第5話 週末のバンコク その2
ホテルの直ぐ向かいの二階に、良く行くマッサージ店があった。スパに行くほどではない、毎日t烽ォ疲れをほぐしてもらいに、ここのホテルに泊まる時はほぼ毎日通ってくる。
この手のマッサージ店の料金はどこもほぼ同じで、一時間三百バーツ前後。ここではいつもフットマッサージを九十分お願いして、四百バーツ。それにチップを百バーツ。
一見どこのマッサージ店でも同じように見えるけれど、サービスの主体がマッサージでない店もあるから、知らないところにブラリと入るとがっかりする事も多い。
外から見て清潔で明るい店、もちろんちらっと見て女性客が多いところは、ハズレが少ない。ただ、そんなにしてまで他の店に行っても、料金自体はほとんどかわらないのだから、最初からサービスに満足している店に繰り返し行った方が安心だったし、入ってからもリラックスできる。
『あまり痛くしないでね。』
つたないタイ語でお願いする。たどたどしくても、間違いだらけでも、タイ語で話しかけると、あっという間に人気者だ。
私の足を揉む人の周りに、客がいなくて手持ち無沙汰のマッサージ師が集まってくる。
毎週テキストで習っている事を、実践で練習する良い機会だった。
マッサージとタイ語のレッスンでこの料金なら、安いものだ。
壁の時計が六時を指すところだった。
ロンドンはようやく週末の朝が活動を始める頃の時間だ。クレイグはもう起きただろうか。
二月のロンドンなんて、考えただけで体が凍えそうだ。こんな時期に二週間も出張なんて、体調を崩して帰ってくるに決まっている。
水道から流れ出る水の余りの冷たさに、歯を磨くことも億劫になっているに違いない。
冬のロンドンの週末を、あの人はどうやって過ごすのだろう。
今更市内観光でもあるまいし、ましてやこの寒さではゴルフをする気にもならないに違いない。新聞を買い込んで暇をつぶしても、最近老眼鏡が必要になってきた目では、一、二時間がせいぜいだろう。
あの人でも、一人でいることが寂しいと思うことがあるのだろうか。
観光で来ている仲の良さそうな夫婦と、朝食のテーブルが隣になったりした時、自分の向かいにも私が座っていたなら・・・と残念に思うことがあるのだろうか。
どちらにしても、あの人は言葉にして言ったりはしないから、私には伝わることもないのだけれど。