第0話 犯罪都市最凶の男達
お久しぶりでーす
超能力が突如現れた現代。群馬県は未だ秘境扱いで、その犯罪の発見率の高さから、『犯罪都市』と呼ばれるようになって久しい。
無論、群馬に留まらず超能力を用いた犯罪は年々増え続け、警察庁超能力課の、対能力者の特殊部隊も出来た。普通の犯罪者に比べその凶悪さ、一撃の破壊力の違いから、彼らの譚員一人の戦闘力は、並の軍隊並みもあるという話まである。
日本における最強の部隊が、に警察庁超能力課『対能力者部隊』である、それが日本国民共通の考えだ。
また、能力を人のため社会のために使おうという集団も現れた。彼らは『ヒーロー』という職業になりボランティアに近い仕事であるものの、警察と協力し能力犯罪者の捕縛、災害救助などに赴いている。彼らが集い生まれたのが『日本ヒーロー協会』という組織である。
しかし。彼らですら手に負えない組織が存在するという………。
群馬県桐生市、山奥。ドコの社長の別荘かと噂される日本家屋があった。
『桜龍会』本部である。
『桜龍会』の知名度が低かった時は、能力者も非能力者も混同する組織というのは今時珍しい。と酒の肴にされるのが精々だったが、今では群馬県全土に影響力を持つ組織にまで成長した。桐生市周辺地域に至っては、彼らの息がかかった人物しか選挙で当選せず、自治をしているのは実質『桜龍会』なのだ。
彼らの戦闘力は凄まじく、『対能力者部隊』すらも退けた記録がある程だ。そんな彼らは、もちろん警察からは疎まれ、そして畏れられる存在となっている。
中でも現会長は優れており、その手腕で急速にその支配領域を広げている。
男が、きれいに整えられた庭の上を転がった。
「おい。おい。寝てんじゃねぇよ」
更に高級そうな革靴が倒れた男の腹を蹴りつける。
庭を這いつくばる男を見る目は冷酷。無精髭を生やし、たばこをふかす姿は不衛生な印象も受けるが、きちっと着こなした黒スーツがその印象を緩和する。
彼こそ『桜龍会』会長、宵桜圭龍である。
「なあ、なあオイ。ウチはヤク禁止だって知ってるよな? それをよ、テメェなにしてやがんだ、あア?」
彼は白い粉の入った小さな袋をひらひらしながら怒鳴りつける。
窮鼠猫を噛むというか。庭に倒れた男は無謀にも過去最強の会長に挑もうと立ち上がった。
どのみち、死ぬかこの会を抜けるしか彼には残されていないのだ。一か八か、挑むのが人間の性だろう。
「ラリってんじゃねぇぞカスが」
ばがぁぁぁぁん!!
そして、という音と共に5メートル先の壁まで蹴飛ばされた。
「なんでウチがヤク駄目か、知ってるか。前にヤクの市場規模で『アルティスタ』と抗争になってな。この犯罪都市でまだ弱小だった『桜龍会』はボロボロ、壊滅の危機になったんだよ。俺は『アルティスタ』と協力関係になりてぇのに、その時の因縁のせいで領土争いでやり合ってる。分かるだろ、この状況でまたヤクなんざやり出したら『アルティスタ』と抗争だ。テメェ自分の兄貴とかが殺されるのを待ってんのか、あア?」
男はピクリともしない。完全に気絶しているようだ。
宵桜はため息をついて部下に指示を飛ばした。
「はぁ………。コイツは足をコンクリで固めて利根川に流せ。あの川にジャンキー流すのはちょいと嫌だがこの汚物を山の肥料にするよりはマシだろうな。あー……。流す前にしっかり仲間を吐かせろよ」
彼の指示をきびきびとこなす部下を今度は満足げに眺めながら、側近に新たな指示を出した。
「……奴が仲間を吐いたら、そいつらに『五龍』を送れ」
指示を聞いた側近、聞こえてしまったそれよりも下の者達は、硬直した。
『五龍』。桜龍会が抱える幹部会にして、最高の暗殺集団。通常は裏切りなどでは無く、会の危機が訪れそうなとき、息のかかった重要な政治家の本当の本当の本当に危機的状況にのみ、会長の指示があって初めて動く、いわば桜龍会を守る最強にして最後の砦。伝家の宝刀、というやつだ。宵桜がどれほど薬物を忌避し、アルティスタとの戦いを避けたいかが分かる決断だろう。
桜龍会はヒーローや警察の対能力者部隊を撃退した、と書いた。その偉業を為したのは、この本部にいる数百の部下では無い。
たった一人の、『五龍』のメンバーだ。
部下達が凍り付いた部屋を、何事も無かったかのように、宵桜は退室した。
柴 黒瀬は、携帯から入った情報を見て嬉しそうに微笑んだ。
「……ようやくか」
目をつむり、深く深呼吸をすると、迷うこと無く歩き出す。
歩いている途中で、チンピラと肩がぶつかった。
「なんだよテメェは。まあ、ちょうどイイ」
「ふぇ? ちょ、まっ!?」
ごっ! という音がして、柴はよろめく。チンピラはそれでもおさまらず彼を壁へ叩き突けた。
「これ以上痛い目に遭いたくなかったら……金を出せ」
「……………嫌だ」
「はぁ…。テメェのわがままに付き合ってるヒマは無い。俺は追われてんだ。金出せ、よ!」
チンピラの渾身の拳が柴に飛ぶ。
と、同時に柴の右の拳がチンピラの顔面を捉えた。
「うぐっ…!?」
柴がチンピラの拳を避けて、右手で反撃したのた。
「て…テメェ!!」
チンピラからの反撃が来る前にすかさずもう一撃。たまらずチンピラは倒れる。
「……あんたのとこのボスじゃ無くて、助かったな」
柴は殴られた頬をさすりながら彼に近づき、胸板を踏む。踏む、というよりは足の裏で思い切り蹴った、という方が近いかもしれない。
「は…? な、なんなんだよテメェは!!!」
銃声が1発。
チンピラの声は途絶えた。
宵桜は携帯にかかってきた番号を見て半ば呆れたような顔になった。
「……やっぱ、アイツが早いか」
取りあえず、このまま放置するのは可哀想だろうと思って通話ボタンを押す。
「……おう」
『あっ会長。一人片付けました』
「お疲れさん。お前が一番乗りだよ。相変わらず仕事が早いなぁ」
『あざっす。…………あ、そうそう。奴の懐から面白いもんが出てきたんすよ』
「あア? 面白いもんだァ?」
『そうっす。俺達にも来てるんじゃ無いですかね、『招待状|』って書いてあるんですけど』
宵桜はその一言を聞いて、顔を変えた。
目は険しいが、口元は笑っている。獰猛な顔になった。そして、微笑んだまま電話先に答える。
「ああ、来てるよ。犯罪都市の最強を決めようっていう『招待状』だろ。俺だけで参加しようかと思ってたが、良い機会だな。お前も出るか」
『ええ。ボスが行くのであれば、俺が行かない道理はありません』
「ああ。期待してるよ、『五龍』最強と言われる男、 『黒龍』柴黒瀬 さんよ」
群馬県桐生市。山奥の日本家屋・市内商店街にて。
『犯罪都市』最凶のヤクザ、参加決定。
※このお話の中の群馬県はあくまで創作です。実際の群馬、個人、団体とは全く関係ありません。
次の次にはバトル開始すると思われるんで
なんかこういう超能力面白いよっ!ていうのあったら教えて下さい。感想でも良いし、Twitterのアカウント知ってる人はそっちに送ってくれてもいいんですけども。