表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

第17話 あきこの話 その4

 ランチの時間帯を過ぎたら、週末は予約がないと入れないこともあるくらい混むのに、日曜日といってもこの時間はまだ静かだ。

 ブランチの最初の方がまとめて運ばれてきた。少しは手をつけないと、次が運ばれてきたら置くところがない。

 「とりあえず食べよう。」

あきこが口角を思いっきり上げて言った。


 「バンコクは好きなんだけどね。」

私もよ、という気持ちを込めてうなずいた。

 「不思議よね。もう住んで何年にもなるのに、いまだに分かるのはサワディッカーだけだし、タイ文字の看板なんて全然読めないし。明らかに外国に暮らしているっていう状況なのに、なんだか日本の田舎に住んでるような気がする。」

 

 あきこの言葉はそっくりそのまま私の気持ちを代弁していた。本当に不思議だ。特にバンコクの中心街にいれば、東京にも負けないくらいの大都会だというのに。

 しかも、日本の田舎のように『よそ者』を拒絶するようなよそよそしさもない。外国人の私たちを、遠ざけるでもなく、歓迎するでもなく、ただごく当たり前の日常として受け入れてくれる。


 「でも、タイの駐在人男たちは大変よ。」

 一応周りに目を走らせて、他に日本人らしき客がいないのを確かめてみる。

 「うちは駐在、ここが3ヶ国目だけど、うちの旦那、大変そうだもの。他の奥さん達の話を聞いても、どこも似たり寄ったりみたいだし。」


 まだブレッド・バスケットも空にならないのに、次のフルーツサラダが運ばれてくる。バスケットに残っていたクロワッサンとバゲットを、オムレツの皿の端にのせて、空いた籐の籠を下げてもらう。


 「シンガポールにいた時はさ、もっと仕事そのもので大変そうだったのよね。うちの会社なんて、シンガポールからマレーシア、インドネシア、インド、中東までカバーさせられるから、出張ばっかりで、月に三、四日しか家に帰ってこなかったりしてさ。」

 そうだった、あの頃のあきこはいつも『うちは母子家庭よ』と言っていた。それでも、毎朝コンドの玄関まで迎えのバスが来て、一日子供は幼稚園で預かってくれるから、日中はゴルフのレッスンや陶芸の教室に通って、それなりに楽しくやっているようだった。

 『ご飯の仕度をしなくていいから、楽チンよ。子供と私だけなら、スパゲッティで十分だもの。夕食後に同じコンドに住む他の母子家庭の家で、お茶を飲んでおしゃべりをしたりしてても、全然時間を気にしなくてもいいし。』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ