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復讐はしあわせのもと?!  作者: 森本美夜
9/19

お茶会

投稿ペース遅くてすみません。

その上一話一話長くてすみません……。

「ようこそおいでくださいました。レオンハルト様、セシル様」


「本日はお招き頂きありがとうございます」


私がそう言ってスカートをつまみ礼をするとレオも作法に従って礼を返した。

レオの後ろに控えるように立っているセシルも一緒に腰を折る。


お母様はというと、少し離れたところで私達を見守っていた。


一応子供だけのお茶会というのは心配だから傍にはいるとのこと。

それでも、私達をたてて微笑みを浮かべ見ててくれるあたりが有難い。



「我が家の料理人に手土産を作らせました。セシルからもあります。よかったら皆さんでご賞味ください」


きらきらした笑顔のレオがそう言うと、セシルが大きな箱を二つ差し出した。


メイドにお願いして運んでもらう。


「こちらへどうぞ」


そのまま二人を伴ってお茶の準備のできた中庭へ案内する。


ベルナード家の使用人は皆優秀だ。


お母様の嫁入り時に雇ったり、お母様の生家である公爵家からやってきた人ばかりだから当然かもしれない。

あのベルナード伯爵(お父様)が選んだ人材ではなく、お母様自身が選んだ人々なのだから。

そこそこ優秀な伯爵だと言われているようだが、私やお母様に対して父親や夫の役割を放棄した人物をどうしても優秀だとは思えない。

前世から、短絡が過ぎる人としか思えなかった。



優秀な庭師が丹精込めて作り上げた中庭では、白い薔薇と姫金魚草(リナリア)の花がその美しさを主張していた。


「…………さて、それじゃあ堅苦しいのは終わりにしようか。リア、今日はありがとうね!」


中庭に置かれたティーテーブルにつくなりレオが言った。


「綺麗な庭だね。……白薔薇…ラヴィア夫人の花と……姫金魚草か……珍しいね」


セシルは庭を見渡して植えられた花を褒め称える。

自分のことではなくとも嬉しい。


「リアの花……は、やっぱ百合かな?あ、もうすぐ咲きそう」


レオの言葉に少しだけ肩が揺れる。



お母様の花は白薔薇。

私の花は白百合。



前世から言われていること。


とはいえ、髪の色が赤みのさした茶色であるのに何故赤薔薇、赤百合では無いのかと少し疑問に思う。


お母様のお父様とお母様…………私のおじい様とおばあ様の髪色は、明るい茶色と白に近い金色。

おばあ様の髪色を受け継いでいれば白薔薇、白百合で納得だけれど…………何故。



「……リアーーー。また話聞いてないでしょ……?」


「え、あ、ごめん」


「もーー、リアったら」


「……リーちゃん、ほら、お客様にお茶をお出ししないと?」


レオに話を聞かない人間認定されそうで怖い。

お母様にまで言われてしまった。

不覚すぎる。


「ちょっと待っててね」


レオとセシルに声をかけてからメイドの傍による。

物を言わずとも私の意図を読んだメイドは心得てますとばかりに笑った。


既にお皿やティーカップやらがセッティングされたテーブルに料理長自慢のお菓子や軽食が並んでいく。


表面がこんがりと焼かれたクレームブリュレに、力を入れれば直ぐ壊れてしまいそうなダックワーズ、オレンジピールがのせられたマフィン。

ハムとレタスとチーズのみのシンプルなサンドイッチ。

さっきも見たのに改めて見ると涎が出そうになる。


おっと、令嬢としてあるまじき姿。


「お嬢様、お二人から頂いたお菓子はどう致しましょう?」


メイドにそっと耳打ちされ、全部ではなく少し出してもらうよう頼む。


「紅茶と果実水があるけど、どっちがいい?」


「俺は果実水!」


「僕は紅茶を頂いても?」


「はい」


綺麗なガラスの器から果実水を一人分注ぐ。

セシルの紅茶は流石に火傷するといけないのでメイドにお願いした。


こき使って申し訳ない。


二人に飲み物を出してから自分の分の果実水を注ぐ。



「「「いただきます」」」



声を揃えて挨拶をする。


「お嬢様、レオンハルト様からマカロン、セシル様からクッキーとクラフティを頂きました」


そこにメイドが二人からの手土産を出してくれる。


「……えっ!え、美味しそう……」


桃色、水色、黄色、緑の色とりどりのマカロンに、星や動物の形をしたクッキー、さくらんぼの赤が眩しいクラフティ。



「ほら!リア!早く食べて?」


「レオ、そんな急かさなくても。お呼ばれしてるのは僕らなんだからね?」



セシルの言葉がなければ私がもてなす側であることを忘れていたかもしれない。



二人が持ってきてくれたお菓子は、私の好物だった。


元々カスタードプディングやクレームブリュレ、クラフティなどのお菓子が大好きで、前世から料理長に頼んではお母様に内緒で食べていた。


それに並んで、レオの家の料理長のマカロンが好きだった。


レオの家の料理長のお菓子はどれもこれも手が込んでいて、どれも美味しいのに中でもマカロンは格別で、お茶会をする時はいつも手土産に持ってきてくれていた。



前世のことなど分からないはずの二人なのに、何故こうもピンポイントで私の好きなものを持ってきてくれたのか……。



「いただきます……」


何故か二人はお菓子にも飲み物にも手をつけず、私をじっと見ている。


早く食べてと言わんばかりに。


いや、食べてよお客人。


二人が手をつけないなら仕方あるまい。

本来なら客が手をつけるまでもてなす側は手を出さないのだけれど……。

遠慮なく頂こう!


小さな黄色のマカロンとクッキー、切り分けられたクラフティを皿にとる。


「……んっ」


四歳児であるせいで当然口も小さい。

小さなマカロンを一口で食べることも出来ず、そっと食む。


「……んんん……!」


外の部分にさくりと音を立てて歯が通る。

挟まれていたのはレモンのジャムのようだ。

ほのかな酸味が食欲を増幅させる。

酸っぱ過ぎず、口の中にほのかな甘味が残った。


「おいしい…………!」


堪えきれずにそう呟いて頬を緩めると、レオが嬉しそうに笑った。


続いてクッキーを摘み口に運ぶ。

クッキーは歯を入れた瞬間ほろりと崩れ、蜂蜜の香りが広がった。

歯触りはいいのに、口がパサパサしない。それどころか生地はしっとりしている。


何これ、めちゃめちゃ美味しい。


思わずセシルの方を見ると、エメラルドのような深緑の瞳がこちらを見返していた。


頬が熱くなるのを感じながら、直ぐに視線を逸らしフォークを掴む。


力を込めてクラフティに差し込むと、タルト生地が割れるのが分かった。


魅惑的な赤い実がのったそれを一口頬張る。


タルト生地の程よい固さとそれ以外の柔らかさが絶妙なバランスを保っている。

咀嚼を繰り返せば、口に広がった甘味にさくらんぼの風味が加わる。

くど過ぎず、軽過ぎず、お茶の時間にぴったりなお味。


「ふふ、気に入ってもらえたようだね?リーリアは美味しそうに食べてくれるから、わかりやすくて嬉しいよ」


わかりやすくてすみませんね。


あまりの美味しさにまた緩み切った表情を見せてたのだろう。

セシルが少し揶揄うように言った。


別にいいもん。

寧ろ四歳児が無表情で黙々とお菓子食べたら怖いでしょう。

中身が十七歳だからって外見は違うからね。

開き直っていきますよ。


「とっても美味しい!レオもセシルも食べて?うちの料理長のお菓子も絶品なんだから!」


そう勧めるとレオはマフィンを、セシルはサンドイッチをそれぞれ皿にのせた。


「……ん?!何これ!美味しい!!え、オレンジ?!レモンならよく食べるけど、オレンジなんて初めてだ!!!」


案の定、レオはオレンジマフィンを頬張って目を輝かせている。


その笑顔につられて思わず笑い声が零れた。


「レオ、ここ、ついてるよ」


レオの頬についたマフィンの欠片をとってあげる。

貴族の跡取り息子や令嬢としてはアウトではあるが、今は無礼講ということで。


「あ、ごめん。ありがとー」


「どういたしまして」


そんなやり取りをしている間にセシルはサンドイッチを食べきっていた。


「セシルは、甘いもの苦手?」


お菓子に手をつけないセシルに恐る恐る聞いてみる。

するとセシルは、その綺麗な瞳を少し見開いてから首を振った。


「いいや、好んで食べる訳では無いけど、苦手でも嫌いでもないよ」


「……ほんとに?」


「本当」


なら別にいいけど。

サンドイッチ食べてるから甘いものダメかと思った。


「少しお腹が空いていたから。次はダックワーズを貰うよ。僕のことなんか気にしないで、リーリアこそもっと食べなよ」


「えっ、うわっ、むぐ」


マカロンを口に突っ込まれた。

一口で食べるには難しいっていうのに、無理やり突っ込まれた。酷い。

綺麗な顔してるのに。酷い。

いつかやり返してやる。


「ちょ、セシル……、俺だってリアにあーんしたいんだけど〜?」


待ってレオ。そんな可愛いものじゃなかったよ。レオの目は節穴なの???


「ふふふ、楽しそうでいいわねー」


「はい、ラヴィア様」


離れて座っているお母様がなーんて執事長に話しかけている。


お母様までそんなこと言うの……。



楽しくお茶をすれば勿論会話も弾む。


「セシルは今年六歳で、そろそろ教師を呼ぶ頃だろ?どう?」


「ん?ああ、剣の鍛練もやってるからもう始めてるよ。対したことはしてないし、四歳のレオ達でも十分始められると思うよ」



貴族の教育は少し面倒くさい。


平民が七歳から三年ずつ初等部、中等部、高等部に通い色々なことを学ぶのと違って、貴族は変わっている。


初等部というものはなく、幼いうちは屋敷に教師を招いて勉学に励む。

勉学だけでなく基礎的なマナーやダンスもここで学ぶ。

大抵はその前に作法は習っているのだが、一生必要なものだから何度学ばせても損は無いのだろう。


勿論貴族と平民では通う学校が変わる。


平民は大体領地を取り仕切る貴族が設置する学校に通い、貴族は国が設置する学園に通う。

ついでに、平民の為の学校の設置は推奨されているだけで義務ではない。

大概の貴族は領地だけでなく王都にも屋敷を構えていて、貴族の子息子女はこの時ばかりは普段領地に引っ込んでいても出てくる。


金銭面や余っ程の理由がなければ、公爵家から男爵家まで、爵位関係なく集う。


学生の社交界である学園に通わないとなれば、問題ありと判断されかねないからだ。


その学園も、中等部と高等部しかない。


十八歳で学園を卒業となるから、十三歳か十二歳で学園に通うことになる。


稀にどちらかのみという人がいるが、矢張り訳ありにしか見られない。



「いいや。俺も鍛練の方を力入れたいし…………リアと遊びたいし!!!」


突然レオが立ち上がったかと思うと、後ろから私が座る椅子を抱きしめた。


何してんだ。


セシルも同感だったようで、笑顔で立ち上がるとレオの頭に拳骨を落とし椅子に座らせていた。


やだ、怖い。痛そう。



「……うーん、色んな話をしてくれて嬉しいんだけど、私達出会ってまだそんな経ってないのに……いいの?」


ちょっとだけ気になってることを口にしてみた。


私は前世から知ってるからいいけど、二人にとって私は知り合ったばかりの小さな女の子だ。しかも位の低い令嬢。


実際、私もセシルのことはイマイチまだよく分からないし、どうしたらいいか困っている。


二人は私の言葉にぽかんとした表情を浮かべたあと、顔を見合わせて大笑いした。


もう一度言おう。


大笑いした。


お腹を抱えて、声を上げて笑った。


いや、ちょっと、それはひどい。

貴族の息子の作法としても、友達としてもひどい。

むくれてやる。


むうっと頬を膨らませてそっぽを向くと、頭にぽんっと手が置かれた。


むくれたまま手の方を見ると、セシルが穏やかな笑みを浮かべていた。


「あのね、リーリア?僕等はまだ四歳と六歳で何の力もないけど、それでも立場というものがあってね。信用できる人、そうじゃない人を見分けるのは得意なんだよ」


「だから、信用できるって思った人にはとことんだから!覚悟しといて?」


セシルの言葉を受け継ぎレオがぐっと親指をたてた。



その言葉に胸がつまる。



やっぱり、前世と変わってないことばかりだ。


レオがその立場で苦しみ、傷つき、心をすり減らしてきたのは、きっと変わらないのだろう。


これからもきっとレオを苦しめるものは減らないのだろう。


だからこそ、私は傍にいたい。


復讐することを誓ったのと同時に、幸せになると決めたのだから。


大事な人が幸せじゃなくちゃ、自分も幸せにはなれない。



「レオ、セシル、ずっと仲良くしてね。」



不覚にも涙目になってしまった。



「勿論!」


「寧ろ、こちらからお願いすることだよね」


二人からそんな返事をもらい、恥ずかしさが出た。

うん、恥ずかしい。


照れ隠しに果実水に手を伸ばす。


そんな時、視界の端に慌てるメイドが見えた。


そのメイドはお母様の耳に口を寄せて何かを話す。

直後お母様は眉を顰め険しい表情を浮かべた。

近くに控えていた執事長に指示を出すと椅子から立ち上がってしまう。


何か、嫌な予感がする。


「おかあさ……」


「……リア!!!」


椅子から腰を浮かせた時だった。


「えっ」


「お嬢様!!!」


メイドが悲鳴のような声で私の名前を呼んだ。


私のお腹から膝のあたりにかけて熱々の紅茶がぶちまけられていた。


「リーリア!すみません!誰か冷やすものと拭うものを!!!」


中身を失ったティーカップを片手に持ったセシルが青い顔でそう叫ぶ。


だが、かかった紅茶はそれほどでもないし、ワンピースが汚れただけで肌には何の被害もない。


「大丈夫!!!熱くないですから!」


あわあわするメイドにそう声をかけてから改めてワンピースを眺める。


小さな花をあしらった桃色のワンピースは見事に紅茶色に染まっていた。


さてどうしたもんか。


「リーリア、ごめんね……。今度新しいものを贈るから……」


「リーちゃん、着替えてらっしゃい」


「お母様……!」


どこかへ行ってしまったと思われたお母様が私の横に立っていた。

いつもと変わらない優しい笑顔。


「でも……」


「いいよリア、早く着替えてきなよ。待ってるから」


レオの言葉に同調するようにセシルも頷く。


それじゃあ……と言葉に甘え、私はメイドに連れられてその場から退いた。









「ベルナード夫人、僕等もお供致しますよ」


リーリアがその場から姿を消した瞬間、セシルが表情のない顔でそう言った。


ラヴィアはその顔をじっと見てから首を振る。


「……貴方達を巻き込む訳には…………」


「巻き込むのはこちらの方ですから。大丈夫です。」


四歳らしからぬレオの言葉にラヴィアは小さく溜息をついた。


「……それではお願い致します。」


その表情は既に疲れ切っていた。


____________________



その頃、ベルナード家の屋敷には望まれない来訪者がいた。


いや、来訪者という言い方はおかしい。


「おい、当主の私が帰ってきたというのに出迎えがこれとはどういうことだ!!!ラヴィアはどうした!!!」


屋敷の玄関で唾を飛ばしながら怒鳴り散らすその人物はベルナード伯爵家当主、ピート・ベルナードだった。

とうとう出てきましたね……。

この物語で一番といっても過言ではない糞キャラ……。

まだまだ復讐には至らず胸糞悪いかもしれませんが、これからもお付き合い下さいませ!

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