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僕たちとUFOの夏物語  作者: 巫 夏希
第六話 ラブレター
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ラブレター④

 カラオケはショッピングモールの直ぐ隣にあった、寂れた店だった。別にここじゃなくても良いんじゃないか? なんてことを僕は呟いた記憶があるけれど、あずさはここで良いの! と張り切ってしまっていて、とても否定意見を受け入れるつもりがないようだった。ならば仕方ない。だったら仕方ない。従うことにしよう、彼女が行う『カラオケ』そのものについて。

 いざ中に入ると、中は小綺麗になっていて、店員も常駐していた。こういうところだから中も汚くて店員も呼ばないと出てこないレベルなんじゃないか、なんてことを疑ってしまうことだったが、どうやら早計だったらしい。失敬失敬、と言わんばかりのことだった。僕とあずさは時間を考えて二時間コースを選ぶことにした。理由は今が大体三時半程度で、二時間遊び倒して五時半、家に帰るのが七時ぐらいならちょうど良いだろう、という結論に至ったためである。ドリンクバーを付けますか、と言われたので僕達は是と答えた。ドリンクバーは付けておいて越したことはない。何せこれから喉を酷使するのだ。渇きを潤す水ぐらいは必要だろうて。


「ねえねえ、部屋は十四番だって。急いで向かいましょう!」

「そんな急いだって何も始まらないよ。だったらゆっくり向かった方が良い。その方が傷も付かないし、怪我もしないし」

「いやいや! そうしないと二時間の制限時間があっという間に過ぎ去っちゃうよ! それはどうかと思うなあ、私!」

「そんなものか」

「そんなものでしょう!」


 そんなものらしい。

 まあ、言われたところでそれがどう動くかなんてことは考えたこともないし、考えたくもない。出来ることなら普通に生きていきたいのが普通の人間の価値観というものだろう。だからかもしれないけれど、だとしても、僕はやっぱり生きていくには不器用過ぎる人間なのかもしれない。生きていくには不器用、という言葉の意味を深く理解して貰う必要はないし、それ以上の意味も加味しちゃいないのだろうけれど。結局は、僕にとって、ただの価値観の不足が原因を招いているのだと言えば、答えは早いかもしれない。分かりきったことかもしれないし、分かり合えないことかもしれないし、分かろうとしないことなのかもしれない。答えは出てこないのならば、掘り出していくしかない。それが僕の生き方なのだろう。それが僕としての生き方なのだろう。それが僕ならではの生き方なのだろう。


「……ま、戯言だよな」


 昔何処かで読んだ本の主人公の言葉を流用させて貰った。シニカルな笑みを浮かべながら、僕は話を続ける。


「……で? カラオケに来たからには、やっぱりカラオケ上手いの?」

「いーや、全然! ただ、雰囲気を楽しみたいだけだよ!」


 ……なら、それはお金の無駄遣いというのではないだろうか。

 間違っていないのかもしれないし、正しいことなのかもしれないし。

 僕の価値観を認めてくれるのは、誰だって分かりきったことだったのかもしれないし。

 いずれにせよ、僕の価値観を決めるのは、僕の考えだけだ。生きていくことには、不器用過ぎる、僕だけの価値観だ。


「……取り敢えず、僕は何を飲もうかな」


 そう。

 先ずはそこから始めなくてはならない。

 カラオケに来たからにはドリンクバー。そしてドリンクバーの最初の一杯をどうするかでやっぱり物事って変わってくる気がするんだよ。

 それなら、やっぱりカルピスかな。

 そう思って、僕はコップに氷を入れて、カルピスのボタンを押すのだった。


「いっくん、カルピスにするんだ! 私もそれにしよーっと!」


 別に全員が全員カルピスにする必要は無いんだぞ、と思いながら。

 僕はカルピスを一口啜った。うん、甘い。これぐらい甘くなくちゃ。

 そう思って、僕はすたすたと十四番の部屋に向かって歩き進めるのだった。



  ※



 歌を歌うって、何を歌えば良いんだろう。

 デンモクを触りながら、僕はぽちぽちと最近の流行歌について考えてみた。最近の流行歌といえば、早口で捲し立てるラップみたいなロックが多い。かつてそんなアーティストが居て、そのアーティストが逝去してしまってから、皮肉にもその方法が広まったのだという。何処まで神は人間に甘くしてくれないのだろう、なんてことを思っていたけれど、そんなことは野暮だった。そんなことを考えること自体が、間違っていたのかもしれなかった。例えばこの世界がまるまるゲームの世界だったとして、それを作った創造主がほくそ笑んでいるとして、それを誰が認識出来るだろうか? 答えは見えてこない。それどころか、僕にとっての価値観が消失しかねない重要な出来事になってしまうのだろう、と思う。それを誰が、どのように監視しているかどうかはまた別として。


「いっくん、何歌うのー? 早く、デンモク貸してよ」

「まあまあ、ちょっと待ってくれよ。一曲目というのはこう盛り上がるナンバーを入れるのが定番になっているんだからさ」

「とか言っちゃってー、本当はそういうの知らないだけなんじゃないの?」

「いやいや、そんなことはないって! 絶対絶対に!」

「……? そこまで力む必要がある?」

「ないかもしれないけれど」

「だったら早く決めてよ」


 そう言われたら仕方ない。そう思って僕はスマートフォンのプレイリストから、アーティスト一覧を出しておく。歌える歌って何かなかったかな……。大半がゲームのサウンドトラックだけれど、一部は歌も入っている。その中から出していけば良いだけの話なのだ。


「ボカロって知っている?」

「知っているよ、ボーカロイドの略でしょ。電子音楽だったっけ? 初音ミクとか、鏡音リンとか、巡音ルカとか」

「知っているなら上々。じゃあ、これにしようか」


 そう言って僕は曲をカラオケの機械に送信する。

 デンモクをあずさに手渡して、数秒後。

 テレビの画面には、『ワールズエンド・ダンスホール』という文字が出てきた。


「わー、初音ミクだね。私知っているよ、この曲。でもこの曲より『アンハッピーリフレイン』の方が好きだったかな」


 はいはい。だったらそれも歌ってあげますよっと。

 そんなことを思いながら、歌い出し一発目。


「散弾銃と……あ、こりゃ違う」


 ついうっかり。

 歌い出しを間違えてしまったのはご愛敬ということで。



  ※



 カラオケは二時間あっという間に過ぎ去っていった。

 具体的には十五分前に延長しますか、という連絡があったからそれを丁重にお断りしておいて、時間をあずさとアリスに伝えるのだった。あずさは楽しそうな表情を浮かべて、うんうん、と頷いている。アリスも何曲か歌ったのだけれど、まるで機械みたいに音程が正確で驚いた。何というか、ほんとうに機械なんじゃないか、って思ってしまうぐらい。というか、歌、知っていたんだな。そんな失礼なことも考えてしまうぐらいだった。


「……後は電車に乗って帰るだけだね」


 辻堂駅のホームに、僕達は立っていた。

 電車は藤沢方面の電車を待っている。それに乗らないと江ノ電に乗ることが出来ないからだ。


「今日はほんとうに楽しかったよ。いっくんが居たからかな?」

「僕は何もしていないよ。強いて言えば、このプランニングをしたあずさが理由じゃないか?」

「そうかなあ? そうだったら良いんだけれど」


 あずさはにひひ、と笑みを浮かべながら僕の言葉に答える。


『まもなく、小田原行きが参ります』


 アナウンスを聞いて、僕達はホームに並ぶ。

 これに乗って、藤沢で江ノ電に乗れば、家に帰ることが出来る。

 楽しい時間はあっという間だ。そんなことを思いながら、僕達はやってきた電車に乗り込むのだった。



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