、空間上に構成質量が残ってない・・これは・・・・?アズちゃん
ありがとうね♪これ返すわね~。」
「もういいですの~?・・・うん♪」
そういって、“何もない空間”にアズリエルが手を伸ばすとその手に”ソレ“は復元していた。
「どうやらお嬢ちゃんにしか顕在化させられないブツみたいですね」
見れない、触れない、手に取ることもできず調べられない・・・ってーと、こいつは先史文明期のアレか?・・・
「間違いなく“先史文明期”の遺産でしょうね~。所有資格者以外が意識するだけで見えなくなる、触れることもできない・・
「診療場内の質量検知モニターのログを見ても、“何もない”ことになっているわね、特徴的でわかりやすいわ。
先史文明期の遺産と断定。この件はDrエンディアのおじいちゃんにレポートしといてね・・ん?聞いてるのかしら?ガル?」
ガルはママゴト状態から一瞬で研究者のソレに変わった二人にも、アズリエルの変化にも余りの驚きように言葉を失っていた。
「あららー?クスクス、これじゃエレクがやっぱりパパなのね~♪」
「おう!・・いやちげーって・・姐さん・・はぁ」
いつもの空気に戻る診療所内で、アズリエルは先ほどからマイクのようなもの?
(以下 羽マイクと呼称)をポンポン叩いたり
マイクのごとく、あーあー言ってみて首を傾げたりしている様子。どうも動作しないらしい。
「羽マイク動かないんですかねー?ハンディスキャン目の前で当てても“存在感知なし”・・か、すげーなコリャ」
「先史文明期のモノといえば、なぜか動作しない、壊せない、でも傷一つないってパターンのものが多いみたいですからね。私も実物を見るのはコレが初めてだけれど・・いいわ♪最高ね♪・・うふふ」
ガルは写真データにさえ記録不可能なこの“羽マイク”を報告するため、黙々と覚束ない手つきで電子ペンタブを使いスケッチを取っているのだった・・。