帝国の第一王子は今どこに…?
「本日はここまでにしましょう」
今日の授業が終わりハンナと別れる。正直最後らへんの方は『帝国の第一王子』が気になりあまり集中できなかった。
部屋を出ると扉の横にロイが待機していた。
「お疲れ様です、お嬢様。」
ロイは私に労いの言葉をかける。
「えぇ、お待たせ」
「?」
ロイは私の様子に何か引っかかったようで首をかしげる。
「つかぬ事失礼しますが、なにかありましたか?」
「…ハァ、ロイには何でもばれてしまうわね」
「当たり前です、私はお嬢様の専属執事なのですから」
私はロイに今日あったことを話した。
「そう、ですか。しかし私もお嬢様であれば素晴らしい国を作ってくれると確信していますよ」
「そのことも少し責任を感じてきつかったけど、それよりも…」
「『帝国の第一王子』ですか?』
ロイはつぶやくように言った。その時のロイの顔はなんだか少し切ない表情をしているように見えた。
「そう、彼がもしまだ王国にいるなら会ってみたいなって」
「会って…どうするんです?」
「どうする…かぁ、とりあえず話をしてみたい。今どんなことを思っているのか、とか故郷に帰りたいかとか、いろんな話をしてみたい。敵国だったとはいえ同じ王族だし、少し親近感があるしね。それにハンナは見たことないって言ってたけど噂ではすごい人だったらしいし、そんな人が一体どんな人か普通に興味があるわ」
「大袈裟ですよ、過大評価です」
「どうしてロイが否定するの?もしかして彼を知ってるの?」
「!い、いえ」
ロイは口を滑らせたかのように慌てる。
「ただ噂というのはその噂の出どころから遠ければ遠いほど尾ひれがつくものです。あまり鵜呑みにするのはよろしくないかと…」
「そう…ね、そういえばロイはいつこの国にきたの?この国出身じゃないって前に言ってたよね?」
「私は10歳の時にこの国に来ました」
「10歳の時…てことは、約10年前だから、もしかしてロイ、帝国の王子をみたことある!?」
「い、いえ。ただの一般人の私がたとえ帝国の王子だろうと会うことはおろか、見たことすらありませんよ」
「そっかぁ、今どこで何してるんだろう…」
「…案外、王国を満喫しているかもしれませんよ?」
「どういうこと?」
「どこかの偉い人に気に入られて、今も幸せそうにその人に仕えてたりしてるかもしれませんよ?」
ロイはあたかも自分のようにいつもの爽やかな笑顔を浮かべながら語る。
「フフッ、そうね、そうだといいわ♪」
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「フフッ、そうね、そうだといいわ♪」
お嬢様は満足そうにしながら歩き始めた。よかったどうやら上手くやり過ごせたようだ。
帝国の第一王子のロイ=アズガルドはもういない、いまはお嬢様に仕える専属執事としてのただのロイだ。
お嬢様に俺の素性を知られるわけにはいかない。
たとえそれがお嬢様を傷つけることになっても。




