【タナベ・バトラーズ】ミルナの恋路 ーある日編ー
ミルナは所属する斧兵隊の隊長でもあるルジェベリアに微かながら恋心を抱いている。
その感情に気づいたのは、助けられ、出会った直後。だからこそ、ミルナはルジェベリアと共に存在する道を選んだ。そして今に至っている。
「訓練はここまで! ご苦労!」
ルジェベリアが凛とした声で告げると、森の中での訓練は終わった。隊員たちはあっという間に解散していく。木陰で訓練の様子を見つめていたミルナは、訓練終了を知り、ルジェベリアの方へと駆け出す。
「ルジェベリア、あのーー」
ミルナが発しかけた、ちょうどその時。
ルジェベリアに一人の男性隊員が話しかけた。
「隊長! この後は斧を片付けておいたらいいっすか?」
「あぁ、そうしてくれ」
「承知しましたあ、あと、ちょっと相談があるんすけど」
「相談? べつに構わないが……」
何やら入っていかない方が良さそうな雰囲気を感じ取ったミルナは、ルジェベリアに話しかけるのは諦めた。
夕暮れ時、斧兵隊は酒場に集まっていた。
部隊には酒好きが多い。それゆえ、ルジェベリア率いる斧兵隊は、いつもこうして酒場で食事をしている。ちなみに、ミルナは同行しているが酒は飲まない。
「隊長! 妹さん紹介して下さいよー! きっと可愛いんでしょー?」
「いや、今は無理だな。アステロイナーはそういったことにはあまり興味がない」
酔っ払った男性隊員は、少しばかり正気を失い、ルジェベリアにも馴れ馴れしく話しかける。
いつものことなのだが、この光景を目にするのがミルナはとても嫌いだ。
「それに、将来の夢が力士だったような子だが、良いのか?」
「えっ。り、りき……し……?」
「はは。まぁそういうことだ。いい加減、妹は諦めてくれ」
ただし、心なしか酔っているルジェベリアを目にするのは、ミルナとしてはわりと好きである。
隣へ行って喋ることができないことは辛くても、見つめていられるだけで心がとろけてくるから、ミルナはいつも我慢して斧兵隊に同行している。
運が悪く、一日中なぜかルジェベリアと話せなかったミルナは、いじけながら宿泊所の女湯へと向かった。入り口の扉を開け、一歩踏み込むと、湯船の方へ向かおうとしているルジェベリアの姿が視界に飛び込んでくる。
「あっ! ルジェベーー」
話せる、と喜んだのもつかの間、たまたま地面に落ちていた固形石鹸で足を滑らせてしまう。
「……大丈夫か」
「あ」
ミルナは何とか転倒せずに済んだ。
というのも、ルジェベリアが咄嗟に支えてくれていたのである。
「気をつけた方がいい。風呂場は滑りやすいし、ここはなぜか固形石鹸がよく落ちている」
「う……うん。気をつける」
その後、ミルナはルジェベリアと共に湯船に浸かることとなった。
「どうしてあんなに暗い顔をしていた?」
ミルナはルジェベリアのうなじに見惚れている。
「え……。な、何の話……?」
「ここへ入ってきた時。随分不満げな顔をしていたが、何かあったのか」
「う……ううん。何もない」
「そうとは思えない。本当のことを言ってくれ」
少し黙った後、ミルナは口を開く。
「……寂しかったの。その……ルジェベリアと、話せなかった……から……」
ようやく本心を口にすることができたミルナの頭頂部を、ルジェベリアはぽんと軽く叩く。
「そういうことか」
ルジェベリアはふっと笑みをこぼしていた。
◆終わり◆