第4話 週末のバンコク その1
バンコクの空港が新しくなっても、入国カウンターの列は一向に改善していない。特に金曜の夜のフライトで来ると、せっかくスムーズにここまで来たのがすべて無駄に思えるくらい待たされる。それでも、今日は昼間の中途半端な時間に着いたから、苛々するほどではなかった。
預けた荷物はなにもないから、真っ直ぐ出口のゲートへ進む。外に出る前に、一列に並んだカウンターで携帯電話のプリペイドカードを買い、リムジンタクシーのうるさい勧誘を振り払うようにして、タクシー乗り場へ向かった。
『エンポリウムまで。』
タクシーの乗車係りがタクシーの運転手に橋渡しをしてくれる。どちらにしろエンポリウムを知らない運転手がいるとは思えなかった。
タクシーが動き出すと、パスポート用のケースの小さなポケットから、タイ用の携帯電話のシムカードを取り出した。有効期限が切れないようにトップアップを続けているから、この二年位タイに来た時はいつも同じ電話番号を使っている。友人の番号登録を変更してもらう手間も省けて便利だった。しばらくタイに来ない時には、インターネット上でもトップアップができる。その時のために、いつもプリペイドカードを一枚は余分に買っておく。
スクンビット通りに着くまで、道はかなりすいていた。スクンビット通りに着いてから、空港からそこまで着くのにかかったのと同じくらいの時間がかかって、ようやくタクシーがエンポリウムの前に止まった。土曜のエンポリウムは相変わらずの混雑だった。
かなり遅めの朝食代わりに小籠包を食べてから、昼食を食べていなかったので、丁度よいくらいにお腹が空いている。この為に機内食にも手をつけなかったのだ。
エンポリウムに入るとまっすぐオリエンタルホテル直営の喫茶店に向かった。
ここは一見、コーヒーとケーキくらいしか置いていないような、普通の喫茶店のように見える。実際ここのハイティーのメニューもなかなかお勧めで、午後一杯暇な時間があるときには、ゆっくり本でも持ってくるのも楽しみだった。
今日の目当てはグリーンカレー。タイ料理の注文にも、小ぶりのパンが四−五種類入ったバスケットがサービスされるのがオリエンタルホテルらしい。
カレー自体も、タイ料理の専門店と比べても引けを取らない。付けあわせで出てくるものもみんなそれぞれおいしい。
ここでグリーンカレーを食べて、食後にカプチーノを飲む。カプチーノに付いてくる一片のアイスボックス・クッキーも楽しみの一つ。ついつい手を伸ばしてしまったブレッド・バスケットのせいもあって、カプチーノを飲み終わる頃には、かなり満腹になっていた。今日はもう夕食はいらないかもしれない。
バンコクで利用するホテルはいくつかあるけれど、どれもこの辺りに固まっていた。直接行ってダメだったら、二、三件回ればいい。どこにも泊まれないということは考えられない。
とりあえずエンポリウムをでて、隣の公園の向こう側にあるホテルまで歩いた。
『一部屋、一晩だけお願いしたいのですが、空いてます?』
チェックイン・カウンターの係りはタイ語と英語と日本語も少し話せるようだった。そういえば、このホテルでは日本人の団体をよく見かける。
『お取りで来ます。禁煙ルームでよろしいですか?』
『お願いします。朝食もつけてください。』
暑い中何件も歩き回らなくても、最初のホテルで部屋が取れたのは有難かった。
ルーム・キーを受け取ると、部屋には向かわず、そのまま又ホテルを出た。