EP 006 「おはよう☆あずりえる」
【現人文明期 8895年4月21日】
エレク・ハーモニクス
「・・・・ってなわけでお前さんは長い年月起動不活性状態で・・・・」
あずりえる
「(ジト目)・・・う~・・・う?・・」
・・・・ボケ~・・・うとうと・・・・コテン。zzzzZZZZzzzzz
ハァ、仕方なしにベッドに移して布団をかけてやることにする。
んー?これが太古に存在した遺失文明期の機械知性体だと??
お嬢ちゃんはこんなんで大丈夫なんかね~。名前が呼べないのはともかく、そもそも人格構成プログラムが入っているのに
会話がまともにできんとはな・・・。
遺失文明期のAIってんで気合を入れて調べてぇところだが、力が抜けちまうぜ。
第一首に稼働年数認識プレートが無い、小さい子供そのままみたいな反応・・。
スリープ年数が長すぎてダメになっちまってないといいんだが・・心配だぜ、まったくよ。
「あら~?エレクはいいパパになりそうじゃないの~?くすくす」
「姐さん勘弁してくださいよー、その配役じゃ姐さんは母親ってことになっちまうんですよ?」
「フフッ、いいんじゃない~?なんといっても可愛いし、人間の幼児なんて滅多にみられないご時世ですもの。貴重な経験よ?」
今しがた姐さんがいった“人間の子供なんて滅多に”のくだりには揶揄でも
何でもない、キチンと理由がある。
俺達機械知性が言うのもナンだが、この惑星の人類はお世辞にも繁栄しているとは言い難い状態なのだ。
まず、第一に現代の人類は出生率が極端に低い・・。
年頃の若者がラブラブに10年励んでも1人出産できる確率は2分の1程度・・。
じゃぁ人口は相当少ないっておもうだろ?いや、”そうじゃねーんだ”これが。
人口だけの話をすれば、俺達機械知性が惑星総人口の40%
人類は60%といった感じだろうな。
俺は機械知性専門技師なんで詳しい統計を調べたわけじゃないが、俺が製造された160年位前には
惑星上に20億人程度は“人類”が居たはずだ。今は・・・?知らん、専門外だしな。
で、なぜ繁栄していないと言い切れるのか?
それは“レスェルミン”というある精神疾患が問題となっている。
こいつが初めて発見されたのは気の遠くなるような昔の話らしく、何故かロクな記録が
残っていない現人文明から見たって軽く1000年以上前から存在している。
ある種の病気だ・・・人類だけが罹患する。
コレの最大の問題は、罹患すると死なないんだ・・・、いや、“死ねない”と言い換えるべきか・・。
あずりえる
「・・zz・・・zz・・・・・!?うぁ~?・・・・う??・・ボケ~(ジト目)」
あ、いけね。お嬢ちゃんが起きちまった、詳しく整理するのはまた今度だな・・・。
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「あらあら、アズちゃん~♪エレクパパにお世話してもらってご機嫌ね~♪」
あずりえる
「うー♪・・・ボケ~・・・う?・・エレク・・ぱぱ♪」
「ねーエレク、悪いんだけどアズちゃんの事しばらくお願いね?ちょっと出かけてくるから・・・」
「了解です姐さん、他の機械知性はもうそろそろ自動学習プログラムに移行できますし、あとは俺一人で問題ないぜ。」
俺が“ぱぱ”!・・俺が?“ぱぱ”!?・・俺が? 以下X159回ループ・・。
さーて、アズちゃんの事はこれで良しとして、目的地に行く前にベクターの様子を見にいきましょうか!
【ベクター・グリンドルフ邸】
「ベクター!、いるー!?開けるわよ~!・・・ガチャ・・ん?私には鍵なんて意味ないのよ?」
【ハッキングデバイス・マスターキーシリンダー】
Pi・・セキュリティコード解析を完了/解錠 Pid
「ブッ!?、シンシア姐さん!?人ん家入ってくるのにいちいちハックしないでくれよー!?まぁ、姐さんならいいけどよ。」
「はぁい、ベクター生きてるー?あらら~両手足、包帯ぐるぐる巻きじゃないの?ふふふっw」
この間の地下遺跡から救出後、病院に投げた後放置していたので、気になってお見舞いにきて
みたってわけ。
これで中々致命的な傷を負わないあたり、ベクターはやっぱりプロってとこよね♪ベリーグッド♪
「シンシア姐さん、勘弁してくださいよ~・・・、だが・・それはさておき・・」
「“自分を助けていただき、ありがとうございましたーッ!!”」
俺は万全のつもりで仕事に臨んだし、別に油断してもなかった・・、だがシンシア姐さんが
即動いてくれなきゃここに戻ってきたのは俺の死体だったことは確かだ。
礼を欠いちゃいけねぇぜ、ケジメは大事だ。
「ハイー、素直でよろしいっ!請求に気持ち手心加えてあげてもよくてよ~?」
かぁーっ!?やっぱりそうなるよなー!でも仕方ねぇ、これも人生のスパイスってなもんだぜ!
なんて思いながらも、戦々恐々とあの日遺跡から一緒に回収してもらったバッグに視線を移す。
「なんでも好きなやつ持ってってくれよ!命の値段なんだ遠慮すんじゃねーさ。
つーってもな、深度200メートル級から適当なデバイス・ケーブル、あとは例の遺跡で
見つけたもんくらいしか・・・」
「あらー?じゃあ遺失文明期のモノってことかしら?、ズバリそれがいいわね。ウチには遺失文明期マニアがもう一体いることだし・・・?」
「シンシア姐さんまだ中身見てないのに即決かよーw」
この風通しのいい裏表のない姐さんの生き方は、ホントにサイコーだぜ!
さてさて、ベクターへ“報酬請求”も完了したことだし本来の目的地へいきますわ♪
ホクホク気分で政府中枢の積層型ビルへ足を運ぶ。
「はぁい、ルーテシアー?いるー?」
あら、珍しく閉めてるのかしら?
室内は薄暗くなっており一般区画には“本日臨時休業”の看板が設置、セキュリティーゾーン行の
エレベーターしか動いてないみたい。
政府中枢とはいっても少人数運営の弊害よねホント。
ま、いっか。
【ハッキングデバイス・マスターキーシリンダー】
Pi・・セキュリティコード解析を完了/EV解錠・全フロアロック一時解除 Pid
セキュリティエリア行のEVをハッキングして、何事もなかったように普通に乗り込むシンシア。
EV内の監視モニタにウィンクを投げている・・。
【政府中枢セキュリティーエリア 】
“チン”私がEVから降りるときには既にドクター・エンディアこと、“ラング・ブランシェット”が近くで待機していた。
「・・・・すまんなリリエンタール嬢、ルーテシアのやつは今手が離せんからワシが話を聞こう・・。」
「あら?Drエンディア久しぶりね~御機嫌よう、“アレ”の話なんだけどルーテシアから概要聞いてるかしら?」
「ああ、問題ない。厄介な件に巻き込んですまんな。ワシの執務室で話そう・・」
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【いっぽうその頃・・ 】
エレクは159年間ついぞ経験したことがなかった、育児?みたいなことと必死に格闘していた・・。
人類の育児アーカイブネットワークを調べながら、ひたすら汗をかく。
「なぁ、お嬢ちゃん~、ことばはわかるか~?コ・ト・バだぞー?おはようございます~?」
「う・・?ぱぱ!・・エレク?・・おはよはよ?」
「ちょーっとだけ身体調べさせてもらえないか~?健康診断しないとダメなんだよ~、バンザーイしてみー?」
「い~や~でーすーの~☆」
【リリエンタール&ハーモニクス診療所:セキュリティAI“イルカ87号ちゃん”】
Pi・・ぴんこーん♪ ガル・ブースト氏ノ来訪ヲ確認・・解錠シマスカ?・・エレクサン忙シソウ・・トリマ解錠シマス。ガチャッ!Pid
「おう!エレクー!元気にやってるかい~?」
彼の名はガル・ブースト。身体が大きくクマみたいな体格の人類だ。
見た目は怖いが子供や機械知性大好きの気のいいおっさんといえる。
仕事は政府中枢ドクター・エンディアの右腕といったところか。
公式には政務官だっけ?知らんが、まぁいいコイツは無害だ。
「う・・・?ううー?・・がう!?・・がう・・??・・ボケー・・・!?・・くんくん!・・」
どうやら“ガル”と発音できないみたいだ・・エレクは言えるのにな・・?
ワハハ俺の勝ちだぜー!一日のパパ歴をなめんなよw
「この娘が例の“アレ”でサルベージされたって子かい?随分と小さいボディなんだな~・・・。」
ガルからは“おーよしよし!エフェクト”が常時出ているため、のんびりした足取りであずりえるが近づいていく・・・。
あずりえるがガルの周りをウロウロしたり、ペタペタ触っているのを自由にさせている。
この男は機械知性に限らず子供が好きで、扱いには慣れているので好きにさせておこう。
「そんで、用向きはやっぱり“アレ”の件についてか?」
「あぁ、そうだ。ブランシェットじぃさんから様子を見に行きがてら、現場を見てこいと
オーダーさ。実際どんな感じなんだ?」
どんな感じか?って・・・そりゃぁ、こんな感じだよ・・。
今お前の足元でワサワサしてるのが唯一無二の成果物なわけだが・・。
「うー?くんくん!・・・いいにおいー!!ササッ!・・ 」
一瞬のスキをついて、電光石火!あずりえるはガルがいつもズボンサイドのポケットに
しまっているおやつ袋を”すてぃーる”していたっ!!
「あ、こら嬢ちゃんだめだよ~、コレは機械知性は食べられな・・・」
ササッ、ビリリー、ひょいパクっ♪、ひょいパクっ♪、ひょいパクっx無くなるまで無限カウント。
「えぇ!?・・・マジか?・・バカな・・」
「・・・むぐむぐ、おいしいですの~♪・・・・・う?・・・おなか・・・いっぱい・・
けぷっ・・・・zzZZzzz」
・・・・二人はドン引きしている・・。
「ガルよ、これが遺失文明期AIの現状成果だ、いやぁ現場見に来てよかったな!」
「エレク、これが成果なのか?報告書どうすればいいんだ・・・」
おっさんたちは途方に暮れていた。