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僕たちとUFOの夏物語  作者: 巫 夏希
第三話 孤島の名探偵
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孤島の名探偵③

 食後にはアイスクリームとアイスコーヒーのサービス付きだった。

 アイスクリームの甘い食感と、アイスコーヒーの苦味が妙にマッチしてなかなかに美味しい。

 というか、ここって、普段使っていない別荘みたいな説明を受けたような気がするんだけれど……。


「ここって、別荘なんですよね。食料ってどうなっているんですか?」

「食料なら、貴方達と一緒に持ち込んだじゃないですか」


 ああ、言われてみれば。大量の段ボールを運ぶように言われたような指示を受けた気がする。それが大量の食料だった、ということか。


「……いやはや美味かった。良かったら、メイドさんもこれから天体観測と洒落込まないかね?」


 言ったのは、部長だった。

 それって場合によってはデートの誘いになるんじゃないか、なんてことを思ったけれど、そんなことを思っているのは僕ぐらいのものだったようで、桜山さんは、


「すいません、明日の仕込みと今日の掃除があるものですから。失礼致します」


 そんなことを言ってさっさと奥に引っ込んでしまった。

 部長は本気でそれを捉えていたらしく、少し落ち込んでいる様子が見て取れるが、そんなことはどうだって良い。


「まあまあ、部長。僕達が居るじゃないですか」


 僕は慰めのつもりで声をかける。


「いっくん……?」

「僕は天体観測、楽しみにしていますよ。UFOが見えるかもしれないですしね」

「いっくん、君はなんてやつだ……!」


 思わず部長が抱きついてきそうになったが、それをすんでのところで避ける。

 いや、そっちの口はないものですから。


「とにかく、天体観測に勤しむことにしましょうよ。元から、僕達はその為にここにやって来たんでしょう?」


 それもそうだな、と部長は言った。

 こうして僕達は、天体観測を始めるに至るのだった。



  ※



 二階のベランダ。

 改めて天体観測が出来る時間になってきた。

 今日は晴天。雲一つない星空が広がっている。


「これならUFOを見つけても直ぐに写真を撮ることが出来るな!」


 部長は腰に手を当ててそう言った。

 さっきの落ち込んだ様子は何処へやら。至っていつもの部長に元通りといった感じだ。

 望遠鏡と望遠カメラ。二台態勢で星空を観察する。

 星空を観察するのは二の次で、第一目標はUFOを観測すること。

 それが出来れば、僕達宇宙研究部としても鼻が高い。

 だから僕達は空を眺めた。


「あれはオリオン座かしら?」


 言ったのはあずさだった。

 望遠鏡を眺めると、真ん中に三つの星が並んでいる星座――オリオン座が目の前に見えていた。


「そうだね、確かにあれはオリオン座だ」

「へえ。やっぱり」

「やっぱり、って何だよ。分かっていたのかよ、オリオン座って」

「そりゃ、それぐらい分かるわよ。理科の授業を受けていれば、それぐらいは」

「……理科の授業で星座って習ったっけ?」

「あれ? 習わない? 私の小学校では習ったけれど」


 僕の小学校では習った記憶がない。

 もしかしたら、先生独自のカリキュラムでも組んでいたのかもしれない。



  ※



 意外というか、当然というか。

 結局のところ、UFOのゆの字も見えやしなかった。

 僕はずっと望遠鏡で星空を眺めていた。

 時折見やると、部長とあずさが会話をしている。しかし、遠くで話をしているためか、どんな話をしているのかまでは聞こえてこなかった。

 まあ、気にする話でもないだろう、と僕は思った。


「……UFO、結局見つからなかったですね」

「まあ、あと二日ある! その二日で成果があれば良いのだ! あっはっは!」


 いや、笑っている場合ですか?

 UFOの観察、最終的にUFOとはなんたるかを見つけるのが役目だったはずなのに、それが何も成果がないなんてことになったら部費が減少する原因になりかねないだろうか。

 ……なんてことを思ったところで、そういえばこの部活動には生徒会会長と副会長が居るということに気づいて、それは考えるまでもないことだったということに気づかされるのだった。



  ※



「どうして貴方もこの合宿に参加したの?」

「参加しちゃ悪かったかしら。私はこの部活動が危険かどうかを見定めるためにやって来たのだから。貴方だって、いつ戻っても良いように、あちらにも『籍』は残しているはずでしょう?」

「それは、言わない約束だったはずよ。ベータ」

「そうだったわね、アルファ。……でも、貴方、この部活動に気を許しすぎなのではなくて?」

「というと?」

「所詮、我々と彼らは相容れることのない存在であるということ。それを理解しておかねばならないということ。それは貴方だって重々承知のはず」

「分かっている。分かっているわよ……」

「いいや、分かっていない」


 ベータは即座にアルファの行動を否定する。


「貴方は分かっていない。だからあの部活動に馴染んでいる」

「馴染むことも重要な行動の一つよ。そうでなければ、怪しまれることもない」

「だったら良いのだけれど」

「?」

「貴方達がやろうとしていること、それこそが愚問と言っているのよ、アルファ」


 こうして、アルファとベータの会話は終了した。



  ※



 今日はいろんなことがあった気がする。

 ベッドに潜り込みながら、そんなことを考えていた。

 部屋にテレビがなければ、インターネット環境がある訳でもない。だから本でも読もうかと考えていて、持ってきていた『ハーモニー』を読もうと思っていた訳だけれど、それよりも先に睡眠欲がやって来てしまって、結局のところ、眠るしかないという結論に至るのだった。


「この本を読むのは明日以降にすることにしよう……」


 けれど、団体行動で、個人行動である読書に勤しむのもどうかと思う。

 まあ、でも明日だったら結局休まることが出来るはずだ。僕はそんなことを思いながら、目を瞑るのだった。



 だけれど、僕は気づかなかった。

 だけれど、僕は知らなかった。

 だけれど、僕は分からなかった。



 明日起きる、宇宙研究部最大の悲劇に――。

 明日起きてしまう、宇宙研究部と袂を分かつことになりかねない悲劇に――。



  ※



 次の日。


「きゃあああああああああああ!!」


 あずさの悲鳴を聞いて目を覚ました僕は、慌てて階下へと降りていく。

 すると、食堂には僕以外の全員が既に集まっており、僕はその違和感に漸く気づくことが出来るのだった。


「……いったい何があったんですか?」


 僕の言葉に、部長が代表して答える。


「……殺されたんだ、桜山さんが」

「……え?」

「だから! 桜山さんが殺されたんだ、と言っているだろう!」

「桜山さんが……? 殺された、ですって……?」


 僕は、漸くその状態を見ることが出来た。

 辺りは血の海になっていた。

 そして、その真ん中にナイフを突き刺された状態の桜山さんが居た。

 既に血の気はない。動かない様子を見て、漸く僕はそれが『死』であると実感した。


「ほんとうに、ほんとうに、死んでいるんですか……?」

「見て分かるだろう。……僕だって、慌てたいところだが、代表者として慌てることは出来ない。それは僕が一番理解している」

「じゃあ、どうするんですか」

「どうするって、どうするんだ」

「犯人は、この中に居るんですよね?」


 僕は、冷静に。

 冷静に、そう問いかけた。

 冷静に出来ているかどうか、分からないけれど。


「……いっくん。流石に冷静過ぎやしない? まるで、一度経験しているかのような」

「そんなことはないよ。……僕だって、足が震えている。動けない。けれど、やるべきことはやるしかない。だって、クルーザーを運転出来る唯一の人間が死んでしまった。つまりそれは、この場所が絶海の孤島であることを意味しているんだから」


 絶海の孤島。

 インターネット環境もなければ、電話環境もない。

 その場所であるからこそ、その場所であるからこそ。

 僕達は、いつかは犯人を捕らえなくてはならないのかもしれない。

 危険性を排除しなければならない。

 こうして始まった、僕達の犯人当てゲーム。

 いや、ゲームというより、現実的なことなのだけれど。

 それが僕達にとってどのようなことを意味しているのかは、今は未だ分からない。

 分かるはずがない。

 分かり合えるはずがない。

 それが、犯人と僕達の価値観の違いなのだから。



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