午前の出来事
朝食を食べ終え、お手洗いから帰る途中、ロイが誰かと話してる姿が見えた。
よく見てみると相手は私のお兄様、つまりファーレン王国第一王子であるリチャードだった。
お兄様とロイはとても仲がいい。
ロイはどんなことも器用にそつなくこなすし、お兄様も学問だけでなく武術も秀でている。
そんな天才同士だからこそ馬が合うのか、よく一緒にお茶を共にしたりしている。
正直、ロイと仲良く話しているところを見ると少しうらやましく思う。
そんな二人が珍しく真剣な顔をしながら話し込んでいる。
この距離では何を話しているのか全く聞き取れなったため、少し近づこうとした瞬間、お兄様がロイの元から去っていった。
どうやら話は終わったようだ。すると
「お待たせいたしました、リナ様」
と、後ろにいたはずの私のほうに向きを変えた。
「き、気づいていたの…?」
「だてに長い間あなたの専属執事を務めておりませんからね。」
さわやかな笑顔をしながら首を少し傾ける。その動作に合わせるように彼のすべての光を吸収しそうな漆黒の髪が揺れる。
そんな彼に3秒ほど目を奪われてしまった。
目を奪われてた私を心配したのか彼が私の顔を覗き込んできた。
「どうしたのですか?」
「っ!だ、だいじょぶ!なんでもないかりゃっ!」
軽くパニックに陥ってしまい、つい噛んでしまった…。
「そ、それよりもさっきお兄様と何を話してたのよ。二人ともすごく真剣な顔してたから気になっちゃった。」
「心配なさらないでください、ただの仕事のお話ですから」
「そうなの?ならいいけど…。」
少しその言葉を疑ったが、心配しなくていいということだからあまり首を突っ込まないようにした。
「じゃあ、私は書類仕事を片付けるとするわ。多分夕食前には終わると思うから。そしたらまた迎えに来て頂戴。」
「かしこまりました。お仕事頑張ってください。それと…」
「分かってるわ、なにかあったらすぐ連絡する」
ちなみに連絡手段は魔道通信機だ。鉱山でごく稀に発掘できる「魔石」を核としてつくられたものだ。もちろん誰もが持ってるものじゃない。王族など一部の人間しかもてない超代物だ。魔道通信機を持ってない人たちは手紙などを用いているがやはり魔道通信機と比べると不便と感じてしまう。
「…では仕事場のほうまでお送りいたします。」
「ありがとう、頼もしいわ」
そしてロイはいつものように私の少し後ろを歩くのだった。