第2話 週末の朝 その2
店は思っていたより混んでいた。まだ開店してすぐの時間のはずなのに、既に食べ終わって席を立とうとしているカップルもいた。それでも、並ばずにすぐにテーブルに案内された。ランチやディナーの時間帯に来ると、ゆうに1時間は待たされる。ここの小籠包は有名だし、確かに美味しかったが、何時間も並んでまで食べたいとは思わない。そういえば最近できたシドニーの店でも、予約を取らないせいか、夕食時にはかなり長い列ができていた。
上海に行った時は、新天地にあるこのレストランに、3日も続けて通った。その時も毎日一人だった。寒い上海の冬に、一人で二週間も行ったのだから、三日も続けて熱々の小籠包が食べたくなったりするのだ。
あの時は、一人でも全然寂しいと感じなかった。
周りがみんな中国語を話していて、楽しそうに話しているテーブルの話も、私にはまだ聞き取るような語学力はなかった。そのせいか、自分だけ楽しい話ができない疎外感を感じることがなかったのかもしれない。
ここのレストランで一番聞こえるのは英語の会話だ。隣のカップルが来月のサムイ島への旅行の計画を話している。後ろの夫婦は、子供の成績がよくないと深刻そうな声で相談しあっている。低い仕切りの壁をはさんだ隣では、姉妹らしき二人が、この建物の裏にある病院に入院している母親の心配をしていた。
みんなの話が聞こえる。それだけの事だ。
他人の話し声をシャットアウトして、目の前の小籠包に集中する。
店員に、しょうがの千切りを追加でお願いしした。