戦争が残したもの
今日は歴史の勉強をする日だ。歴史を学ぶことは好きだ。今に至るまでの道のりを知るということにわくわくする。それに、王族としてこの国がどのようにして繁栄していったか、ということくらい知らないといけないと思う。
「と、このようにして帝都を突如襲ったドラゴンにより疲弊した帝国兵の隙を突き、わが国の勝利という結果になりました。その後ファーレン王国は帝国側に賠償金と、領地、そして帝国の第一王子を要求し、帝国がその条件をのみ、終戦となりました。」
私の歴史の先生であるハンナが教鞭をとる。
「別にタダで許してあげればいいのに…」
帝国だってドラゴンさえいなければ負けてなかったかもしれないのに、敵国なのに少しばかり同情してしまう。
「そういうわけにもいかないのですよ。戦争というものはお金もかかりますし、戦争の被害にあった場所は悲惨な場所にもなります。そしてなにより人が死にます」
ハンナは悲しい目をしながら言う。
「そう…だったわねあなたのお父さんは確かこの戦争で…私ったら無神経なこと言っちゃったわ、ごめんなさい…」
「大丈夫ですよ、もう戦争は終わりましたし、それに悲しんでもお父さんは帰ってくるわけじゃありません。前を向くしかないんです」
そう言う彼女のまなざしはとても決意に満ち溢れていてとても素敵だった。
「強いのね、ハンナは、もし私がハンナのように大事な人がいなくなったりしたら私はハンナみたいに前を向ける自信がないわ…」
「安心してください、あなたはとてもやさしい人です。それも敵国に同情してしまうくらいの。そんなあなたが大人になって、政治にかかわるようになったときに戦争なんて悲しいことするとは思えません。」
ハンナは優しい笑みをこちらに浮かべながら言う。私は心がだんだんとあったかくなっていくのを感じた。
「どうか、みんなが安心して暮らせるような平和な国にしてくださいね、私との約束です。それが死んだ私の父、いやあの戦争で亡くなったすべての人たちの願いでもあるのですから」
「私の名前に誓って約束するわ」
私は泣きそうになるのをこらえてしっかりとハンナの目を見て言った。そしてふと思い出した。
「そういえばハンナ、王国が帝国に要求したものにあった『帝国の第一王子』って今もファーレン王国にいるのかしら」
「どうでしょう、しかし帝国に帰ったという資料は見たことがありませんし、まだ王国に捕虜にされているのではないでしょうか?」
「ハンナはその王子がどんな人かは知らないの?」
「私が故郷から出てリエスティーナ様に仕えたのは2年前です。約10年前に王宮にはいなかったので外見だったりはわかりません。ですが幼いころから学問も武術も非常に優秀で、おまけにかなりの人徳者だったらしく帝国民からも人気だったみたいですよ。王国にもそんなうわさが流れるくらいですからよっぽど天才だったんでしょうね…」
そんな人がもしかしたら王宮にいる、そう考えると私はなぜか会ってみたいと思うのだった。