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第7話 週末のバンコク その4

 『同じものを・・・。』

席に着くなり、私に話しかける前にワインを注文する。工藤なりの照れ隠しなのが分かる。


 『vしぶり。今回はいつからいつまで?』

 『今日の午後の便で来て、明日の飛行機で帰ります。週末だけ。月曜には仕事もあるし。』

工藤の分のワインが運ばれてきた。

 『それじゃあ、とりあえず束の間の再会に・・・。』

二人でワイングラスを目の高さまで上げて、乾杯の動作をしながら微笑む。


 いつ、世界中のどこで再会しても、自然とこういう笑みがでてくるのはどうしてなのか。

 ついさっきまで、世の中の孤独を一人で背負っているような気分でいたのが、急にばかばかしく思えてくる。

 自分のことを気にかけてくれている。雰囲気だけで、それが伝わってくる。

 別に好きだとか、愛してるだとか、そういう感情を感じるわけではない。今日携帯のメッセージを見るまでは、私のことなんか、きっとまるっきり忘れていたに違いない。

 昔二人の間にあった色々なことを、日常の中で思い出すことだって、ないはずだ。

 ただ、今、私が目の前に座っている。

 一晩だけの滞在の、唯一の夜に携帯で呼び出されている。

 バンコクで一番夜景がきれいに見えるバーで、ワイングラスを挟んで向かい合っている。

 そういう舞台設定の中で、自分が演じるべき役割を、ちゃんと理解している。そいうことなのだ。

 それでも、そういう状況をちゃんと理解して、それに答えようとしてくれるところに、クレイグに感じる優しさとは対極にある優しさを感じていた。

 

 工藤のワイングラスはあっという間に空になっていた。

 二杯目も同じものを注文する。


 『有給取って来ればよかったのに。仕事忙しいのか・・・?』

 昼までバンコクに来るつもりなんて全然なかったの・・・。そう言おうと思ったが言葉にならなかった。


  

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