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夕立  作者: 蒼生光希
5/10

車の中

 ポツポツ、ザァアアア……!

 激しい雨が降り出した。


 動悸がする。

 呼吸するたびに異臭が鼻をつく。

 車内は最初からこんなに空気が悪かっただろうか。楚々(そそ)とした真由香ちゃんの見た目からかけ離れていてるが、どっかに腐った野菜でもあるんじゃないか。

 電話をかけた。


「もしもし」

「あ、真由香ちゃん?この車ドア開かないんだけど」

 言いながら不信感を抱いた。電話の向こうはざわついている。総務部長のガラガラ声が聞こえる。

「すみません榎本係長、ちょっと私用の電話で出てきますね」と真由香ちゃんの声。

 おかしい。まるで社内にいるみたいじゃないか。

 さっきまで一緒だったのに。


 雨の合間に雷鳴が轟く。


 電話の向こうが静かになる。人気のないところに移動したらしい。

「車って……何言ってるんです。話がよくわかんないんですけど」

「何って、君の車の空調見てるんだよ。飲み物買ってくるってそのまま消えるなんて薄情だなぁ」

「何のことですか。車なら週末買い替えました。

 私昼間にぶつかった後、野崎主任には会ってませんよ」


 はぁ?

 何の冗談だ。

「おいおい、これってドッキリか何かなの?」

「知りませんよ……あ」

 彼女は何かに気づいたように言葉が止まった。

 返事を待つ。俺は貧乏ゆすりをしていた。足元の感触がぶよぶよしている。

 フロアマットが濡れていた。   

 靴の動きに合わせてぱしゃぱしゃ音がする。

 浸水?まさか。



「そっか、美紀ちゃんの仕業かぁ! よかった!」


 急に明るい声。

 アンダーパス。

 夕立。

 美紀。

 まさか。


「え?なんで美紀のこと知ってんの?これアレかな?俺が前に怖がらせたからその仕返しとか?ははっ」

 俺の声は情けなく震え始めていた。


「あんなん怖がるわけないでしょ、知ってたんだから」

「えっ」

 思考停止。

 今なんて言った?

「あたしここに派遣される前に従姉妹の三周忌に出たんですよ」

「なんのはなし」


「私の従姉妹、前山美紀(まえやまみき)って言うんです。覚えてるでしょ?」

 背筋がゾワっとした。


「《《あなたが見捨てた女の名前ですもんね》》、野崎主任」


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