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殿下を失うその日まで  作者: ゆきみましゅまろ
序章
4/22

3. (side リアム)


現国王テオドール・エメ・ヴァロアと故皇后ララの間に生を受けた正統なる第一王子。

優秀で皇太子になる可能性の最も高い王子。

周りからの僕の評価はこうだった。


母は元々隣国の王女だった。

父の立太子の祝賀宴に招かれ、そこで運命の出会いをした。当時はまだ弱小国家の王女である母に父は一目惚れし、そこから猛烈なアプローチをかけた。

国力に物を言わせて、母のお父上、僕の祖父である隣国の王陛下に首を縦に振らせた。


結婚後は仲睦まじく順調に暮らしていたが、母は数年前に亡くなった。

体調を崩して、床に伏せるようになった母は、元々快活な女性で公務をこなせない事を必要以上に気に病んだ。そうして精神をも擦り減らした母はゆっくり静かに息を引き取った。

その時の僕は何もできなかった。ただただ側で母上が弱っていくのを見ているしかなかった。


死後、大好きだった母上の名前を貶さないよう、以前にも増して勉学に打ち込むようになった。同世代の誰よりも努力し、誰よりも優れた人物である必要があった。









そんな時、父上から将来の妃候補として紹介したい娘がいる、と言われた。

まだ10歳の僕に将来の妃候補など、気の早い話だと思った。しかも聞いてみれば、王室騎士団長の家門であるベルティーレ侯爵家の娘だという。

まだ10歳の僕に妃候補と告げて会わせる程、その娘は優秀なのか。又は、ベルティーレ侯爵家と縁を繋いでおきたい理由があるのか。

しかしいくら聞いても「まあとりあえず会ってみなさい」としか話さない父上に内心憤りながらも、亡くなった母上が生前唯一仲良くしていたのがベルティーレ侯爵夫人だったのを思い出し、まあ会うだけならと考えた。






そして今日、品定めするような気持ちでいる僕の目の前には、ベルティーレ侯爵に促された娘がぺこりとお辞儀をしている。


「お、おはちゅにお目にかかります。ベルティーレ侯爵家の長女、クリスティーナ・ベルティーレにございます」


遠目に見た時の印象は、朝日に輝く淡い金髪に透き通るピンク色の目が特徴的な、まさにお人形の様な少女だと思った。7歳という年齢の通り、まだ少しふっくらした頬にくりくりの大きな目の幼さが残る面立ち。

しかし、侯爵に紹介され前に出てきた時の所作は、上品な淑女のそれであった。

その動きに、本能的に警戒してしまう。


次の瞬間、挨拶をした彼女が盛大に噛んだのを見て、僕の警戒心は崩れ、思わず笑ってしまいそうになるのを必死に堪えた。


「こんにちは、クリスティーナ。僕は、フォードリアム・エメ・ヴァロア。これから宜しくね」


先ほどまでの淑女の装いはどこへやら。抜かりなく王子らしい微笑みで挨拶をする僕を、淡いピンク色の瞳が見つめる。ぷっくりした唇は半開きだ。


「こら、クリスティーナ。殿下をそのように見つめてはいけないよ」

「はっ、ご、ごめんなさい」


やはりまだ7歳なんだなと安心したものの、父や侯爵とやり取りする彼女はやはり7歳には見えない立派な所作をしていた。その気品は生まれついた頃より待ち合わせているものなのだろうと感じた。


「殿下」などと呼ばれては、挨拶をする前の淑女たらんとする彼女に戻ってしまいそうに思った。彼女には7歳らしくしていてくれたほうが気が楽だ。

そこで、リアムお兄さま、などと呼ばせてみた。後で我に返り、らしくない事をしたと後悔したが、彼女に「リアムお兄さま」と呼ばれるのは思いのほか心地よかった。


庭園では話せば話すほど、彼女の話し言葉や所作の上品さと、内面や動揺が顔にあらわれてしまう幼さのギャップが興味を引いた。駆け引きなどない会話を楽しみ、彼女が動揺して顔を赤らめているのを見て素直に可愛いと思った。

今までの人生で、これ程穏やかな気持ちで話して楽しいと思える時間を過ごせたのは、元気な頃の母と会話をした時以来だった。


それだけでもう、彼女は僕の特別な存在になった。







彼女との会話はとても心地よく、楽しかった。だがそれだけだ。時間を割いた分は取り戻さねば、と自室で勉強を始める。


だがしかし、驚くほど手に付かない。


ふと彼女の赤く染まった頬や、目を伏せた困り顔が浮かぶのだ。彼女は楽しかっただろうか。侯爵には、今日の事をなんと話しているのだろうか。


「失礼致します。お茶をお持ち致しました」

「ああ、ありがとう。……ピーチティーか?」

「はい、本日召し上がられたコンポートを調理した際のシロップが入っており、より桃の香りが楽しめるとのことです」


はあ…、勉強に集中せねばと念じているのに、これでは全く意味がない。甘い桃の香りに包まれ、どうしようもなく彼女のことを思い出してしまう。最後にキスをした小さな手は、甘い桃の香りだった。


諦めた僕は、手紙を書いた。彼女にも今日のことを思い出して欲しくて、一緒に見た彼女の色の淡い黄色の花を押し花にして入れた。






彼女からの返信には、最後に「はやくあいたいです」と書かれてあった。どれだけ仕草や話し方が大人びていても、手紙は違う。

「文字の書き方」というのは、普通の貴族ならば早くて9歳前後、令嬢はもう少し遅いこともよくある。しかし彼女は7歳にして既に他人が読める字が書けるのだから、さすが侯爵家といったところだ。

だがそれでも最近習いだしたのであろう彼女の文字や文章は拙く、可愛らしかった。


手紙と一緒に、僕の瞳の色の飾りボタンが入っている。それを執務台の引き出しの手前の方にしまった。

こんな初々しい贈り物をし合うなど、経験が無かったので、返す物に困った。自分の手元にある宝石の中の、淡いピンクの宝石。


「インペリアルトパーズのブローチにでもするか…?」


しかしそれは、7歳に贈るにはあまりにも非現実的だった。

悩んだ末、瞳の色に合わせた桃色の髪飾り用のリボンを用意させた。




地文が多くなってしまいました。

殿下視点はこんな感じになっていきそうですが、どうぞ宜しくお願いします。


お読みいただきありがとうございます。


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